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カナダからの手紙(H7N9について)

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Eurosurveillance最新号に掲載されていたカナダからの手紙。letterだから手紙。この場合のletterはお手紙とはちがいますが。

手紙は中国語ではトイレットペーパーだそうです(はい、関係ありません。横にズレてすみません)。

Eurosurveillance, Volume 18, Issue 17, 25 April 2013
VIRUS-HOST INTERACTIONS AND THE UNUSUAL AGE AND SEX DISTRIBUTION OF HUMAN CASES OF INFLUENZA A(H7N9) IN CHINA, APRIL 2013

先に掲載された論文などに、質問や意見を送ることも出来るし、編集部がこれは意味があるなあと思ったら掲載されるんですね。
科学的なジャーナルなどでも。

このところ続けて中国の新しいインフルエンザの記事がのっていますが、(日本の研究者の)遺伝子解析についての記事は、ウイルスがどこからきているのかなどを検討していますが、すでに100例を超える症例があるのだから、リスク人口のアセスメントについて疫学的なパターンも考えたらどうですか?というのが出だしです。

差出人は、バンクーバーCDCやカナダの大学の研究者。
ウイルスの細かい分析は、ラボで仕事を基礎科学の人たちのお仕事です。
実際に予防施策につなげるためには、そのラボの情報や臨床の情報から何を読み取って,何を重視し、可能な選択肢の範囲で何をするのかという検討が必要になります。

全国民向けに大号令!というのは、多くの場合無駄な動きや出費につながりますし、人権問題になりかねませんので、ケアする対象をしぼりこんでいきます。日本でもいまは、中国帰国から10日以内で肺炎症状があるというような定義があります。ないと、心配性の医療者がかたっぱしから検査をしたくなったりかえっていい人を入院させたり、(使うとしても陰圧室でいいのに)入れる理由や根拠が無いのに病原体不明症例をいれる病室を使いたくなっちゃうから「症例定義」は大事なんですね。

リスコミ的には、誰向けかわからない情報や、何をすべきか書いていない「気をつけて」「注意を」情報は何もいってないに等しいので、やはり「あ、私のための情報だ」と気づけるメッセージが重要になります。

で、基礎科学の人は日本ではレベルが高いとか充実しているという評価を得ているようでありますが、感染症の分野でも全体をみて迅速対応の軸をつくるepidemiologistという役割の人がいません。
大変不思議ですが、各国では政府、自治体、病院、保健所にいるんですが、日本にはいません。疫学者は統計学社と同じとまちがわれていたりもします。(お互いを勉強はしますが、そもそも教育ゴールもjob discriptionも違う)

数字の解釈や扱い方がわからない、リアルワールドへの適応がわからないとこの辺りの判断が遅れていく訳です。
各国のアセスメントを翻訳してそれに準じるというのも一つのアイデアではありますが(各国にはプロがいますので、それもいいのかもしれません。2009年のときも英語が読める一般市民は米国CDCのサイトを見てたという話もあり)

"Perhaps the most intriguing impression to date from available surveillance findings has been the unexpected age/sex distribution of reported influenza A(H7N9) cases. "

毎日ずーっと症例情報を見ていると気づくのはこのことです。

(インフルエンザなのに)把握されている症例の性別と年齢に偏りがあるんじゃないか?です。

日本でHIV感染がMSMに集中している、風疹が20-40代男性に多いことには、それなりに説明がつきます。
食中毒事例で、極端に女性が多い場合、それが午後のケーキバイキングだったら、女性が9割でも「なるほど」です。

仮説を考えます。
だって、生きているトリを扱う市場で働く人は9割が男性なんだもん。 とか、
あるいは、積極的疫学調査の分母が、男性が8割女性が2割と偏っているんだよ。 とか、
COPDになりそうなほどこの国の男性はヘビースモーカーが多いんだよ。 とか、

"The age range spans from 2 to 91 years but two thirds of influenza A(H7N9) cases have been 50 years of age or older and two thirds have been male ."

このお手紙の時点では2歳から91歳が症例リストにいいます。が、3分の2が50歳以上、3分の2が男性です。

このあたりは疫学のベーシックコースでも提示できそうな事例。

"Illness severity, with a substantial case fatality of 20%, shows a similar age/sex profile . Unlike the pattern observed for influenza A(H5N1), children, both boys and girls and notably the school-aged, are under-represented among influenza A(H7N9) detections.

この傾向は重症例でも同じ。

カナダの人たちはさらに指摘を続けます。

すでに「高病原性」のH5N1では、子ども、男女同じように感染が確認されているのですが、H7N9で曝露していない、発症していない、発症しても軽症で病院にまできていないので把握しきれていないのかどうか。

接触者調査で発症していないキャリアの子どもは確認されています。

" Among the first 100 adult influenza A(H7N9) cases, men and women were equally represented in the youngest age category 20–34 years, but men were 2–3-fold more frequent than women in older age groups ."

20-34歳では男女同じくらい把握されているものの、高齢グループでは男性は女性の2ー3倍。

"Furthermore, compared with women 20–34 years of age, women 50–64 and 65–79 years were each twice as frequent among influenza A(H7N9) detections. Conversely, men 50–64 and 65–79 years are each 4–5-fold more frequent among influenza A(H7N9) detections than men 20–34 years of age. While being careful not to over-interpret early surveillance data, what hypotheses might be invoked to explain that pattern?

若い女性グループと高齢女性グループ、高齢男性グループの差も大きいので、こういったことからどのような仮説がたつのでしょうか?です。
これは「記述疫学」での課題。

検査データや背景データの精度を高めておかないと、統計学的にどうなんだ?という解析疫学をするときに結果にノイズがはいってしまうので、ここを丁寧に検討することは大事、と初期にならいます。(統計データははっきりいいまして、ソフトに入れたら何か出てしまう訳で、そこの解釈が妥当なのかどうかに影響もしてきます)

ウイルスの遺伝子情報などが迅速に得られる今日現在では、上記のような情報とあわせて、以前より早く全体像が見えやすくはなっています。

しかし、それでもなお、病原体がどこからきたのか、妥当な対策は何かというところに必ずしも(期待するほどの早さや効果で)直結しないのも現実です。

それは、ヨーロッパで多数の被害者を出した、病原性大腸菌のアウトブレイクでも痛感したことですね。

カナダからの手紙、詳細はリンク先でお読みください。感染症を見る目を、診察室や院内から、地域やglobalに広げる時に役立つとおもいます。引用文献は35。このようなクリティークができるようになりたい・・・

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