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Channel: 感染症診療の原則
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2012年初春のH5N1

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復習です。

2009年に「新型インフルエンザ」として注目されたのはインフルエンザのA型で、A/H1N1と表記されるウイルスです。
豚由来ということで、swine fluともよばれます。

いろいろな騒動がありましたが、初期に他のインフルとかわらない情報が流れてから臨床での混乱はおきませんでしたが、制度や情報の混乱が垣間見えました。いやー予行練習としてよかったねえ・・・という人は多かったですが、そこでの学習は改善につながったのかどうかが問題です。
記憶はどんどん薄れて行きます。

この騒動の前、日本をはじめ世界が警戒をしていたのは「鳥インフルエンザ」avian fluでした。こちらはA/H5N1です。(えいちふぁいぶ、えぬわん)

「鳥は終わって 豚になったのー?」

と聞かれたりもしますが、終わったのではなく、鳥フルは別に独自に流行しています。

データをみるときは、鳥のH5N1なのか(つまり、本当に鳥フル)か、人でのH5N1の話なのか注意が必要です(まあ、この時点で間違う人はあまりいませんが)。

臨床感染症/公衆衛生の人向けによい情報源はCIDRAPです。H5N1については特設ページがあるので、ここで日々の情報Updateができます。
Twitterアカウントもあります。

PrpMedに掲載された関連情報は、動物衛生研究所も一覧ページで紹介しています。

確認後の公式な数や関連情報はWHOのページに掲載されます。(時差がけっこうある)


2011年に報告されたヒトのH5N1は59例(この表では58例)。45%は10歳以下のこども。
(「報告された分」だけです。実数はわかりません)

報告数は2010年に比べて23%増加。致死率は下がりましたが、それでも半数が死亡。

感染が広がったのか、受診や診断の機会が増えたり、接触者健診を拡大したり、国が積極的に報告する担当者に変わったのか等、報告率に何か変化があったのかはよく知りません。単純に数字だけ見ると増えた、ということです。

ここで「致死率が高いウイルスなのか?」という問題があります。
CFR(Case Fatality Rate)が50%って怖っ!と一瞬思いますが、分母を考えることも大切です。

H5N1が報告されている国では、他にも急性呼吸器感染症が存在します。
どれだけインフルエンザが疑われ、型を判定する検査がオーダーされているのかです。

「急性発症で重症化して大きな病院に運び込まれてた」→「検査したらH5N1だった」だとすると、そもそも検査の分母に大きなバイアスがあります。
超重症がかつぎこまれて来院、重症になるまでは村にいたので治療開始のタイミングが遅い、ゆえに死亡率も高い、というような背景があります。

2011年にヒトのH5N1症例を報告したのは、バングラデシュ、カンボジア、中国、エジプト、インドネシアの5か国。
家族感染のクラスターは4事例。
それぞれに死んだ/病気のトリとの接触が把握されており、ヒト−ヒト感染はありませんでした。

もともと、トリからヒトにどれくらい感染しているのか?ということなんですが、
症例が出た地域で、家族や地域の養鶏場ワーカーを中心に抗体検査をして調べていますが、これまでの調査では「そんなに感染していない」という報告が多かったですね。

Low Frequency of Poultry-to-Human H5N1 Transmission, Southern Cambodia, 2005
EID Volume 12, Number 10―October 2006

Prevalence of Antibodies against Avian Influenza A (H5N1) Virus among Cullers and Poultry Workers in Ho Chi Minh City, 2005
Plos One

しかし、あるときウイルスに変異がおきて、ヒトに感染しやすくなったり、凶暴性がましたりすると問題ですし、ヒトに感染しなくても、動物の間で拡大したら、農業や貿易上も問題につながっていきます。

2011年6月のEIDには、2007年に調査が行われたパキスタンでのヒト−ヒト感染事例が検討されています。無症状だった人から死亡例まで。
Human Infection with Avian Influenza Virus, Pakistan, 2007
EID Volume 17, Number 6―June 2011

他の国で報告されないのはなぜか?
という質問がよくありますが、検査するシステムになっていないのか、そもそも医療機関アクセスはよいのか、積極的な疫学調査が行われているのかどうか。

日本でも鳥での報告はありますし、H5N1報告国へ観光等ででかける旅行者もいます。
医療者がH5N1を想起しているのかどうかという問題はありますね。

あとから「実はH5N1だった」という事例がほとんどです。
ワクチン含め、日々のルチンの感染症対策を大切にしてまいりましょう。

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