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Channel: 感染症診療の原則
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2012年初春のHIV/AIDSの話題

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Science誌が選ぶ2011年のBreakthrough of the yearには、HIV治療薬による感染予防が選ばれました。

Winner: HIV Treatment as Prevention

HIV感染症の治療ガイドラインの歴史をみると、ある時期は「なるべく早くアグレッシブに」だったのが、副作用や生活への負担→服薬アドヒアランス(コンプライアンス)の低下→耐性ウイルスリスクが懸念され、「可能な限り遅く、慎重に」となった時期がありました。

「CD4が〇〇になるまで待とう」時代です。

この時期の日本の問題は、そもそもそこに提示される数字なんて程遠い人が初診でくること(“いきなりエイズ”症例)。

患者さんからは「何十万コピーというウイルスの数値を聞いて怖くなる。放っておいていいんですか。すぐ減らさなくていいんですか?」という不安がきかれていました。

特にパートナーがいて、相手に感染したらどうしようという危機感のある人は、コンドームを使っていても性行為じたいに不安や躊躇があるというお話をよく聞きます。

感染症の治療の原則から大きくはずれるこの戦略(うーん、たくさんいるねえ、でもしばらく観察だ〜)。いずれはかわるだろうといわれていました。

その後、新しい薬の開発のおかげで副作用が軽減され、1日1回の服用など、患者さんの生活への負荷もさがったことから、「そこにウイルスがいるならばなるべく早く治療を」という本来の感染症の原則にたちもどってきたというわけです。

また、日和見感染症を発生しないレベルだとしても、ウイルス血症を放置することで受ける身体のダメージが大きいこと(合併症や死亡率に影響)することが大きなコホートスタディでもわかってきました。

このため、「なるべく早く治療をするのが患者にとっての最大利益なのだ」というコンセンサスになっています。
加えて、Scienceの受賞にあるように、ウイルス量を下げれば、性的パートナーへの感染リスクも下がることから、Win Win Winの 治療戦略 & 公衆衛生的にも優れた戦略と考えられるようになりました。

(治療を遅らせたいんだよねー、治療は一切したくないんだよねーという患者さん個人の希望は個別に検討されます)

治療を遅らせず、早く開始!・・・なわけですが、課題がいくつかあります。

1つは早期診断の問題。日本のように、「うちにくるHIV陽性の症例はみんな、初診時のCD4がひとけたか よくて二けたですよ!」というような場合、そもそも「早期診断&早期治療」になりません。

早期診断のプランが別途必要になります。

また、医療費の問題もあります。HIV治療薬はたいへん高額なため、これまで治療開始を待機していた人も全員一斉に治療だぜ!となると、その予算を補充する必要がでてきます。

米国にはADAP(えーだっぷ)AIDS Drug Assistant Programという制度があり、医療保険に入ってなくても、まったく払えそうにない状況でも、公費で治療が受けられるようにする仕組みがあります。
しかし、感染者増に予算がおいつかず、現在4000人以上がWaiting listにいます。
待っている間に死亡する例も珍しくありません。

Companies Lower HIV Drug Prices for ADAP, but Many Patients Still Waiting2011年12月27日 HIV and Hepatitis.com

日本の場合は、基本的に皆保険です。最近は払っていない若い患者さんもいるそうですが、ソーシャルワーカーが可能な限りの支援をしてくれます。
つまり、お金がないから治療ができないとう状況は、回避しようと思えばなんらかの手だてがあるということです。

日本の現在の問題は、「免疫機能障害」という身体障害者認定の条件の数字設定が昔のままなので、この、早期診断、即、早期治療という治療方針を、医師や患者が選択しにくい状況にあることです。

早く始めたい場合は自己負担が大きくなってしまいます。
自己負担を軽減するためには、免疫がさがるまで待たないといけないというおかしな状況になっています。(かえるべく交渉をしている人たちもいます)


予防ということではカナダの取り組みが参考になります。

モンタニエ先生は、現在カナダのブリティッシュ・コロンビア(BC)州で、エイズ施策を率いていらっしゃいますが、BCでは早期診断、早期治療戦略により、エイズによる死亡だけでなく新規HIV感染も減っているということです。

検査が減ったとかそういう変化因子はなく、街中に安心して(?)薬物を使用できるセンターをつくり、そこで検査勧奨をしたり他のSTD検査も行うことで、包括的にHIV感染リスクを下げるという取り組みがあります。

このセンターにはナースが配置されており、ナースが薬物使用のスーパーバイズをしているそうです(びっくり!)。
警察に逮捕されないような仕組みになっています。

(このあたりは納税者の議論としては反対論の人もたくさんいるんですが)

British Columbia: Aggressive Strategy Lowers the Number of New H.I.V. Cases and AIDS Deaths
2012年1月2日 The New York Times

予防としてのHIV治療についての2011年のワークショップのプレゼンテーションは、こちらでみることができます。
英語と感染症と公衆衛生の勉強用におすすめします。
(疫学データのサマリーもだいぶかわりましたね)

ところで。

HIV治療薬によって感染予防ができる、の話の前提には、コンドームを使用しないセックスがあるんじゃないか?ということが指摘されます。

そのとおりです。

医療者がそんなこと容認していいんですかっ!とお怒りの声もときどき聞くんですが、感染症の対策は現実的でないと実効性をもちません。
理想だけでは対策はできないということです。

コンドームを使用しないセックス自体はしないようにという基本メッセージは1次予防や1対1のコンサルテーションやカウンセリングでは伝えられていますが、それを100%実施することが難しいというリアルワールドの視点から、「コンドームを使わない・使えないとしても」感染力を下げることのできる早期治療に期待がかかっているといえます。

(国によっては相手に感染の事実を告げないで性交をしたり予防をしない性交をするのは違法行為になります)

相手がいる。通常のテンションではない。

「性」感染症の予防が他の感染症と違ってコントロールが難しい2つの点です。

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