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Channel: 感染症診療の原則
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「妊婦は気をつけて」ではダメ(という気づきが大事)

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ワクチンの普及のおかげで、ある感染症は問題が見えにくくなりました。

一般の人の意識にあがらないでしょうが、病気を診る医師やコメディカルの経験知も獲得が難しい状況にあります。

少し前は、ER(というTVドラマ)で麻疹を診断できない周囲の医療者をみて、日本人留学生が「麻疹に決まってるだろ。知らねーのかよ」と一人勘違いな優越感にひたるというシーンがあったりしましたが、麻疹も日常的に出会う感染症ではなくなっており、今後、診断の遅れ等も問題になるだろうと思われます。

そして、現在都内でアウトブレイク中の風疹も、「おお、これは風疹だ」と診てすぐわかるものではなくなっています。幸いというか、報告されている症例は8割が検査診断になっています。

修飾麻疹のように、わかりにくい風疹もあります。例えば発熱無し。発疹がばーっとでたので来たけれども、、、というような症例。分母が増えると重症の人も出ますし、軽症の人もいて、個人の差も見えてきます。


そのような中、行政やメディアが扱う情報、またそこからの2次3次情報となるネット上の情報で???な記載があります。

それは、「妊婦さんは気をつけて」です。

たしかに、麻疹とちがって、風疹は罹った当事者が致命的な状況に追い込まれるリスクは小さいので、その意味で大騒ぎする必要はないかもしれません。元気になるのです。3日で終わる、という意味の別名「3日ばしか」もあります。

風疹ワクチンの導入の肝は「先天性風疹症候群の発生予防」にあります。

歴史的に、風疹が流行すると、産まれてくる赤ちゃんにトラブルが増えるということがわかっており、各国が風疹をルチンのワクチンに入れるかどうかの判断は、妊娠する女性だけでなく、地域で流行することを押さえないとというところに踏み切るところからはじまります。
しかし、ルチンのワクチンが導入され流行が抑制されると、ブースターがかからないためワクチンでつけた免疫が低下したり、年齢が上の感受性者がプールされ(ワクチン無しと比べるとその規模は小さいものの)成人での定期的な風疹流行のリスクが残ります。

だからワクチン不要とはいえませんが。このあたりはギセック先生の『感染症疫学』にも、風疹ワクチンのコントロバーシャルな点についての説明が何カ所か記載されています。

感染症疫学―感染性の計測・数学モデル・流行の構造昭和堂

メディアが大きく扱うと、それに感化されて「検査希望」が増えます。
現在、検査試薬の不足が話題になっています。
麻疹流行の時と同じですね。
東京から各地に広がると、ワクチン不足(流通がうまくいかない、という意味ですが)などもおきかねません。

皆が抗体検査をする必要はありません。

一番重要なのは「これから妊娠する予定の人」を最優先することです。

まず、妊娠しようと試みる前に(避妊無しセックスの前に) "標準の「2回接種」"をしていない場合は2回目を接種してください。
風疹になったかも(親がそう口走っている。しかし確証はない)接種もしたかも???な人は検査無しで接種してかまいません。過去になったことがあっても、接種したことがあっても、再度接種しても大丈夫です。
免疫があるかもしれない人がワクチン接種をしても問題ありません。
妊娠初期にかからないようにするためには、よくわからない状況なら接種を選択します。

検査をして、まあまあな値、ギリギリのライン、の方も今後ゆるやかに免疫はなくなっていく可能性が大きいので、妊娠計画が数年内にあるなら接種をしましょう。

そして、接種をしたら2カ月は避妊。

女性が妊娠に気づくタイミングと、感染するタイミング、感染にきづけるかどうか(風邪かな・・・で終わってしまう人もいます)。妊娠に気づいた時点ではすでに曝露リスクや赤ちゃんの健康リスクは発生してしまっており、「妊婦さん気をつけて」では遅いのです。
ブツブツが出ている人は、その症状が出る前から他人にうつす可能性がある人です。


気をつけることができる、、、のはこれから妊娠する人。妊娠するかもしれない女性の周囲の人たちです。
周囲で流行しないように、東京のようにならないように、こんなに広がってからどうしようと考えることにならないようにできることをご検討下さい。

先天性風疹症候群とは、どのような人生への影響があるのか、
そこでの当事者や親の痛みはどのようなものか、

その辺りをマンガや本で学ぶと、風疹対策の本当のゴールがわかるとおもいます。

そんなかんたんに入手は出来ない,,,という方もいると思いますので、たいへん勉強になるブログを紹介させていただきます。

ブログ おばさんディレクタ- いつの間にか市民活動支援 忘れられた沖縄風疹児

"アメリカ統治下の沖縄で原因不明の伝染病が流行した。
普通の風邪とよく似ているが、前進に赤い発疹が現れるのが特徴だった。
症状は非常に軽く、3日もすると発疹もおさまった。
このため風邪と思って 出社や登校するものも多く 
これが感染をますます 広げていった。"

東京にもこれと同じ状況があります。

"1965年2月11日づけの沖縄タイムスは1964年には74人 
1965年2月8日現在101人の患者が発見され "

東京都が2013年の第6週で把握したのは90例、7週が100例です。
沖縄には無い満員電車もあります。
沖縄より寒いので、狭い密室空間に数人が過ごす環境があります。

"産婦人科医の勧めによって 大量の中絶が行なわれ
1人の障害児も生まれなかった町もあるという。
しかし、多くの親たちは 不安を抱きながらも
健康なこどもの誕生を祈って 出産したのだった。"

過去の風疹流行期には、人工妊娠中絶が増えています。
何らかの理由で妊娠中に発疹や発熱を経験した妊婦さんがすでにおびえています。

妊婦さんが気をつける、ことはできません。
妊娠前にできることをしましょう。

なぜ、妊娠初期の感染が問題なのか。

砂川先生の「感染症の病理学的考え方」「先天性風疹症候群では胎児の細胞増殖が停止した結果で欠損症などが生じる」 で勉強しましょう。

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