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Channel: 感染症診療の原則
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百日咳 類縁菌 Bordetella holmesii  と その周辺

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(勉強会のメモをもとに)

百日咳菌(ぼるでてら ぱたしす)という和名は、抗菌薬を5日間ほど使えば菌は死滅するのに、その恐ろしい「毒素」の影響で長期間咳が続くところからきています。

1人の患者からどれくらい広がりうるか?という感染力を理解するための数字をみると、麻疹とほぼ同じです。抗菌薬(エリスロマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン)で治療をすれば菌は死滅しますので、早めの対応をすることが大事なのですが、乳幼児に比べて症状の軽い成人では「咳くらいでは受診しない」人も多いです。


2週間以上続く咳は結核も考えなさいという啓発ポスターや、(メディア記事が感染症関係者以上にもりあがっているらしい)マイコプラズマ肺炎のニュース等を見て念のため受診したら百日咳だった、その時点ではすでに家族も感染という例があるわけです。


1次予防としてとても重要なワクチンで、日本では0歳児に三種混合(この11月からは四種混合)を接種します。

しかし、長期間の免疫維持が難しく(ワクチンで4-12年、しかし自然感染したとしても終生免疫は獲得できません)、追加接種が2回あります。

しかししかし、米国などで採用されている思春期のブースターワクチンには百日咳が既に入っていますが、日本は「DT」になるので、百日咳の「P」がはいっていません。

このため、「中学生以上は感受性者」と考えるのだと専門家の先生はいいます。

2005年前後から、先進国で成人の間での百日咳流行が把握されており、それが0歳児に拡大して死亡例が出るという痛ましい報告が相次いでいます。新生児期に感染すると命取りになりますので、周囲で流行しないような対策が必要になります。
オーストラリアでは妊婦やパートナーに無料でブースターワクチンを提供しています。が、日本は特別対策がとられていません。
成人で接種するTdapワクチンがないから、というのがまず1点。


日本には成人の百日咳を把握するサベイランスがありません(小児科定点を受診した方から推計している)、全体像がよくわかっていません。3ー4割は成人患者だろうといわれていますのでそう理解をしておくことにします。世界では毎年1600万人が感染、19.5万人が死亡(そのほとんどが0歳を中心とした乳幼児)。


日本でも0歳児がかかると入院を余儀なくされます。咳の発作が続き、飲んだミルクは嘔吐、集中治療が必要になることもしばしばです。

医療費も高額になります。勉強会での資料によると、
27日間入院、このうち10日間は人工呼吸器管理、、、で約110万円
集中治療管理をし、このうち9日間は人工呼吸器管理、、、で約150万円 です。(乳幼児医療助成制度を活用します)

と、生命や医療経済への負荷など、様々なリスクにつながるので、1次予防としての0歳児のワクチンと、ブースターワクチンの接種率向上、そして妊娠出産時期の人たちの間での感染対策(ブースターワクチン、咳エチケットなど)全体で取り組む必要があります。

なぜ、小児と成人で重症度が異なるのか?については、成人はワクチンをしている人が多い、軌道粘膜の機能の違いなどが考えられますが、ひとつの指標として「菌量」が重視されています。

Marked difference between adults and children in Bordetella pertussis DNA load in nasopharyngeal swabs
Clinical Microbiology and Infection Volume 17, Issue 3, pages 365–370, March 2011


現場やアウトブレイク対応時に問題になるのは診断です。
臨床診断は、特異的な咳症状や発作がある乳幼児や子どもではつきやすいものの、ワクチンをした子どもや思春期〜成人では非特異的症状しかないため難しいといわれています。

◆培養検査は陽性率が低く、「陰性=感染していない」といえません。重症で菌量が多い場合にうまくいくこともありる。

◆血清学的検査は、特異性が低くワクチンの影響もあります。

◆遺伝子検査は、感度と特異度ともに高いのですが、体外診断薬として未承認であり、また検査のための機械が高額(500万円)。(このため、現在は研究室が研究レベルで対応中)
IS 481 real time PCRとBP-LAMP法があります。


ちなみに、特異度の低い「菌凝集素価法」保険点数80点、抗体価評価測定のELISAは280点。しかし、この現在の手法には問題が多いので、専門家の先生たちは別の方法にすることを提案中。


そして、現在の百日咳ワクチンが効かない類縁菌の問題が。
Lack of Cross-protection against Bordetella holmesii after Pertussis Vaccination
EID 2012年11月


百日咳菌のほかに、パラ百日咳菌と、まだ和名もついていない(記事タイトルにした)Bordetella holmesii ぼるでてら ほるめし という菌があります。

その「まだ」珍しい(というか、疫学関連データに乏しい)holmesiiですが、これまで免疫系に基礎疾患のある成人に・・・といわれてきたのに、小児からも分離されました、という報告が今年のはじめにIASRに掲載されていました。

脾臓がなくて全身性エリテマトーデスの症例
Bordetella holmesii meningitis in an asplenic patient with systemic lupus erythematosus
J Med Microbiol. 2012 Aug;61(Pt 8):1165-7. Epub 2012 May 3
透析の症例
Bordetella holmesii bacteraemia in an individual on haemodialysis.
Scand J Infect Dis. 2001;33(9):716-7.


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小児からの百日咳類縁菌Bordetella holmesii の分離症例、2011年―大阪府 IASR Vol. 33 p. 15-16: 2012年1月号

Bordetella holmesii は免疫系に基礎疾患を有する青年・成人患者に感染し、敗血症・心内膜炎などの起因菌となる。近年では基礎疾患を持たない青年・成人に感染し、百日咳と同様な臨床像を引き起こすことが知られている。わが国では2008〜2009年に埼玉県と北海道で初めてB. holmesii が臨床分離され、その後、2011年の百日咳集団感染事例において5株が分離された。これら分離症例はすべて青年・成人患者のものであり、乳幼児からの分離症例は認められていない。今回、百日咳様の症状を呈する小児患者からB. holmesii の分離を経験したので、その臨床像ならびに検査所見を報告する。

患者:女児、2歳7カ月
既往歴:喘息
予防接種歴:DPTワクチン3回接種
家族歴:同時期に弟(月齢7カ月)に咳嗽症状あり
主訴:咳嗽、微熱
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国内の事例としては、ほかに宮崎県についてもあります。

現在、米国CDCのEISのトレーニングを受けている神谷先生(国立感染症研究所)の論文。

Transmission of Bordetella holmesii during Pertussis Outbreak, Japan
Emerging Infectious Diseases 2012年6月


平成23年 衛生微生物技術協議会第32回研究会 資料より

◆2010-11年に発生した百日咳地域流行において,百日咳菌の類縁菌であるB. holmesiiが5株分離された
(宮崎衛研,延岡市保健所,感染研・情セ,細2)


この関連で困ったり相談が必要な場合は、地元の衛生研究所と国立感染症研究所(村山)の細菌第二部へ。リファレンスセンター
ののネットワークで情報や菌株を集めています。日本の全体像を知るために重要な取り組みです。

ラボ関連の話
Simple and specific detection of Bordetella holmesii by using a loop-mediated isothermal amplification assay
Microbiology and Immunology
Volume 56, Issue 7, pages 486–489, July 2012


HIGH HETEROGENEITY IN METHODS USED FOR THE LABORATORY CONFIRMATION OF PERTUSSIS DIAGNOSIS AMONG EUROPEAN COUNTRIES, 2010: INTEGRATION OF EPIDEMIOLOGICAL AND LABORATORY SURVEILLANCE MUST INCLUDE STANDARDISATION OF METHODOLOGIES AND QUALITY ASSURANCE
Eurosurveillance, Volume 17, Issue 32, 09 August 2012

公衆衛生関連
子どもがBholmesiiで菌血症(ニューヨーク)2010年のアラート


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