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Channel: 感染症診療の原則
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【Q&A】 大曲先生 (8/8 薬剤師の為のベッドサイドティーチング)

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病棟へ出て実際にベッドサイドで活躍する薬剤師さんが増えました。また、そのための準備をしている施設や大学も増えています。これをバックアップするためのセミナーとして、ファイザー株式会社主催による薬剤師さん向けのセミナーが開催されています。

会場は都内で、若手医師セミナーのような大がかりな全国ライブ中継にはなっていないのですが、各地のファイザーオフィス等で、DVDによる再視聴が可能になっています。(オンデマンドではなく各地で日程が決まっていますので参加希望の人はファイザーにお問い合わせください)


8月8日は大曲先生による感染症診療についての講義でした。
会場からいただいたQ&Aに、ていねいな解説をつけていただきました。
大曲先生、ご多忙な中、迅速な対応をありがとうございました。

感染症を専門とされているかたには、どのような質問や疑問が学習者の中にあるのか。短く適切に応えるにはどのあたりがツボなのかを学ぶことができるのではないかとおもいます。
指導者から指導法を学ぶ、という資料にもなりますね。

【注意事項】
◇下記は、会場で講義を聴いたひとによるものの質問と、それをふまえての回答であり、一般化を目的としていません。例外については各自、常識を踏まえてご活用ください。
◇下記の内容は、特定の症例に当てはめる際に適切ではないことがあります。特定症例における判断の際に活用する場合は、当該主治医や診療チームの責任のもとでお願いします。
下記記載は参加者のためのQ&Aであり、講師や主催者は特定症例の診療に責任をおうものであはりません。

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質問1:肝障害のある患者の蜂窩織炎では、溶連菌やS.aureusの他にViblio unlnificasが起因菌となる可能性が高くなるとのことでしたが、肝障害があると、どういった機序でVibrioへの抵抗性が落ちるのですか?

回答:慢性肝疾患のある方は複合的免疫不全の状態にあると言われています。具体的には1)腸内細菌叢の変化、2)腸管粘膜の免疫学的防御能、3)腸管壁の解剖学的変化、4)腹部内臓器の循環動態の変化、5)網内系機能の低下、6)細胞性免疫不全、7)腹膜表面における食細胞の機能低下、8)白血球遊走能障害、9)補体濃度変化などの腹水の変化、等が起こっています。Vibrioによる感染症のリスクが高いのは、これら複合的要因によるものと考えられています。



質問2:脾摘後糖尿病やその他の基礎疾患を持った患者の感染症を考えるとき、そうした基礎疾患を持たない患者で想定すべき菌に加えて想定しなければならない菌の例が他にもあれば教えて頂きたい。

回答:例えば手術などで脾臓摘出後の方の場合には、液性免疫不全があるため、肺炎球菌やヘモフィルスなどによる重症感染のリスクがあがります。他にも免疫不全の種類によって、感染症の主な原因微生物が変わってきます。感染症学雑誌に掲載されている総説に具体例が記載されています(感染症誌 80: 475〜479, 2006)。http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0800050475.pdf



質問3:肺炎の重症度判定、大変勉強になりました。尿路感染症(高齢)の時の重症度判定の指標も教えて頂けますでしょうか。(高齢、熱37度台、肺炎か尿路感染がありました。バイタルは見れていません)

回答:発熱を伴う尿路感染の例として腎盂腎炎・前立腺炎などがあります。いずれも問題は、特異的な所見に乏しいことです。このような疾患では局所所見は乏しいので、重症度を全身的な感染症の兆候でみるのが有用です。例えば敗血症の状態になっているかどうか、すなわちバイタルサインに大きな変化があるかどうかが重要です。敗血症の中にも敗血症・重症敗血症・敗血症性ショックと分類があり、後者になるほど重症度が高いです。



質問4:抗菌薬をずっと使用した時、耐性などを考えて、短期間でローテーションしたほうがよいのでしょうか。

回答:一般的には同じ抗菌薬で治療します。例えばMSSAをCefazolinで治療してもMRSAに変化する訳ではありません。まず診断の段階で原因微生物を定めて、それに対する治療を継続するのが基本です。詳しくは末尾に追記しました。



質問5:患者の背景を理解する:「背景因子の具体例」をもっと上げてほしい。(年齢、肺疾患、どこで起こったかの他に)
質問6:培養結果の判断の仕方:「培養方法によって、培養で検出されないことがある」→菌の深読みをしておく例をもっと上げてほしい。

上記2についての回答:すいません、このご説明にはかなりの字数が必要です。拙著「感染症診療のロジック」などでご覧下さい。

感染症診療のロジック南山堂


質問7:サンフォードの使い方を教えてほしい。

回答:現時点での、北米での一般的なエンピリックセラピーを知る場合にサンンフォードは有用です。ただし北米の事情(耐性菌の傾向、販売されている薬剤など)を色濃く反映していますので、状況の違う日本でそのまま適用できないこともあることに、注意しておく必要があります。



質問8:抗菌薬を投与していてもCRPの低下がみらればい場合は、抗菌薬を変更する必要があるのでしょうか。変更する際は再度培養が必要ですか。

回答:まずは「CRPが下がらない」ことの原因探しが必要です。多くの場合は、合併症があって治療不良の状態になっています。また原因検索の結果まれに耐性菌感染のことがありますが、この場合は治療の変更は必要でしょう。しかし、こういう状況はそれほど多くはありません。



質問9:菌の同定ができない、培養しても菌が生えない、でもCRP、血沈は高い。しかもOPE後という際に、抗菌薬を投与するのはありなのでしょうか。

回答:入院中の患者で感染を疑う、という状況での対応ですね。抗菌薬を開始するのであれば、少なくともどの臓器・系統の感染症なのかを確定しておくことが重要です。しかし同定できず、なおかつ患者が重篤な場合には、感染臓器を推測して治療をすることは現実的にはあります。なぜならば、感染症によっては臓器特異的所見が目立たず(あるいは見落とされやすく)、しかも重篤なものが現実には存在するからです。この場合治療開始が遅れれば患者の予後は悪化しますので、そうならないようEmpiric Therapyを開始します。しかし大切なのは、感染臓器・原因微生物をきちんと推測しし、血液培養など適切な検体をとってから治療を開始すると言うことです。闇雲にやると結局は「何を治療しているかわからない」ことになり苦労します。ちなみに、院内の感染症では中心静脈・末梢カテーテル関連血流感染などが見落とされやすいです。



質問10:肺炎は市中・院内肺炎のガイドライン等で重症度分類がされているが、他の感染症で重症度を考えるためのバイタルサインがあれば教えていただきたい。呼吸数、SpO2、年齢、腎機能、脱水などは他の感染症でも重症度分類に使えるのでしょうか。

回答:重症度を全身的な感染症の兆候でみるのが有用です。例えば敗血症の状態になっているかどうか、すなわちバイタルサインに大きな変化があるかどうかが重要です。敗血症の中にも敗血症・重症敗血症・敗血症性ショックと分類があり、後者になるほど重症度が高いです。



質問11:患者背景について具体的に詳しく聞きたいです。

回答:すいません、このご説明にはかなりの字数が必要です。拙著「感染症診療のロジック」などでご覧下さい。


質問12:抗菌薬をやめると熱が出てしまうからと、退院後も抗菌薬をずっと続ける医師がいます。体内の人工物が感染源となっていない場合でもこのようなことはあるのでしょうか。

回答:骨髄炎の治療・膿瘍の治療など、人工物がなくても長期間の治療が必要がある場合はあります。



質問13:合併再発を防ぐためにきちんと長期抗生剤を服用する必要があるとのことですが、その抗生剤の同一のものを数週間服用するのでしょうか。耐性菌がでるなどの問題はないのでしょうか。

回答:一般的には同じ抗菌薬で治療します。これが原因で同じ原因微生物が耐性菌に変化するということは通常ありません。詳しくは末尾に追記しました。



質問14:"喀痰よりA群溶連菌・MRSA分離のためバンコマイシン投与開始と電子カルテに記載ありで、バンコマイシンが70歳に1日4回1回0.5g投与となるといった様な、色々な悩ましい症例があったとき、喀痰から出たMRSAが、本当に悪さをしているのかということが知りたい。
血培にいるMRSAの痰にいるMRSAは原因としての重みが違うと思うのですが、MRSA肺炎はそんなに多いのか。"

回答:MRSA肺炎と確実に診断がつくのは、肺炎があって、喀痰の塗抹でS. aureusを思わせるGPC Clusterが見えて、培養でMRSAが検出され、血液培養でもMRSAが検出される場合です。しかしこのような条件が全てそろう場合は多くはありません。例えば血液培養が陰性であった場合などは、本当にMRSA肺炎があるのかどうかの確定診断は現実には難しいです。しかし診断がつかなくても、治療が必要かどうかの判断はこれとは別に必要になります。その場合には、1)どの程度MRSA肺炎らしいか、2)急ぐ状態か、の2点を考慮しつつ、治療するかどうかを決めていくことになりま
す。



質問15:原因菌の同定ができ治療に入る場合、第一選択となる薬剤のMICが高い場合でRの判定ができる場合には、どのように薬剤の選択をしていけばよろしいでしょうか。

回答:基本的には第二、第三の選択薬で治療することになります。例えばS. aureusによる感染症であってMSSAでなくMRSAの感染症である場合には、CefazolinではなくVancomycin等を使うことになります。



質問16:長期の治療をした場合はずっと同じ抗生剤を使用していけばよいのでしょうか。

回答:一般的には同じ抗菌薬で治療します。これが原因で同じ原因微生物が耐性菌に変化するということは通常ありません。詳しくは末尾に追記しました。



質問17:長期に抗菌薬投与が必要な場合サイクリング療法について先生のご意見をお聞かせください。

回答:一般的には同じ抗菌薬で治療します。これが原因で同じ原因微生物が耐性菌に変化するということは通常ありません。問題にはなりません。私は個々の患者さんレベルで抗菌薬をローテートすることは行いません。これが原因で耐性菌が出るわけでも、治療効果が落ちていくわけでもないからです。詳しくは末尾に追記しました。



質問18:適切な治療期間が定まっていないような疾患の実際の治療はどのように抗菌薬の投与期間を決めたらよいのか。どうしても長期に及んでしまうので。

回答:「適切な治療期間が定まっていないような疾患」はほとんどありません。しかし、適切な治療期間が教科書的に決まっているからといって、抗菌薬をその期間で機械的に終了してよい訳でもありません。治癒過程は患者さん毎にかなり変わります。一般的には、抗菌薬終了時には、診断時に用いたマーカーが正常化していることを最低限の条件にします。これがクリアされていない場合は、すくなくとも正常化するまでは治療を継続することになります。



質問19:体内の人工物が感染源となっている場合抗菌薬を継続するというお話が最後にありましたが、それによる耐性菌出現の問題などはございますでしょうか。

回答:一般的には同じ抗菌薬で治療します。これが原因で同じ原因微生物が耐性菌に変化するということは通常ありません。問題にはなりません。詳しくは末尾に追記しました。



【抗菌薬長期使用と耐性菌発現のリスクについて】
「抗菌薬を長期継続することによる耐性菌への変化」がよく問題とされます。

この問題を考える場合は注意しないといけません。長期の抗菌薬投与が必要な疾患に対しては、一般的には同じ抗菌薬で治療を継続します。これが原因で同じ原因微生物が「直接」耐性菌に変化するということは通常ありません。問題にはなりません(注)。

ただし・・患者の身体に存在する他の菌叢には影響が及びます。正常菌叢が破壊され、そこに水平伝播でMRSAが付着すれば、患者の身体でMRSAが増殖します。これを単純にみれば「抗菌薬の長期使用が原因でMRSAが『生まれた』」ように見えてしまうわけです。しかしMSSAに対してCefazolinを長期間使用したからといってMSSAが直接MRSAに生まれ変わることはありません。MRSAが『生まれた』様に見えるのは、MRSAが患者−(医療者)−患者間で伝播しやすくなっており、その結果を見ているだけなのです。いわば感染対策の問題であるわけです。

病院の環境全体を考えたときに、院内の耐性菌を減らすためには、抗菌薬の使用を減らすことが一つの手です。これにより院内環境全体で菌が淘汰されて耐性菌が生き残ることを防ぎます。一方で、特定の患者さんには長期の抗菌薬治療が必要なのも事実です。ならばどうするか。抗菌薬が不必要な多くの患者には抗菌薬を使用しないよう努力する、ただし本当に必要な方を的確に見分けて、適切な治療期間治療する、というメリハリのある対応をすべきでしょう。

個の問題と、全体の問題とをバランスよく考えて対応する必要があるわけです。現場では両方を立てつつ解決法を探るべきであり、ここで一概に「抗菌薬の長期投与は好ましくない」とすると、不利益を被る患者さんも出てくるわけです。 "

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臨床感染症で人気のある先生方は、最後立ち返るところが患者さんの話であり、医療者自身の責任や努力を問い続ける姿勢に皆が感銘をうけるのではないかとおもいます。

日本の医療の歴史の中で、臨床感染症が注目され、進歩しつつあるのは、ここを語るリーダーが増えてきたからなのではないかと思うこのごろであります。



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