ワクチンの副反応関連のニュースがあり、各社の報道内容が微妙にちがっていたので久々に比較をしてみようと思いました。
27日のTBSニュースはもうネットからは消されていたので、今日現在、アクセスできるの関連記事は下記のとおり。
まず、「さすが」なのは医療系の専門媒体、メディカル・トリビューン社の記事。
まず、「2価」・「4価ワクチン」という一般的な記載をし、商品名は商品名として書いています。
医療者向けの記事が多いので、問題の本質である、思春期に多い採血や注射時の迷走神経反射(一時的な意識消失≠失神, 英語はSyncope やfaint)で転倒が問題である、あるいは2種類あるうちのもう片方を誤って接種してしまうという医療安全の本質をタイトルにしています。
ソースも明記。
ニュースソースは厚生労働省が27日に発表をした「医薬品・医療機器安全情報」で、これは完全公開の情報源であり、誰でも読むことができます。
(こちらの6月27日 No.291のPDFをクリック)
最初から冷やかしや誹謗中傷目的の人は読まないでしょうが、真面目にワクチンを語る人はまず読んでからにしましょうね。3〜6ページの合計4ページです。最後は文献リストなので実質3ページです。
メディア関係者これを読んで何を伝えるか。
どの数字に何の意味があるかを解釈して表現するかはその記者やデスク次第ということであります。
読み比べると面白いですよ。リテラシー教材にもなります!
ネットでは、情報の精度・確かさに関心のない人たちのデマやがあふれていて、このようななかで保護者が正確な情報を探して適切な医療アクセスをするって大変だなあと思いますね。
公的なところでの情報が薄すぎるのが問題です。
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HPVワクチン接種後の転倒事故,2価・4価の誤接種に関する注意 厚生労働省 メディカルトリビューン 2012年6月28日
厚生労働省が昨日発表した「医薬品・医療機器等安全性情報No.291」でヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種の安全対策を呼びかけた。注射に対する恐怖感などで生じる失神により,転倒する事例が報告されており,厚労省は転倒予防策を徹底するよう求めている(関連記事)。また,2価HPVワクチン(商品名サーバリックス)に続き,昨年夏に4価ワクチン(商品名ガーダシル)が登場し,接種歴等の確認不十分による両ワクチンの誤接種がこれまで判明しているだけで,61件に上ることも明らかにされている。(この先は公開されておらず、会員登録した人が読めるようになっています)
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子宮頸がんワクチン、接種後567人失神状態 朝日新聞 2012年6月28日8時24分
厚生労働省は27日、子宮頸(けい)がんを予防するワクチンを接種した後に、失神を起こしたり意識がはっきりしなくなったりした女性が812人報告されたと発表した。ワクチンの副作用ではなく、筋肉注射の痛みや恐怖によるショックが原因と考えられるという。
厚労省は、失神に備えて接種後30分は院内で安静にさせるよう医療機関に注意を呼びかけている。
子宮頸がんワクチンは、2009年発売の「サーバリックス」と、11年発売の「ガーダシル」がある。厚労省によると、812人は今年3月末までの報告数。このうち意識を失う失神状態になった人は567人、さらに転倒して歯や鼻の骨が折れた人が51人いた。
企業の推計では3月末までの接種者数はサーバリックスが253万人、ガーダシルが31万人という。
失神を起こしたのは接種から15分以内が約9割を占めた。厚労省は、接種後に歩く際には保護者や看護師らが付き添うことや、約30分間は背もたれのあるイスに座らせることを徹底するよう求めている。
子宮頸がんワクチンは現在、国と市町村が中学1年〜高校1年の女子を対象に接種費用を公費で助成している。来年度には、予防接種法に基づく定期接種となる見通しだ。
接種後の失神でひどいけがをしたら、公的な救済制度で医療費などが支給される場合もある
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子宮頸がんワクチン接種後に失神、567件報告 2012年6月28日07時23分 読売新聞
子宮頸がんの予防ワクチン接種後、失神した例が、過去2年余りの間に国内で567件報告されていることが27日、厚生労働省のまとめで分かった。
注射に伴う痛みや恐怖心が原因とみられる。同省は失神によってけがする場合もあるとして、接種後30分間はなるべく立ち上がらないなど注意を呼びかけている。
子宮頸がん予防ワクチンの接種は、中1から高1の女子を対象に2009年12月から始まった。今年3月までに、推定284万人(計約686万回分)が接種し、「気が遠くなる」など症状がでたのが812件。うち約7割が失神だった。
同省は、症状は注射の痛みや恐怖によって神経が防御反応を起こす「迷走神経反射」で、ワクチンそのものとは無関係とみている。
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興奮や失神、卒倒… 子宮頸がんワクチン接種で厚労省が注意呼びかけ 2012.6.27 19:48
子宮頸(けい)がんワクチンを接種した際の強い痛みによるショックから気を失ったり、倒れたりするケースが多発しているとして、厚生労働省は27日、医療機関に対し注意喚起を行った。
子宮頸がんワクチンは平成22年11月から小学校6年〜高校1年の女子を対象に接種費用の公費助成が行われている。注射は肩近くの筋肉に行われ、皮下注射の他の予防接種より痛みが強い。このため、注射そのものの痛みや恐怖、興奮などから失神したり、倒れたりする副反応が起きることがあるという。
厚労省によると、接種後の意識消失などの症例は今年3月までに、延べ634万人に接種されたグラクソ・スミスクライン社のサーバリックスで683例、延べ約53万人に接種されたMSD社のガーダシルで129例。うち転倒して頭を強く打ち付けたり、鼻を骨折したりするなど二次被害が起きたケースも前者で38例、後者で13例あった。
接種後30分から1時間で症状が現れることもあり、厚労省は(1)接種後の移動は医療従事者や保護者が付き添う(2)接種後30分程度はいすなどに腰掛け、安静にする−などの対策を徹底するよう呼びかけている。
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接種後、保護者付き添い30分座って 日刊スポーツ(共同) 2012年6月27日20時0分
厚生労働省は27日、子宮頸(けい)がん予防ワクチンを接種した女子中高生の失神やそれに伴うけがが報告されているとして、接種後は保護者などが付き添い、30分程度は座って休むよう呼び掛けた。
子宮頸がんの予防接種は筋肉注射で痛みを感じやすいとされ、失神の原因も、薬剤でなく注射行為の恐怖に関連すると考えられている。原則、中学1年から高校1年の女子には公費助成があり、接種が増える夏休みを前に、医療関係者向けの「医薬品・医療機器等安全性情報」で注意喚起した。
子宮頸がん予防ワクチンは、2009年12月発売の「サーバリックス」と、昨年8月発売の「ガーダシル」という2種類の製品がある。
安全性情報によると、今年3月末までに接種後の意識消失がサーバリックスで476例、ガーダシルで91例報告された。発生率は接種10万回当たりで8〜17例。倒れた際に頭などを打つ2次被害もそれぞれ38例と13例。鼻の骨や歯が折れたり、軽い脳挫傷と分かったりした例があったという。
ワクチンは同じ製品を3回受けなければならないが、2製品で3回とした事例も報告された。効果があるか分からないため、3回とも同じ製品を打つよう徹底を求めた。(共同)
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実際の情報をみてみましょう。このデータは、「因果関係に関係なく集めているデータです。
報告されたもののうち、重篤なものなどは調査がかかります。噂レベルと事実の違いはここで見えます。
まず分母と頻度を確認します。分数ができるかどうかが情報の理解の分かれ道。
世界のHPVワクチン市場はガーダシルが9割ですが、日本はおとなの事情で2価が総数として多い状況にあります。
英国がこの秋から2価→4価に国の接種プログラムを変更するので、2価中心なのは日本だけになるかも、です。データとしては貴重ですね。
今回話題になっている失神ですが、、、まず「失神関連」というのは「フラっときた!」なものも入ります。つまり広く定義しているもの。
その右側の「意識消失を伴う」というのが日本語でいうところの意識消失、英語ではコンシャスを失った状態、の数です。
意識はすぐ戻るのが特徴ですが、怖いのはフラッと倒れた時に床に落ちる、どこかに頭や顔をぶつけてけがをすることです。右側のカラムはその2次被害の起きた数字です。
この安全性情報の記事の中で一番重要な注意喚起は、「このワクチン接種すると、フラッとする人が10万人あたり15人くらいいるよ!」・・・ということではなくて(ぴんとこない頻度です)こちらのスライドの内容です。
赤ちゃんは有無をいわさず大人の都合で接種をするので、不意をつかれて「イタイじゃんか!」というギャン泣きをすることはあっても、今から刺すよ〜コワイヨ〜というような緊張でフラッとすることはありません。
中高年も注射ぐらいではびびったりしませんが、思春期の子どもは、喘息やアトピーなどの持病で病院慣れしている子以外は、「ぎょえ!なにするんだよ!そんなんやだよ!」的な行為なわけです。高校生と比較すると中学生年齢に多いのはその理不尽や緊張度が高いからだと想像できます。
「お産に比べたら注射なんかたいしたことないよね!」とハハハと注射を笑い飛ばせるほど立派な神経が育った人はワクチンで失神は実際にしません。大丈夫です。ワクチンの成分のせいではありませんので。
米国では2006年に4価HPVワクチンが認可されまして、そのあといろいろな報告や記載があります。
2006年と2008年。
そして、有害事象報告データベースを用いて、他のワクチンと比較して際立って失神が多いとか、だからワクチンやめればということではないというまとめがありました。
Syncope After Vaccination --- United States, January 2005--July 2007 (May 2, 2008 / 57(17);457-460)
このように検証をできる国はいいですね〜。
ちなみに、HPVワクチン導入前から、思春期の人は献血、注射、採血などで意識を失ったりフラッと倒れることが知られており、これは緊張によっておこる「迷走神経反射」で説明が可能です。
今回の報道が初ではなく、すでに2010年に注意喚起のあったことについての実数の報告というわけです。
臨床試験ではプラセボ群との頻度の比較ができます。
余談ですが、、、HPVワクチンで死ぬ死ぬと騒いでいる人もいるようですが、日本で報告された14歳の2価ワクチン接種2日後に亡くなった症例は直接の明確な因果関係なしという結論が出ています(もしも関連があるなら同様の症例が出てくるはずですし、専門家の間で仮説の検討が行われます)。
HPVワクチンを接種した人が、その数時間後とか1日後、3日後、1週間後、1か月後に死亡するというeventは分母が増えれば当然生じてきます。
米国の有害事象データーベースで2008年8月31日までに把握された4価HPVワクチン接種後の死亡27例のうち、7例は死亡したという以外の情報が得られないなどでフォローできていませんが、主治医等に確認がとれた事例では死因が把握できています。
これらをみて、それぞれの専門家が「いやー、これはHPVワクチンのせいでしょうな!」ということに同意や共感できるのかどうかということが検討プロセスの中で行われることです。
さらに余談ですが、HPVワクチンのデマのパターンとして、
1)「接種すると不妊になる、こえ〜」、「民族断絶は米国や〇〇財団の陰謀だ きゃー」、「こりゃ断種ワクチンだ、ぎゃおー!」という陰謀論系のもの
2)「なんかさ、動物を不妊にする薬が入っているらしいよ」、「農薬が入っているんだって」、「虫が入っているんだって」という伝聞都市伝説系のもの
があります。
ワクチンや医薬品開発のプロセスを知っている人は、妊孕性についての検討が細かくされることをご存知ですが、当然のことながら、不妊になるような成分は入っていませんので不妊になるわけがないのですが、そういったお話が大好きな人たちはなぜか情報の精度はこだわりがなく、1次情報にあたらない(引用もしない、たずねてもこたえない)のが特徴です。
「どの成分がどのような機序で不妊になるんですか?」と聞いても関心なさそうです。(注射した瞬間に不妊になるようなイメージなのかもしれませんね・・・医学部や薬学部に進学したご友人がいたらぜひ質問してみてください)
不思議なことですが、不妊クリニックの専門医で「どうもワクチンのせいで不妊が増えているなあ」と日々実感するような立場・・・でもない医療関係者でもない人たちが不妊になるといっています。(ホントに周囲にいるなら有害事象として医師経由で届ける・厚労省に電話するなりしたほうがいいですよ)
実際には、HPVワクチンに限らず、ワクチンと妊娠データは追跡調査がおこなわれており、妊娠や分娩、胎児の健康状態でワクチンが原因の大きな問題は確認されていません。
最もデータを厳しく管理している臨床試験データにおいては、分母が増えるとこれまた「妊娠しないでくださいね」とお願いしたのに「あれ?妊娠したみたい…先生どうしよう」という人が増えてきます。
HPVワクチンは途中で接種を中止するのがプロトコールですが(生んだ後に再開)、そこで中絶をしなくてはいけないというようなことではありません。注意深く見守ります。
こちらは4価の臨床試験中の妊娠データです。接種をした人と、プラセボ群の比較ができます。
27日のTBSニュースはもうネットからは消されていたので、今日現在、アクセスできるの関連記事は下記のとおり。
まず、「さすが」なのは医療系の専門媒体、メディカル・トリビューン社の記事。
まず、「2価」・「4価ワクチン」という一般的な記載をし、商品名は商品名として書いています。
医療者向けの記事が多いので、問題の本質である、思春期に多い採血や注射時の迷走神経反射(一時的な意識消失≠失神, 英語はSyncope やfaint)で転倒が問題である、あるいは2種類あるうちのもう片方を誤って接種してしまうという医療安全の本質をタイトルにしています。
ソースも明記。
ニュースソースは厚生労働省が27日に発表をした「医薬品・医療機器安全情報」で、これは完全公開の情報源であり、誰でも読むことができます。
(こちらの6月27日 No.291のPDFをクリック)
最初から冷やかしや誹謗中傷目的の人は読まないでしょうが、真面目にワクチンを語る人はまず読んでからにしましょうね。3〜6ページの合計4ページです。最後は文献リストなので実質3ページです。
メディア関係者これを読んで何を伝えるか。
どの数字に何の意味があるかを解釈して表現するかはその記者やデスク次第ということであります。
読み比べると面白いですよ。リテラシー教材にもなります!
ネットでは、情報の精度・確かさに関心のない人たちのデマやがあふれていて、このようななかで保護者が正確な情報を探して適切な医療アクセスをするって大変だなあと思いますね。
公的なところでの情報が薄すぎるのが問題です。
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HPVワクチン接種後の転倒事故,2価・4価の誤接種に関する注意 厚生労働省 メディカルトリビューン 2012年6月28日
厚生労働省が昨日発表した「医薬品・医療機器等安全性情報No.291」でヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種の安全対策を呼びかけた。注射に対する恐怖感などで生じる失神により,転倒する事例が報告されており,厚労省は転倒予防策を徹底するよう求めている(関連記事)。また,2価HPVワクチン(商品名サーバリックス)に続き,昨年夏に4価ワクチン(商品名ガーダシル)が登場し,接種歴等の確認不十分による両ワクチンの誤接種がこれまで判明しているだけで,61件に上ることも明らかにされている。(この先は公開されておらず、会員登録した人が読めるようになっています)
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子宮頸がんワクチン、接種後567人失神状態 朝日新聞 2012年6月28日8時24分
厚生労働省は27日、子宮頸(けい)がんを予防するワクチンを接種した後に、失神を起こしたり意識がはっきりしなくなったりした女性が812人報告されたと発表した。ワクチンの副作用ではなく、筋肉注射の痛みや恐怖によるショックが原因と考えられるという。
厚労省は、失神に備えて接種後30分は院内で安静にさせるよう医療機関に注意を呼びかけている。
子宮頸がんワクチンは、2009年発売の「サーバリックス」と、11年発売の「ガーダシル」がある。厚労省によると、812人は今年3月末までの報告数。このうち意識を失う失神状態になった人は567人、さらに転倒して歯や鼻の骨が折れた人が51人いた。
企業の推計では3月末までの接種者数はサーバリックスが253万人、ガーダシルが31万人という。
失神を起こしたのは接種から15分以内が約9割を占めた。厚労省は、接種後に歩く際には保護者や看護師らが付き添うことや、約30分間は背もたれのあるイスに座らせることを徹底するよう求めている。
子宮頸がんワクチンは現在、国と市町村が中学1年〜高校1年の女子を対象に接種費用を公費で助成している。来年度には、予防接種法に基づく定期接種となる見通しだ。
接種後の失神でひどいけがをしたら、公的な救済制度で医療費などが支給される場合もある
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子宮頸がんワクチン接種後に失神、567件報告 2012年6月28日07時23分 読売新聞
子宮頸がんの予防ワクチン接種後、失神した例が、過去2年余りの間に国内で567件報告されていることが27日、厚生労働省のまとめで分かった。
注射に伴う痛みや恐怖心が原因とみられる。同省は失神によってけがする場合もあるとして、接種後30分間はなるべく立ち上がらないなど注意を呼びかけている。
子宮頸がん予防ワクチンの接種は、中1から高1の女子を対象に2009年12月から始まった。今年3月までに、推定284万人(計約686万回分)が接種し、「気が遠くなる」など症状がでたのが812件。うち約7割が失神だった。
同省は、症状は注射の痛みや恐怖によって神経が防御反応を起こす「迷走神経反射」で、ワクチンそのものとは無関係とみている。
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興奮や失神、卒倒… 子宮頸がんワクチン接種で厚労省が注意呼びかけ 2012.6.27 19:48
子宮頸(けい)がんワクチンを接種した際の強い痛みによるショックから気を失ったり、倒れたりするケースが多発しているとして、厚生労働省は27日、医療機関に対し注意喚起を行った。
子宮頸がんワクチンは平成22年11月から小学校6年〜高校1年の女子を対象に接種費用の公費助成が行われている。注射は肩近くの筋肉に行われ、皮下注射の他の予防接種より痛みが強い。このため、注射そのものの痛みや恐怖、興奮などから失神したり、倒れたりする副反応が起きることがあるという。
厚労省によると、接種後の意識消失などの症例は今年3月までに、延べ634万人に接種されたグラクソ・スミスクライン社のサーバリックスで683例、延べ約53万人に接種されたMSD社のガーダシルで129例。うち転倒して頭を強く打ち付けたり、鼻を骨折したりするなど二次被害が起きたケースも前者で38例、後者で13例あった。
接種後30分から1時間で症状が現れることもあり、厚労省は(1)接種後の移動は医療従事者や保護者が付き添う(2)接種後30分程度はいすなどに腰掛け、安静にする−などの対策を徹底するよう呼びかけている。
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接種後、保護者付き添い30分座って 日刊スポーツ(共同) 2012年6月27日20時0分
厚生労働省は27日、子宮頸(けい)がん予防ワクチンを接種した女子中高生の失神やそれに伴うけがが報告されているとして、接種後は保護者などが付き添い、30分程度は座って休むよう呼び掛けた。
子宮頸がんの予防接種は筋肉注射で痛みを感じやすいとされ、失神の原因も、薬剤でなく注射行為の恐怖に関連すると考えられている。原則、中学1年から高校1年の女子には公費助成があり、接種が増える夏休みを前に、医療関係者向けの「医薬品・医療機器等安全性情報」で注意喚起した。
子宮頸がん予防ワクチンは、2009年12月発売の「サーバリックス」と、昨年8月発売の「ガーダシル」という2種類の製品がある。
安全性情報によると、今年3月末までに接種後の意識消失がサーバリックスで476例、ガーダシルで91例報告された。発生率は接種10万回当たりで8〜17例。倒れた際に頭などを打つ2次被害もそれぞれ38例と13例。鼻の骨や歯が折れたり、軽い脳挫傷と分かったりした例があったという。
ワクチンは同じ製品を3回受けなければならないが、2製品で3回とした事例も報告された。効果があるか分からないため、3回とも同じ製品を打つよう徹底を求めた。(共同)
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実際の情報をみてみましょう。このデータは、「因果関係に関係なく集めているデータです。
報告されたもののうち、重篤なものなどは調査がかかります。噂レベルと事実の違いはここで見えます。
まず分母と頻度を確認します。分数ができるかどうかが情報の理解の分かれ道。
世界のHPVワクチン市場はガーダシルが9割ですが、日本はおとなの事情で2価が総数として多い状況にあります。
英国がこの秋から2価→4価に国の接種プログラムを変更するので、2価中心なのは日本だけになるかも、です。データとしては貴重ですね。
今回話題になっている失神ですが、、、まず「失神関連」というのは「フラっときた!」なものも入ります。つまり広く定義しているもの。
その右側の「意識消失を伴う」というのが日本語でいうところの意識消失、英語ではコンシャスを失った状態、の数です。
意識はすぐ戻るのが特徴ですが、怖いのはフラッと倒れた時に床に落ちる、どこかに頭や顔をぶつけてけがをすることです。右側のカラムはその2次被害の起きた数字です。
この安全性情報の記事の中で一番重要な注意喚起は、「このワクチン接種すると、フラッとする人が10万人あたり15人くらいいるよ!」・・・ということではなくて(ぴんとこない頻度です)こちらのスライドの内容です。
赤ちゃんは有無をいわさず大人の都合で接種をするので、不意をつかれて「イタイじゃんか!」というギャン泣きをすることはあっても、今から刺すよ〜コワイヨ〜というような緊張でフラッとすることはありません。
中高年も注射ぐらいではびびったりしませんが、思春期の子どもは、喘息やアトピーなどの持病で病院慣れしている子以外は、「ぎょえ!なにするんだよ!そんなんやだよ!」的な行為なわけです。高校生と比較すると中学生年齢に多いのはその理不尽や緊張度が高いからだと想像できます。
「お産に比べたら注射なんかたいしたことないよね!」とハハハと注射を笑い飛ばせるほど立派な神経が育った人はワクチンで失神は実際にしません。大丈夫です。ワクチンの成分のせいではありませんので。
米国では2006年に4価HPVワクチンが認可されまして、そのあといろいろな報告や記載があります。
2006年と2008年。
そして、有害事象報告データベースを用いて、他のワクチンと比較して際立って失神が多いとか、だからワクチンやめればということではないというまとめがありました。
Syncope After Vaccination --- United States, January 2005--July 2007 (May 2, 2008 / 57(17);457-460)
このように検証をできる国はいいですね〜。
ちなみに、HPVワクチン導入前から、思春期の人は献血、注射、採血などで意識を失ったりフラッと倒れることが知られており、これは緊張によっておこる「迷走神経反射」で説明が可能です。
今回の報道が初ではなく、すでに2010年に注意喚起のあったことについての実数の報告というわけです。
臨床試験ではプラセボ群との頻度の比較ができます。
余談ですが、、、HPVワクチンで死ぬ死ぬと騒いでいる人もいるようですが、日本で報告された14歳の2価ワクチン接種2日後に亡くなった症例は直接の明確な因果関係なしという結論が出ています(もしも関連があるなら同様の症例が出てくるはずですし、専門家の間で仮説の検討が行われます)。
HPVワクチンを接種した人が、その数時間後とか1日後、3日後、1週間後、1か月後に死亡するというeventは分母が増えれば当然生じてきます。
米国の有害事象データーベースで2008年8月31日までに把握された4価HPVワクチン接種後の死亡27例のうち、7例は死亡したという以外の情報が得られないなどでフォローできていませんが、主治医等に確認がとれた事例では死因が把握できています。
これらをみて、それぞれの専門家が「いやー、これはHPVワクチンのせいでしょうな!」ということに同意や共感できるのかどうかということが検討プロセスの中で行われることです。
さらに余談ですが、HPVワクチンのデマのパターンとして、
1)「接種すると不妊になる、こえ〜」、「民族断絶は米国や〇〇財団の陰謀だ きゃー」、「こりゃ断種ワクチンだ、ぎゃおー!」という陰謀論系のもの
2)「なんかさ、動物を不妊にする薬が入っているらしいよ」、「農薬が入っているんだって」、「虫が入っているんだって」という伝聞都市伝説系のもの
があります。
ワクチンや医薬品開発のプロセスを知っている人は、妊孕性についての検討が細かくされることをご存知ですが、当然のことながら、不妊になるような成分は入っていませんので不妊になるわけがないのですが、そういったお話が大好きな人たちはなぜか情報の精度はこだわりがなく、1次情報にあたらない(引用もしない、たずねてもこたえない)のが特徴です。
「どの成分がどのような機序で不妊になるんですか?」と聞いても関心なさそうです。(注射した瞬間に不妊になるようなイメージなのかもしれませんね・・・医学部や薬学部に進学したご友人がいたらぜひ質問してみてください)
不思議なことですが、不妊クリニックの専門医で「どうもワクチンのせいで不妊が増えているなあ」と日々実感するような立場・・・でもない医療関係者でもない人たちが不妊になるといっています。(ホントに周囲にいるなら有害事象として医師経由で届ける・厚労省に電話するなりしたほうがいいですよ)
実際には、HPVワクチンに限らず、ワクチンと妊娠データは追跡調査がおこなわれており、妊娠や分娩、胎児の健康状態でワクチンが原因の大きな問題は確認されていません。
最もデータを厳しく管理している臨床試験データにおいては、分母が増えるとこれまた「妊娠しないでくださいね」とお願いしたのに「あれ?妊娠したみたい…先生どうしよう」という人が増えてきます。
HPVワクチンは途中で接種を中止するのがプロトコールですが(生んだ後に再開)、そこで中絶をしなくてはいけないというようなことではありません。注意深く見守ります。
こちらは4価の臨床試験中の妊娠データです。接種をした人と、プラセボ群の比較ができます。