暮らし安心のために「水道やトイレのトラブル〇千円♪」というコマーシャルソングを聞くたびにため息が出るというお話を以前聞きました。(ネットでもよく紹介されています)
経済評価にあまり長けていない編集部(まったく長けていない編集長)ではございますが、わかりやすいお話がMRICにあったので2つ紹介させていただきます。
※ちなみに下記の太字や色は編集部による加工です。
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「継続不可能な制度設計〜医師の長時間勤務について」
つくば市 坂根Mクリニック 坂根 みち子
2012年5月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行http://medg.jp
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4月9日配信のMRICで、診療所において「たった」50円の診療報酬で患者からの問い合わせに365日24時間対応させるというのは継続不可能だという意見を主に採算性の面から述べられていた。
今回は採算を度外視してもこの手の制度が継続不可能だということを述べる。
365日24時間ひも付きというのはたとえコールされなかったにせよ、精神的にかなり束縛される。勤務医でも主治医制やオンコール制でいつでも拘束されていることが大きな負担になっている。医師の使命感から成り立ってきた制度であるが、ご存じの通り過重労働により崩壊しかけている。今度はこれを開業医にも広げようとしている。
制度を作っている人たちにこの事に対する想像力があるのだろうか。どこに出かけていてもオンコールである限り気の休まる時はない。出先に家族で出かけていても呼ばれれば家族を置いて、もしくは家族とともに帰らなければならない。もちろん遠くには行けない。折角の楽しいひと時が1本の電話で中断させられる。医師本人ももちろん大変だが、365日患者に対応している医師がいれば、その陰には必ずそれを支える家族がいるのである。
現状では圧倒的に妻がその役を担う。その妻も医師だった場合はどうするのか。2人ともいつでも呼ばれ得る状況でやっていけるのは、医師たちの両親が元気で近くにいていつでも助けてくれる場合のみである。そうでなければ、ほとんどの場合女性側が非常勤となり、家事育児、近所付き合いから親戚付き合いまでもろもろ担うことになる。
今や医学生の1/3は女性である。この比率は年々増えている。そして女性医師の配偶者は7割が医師だと言われている。
巷では、当直をしない女医を責める論調があるが、夫が帰ってこない「普通」の勤務医だった場合、子育てはだれがするのだろうか。医師にも家庭があり当たり前の日常生活がある。
朝のお弁当作りから始まって日中は休みなく勤務し、夕方になると保育園や学童から子供を拾って夕食を作って寝かせるまでどのような手順で効率よく動くか走りながら考える。30年以上前にアメリカでスーパーウーマンシンドロームということが言われたが、30年遅れて、日本の女性も未だにこれを要求されている。
日本人のDr.と結婚したアメリカ人の友人が、「レジデントで忙しいのは仕方がない。ではいつになったら帰ってくるようになるのか」と問うた。答えはいつまで経っても(どんなに上級医になっても)帰ってくることはない」である。
診療所の医師の平均年齢は、勤務医より10歳上である。勤務医から心機一転開業したものの現在の新規開業は厳しい。開業のストレスから心と体に変調をきたす人も多い。女性の場合は、これに自身の更年期と子供の思春期、そして親の介護がかかわってくる。一般の女性と同じである。そうでなくてもこの時期を平穏に越えることは難しい。
今回の改定では3つの診療所が(わざわざ3か所までと限定した)輪番制で24時間対応した場合も、「10円!!」加算してくれる制度ができた。
3か所と限定しても、自院以外の診療所にかかりつけの患者さんについては、情報がないので、電話での問い合わせに詳細に話を聞かないといけない。
本来ならクラウド型の電子カルテで、患者情報を共有できればいいのだが、PCの末端は、IT企業のドル箱、有料で数が制限されている。営利企業が医療の公共性を考えてPCの共有を許してくれるとはとても思えない。結局他院かかりつけの患者さんからの問い合わせは新患と同じである。それなら3か所と限定せず、地域で好きなように輪番制を組ませてくれればいい。
いずれにせよ、1人体制だろうが3人輪番制だろうがこの人数で365日24時間対応というのは、過労死を勧めているようなものである。
ため息が出るほど、実態を知らない人たちが制度設計していると思われる。
女医支援と称して、女医にのみ焦点を当てた支援策をしているところが多いが、片手落ちである。女性は自分だけ支援してほしいのではない。パートナーも帰ってくるようにしてほしいのである。相手が帰ってくるなら、その日は代わりに自分が当直に行けることだって出来る。医師になったからには誰だって必要とされるところで人のために働きたいものだ。男性医師の立場でも病院と寝るだけの家の往復のみでは、実は家庭内で阻害されていたり、地域社会への参加が少なくて視野が狭かったりする。家庭での役割も担うことで家庭環境は格段に良くなる。たとえ妻が専業主婦だったとしても、あまりに帰ってこない夫(帰ってきたときは死に体である)と、育児家事すべてについてまかせっきりにされ気持ちが途切れそうになっている人が多い。男性女性に限らず働き方の改善が必要である。
開業医が労働者ではないことを逆手にとって「たった10円」で年120日24時間対応を求める、もしくは「50円」で年365日24時間対応を求める制度を作るというのは制度設計側の常識の欠如としか思えない。医師は一生滅私奉公で働いて当たり前という意識がどこかにあるのだろう。勤務医であっても開業医であっても、特に女性は勤務時間以外にもフルで働いている。朝の戦争状態の時間に、または夜の怒涛の夕食作りの時間にいつでも患者対応を求められれば家庭は崩壊し体も持たない。
結局24時間365日の部分は、人数で対応するしかない。具体的には病院の外来を診療所に移し、病院は入院と緊急、時間外の対応を中心とする。診療所が輪番制で時間外の軽症患者を診る場合は、診療所の母集団を大きくして負担を分かち合う、これ以外にない。
勤務医でも診療所でも基本的な考え方は一緒である。
循環器内科は、内科の中で最も救急が多く、急性心筋梗塞に対するカテーテル治療では、如何に最短時間で詰まった血管を再開通させるかということについて全精力を傾ける。当然、拘束時間も長く緊急呼び出しも多い。その分やりがいも大きく、はまっていく人も多い。もともと外科系は勤務環境が厳しく女性医師が少ない分野であるが、循環器内科のこの分野も既婚、子持ちの女性医師はなかなか参加できない。
どうしたらいいかはわかっている。
主治医感を残したグループ診療性とOn-Offのはっきりした勤務体制、男性女性関係なく働き続けられる制度はこれしかない。実際筆者は勤務医生活の最後に、循環器の仲間6人でこれをやってみた。6人ではまだきつく最低8人は必要と思われたが、それでも、PCI(カテーテル治療)にも夜勤にも復帰できた。特別扱いがないので同僚からは働き方についてクレームがつくことはなく、分刻みで走る生活に変わりはないものの、とても精神的には充実していた。また経営的にも中小規模病院だったが、1年で軌道に乗り黒字化した。
医療崩壊については、長年にわたりあちこちで何度も当たり前の提言がなされている。
但し制度設計する段階になると、いろんなことが消えてしまう。
医師から国会議員になった方に聞いてみると、結局専門家の意見を聞く段階の人選が問題なのだそうだ。そこですべて決まってしまうと。
確かにほとんどの学識経験者は、東大出身のある程度年配の男性と相場が決まっている。日本医師会の役員評議員を見ても、60歳以上の男性でほぼ埋め尽くされている。それが悪いとは言わないが、多様性がないということは、いろんな角度からの意見が出てこないということである。医療界では、医師自身にも24時間働けないのなら仲間として認めないと思っている石(医師)頭が多い。偉い先生方だけで集まって決めても多様性は出てこない。
制度設計をするときは多様な人選をし、あらゆる角度から考え決めて欲しい。子育てをしていなくても人間には想像力というものがある。今回の改定でも、こういう制度設計をしてしまったらどういうことになるのかその想像力が欲しかった。
過重労働で医療崩壊するのは、勤務医でも開業医でも一緒である。
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「どう考えても継続不可能、「50円」で医師が24時間対応する制度」
※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載
武蔵浦和メディカルセンター ただともひろ胃腸科肛門科 多田 智裕
2012年4月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
4月1日より、2年に1度の診療報酬改定が施行されました。今回の改定の中で私が一番驚いたのは、利用率の低迷から効果がほとんど上がっていない「地域医療貢献加算」が「時間外対応加算」と名前を変えて残ったことです。
「時間外対応加算」とは、診療所が常時24時間265日、患者からの電話による問い合わせに対応する体制を取ると「1人当たり5点(50円)」の加算が算定できるという制度です。
財源がないのは十分に分かりますが、たったの「50円」で、24時間365日の電話対応だけでなく、緊急時に原則として自ら対応することまでを求めるのはあまりにもコストを度外視しているのではないでしょうか?
良心的な医療従事者をボランティア労働で疲弊(そして「逃散」)させるだけで、医療崩壊を加速させるだけの制度になってしまう可能性もあるのです。
●ほとんど効果がなかった地域医療貢献加算
2年前の診療報酬改定で、「地域医療貢献加算」として30円が設定されました。この加算を届け出た診療所は、過去に受診した人も含めた全ての患者に24時間365日体制で対応することが求められていました。
具体的には、医師が自分の緊急時の連絡先を院内に掲示するなど、患者に連絡先を周知します。その上で、「緊急の対応が必要と判断された場合には、医学的に必要と思われる対応を行う」ということです。
医療を受ける立場から見ると、30円(3割負担として10円)支払えば、かかりつけの診療所に24時間365日電話で対応してもらえ、さらには緊急時の対応までしてくれる主治医を手に入れられるという、すばらしい制度でした。
しかしながら、診療所にとって1人当たり30円の収入では、1カ月当たり1万8000円(平均的な診療人数である月600人×30円)にしかなりません。これは、診療所の医師がほぼボランティアで電話対応をすることを前提とした制度だったのです。
医師は可能な限り時間外にも対応するにせよ、すぐには携帯に出ることができない場面も多々想定されます。そのため実際の利用率は低迷し、届け出をした診療所が約30%、実際に算定していた診療所は10%台であったと推定されます。
当初は、休日夜間に病院を受診する軽症患者を減少させることが目標でしたが、8割を超える病院でそれは認められませんでした。ビジネスの企画としては「完全に失敗だった」と言い切ってもよいでしょう。
●30円から50円へとアップしても24時間365日対応は持続不可能
この「地域医療貢献加算」は分かりにくい名称でした。そのため、実際に診療報酬明細で算定されていても、それが「24時間365日主治医として対応してもらえる」ことの対価であったと理解していた人はほとんどいなかったと思われます。
今回は名称が「時間外対応加算」に変わり、以下の3パターンの設定となりました。
【時間外対応加算1】=50円・・・常時(24時間365日)、患者からの電話等による問い合わせに応じる。原則として自院で対応する。
【時間外対応加算2】=30円・・・準夜帯(一般的には16時から24時の時間帯)において、患者からの電話等による問い合わせに応じる。原則として自院で対応する。
【時間外対応加算3】=10円・・・地域の医療機関と輪番による連携を行い、当番日の準夜帯において、患者からの電話等による問い合わせに応じる。当番日は原則として自院で対応する。
24時間365日対応の対価は、30円から50円へと大幅にアップしました形になります。でも、医療従事者側からすると、1カ月あたり3万円程度 (おおむね50円×600人)の売り上げにしかなりません。夜間休日の電話番の事務員を雇うことすらできない金額であることに変わりありません。
基本的に、ほぼ無償の労働により維持されることを前提とした制度であることは変わらないでしょう。この制度単独での持続可能性はほぼゼロに近いということがお分かりいただけると思います。
●理念をつぶさない範囲で柔軟に通達を変更するべき
「できる限りの対応をする」という意味で、時間外対応加算の理念そのものは決して間違っているわけではありません。しかしながら現実問題として、 個人のボランティアを前提とした持続不可能な「365日すべて自院で対応せよ」という制度は、過去2年間にはほとんど普及しませんでした。
地域医療貢献加算の惨憺たる失敗から学ぶべき教訓は、持続可能な体制で、「地域で連携して24時間365日対応する」方針に変換すべきである、ということではないでしょうか。
今回の改正で、輪番制での対応にも10円という値段がついたのは前進ですが、これには「連携する医療機関は3件以下とする」条項がついています。
3件(3人)で当番を回すとするならば、3日に1回、夜中までの対応をしなければならないことになり、現実的には継続不可能な勤務体系です。
17時から24時までの患者さんを加療する体制を本当に地域に求めているのであれば、もっと多くの診療所が連携しても何の問題もないはずです。また、病院当直を診療所医師が手伝うという連携でも目標は達せられます。
点数と制度は決まればおしまいではありません。制度を生きたものにするために、「『連携する医療機関は3以下』の条項は外す」「病院との連携も評価する」 など、付随の通達内容を柔軟に変更し、真の夜間休日の地域医療を維持する医療連携体制づくりに近づけていくべきだと思います。
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医学部入学者が女性>男性となっている国では、group practiceが採用され、育児や自分の生活を維持しつつ、キャリアや経験も中断しない工夫がいろいろあります。また紹介したいとおもいます。
経済評価にあまり長けていない編集部(まったく長けていない編集長)ではございますが、わかりやすいお話がMRICにあったので2つ紹介させていただきます。
※ちなみに下記の太字や色は編集部による加工です。
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「継続不可能な制度設計〜医師の長時間勤務について」
つくば市 坂根Mクリニック 坂根 みち子
2012年5月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行http://medg.jp
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4月9日配信のMRICで、診療所において「たった」50円の診療報酬で患者からの問い合わせに365日24時間対応させるというのは継続不可能だという意見を主に採算性の面から述べられていた。
今回は採算を度外視してもこの手の制度が継続不可能だということを述べる。
365日24時間ひも付きというのはたとえコールされなかったにせよ、精神的にかなり束縛される。勤務医でも主治医制やオンコール制でいつでも拘束されていることが大きな負担になっている。医師の使命感から成り立ってきた制度であるが、ご存じの通り過重労働により崩壊しかけている。今度はこれを開業医にも広げようとしている。
制度を作っている人たちにこの事に対する想像力があるのだろうか。どこに出かけていてもオンコールである限り気の休まる時はない。出先に家族で出かけていても呼ばれれば家族を置いて、もしくは家族とともに帰らなければならない。もちろん遠くには行けない。折角の楽しいひと時が1本の電話で中断させられる。医師本人ももちろん大変だが、365日患者に対応している医師がいれば、その陰には必ずそれを支える家族がいるのである。
現状では圧倒的に妻がその役を担う。その妻も医師だった場合はどうするのか。2人ともいつでも呼ばれ得る状況でやっていけるのは、医師たちの両親が元気で近くにいていつでも助けてくれる場合のみである。そうでなければ、ほとんどの場合女性側が非常勤となり、家事育児、近所付き合いから親戚付き合いまでもろもろ担うことになる。
今や医学生の1/3は女性である。この比率は年々増えている。そして女性医師の配偶者は7割が医師だと言われている。
巷では、当直をしない女医を責める論調があるが、夫が帰ってこない「普通」の勤務医だった場合、子育てはだれがするのだろうか。医師にも家庭があり当たり前の日常生活がある。
朝のお弁当作りから始まって日中は休みなく勤務し、夕方になると保育園や学童から子供を拾って夕食を作って寝かせるまでどのような手順で効率よく動くか走りながら考える。30年以上前にアメリカでスーパーウーマンシンドロームということが言われたが、30年遅れて、日本の女性も未だにこれを要求されている。
日本人のDr.と結婚したアメリカ人の友人が、「レジデントで忙しいのは仕方がない。ではいつになったら帰ってくるようになるのか」と問うた。答えはいつまで経っても(どんなに上級医になっても)帰ってくることはない」である。
診療所の医師の平均年齢は、勤務医より10歳上である。勤務医から心機一転開業したものの現在の新規開業は厳しい。開業のストレスから心と体に変調をきたす人も多い。女性の場合は、これに自身の更年期と子供の思春期、そして親の介護がかかわってくる。一般の女性と同じである。そうでなくてもこの時期を平穏に越えることは難しい。
今回の改定では3つの診療所が(わざわざ3か所までと限定した)輪番制で24時間対応した場合も、「10円!!」加算してくれる制度ができた。
3か所と限定しても、自院以外の診療所にかかりつけの患者さんについては、情報がないので、電話での問い合わせに詳細に話を聞かないといけない。
本来ならクラウド型の電子カルテで、患者情報を共有できればいいのだが、PCの末端は、IT企業のドル箱、有料で数が制限されている。営利企業が医療の公共性を考えてPCの共有を許してくれるとはとても思えない。結局他院かかりつけの患者さんからの問い合わせは新患と同じである。それなら3か所と限定せず、地域で好きなように輪番制を組ませてくれればいい。
いずれにせよ、1人体制だろうが3人輪番制だろうがこの人数で365日24時間対応というのは、過労死を勧めているようなものである。
ため息が出るほど、実態を知らない人たちが制度設計していると思われる。
女医支援と称して、女医にのみ焦点を当てた支援策をしているところが多いが、片手落ちである。女性は自分だけ支援してほしいのではない。パートナーも帰ってくるようにしてほしいのである。相手が帰ってくるなら、その日は代わりに自分が当直に行けることだって出来る。医師になったからには誰だって必要とされるところで人のために働きたいものだ。男性医師の立場でも病院と寝るだけの家の往復のみでは、実は家庭内で阻害されていたり、地域社会への参加が少なくて視野が狭かったりする。家庭での役割も担うことで家庭環境は格段に良くなる。たとえ妻が専業主婦だったとしても、あまりに帰ってこない夫(帰ってきたときは死に体である)と、育児家事すべてについてまかせっきりにされ気持ちが途切れそうになっている人が多い。男性女性に限らず働き方の改善が必要である。
開業医が労働者ではないことを逆手にとって「たった10円」で年120日24時間対応を求める、もしくは「50円」で年365日24時間対応を求める制度を作るというのは制度設計側の常識の欠如としか思えない。医師は一生滅私奉公で働いて当たり前という意識がどこかにあるのだろう。勤務医であっても開業医であっても、特に女性は勤務時間以外にもフルで働いている。朝の戦争状態の時間に、または夜の怒涛の夕食作りの時間にいつでも患者対応を求められれば家庭は崩壊し体も持たない。
結局24時間365日の部分は、人数で対応するしかない。具体的には病院の外来を診療所に移し、病院は入院と緊急、時間外の対応を中心とする。診療所が輪番制で時間外の軽症患者を診る場合は、診療所の母集団を大きくして負担を分かち合う、これ以外にない。
勤務医でも診療所でも基本的な考え方は一緒である。
循環器内科は、内科の中で最も救急が多く、急性心筋梗塞に対するカテーテル治療では、如何に最短時間で詰まった血管を再開通させるかということについて全精力を傾ける。当然、拘束時間も長く緊急呼び出しも多い。その分やりがいも大きく、はまっていく人も多い。もともと外科系は勤務環境が厳しく女性医師が少ない分野であるが、循環器内科のこの分野も既婚、子持ちの女性医師はなかなか参加できない。
どうしたらいいかはわかっている。
主治医感を残したグループ診療性とOn-Offのはっきりした勤務体制、男性女性関係なく働き続けられる制度はこれしかない。実際筆者は勤務医生活の最後に、循環器の仲間6人でこれをやってみた。6人ではまだきつく最低8人は必要と思われたが、それでも、PCI(カテーテル治療)にも夜勤にも復帰できた。特別扱いがないので同僚からは働き方についてクレームがつくことはなく、分刻みで走る生活に変わりはないものの、とても精神的には充実していた。また経営的にも中小規模病院だったが、1年で軌道に乗り黒字化した。
医療崩壊については、長年にわたりあちこちで何度も当たり前の提言がなされている。
但し制度設計する段階になると、いろんなことが消えてしまう。
医師から国会議員になった方に聞いてみると、結局専門家の意見を聞く段階の人選が問題なのだそうだ。そこですべて決まってしまうと。
確かにほとんどの学識経験者は、東大出身のある程度年配の男性と相場が決まっている。日本医師会の役員評議員を見ても、60歳以上の男性でほぼ埋め尽くされている。それが悪いとは言わないが、多様性がないということは、いろんな角度からの意見が出てこないということである。医療界では、医師自身にも24時間働けないのなら仲間として認めないと思っている石(医師)頭が多い。偉い先生方だけで集まって決めても多様性は出てこない。
制度設計をするときは多様な人選をし、あらゆる角度から考え決めて欲しい。子育てをしていなくても人間には想像力というものがある。今回の改定でも、こういう制度設計をしてしまったらどういうことになるのかその想像力が欲しかった。
過重労働で医療崩壊するのは、勤務医でも開業医でも一緒である。
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「どう考えても継続不可能、「50円」で医師が24時間対応する制度」
※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載
武蔵浦和メディカルセンター ただともひろ胃腸科肛門科 多田 智裕
2012年4月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
4月1日より、2年に1度の診療報酬改定が施行されました。今回の改定の中で私が一番驚いたのは、利用率の低迷から効果がほとんど上がっていない「地域医療貢献加算」が「時間外対応加算」と名前を変えて残ったことです。
「時間外対応加算」とは、診療所が常時24時間265日、患者からの電話による問い合わせに対応する体制を取ると「1人当たり5点(50円)」の加算が算定できるという制度です。
財源がないのは十分に分かりますが、たったの「50円」で、24時間365日の電話対応だけでなく、緊急時に原則として自ら対応することまでを求めるのはあまりにもコストを度外視しているのではないでしょうか?
良心的な医療従事者をボランティア労働で疲弊(そして「逃散」)させるだけで、医療崩壊を加速させるだけの制度になってしまう可能性もあるのです。
●ほとんど効果がなかった地域医療貢献加算
2年前の診療報酬改定で、「地域医療貢献加算」として30円が設定されました。この加算を届け出た診療所は、過去に受診した人も含めた全ての患者に24時間365日体制で対応することが求められていました。
具体的には、医師が自分の緊急時の連絡先を院内に掲示するなど、患者に連絡先を周知します。その上で、「緊急の対応が必要と判断された場合には、医学的に必要と思われる対応を行う」ということです。
医療を受ける立場から見ると、30円(3割負担として10円)支払えば、かかりつけの診療所に24時間365日電話で対応してもらえ、さらには緊急時の対応までしてくれる主治医を手に入れられるという、すばらしい制度でした。
しかしながら、診療所にとって1人当たり30円の収入では、1カ月当たり1万8000円(平均的な診療人数である月600人×30円)にしかなりません。これは、診療所の医師がほぼボランティアで電話対応をすることを前提とした制度だったのです。
医師は可能な限り時間外にも対応するにせよ、すぐには携帯に出ることができない場面も多々想定されます。そのため実際の利用率は低迷し、届け出をした診療所が約30%、実際に算定していた診療所は10%台であったと推定されます。
当初は、休日夜間に病院を受診する軽症患者を減少させることが目標でしたが、8割を超える病院でそれは認められませんでした。ビジネスの企画としては「完全に失敗だった」と言い切ってもよいでしょう。
●30円から50円へとアップしても24時間365日対応は持続不可能
この「地域医療貢献加算」は分かりにくい名称でした。そのため、実際に診療報酬明細で算定されていても、それが「24時間365日主治医として対応してもらえる」ことの対価であったと理解していた人はほとんどいなかったと思われます。
今回は名称が「時間外対応加算」に変わり、以下の3パターンの設定となりました。
【時間外対応加算1】=50円・・・常時(24時間365日)、患者からの電話等による問い合わせに応じる。原則として自院で対応する。
【時間外対応加算2】=30円・・・準夜帯(一般的には16時から24時の時間帯)において、患者からの電話等による問い合わせに応じる。原則として自院で対応する。
【時間外対応加算3】=10円・・・地域の医療機関と輪番による連携を行い、当番日の準夜帯において、患者からの電話等による問い合わせに応じる。当番日は原則として自院で対応する。
24時間365日対応の対価は、30円から50円へと大幅にアップしました形になります。でも、医療従事者側からすると、1カ月あたり3万円程度 (おおむね50円×600人)の売り上げにしかなりません。夜間休日の電話番の事務員を雇うことすらできない金額であることに変わりありません。
基本的に、ほぼ無償の労働により維持されることを前提とした制度であることは変わらないでしょう。この制度単独での持続可能性はほぼゼロに近いということがお分かりいただけると思います。
●理念をつぶさない範囲で柔軟に通達を変更するべき
「できる限りの対応をする」という意味で、時間外対応加算の理念そのものは決して間違っているわけではありません。しかしながら現実問題として、 個人のボランティアを前提とした持続不可能な「365日すべて自院で対応せよ」という制度は、過去2年間にはほとんど普及しませんでした。
地域医療貢献加算の惨憺たる失敗から学ぶべき教訓は、持続可能な体制で、「地域で連携して24時間365日対応する」方針に変換すべきである、ということではないでしょうか。
今回の改正で、輪番制での対応にも10円という値段がついたのは前進ですが、これには「連携する医療機関は3件以下とする」条項がついています。
3件(3人)で当番を回すとするならば、3日に1回、夜中までの対応をしなければならないことになり、現実的には継続不可能な勤務体系です。
17時から24時までの患者さんを加療する体制を本当に地域に求めているのであれば、もっと多くの診療所が連携しても何の問題もないはずです。また、病院当直を診療所医師が手伝うという連携でも目標は達せられます。
点数と制度は決まればおしまいではありません。制度を生きたものにするために、「『連携する医療機関は3以下』の条項は外す」「病院との連携も評価する」 など、付随の通達内容を柔軟に変更し、真の夜間休日の地域医療を維持する医療連携体制づくりに近づけていくべきだと思います。
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医学部入学者が女性>男性となっている国では、group practiceが採用され、育児や自分の生活を維持しつつ、キャリアや経験も中断しない工夫がいろいろあります。また紹介したいとおもいます。