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Channel: 感染症診療の原則
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生レバー規制なう 2012年

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その時代や文化、社会、個人で何をよしとし、何をダメと判断するか。
その背景や根拠、語り方の違いを調べるのはとても面白く、老後(ってあるのかな)の楽しみの1つにしています。

「牛の生レバー提供、6月にも禁止 加熱を義務化 厚労省 」朝日新聞 3月30日
というニュースがありました。

高度な先端医療の話ではありませんし、俺は食べないから関係ないね、と言わず、ぜひこの国の個人と国の関係性、自己責任や他人への視線や介入のあり方について考えてみてください。
中学校や小学校でディベートをやってももりあがりそうです。

たとえば、神戸大学の岩田先生がtwitterで
「食の安全はイメージで議論される。レバ刺しの犠牲者はモチでノドを詰まらせた犠牲者よりははるかに少ない。タバコや酒の被害ははるかに大きい。レバ刺し禁止するなら同じ根拠で酒、タバコ、もちを禁止すべきだ。それができない理由を考えるべきだ」
と書かれていましたが、これをもとに、同意、反対の2サイドをつくってその論拠を皆で考えるなんてのもいいかもしれません。


医療関係者は、お正月に高齢者等がのどにモチをつまらせてその対応におわれたというような経験はある、想像しやすいとおもいます。
こんにゃくゼリーって何?な人はぜひ調べてみてください、ノドにつまって窒息死ということが大きく報道され、結果的に行政が規制に動いたという話です。
「こんにゃくゼリーに安全指標決定 「直径1センチ以下」「弾力性を小さく」」産経新聞 2010年12月

生肉は2011年にもユッケで複数の死亡例がでましたし、死亡例の話をなしにしても、生レバーや生肉をたべれば、可能性としてどんな問題がおこるかかということは感染症の勉強をすれば容易に想像ができます。

危ないから規制しろ、という意見から、何を食べるかは個人の自由だという自由論。
何を食べてもいいから、自己責任で感染症になった人には100%自己負担で医療費をしはらわせるべきだ、という自業自得論。
生肉を食べる事は日本の文化なのだから社会であたたかく見守れという文化保護論。

いろいろあります。

まあ、皆で支えている医療のお金のシステムについて、バンジージャンプでひもが切れて事故った人と、生肉たべて食中毒や脳症になった人と、周囲の助言も聞かずタバコを吸い続けている人などにお金を使う事への厳しい意見は実際にあるのですが、医療者としてやりきれないのは、判断できない乳幼児やこどもがこの巻き添えになることですね。
食中毒で重症化しやすいのも子どもや高齢者です。


例えば、法律や権力によって規制をするというレベルはどういったことなのか。
日本で他の食材が法律で禁止されているのかもしらべてみたくなりました。
フグを扱う場合に資格がいるような、生レバー取り扱い資格と組織をつくって天下るんじゃないかという噂はすでにありますが(!)、それはさておき、私たちはあるものを食べ、そして食べません。その判断はどこからきているのか、時間のあるとき考えてみたいなと思う話題のひとつです。
(たいていは育った家庭の規範が採用されています)

死ぬタイミングの決定に本人以外が口出すのはおかしくないか?といった議論をしているオランダ人には理解されない話題かもしれませんし、人に決めてもらう方がラクだわ〜という人たちには歓迎されるのかもしれませんし。


イスラム教の人は豚肉を食べません。これは聖典の教えです。
インドのアーユルベーダでは2時間たった食事には神様がいないからやめたほうがいい、という説明があります。
それはおそらく過去にいろいろな問題がおきて実際そのような考え方をしたほうが合理的に安全に暮らせる仕組みとして採用されたのではないかと思うのですが(あの気候で2時間放置した食事は危ない)、このあたりは人類学/民俗学の手法、権力による規制などは哲学や政治の本も参考になりそうです。


日本社会の特徴として、人がみていないところでは、自分についてはかなり緩い判断をするのに、ルールをおかしたことが明るみになった少数はについては容赦ないバッシングが行われます。
それを避けるためにそういった行為は地下にもぐり、見えにくくなります。食品のような安全管理の必要な案件は地下にもぐると対応不可能になりますので、今回の規制がその後どのうなアウトカムになるのかは注意が必要です。


上記に関連して以前読んだ本。
食と文化の謎 (岩波現代文庫)岩波書店

タブーの謎を解く―食と性の文化学 (ちくま新書)筑摩書房


肉食タブーの世界史 (叢書・ウニベルシタス)法政大学出版局

事象の理解としてはこういった本がよいのですが、その意味についてもっと自分の生活や仕事にひきつけて考えるためには違う視点も必要で下記の2冊もおすすめ。

ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)角川書店

ためらいのリアル医療倫理 〜命の価値は等しいか? (生きる技術!叢書)技術評論社


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