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Channel: 感染症診療の原則
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HPVワクチン導入後の評価(語る時の注意)

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研究デザインでも重要ですが、感染症予防の介入などをしたときに、その効果(positiveなもの、neagtiveなもの)を何で評価するかを決めておく事が重要です。

その病原体の自然史、介入の内容によってかわってきます。
通常は1次、2次のアウトカム というかたちで設定されます。

HPVワクチンは新しいワクチンのために、その効果についてのデータが不足していますが、最終の目標は、HPV16と18型が原因のがん(子宮けいがんや肛門がん等)が減ることであり、またHPV6と11によるコンジローマの新規症例の減少です。

製薬会社はさらに他のHPV型の予防効果もあるのではという推定をしています。
(150種類以上あるHPVのうち、性器等に関連するものは40種類ありますが、このうち数種類は16や18の親戚のようなウイルスである為、それも予防できるのでは?ということです)

ワクチン効果を語る為には、接種をした人としていない人で比較が必要です。

例えば子宮頸がんはゆっくり進行するがんのため、「ワクチンをしたら子宮頸がんを発症する人が減った(10万人あたりで)」を評価するには10年以上かかることが最初からわかっています。

「10万人あたりで」評価するのは、もともと分母となる人口による誤解をしないためです。例えば今の日本は40歳と10歳では人口の総数が異なります。なので例えば、がんになる人が1万人が5千人になった!といっても、ただもともと比較する母集団の数が最初から半分ちがっていただけ、ということがあるので、比較をするときは10万人あたり(別の単位の時もありますが)になおします。

仮説としては「ワクチンに含まれている型のHPV感染予防」をすることによって、結果としてがんになる人が減るということですので、ここでは「代理マーカー(指標)」として、新規のHPV感染者がどれくらい減っているか、がん検診で細胞の異常が把握される症例の動向をみるようにします。これが短期的、中期的にできる努力です。

※この辺り勉強した人のための参考
国立がん研究センターの情報
MINDSの情報
CASP JAPAnの解説


話をもとにもどしまして、、、

国の予防接種プログラムに導入した後にそのデータを正式に発表していたのはオーストラリアでしたが、このたび米国のデータもでてきました。

オーストラリア(ビクトリア州)での評価はおおまかに2つあります。

1)4価HPVワクチンを接種した女性では、子宮がん健診で把握される異常群が減少
2)4 価HPVワクチンを接種した年齢の女性と、同世代の男性での尖圭コンジローマの新規発生率の低下

があります。
1)は代理マーカーではあるものの、有効性が得られているかを考える際に役立ちます。
2)は女性が免疫をつけることで男性も守る事ができる、つまり「集団免疫」の効果があることを意味します。

この高額なワクチンを男性にも導入すべきかどうか、先進国各国が検討をしていますが、今のところ公費で提供するときめたのはアメリカだけです。
次に導入するとしたらカナダやオーストラリアだと言われていますが、先進国ではもともと子宮頸がんの数自体が少なく、健診だけでかなりの数を減らしているので、高額なワクチンを全員に提供すべきかについては医療者からも疑問の声がたくさん出ています。
(他にお金を必要としている事は山のようにあるからです)

このワクチンを必要としているのは健診制度やコンドームの普及が難しい途上国。世界の子宮頸がんの85%は途上国で発生しています。(分母も違いますが・・・)

negativeな反応としては、特にあらためて報告されるような副反応や有害事象のトレンドは把握されていません。

これまでどおり、「接種部位が腫れる」「接種での痛み」がもっとも多く、思春期に多い、フェイント(接種後15分以内の短時間の意識消失)の発生率が他の世代より高い(しかし、他の思春期のワクチンと同じレベル)ということです。

よく「不妊になる」というデマが流れていますが、接種した人たちは妊娠しており、3回接種が終わる前に妊娠した人は全例登録してモニタリングされていますが、胎児の異常やお産の異常、先天性の異常の発生率が接種をした人で高いというようなことは把握されていません。

このワクチンは、ワクチン製造技術の歴史でみても、エポックメイキング的なものであり、本物の病原体をつかわずに予防効果を得るという安全性の究極のようなことを達成したわけです。それはとても喜ばしいことです。
同時に、新しいものなので、人体にどのような影響があるのかは、長期的に観察しないと「全く安全」なのか「今までのワクチンとは違う問題が生じる」のかがわかりません。

今あるデータは2価も4価も臨床試験での接種開始後のものです。まだ十分と言えないのかもしれませんが、今のところ新しい技術をつかったワクチンに特徴的と推察されるような事象は報告されていません。

そして、米国でのデータが公表されはじめていますが(感染症関連の学会のたびに、サンプルは限られているものの評価はでてきます)。

オーストラリアと米国の違いは、オーストラリアでのHPVワクチン接種率は8割をこえているものの、米国は5割に届かずということです(州によって違いますが)。

日本との比較は注意が必要です。接種した人の年齢や接種したワクチンについて考える必要があります。

なぜならば、日本は先に2価のHPVワクチンが導入され、初期に接種をした人は4価を選べませんでした(まもなく4価が認可されることを期待して待っていたひともいましたが)。

2価HPVワクチンを国のワクチンとして導入した先進国はその意味ではイギリス(グラクソスミスクラインの本社がある)と日本だけです。

そのイギリスも2012年の12月から4価ワクチンに切り替えることがきまっています。これは尖圭コンジローマの減少をねらってのものです。
コンジローマで死ぬことはありませんが、なんども再発し、治療が難しく、治療も安くはなく、個人の苦痛も大きい疾患から次世代を守ろうという現場の医療者の声によって変更が決まりました。


3日前にニュースになっていた米国でのデータです。
婦人科系の腫瘍に関する会議で報告されました。

HPV Infection Rate Down After Vaccine Approval Medpage 3/28

ワクチン導入の2007年7月以後、HPV検査をした57,262人の女性でHPV16と18に新たに感染する人が減っているという報告です。
この報告では、この検査を受けた人のワクチン接種状況がわかっていません(オーストラリアは接種記録登録制度があるので把握ができます)。


いずれにしても、今回の調査の枠組みでは下記のような減少の傾向がみられているとのことです。詳細は上のリンク先でお読み下さい。

HPV 6 (P

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