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Channel: 感染症診療の原則
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備え

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実際にあった4つの事例をもとにしたフィクション。

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ある豪華客船がトラブルにあい、沈むという事故がありました。

たくさんの人が乗っていたので考え方や反応もいろいろでした。下記はある方が振り返った当時の様子です。
異変に早く気づいた方です。

「ねえ、水が入ってくる音がしない?」とか「ちょっと傾いてると思うけど」「水面がだんだん近くに見えるんだけど」と周囲に言いました。

「気のせいだよ。君、これは豪華客船だよ」「なんだよ、もりあがっている最中に水さして〜」「食事もどんどん出てくるしステージ順調だし」
と気にとめない様子でした。

(うーん。この人はいつもこんな調子だし、さらにお酒が入って普通の判断じゃないしなあ)

やや慎重な性格の友人に同じことを言ってみました。その人の返事はこうでした。

「まあ、自分たちにはわからなくてもプロは気づくんじゃない?でも船員や船長さんも楽しそうだよ?」

よし、それなら、と、にぎわうフロアに満足げな船長さんに直接言ってみました。
「ありえませんね。昔の船ならいざしらず、これは最新技術の豪華客船です」

(何いってんの?頭おかしいんじゃない?って思われたかなあ・・・被害者意識強すぎ?)

しかし、時間の経過とともに異変がすすんでいるように思いました。

慎重な友人に続き、いつも親切な友人にも同じことを言ってみました。

「船が傾いている?船酔いしたんじゃない?薬あげようか?先に飲んでおく方が 酔わないための効果あったんだけどね。自分だけ飲んで君に声をけなくって悪かったなあ。部屋まで送ろうか?」

不思議なことに、「先に飲まなくてよかった」と感じました。なぜなら異変に気づくのが遅れてしまったかもしれないからです。

さらに状況が進むように思ったので、宴会の最中ももくもくと働く人に「常に異常がないか誰か監視をしてくださっているんですよね?」と聞いてみました。

「昔は、船の数カ所に監視員をおいて交代で見ていました。しかし人件費がかかりますし、人の目には限界があります。この豪華客船には最新型の異常探知システムがあり、何かあればすぐアラームが鳴るようになっています。」

そうですかとつぶやいた表情を気の毒に思ったのか、クレーマーになられても困ると思ったのか、「では確認してみましょう」といい船底へと向かいました。

10分後、その人が青い顔で戻って、船長に何やら告げています。

その青い顔とただごとではない様子に不安がさらに大きくなりました。

さて、ここで、今、飲めや歌えやで楽しい夜を過ごしている人に「船がなんかおかしいのだけど」とマイクを奪っていうべきでしょうか。

いえ。すぐにあきらめました。
アルコールで感覚や精神がマヒしているひとには異常の認知や判断が難しいかもなーと思いましたし、親しい友人にうざったいと思われるのも気が引けました。自己中心的なやつめと笑ってください。

家族を連れ部屋に急いでもどり、甲板に出て、ライフジャケットを家族分確保し、救命ボートのそばにいるようにいいました。

夜の海に飛び込み、遥か彼方に見える島にたどりつけるんだろうか? という不安。
船やツアーを選択した自分のミスだろうか? という自己嫌悪。
ちきしょう、なんだよこの会社、安全管理がこの程度かよ!という怒り。

いや、今すべことはそこじゃない。

前向きに考えることにしよう。
豪華客船が事故となったら国際ニュースになるはずだ。世界中が助けにくるはず。
ふと、子どもを水泳教室と英語教室には通わせておいてよかった、と思いました。
以前、テレビで見た被災者の避難施設は混乱して環境もよくないことが気の毒でした。

しばらくはそういうことになるかもしれないと思い、自分も子どもも予防接種もフルにしておいてよかったなあと思いました。

そして、ライフジャケットがある+ボートに乗れる確率は高いはずだ部屋で毛布をかぶってブルブル震えたり会社をののしるだけよりも、甲板で待つ方がいい。

今やれることはすべてやっている。その上で次を考えよう・・・。

  −−暗闇−−

まぶしいライトで目が覚めたらそこは病室でした。

夢か?助かったのか? 家族はどこだろう?
手足を動かそうとしました。痛みがありますが動きます。・・・重力が感じられ、全身がベッドにしずむのがわかりました。

気持ちが自分の体を軸に、30cm、50cm、1mと外側にむいていくのがわかりました。

看護師がつけっぱなしにしていったTVが豪華客船事故のニュースを伝えています。眼鏡がないので見えませんが音はよく聞こえます。

”○日の未明におきた船の事故は、ほぼ全員助かったものの、船長が我先に逃げようとしたことが非難されてます”

(・・・あの野郎)

”異常を早期探知するアラームがなぜ機能しなかったのかが問題視されています”

そうだ。時分がちが乗ったのは技術先進国の船だった。それでも起きる事故はしかたないか。世の中にゼロリスクはないしな。

”事故調査委員会の報告によると、このスイッチは入っていたものの、ボリュームが標準の3分の1にまで下げられていたとのことです”
”関係者によると、最先端の客船のため、高感度で誤作動なのだろうと誤解した、とのことです”

なに?じゃあ、スゴい近くの人しか気づかないし、他の雑音がたくさんあったら聞こえないじゃないか。問題があるわけないって思ったら警告は活用されないんだな。

なんてことだ。技術の進歩じたいは素晴らしいが、楽や便利に反比例して、人間は劣化や退化するってことか。

・・・そこへ見舞いにきた友人から、ライフジャケットをつけ救命ボートに乗った子どもはとても元気で、一時避難所でも片言の英語を駆使して大人の救援活動を手伝っていて新聞にも載ったんだよ、との話。午後の面会時間にも来るよ、とのこと。

「何かもってきてほしいものがあるか聞いてくれって頼まれたんだけど」

そうか、じゃあ、本棚にある次の本をもってきてもらおうかな。メモしてくれる?

・・・これからのことをじっくり考えなければ。  FIN

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【本棚リスト】

ローマ帝国衰亡史〈1〉五賢帝時代とローマ帝国衰亡の兆し (ちくま学芸文庫)エドワード ギボン筑摩書房


ロ−マはなぜ滅んだか (講談社現代新書)弓削 達講談社

日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)山本 七平角川グループパブリッシング

危機の日本人 (角川oneテーマ21)クリエーター情報なし角川書店

滅亡ではなくリニューアルがいい。

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