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Channel: 感染症診療の原則
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意図を考えながら読む

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2009年の新型インフル騒動のときのメディアがどんなresponseをしたかということは、前回の記事で内田樹さんの批評を紹介しました。
そのあとはどうか?です。
インフル関連の「法案」の報道をみていても首を傾げることの多いこの1週間でした。


ふだん見聞きしいてる情報は「くちコミ」にしても「報道記事」にしても誰かのフィルターが通っています。
意図的に、あるいは無意識にいろいろなバイアスが認知の時点で入ります。
さらに、表現する際にもいろいろなバイアスが動きます。
上司や会社の方針で修正されることもあるかもしれません。

情報を受ける私たちの最初のフィルターは「関心」です。
人は、自分が肯定的に考えていることや関心のあることにより注意を向け、肯定的にとらえる傾向があり、その逆は軽視、無視することがあります。
”確証バイアス”です。
先入観は誰にでもあります。「中立的に」というのはとても難しいことです。

メールニュースやTwitterがよい例ですが、最初から自分が欲しい情報を好んで登録/フォローします。その情報は量的にたくさん入ってくる訳ですが、それ以外の価値観や見方の情報が最初から欠落、不足しています。
そのことを自覚した上で「皆が」「多くの人が」そういっている/いってない というとらえかたをしなくては判断がにぶるわけです。
(どのブログを見るか、もそうですね〜ぼそぼそ)

いま、自分がどのあたりにいるのか

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真実(実態)

1次情報(個人や周囲地域の見聞) あるいは (誰かの意図)※企業の販売戦略 ※研究助成どの誘導

2次情報(記者の関心や問題スキーム)           ※企業のアピールや依頼・・関係があるのかどうか。あるかもね。

3次情報(記者の表現の際の意識無意識+会社や上司の意図) いつのタイミングで出すか、どんな表現にするのか?
                             ※コメンテーターの識者について誰を選ぶのか(人によって見解が違う)
                             ※否定的に書くのか肯定的に閣のか、形式上両論併記か
4次情報(私たちの関心や問題認知の癖)           ※興味のないこと、聞きたくないことはスルー

5次情報(それをふまえた反応/くちこみ/別の識者のコメントなど) ※「誰が」「なんと」言っているのか
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なので自分が見ている情報、今、自分におきたリアクション(嘘じゃね?、なんだよ、ふーん、なるほど、やっぱそうよね!)を冷静に観察する「訓練」というのも発達段階における教育として大事なんだろうと思います。
具体的には、リテラシー関連の教育ですが、日本に今あるのかどうか調べていないのでわかりません。
環境的には、皆で同じように反応するべし的空気が強く、異なる意見をいうと、豊かさとは逆の反応や視線を受けるので、幼少時から危機管理として同調圧力には無意識に従うようなカルチャーを刷り込まれます。

平時はいいのかもしれません。和をもって尊しかもしれません。
しかし、有事の際や、危機に早く気づいて警告するという点ではとても不利です。

平時でも気をつけないといけません。
TwitterでRetweet(RT)するといういい方があります。誰かが書いたものを自分をフォローしている人にも流す作業ですが、そこに書いてある数文字、リンク先、この人がこんなこといっているよ、に意義があると思って(あるいは、こんなこといっている。問題じゃない?という例示なのかはケースバイケース)するのですが、リンク先や誰が言っているかを確認しない場合のリスクは大きいです。

新聞でいうとタイトルだけで情報を判断することです。そんなことは織り込み済みであるかのように、不誠実で危険な新聞記事タイトルもあります。

今朝みつけた新しいワクチンの記事を例示しましょう。


3月12日のTODAY onlineの記事です。タイトルは”HFMD trial vaccine "100 per cent" successful”です。

・・広告かと思いました。

医療(だけでもないですが)で「100%」安全とか確実ってことはないと、常識的に知っていればこんな表現にはならないわけです。
「成功」という言葉はどうでしょう? 通常は肯定的にうけとめられます。いいニュースだなあ・・・でしょうか。
「有効」とか「効果」も科学の領域では何がどうなることで基準値は何かといった定義が必要ですが、日常会話ではもっとアバウトに使われます。

関心なければ、すごーい、ばっちり手足口病のワクチンができたらしいね」という明るい話題。
投資家なら「その会社の株でも買っておくか」となります。


大学で理科系の勉強をした人や感染症の知識がある人が記事を読むと首をかしげることになります。

エンテロウイルス71のワクチンで、2回接種のINV21というワクチンのようです。
「手足口病」は治療法がなく、つらい症状がある、このウイルスのように重症化しやすいものもあるのですが、原因となるウイルスは他にも複数あります。(CA19とか)つまりエンテロウイルス71だけに有効だと「手足口病」を表現しきれません。
(でもEV1のワクチンと書いても投資家や一般の人の目をひきません)

しかも、今回の記事はフェーズ1です。(薬やワクチンが認可されるまでにはフェーズ1から3まで3段階で安全性や有効性が検討されます)

誰が「100%成功っぽい」と言っているのかというと、開発している会社の人です(うちはシンガポールと米国にオフィスがあるんだよ情報つき) 。
フェーズ1ではしかたないですが。

この英語記事の配信元はシンガポールのメディアです。シンガポールも手足口病が定期期に大きな問題になります。

どれくらいのインパクトがあるの?ですが、

「毎年手足口病に影響を受ける子どもは200万人です」  分母が書いていない。実はこれは「世界で」です。
シンガポールの人口じたいが508万人(2010年)規模と知っていればすぐ気づきます。誠実に書くなら「globalには」という一言が必要です。

次に書いてあるのがいきなりシンガポール。「シンガポールでは今年の9週間で5568人が手足口病で報告されています」

分母が気にならない人は「実数」が多いのか少ないのかはかなりフィーリング。
(騙されたくないと思ったら数字に強くなる工夫を)

これは定期的にくる大きな流行にあてはまる数字です。

開発している会社の名前がビッグネームだったらそれだけで株価が動きそうです。
国立○○大学と米国の○○大学が共同開発に関わっている、という記載は市民や関係者の信頼を高める情報として有効かもしれませんね。


手足口病は多くの子どもがつらい思いをしますし、EV71が大流行する年は死亡例や重症例も増えるといわれています。
ワクチンの開発はとても期待するところです。

記事に「嘘」はないのですが、意図的に落とす情報や、表現の方法で、読み手がどんな印象をもつかどうかを考えるのにいい事例だと思いました。



・・・以下は、感染症が好きな人へのオマケで。

新がポイール公衆衛生局の数字を見に行きます。一番下に感染症週報へのリンクがあります。

ProMedで流れていた3月1日のシンガポールの手足口病関連記事。
検索するとみつけることができます。
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"Enterovirus 71 (EV71) and coxsackievirus A16 (CA16) have caused large epidemics of hand, foot and mouth disease (HFMD) worldwide. Since EV71 was 1st identified in 1969 from an infant suffering from encephalitis in California, outbreaks associated with this virus have been documented, including in Australia in 1972, Japan in 1973 and 1978, Bulgaria in 1975 and Hungary in 1978. EV71 infection is occasionally associated with severe complications (such as encephalitis) and deaths in children. Since 1997, EV71-related HFMD epidemics in the Asia-Pacific region have been increasingly reported, including in Sarawak, Malaysia in 1997, 2000, 2003 and 2006; Brunei in 2006; Perth, Australia in 1999 [11]; Taiwan in 1998 and 2000; Japan in 2000 and 2003; and China in 2008.

"In Singapore, HFMD was 1st recognized in an outbreak in June-July 1970, but the etiologic agent was hitherto unknown. CA16 was associated with 2 other outbreaks without serious complications or fatalities, involving 104 individuals between September 1972 and January 1973, and 742 individuals between September and December 1981. EV71 was 1st isolated from an infant with symptoms of HFMD in Singapore in 1984. Between September and October 2000, a large EV71-associated HFMD outbreak occurred in Singapore, resulting in 4 deaths. HFMD became notifiable under the Infectious Diseases Act from 1 Oct 2000. All preschool centers were closed from 1 Oct to 15 Oct 2000. By 28 Oct 2000, a total of 2827 cases were notified. The main pathologic findings in the fatal cases were encephalitis, interstitial pneumonitis, and myocarditis. Thereafter, EV71-associated HFMD epidemics occurred in 2006 and 2008, with the latter being the largest known HFMD outbreak in Singapore.

"HFMD is endemic in Singapore, and more than 50 percent of cases occur in children below 5 years of age. Although the predominant circulating enteroviruses change periodically, the 2 major enteroviruses causing nationwide HFMD epidemics in Singapore have been CA16 and EV71.

"An EV71 serologic survey in Singapore had been conducted on serum samples collected from 856 children aged 12 years or younger at a pediatric clinic at the National University Hospital (NUH) between July 1996 and December 1997. All children who were born at the hospital or brought for routine visits and vaccinations during this 18-month period were included, and they did not exhibit HFMD-related symptoms at the time of sample collection. Since then, there had not been any comprehensive survey to measure the EV71 seroprevalence between or after EV71-associated HFMD epidemics in Singapore.

"Between August 2008 and July 2010, we conducted a seroprevalence survey to estimate the levels of EV71-specific neutralizing antibodies among children and adolescents aged between 1-17 years. This was the largest and 2nd nationally representative survey conducted to ascertain the latest age-specific seroprevalence of EV71 infection in Singapore. We compared our findings with the results of the 1996-1997 study to discern any significant changes over the past decade.

"Our study revealed that EV71 infection is very common among Singapore children and adolescents, with 39 percent infected by the time they are in secondary school (i.e. 13-17 years of age). The previous 1996-1997 study was conducted before the 1st EV71-associated HFMD epidemic occurred in 2000. Our survey commenced in August 2008, several months after an HFMD epidemic started in Singapore around March 2008. This may have contributed in part to the EV71 seroprevalence found in our survey.

"Around the same period in 2008, there were heightened levels of EV71 activity in the Asia-Pacific region, including Malaysia, mainland China, Hong Kong, and Taiwan [28]. In China, EV71-associated epidemics were documented in many provinces from March to August 2008, with about 490 000 HFMD cases, including 126 fatalities reported in 2008."

"Based on our findings, higher EV71-specific neutralizing antibody titers were observed in pre-school children aged 1-6 years than those in the other 2 older age groups, indicating that most of the infections had been acquired during early childhood. Seroprevalence surveys conducted periodically to measure the prevalence of EV71-neutralizing antibody in the pediatric population in Singapore will facilitate a more in-depth understanding of the epidemiologic trends and HFMD epidemics associated with EV71 infections."

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