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Channel: 感染症診療の原則
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はじめてのオフロ

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アイルランドの産婦人科病棟で赤ちゃんの死亡が複数報告され、緑膿菌のアウトブレイクだったというニュースが今年の1月にありました。

Seven babies infected in maternity ward

菌じたいは環境の中にいますが、病気になったり死亡になったりしては困る訳です。
菌は目に見えないので、できることといえば、手洗いはじめ標準的な感染予防策。
感染症では地道にできることをコツコツやるしかありません。
(予防接種もしかり。あるものを大切にするしかない)

産婦人科領域での感染管理は、以前からいろいろ問題が生じているので気になっていることの一つです。
大問題発生!というよりは、なぜ、そういう考え方や反応になるのだろう?ということがあるからです。


「内科や外科ではそうじゃないんだけど・・・ぶつぶつ」
「ここは内科や外科じゃないから」


そんなところで、産婦人科独特の話題がTwitterのTLに流れていました。

沐浴の話です。感染症にも関連するので調べてみました。

まず、直接関係ありませんが、いれるタイミング(いや、関係あるかも?)。

THE EFFECT OF TIMING OF INITIAL BATH ON NEWBORN'S TEMPERATURE
Middle East Journal of Nursing 2009年

ヨルダン正期産の赤ちゃん80人を3つのカテゴリーにわけました。何でわけたかというと、最初のオフロ(沐浴)のタイミングです。

"ealthy full term newborns can be bathed at any time after delivery with no effect on their body temperature."
最初にヘルスアセスメントがあって、特に問題がなければオフロはいつでもダイジョウブという結果。サンプル数が少ないですか?

仮説として、体温がさがらないこと(オフロの時間とか、終わったらよくふいて保温できる)が大事だと想像するのですが、病院によっては、24時間すぎないと洗わない(洗ってもらえない)ところもあるそうです。

「洗わないでよ!」と言われたらそうするかもしれませんが、「きれいにしてください」と言われて「うちでは24時間洗わないルールなんですっ!」と言えるのかどうか。
すぐに洗わないことのメリット、デメリット(赤ちゃんにとって、その他にとって)
24時間後に洗うことのメリット、デメリット(赤ちゃんにとって、その他にとって)
医療上の介入ですから、何らかの健康アウトカムの設定と、根拠が必要になります。
いずれにしても、なぜ24時間なのか。比較研究があるのかもしれませんね。

生まれたての赤ちゃん?

最初 グーグル画像で 「birth」 で検索したら アワワな写真(泡じゃないです)がいっぱいでてきたので、撤退して「胎脂」で検索 こちらの写真がステキです。

赤ちゃんについているのは、血液、胎脂、羊水など。
産道をとって出てくるプロセスを考えてください。出てくる場所も考えてください。もちろん、そこはすでに無菌ではありません。

赤ちゃん、ようこそ!(これからあなたを病原体から守るよ!)

で、洗うか洗わないか、いつ洗うと何がどうよいのか。

同じようなことを考えた人がすでに調べていました。

2010年12月1日に、カナダ政府が次のようなサマリーを発表しました。"Rapid Response Report"です。
いそいで検討、いそいで発表? オフロが何か事件なのかと・・・。
Optimal Timing for Newborn Bathing: Clinical Evidence and Guidelines

新生児をオフロに入れるタイミングについての臨床的なエビデンスやガイドラインの検討、です。
Keyサマリーは、 "Limited evidence is available regarding optimal timing and conditions of the first bath to ensure newborn safety; bathing 60 minutes post-partum may lead to increased risk of hypothermia."
やはりでてくるのはhypothermia 「低体温症」。

米国のDHHSのガイドライン包括サイトには 2007年の Neonatal skin care, second edition. Evidence-based clinical practice guideline.という資料がありました。
誰が出しているか?というと、看護師の団体です。
Association of Women's Health, Obstetric and Neonatal Nurses (AWHONN). Neonatal skin care, second edition. Evidence-based clinical practice guideline. Washington (DC): Association of Women's Health, Obstetric and Neonatal Nurses (AWHONN); 2007. 81 p

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First Bath(一番最初のおふろ)
Give first bath once the neonate has achieved thermal and cardiorespiratory stability, which may take 2-4 hours.
Bathing may be performed at the bedside or in the nursery when the environmental controls outlined above are implemental.
Keep the duration of the bath as short as possible.
Bathe the infant using warm tap water. If desired, use a minimal amount of a mild pH-neutral cleanser to assist with removal of blood and amniotic fluid.
Use of tap water is safe unless there are known concerns about the quality of the local water supply.
Infants with significant breaks in skin integrity may benefit from being bathed in warmed sterile water. If sterile water is used, appropriate methods to warm the water, and confirm the correct temperature is achieved before bathing, are necessary.
Leave vernix on the skin. If contaminated with blood, meconium or other intrauterine debris, gently remove contaminate but do not vigorously scrub to remove all vernix. Refer also to the "Vernix" section below for additional information.
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※2010年 Assessment and care of the late preterm infant. Evidence-based clinical practice guideline.


アウトカムのところからせめていくとすると、 まず健康問題<感染症>発生な赤ちゃんがたくさんいたとします。その赤ちゃん達に特徴的なことってなんだろう?と後ろ向きにみたときに、この子達に共通する因子に「生後1日オフロに入っていない」があったとします。疑わしいなあ、となったら仮説をたてて比較研究などもできるかもしれません。

感染症フリークな皆さんはぜひ「菌名で」考えてください。
もちろん、菌はいるでしょうが、それと赤ちゃんに健康問題がおきるかは別問題です。
24時間後に洗っても、12時間後に洗っても、結果としてどっちでもいいんじゃないか?健康な赤ちゃんなら、ということになりそうな気がするのですが(そうでなければ問題が勃発していると思うので)。

最初の話にもどりますが、だったら「いつ洗うか」は分娩前にご両親に聞けばいいんじゃないか?です。
昔はどうしていたんでしょうね〜。テレビとか漫画では、うううううと陣痛でうめく女性、ふすまの外でうろうろする男性、おサンバさんが「あんたは早くお湯の用意を!」みたいなシーンがあるので、さっさとオフロにいれたんじゃないかと思うのですが。

「産湯」(うぶゆ)です。

他の国はどうしているんでしょうね〜。もちろん、分娩する環境とか、水がきれいか等の問題もありますが。

健康な赤ちゃんにはどうやら問題はなさそうです。では赤ちゃん以外にはどのような影響があるでしょうか?

「血液・体液」はどう扱うのか?というルールがあります。赤ちゃん、おとな、お年寄りで違うルールになるということはありません。乾いた布で拭けばOKでしょうか。

(このような考えの人たちが、本当にまめに手を洗うのかが不安)

標準予防策について質問している方がいました。うちはお産関係は非感染対応をしています・・・って年間900例のお産。
(必要な時だけ対応するのは標準予防策じゃないです。このような病院で全体の感染管理がうまくいくのか疑問です)


最初の沐浴。手袋やエプロンは必要ですか?感染症マイナスならいらない?
逆に考えましょう。手袋やエプロンをしていないスタッフは「きれい」なんでしょうか。
医療者が交差感染の原因にならないよう注意は必要なわけです(基礎教育)。

洗っていない赤ちゃんに使った器具類はアルコール綿でフキフキするのでしょうか。
洗うまで手袋対応でしょうか。

感染の話題もあります。

NICUマター
米国からの発表 NICUのアウトブレイクでコモンなのは、
ドイツからの発表 NICUでおきたアウトブレイクの概観
イタリアのNICUでおきたセラチアのアウトブレイク
米国のICUでおきたサルモネラのアウトブレイク

産婦人科マター
MRSAとか、group A streptococcalとか、健康問題のレベルには差がありますが、時に病棟閉鎖になったりと、感染症の影響はないわけではありません。


最後に。
根拠に忠実ではない人たちは危機に弱い。すぐ混乱します。

例えば、HIV陽性の妊婦さんのお産を受けることになりました。計画的な帝王切開を予定しています。

「プライマリのナースはあなたね。医師と相談して当日までの準備をしておいてちょうだい」と師長に言われたので、カイザー担当の医師のところに行き、感染予防をどうしたらいいか?とききました。
医師は、「HBVと同じでしょ。っていうかスタンダードプリコーションでいいんじゃないの?」

そりゃそうだ。いつもと同じ。いつも・・・・?

その「いつも」が、Evidenceならぬ、Emotional(気分や感情) ベースであることを自覚しており、対応を状況に応じて変えたりスタッフによってばらばらだったりしていることを常々問題だと思っていました。

「自分たちは標準対応をできていない」ことが"HIV"への不安を大きくします。

困ったので、感染看護師のところにいってHIV母子感染予防マニュアルを借りてきました。しかしそれが1990年代初期のものだったので、「洗面器を持参してもらう、その洗面器は退院の際に焼却」※とあり、ますます不安が募りました。

ベビー受けのスタッフが沐浴について質問してきました。「次亜塩素酸をつかって沐浴する」※とあります。
有名な病院のマニュアルのコピーだったので、とりあえずこれに倣おうと思い計画に入れました。

しかし、それを目にしたNICUの医師から「非常識だ。何のために使うのだ。そもそも皮膚に使うものじゃない。自分たちは次亜塩素酸で環境をふくとき手袋をしてるんじゃないか?なぜベビーはその液体の中に入れてもだいじょうぶなのか?消毒ならどの濃度で時間はどれくらいなのだ?」とクレームがつきました。※

※はすべて実話です。

ふだんからルールどおりにやっていれば、安心して産みにきてください、といえます。
自分たちの不足が原因で過剰反応をし、患者さんやご家族に失礼な対応をしたりすることのないよう、地味な感染対策を大切にしましょう。

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