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水痘(水ぼうそう)in ヨーロッパ

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検索等でみつかる英語の医療情報の多くは米国発ものが多いのが実際です。
英語以外の文献も読めればいいなあと思うことはしばしばですが、なかなか手を出せないでいますこの先もきっと難しい。
翻訳機能等を駆使してムニャムニャがんばります(^^;)。

噂情報のサーベイをしている国では、英語以外にも中国語をはじめとする多言語メディアを網羅するようスタッフを確保しているそうです.
(つい最近も中国のSNSで「SARS再来!」という噂が流れましたがすぐに台湾CDCや香港のCDCが中国に問い合わせをしていました→噂は否定されましたが)


英語情報だけの場合でも、米国以外の保健医療情報をあわせて検討すると、多少、客観性が増します。

となりあっていてもカナダと米国は医療の制度も医療者の考え方もちがいますし、
同じ英連邦でも、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドはそれぞれ独自の制度や方針をもっています。

ヨーロッパは、EU27カ国+3カ国それぞれの医療制度や教育制度、経済状況も違うなかで、ある部分はハーモナイゼーションにとりくもうとしています。

水痘(水ぼうそう)ワクチンについて、ヨーロッパの状況が報告されていたので紹介します。
2009年に発表された報告です。
※著者らはWorking Against Varicella in Europe (WAVE)のメンバーであり、このグループはグラクソスミスクライン社から研究資金を得ています。また著者らの多くがワクチンメーカーから研究やコンサルタントの仕事をしていることを公開しています。


Varicella vaccination in Europe – taking the practical approach BMC Med. 2009; 7: 26. ※全文読めます。

水痘はすべての年齢の人が感染しうる顧問なウイルス感染症です。
たいていは自然に治癒しますが、重症化することもあり、かかりつけ医を受診する水痘症例の2−6%に合併症が生じています。
ヨーロッパ全体で観ると水痘による入院は年間10万人あたり1.3-4.5例(16歳以下は10万人あたり12.9〜 28.0 )で、入院の平均は3〜8日、入院症例の約10.1%に後遺症が残ります。

イングランドでは2006-2007年の1年で、9カ月〜9歳までの子どもの水痘症例のうち13例が死亡しています。
スコットランドとウェールズでは、免疫に問題のない児童が12例死亡しています。このうち8例は合併症により24時間以内に死亡しています。5例はgroup A streptococcal による敗血症、Staphylococcus aureusによる敗血症です。その他の死亡の原因は肺炎と心筋炎でした。

水痘による死亡は、子どもより成人のほうがリスクが高く、子どもの25-174倍となっています。健康な人でもおきますが、基礎疾患や免疫に問題があるひとでは死亡リスクが高くなります。

英国では、1年間あたり2000人の妊婦が水痘の影響を受けます。治療をしない場合、肺炎等のリスクが生じ(水痘に感染した妊婦の9%が肺炎になる)、また、妊娠のどの時期であっても胎盤を通じて金sんすることから、新生児の健康に問題が生じることがあります。
妊娠初期の場合は先天性の水痘症候群になることもあります(2%)。
妊婦が出産の4〜2日前に発症すると、新生児水痘になることがあります(治療無しだと20%が死亡)。

また、水痘ウイルスに自然感染することで高齢者や免疫が低下した人では帯状疱疹(特に問題になるのは痛み)の発症につながります。

しかしヨーロッパの多くの国では水痘の疫学情報を把握できておらず、接種の勧奨もばらばらです。

国の予防接種プログラムに導入しているドイツでは、Robert Koch研究所が2004年に推奨し、2006年からはMMRV(麻疹+ムンプス+風疹+水痘)ワクチンが導入されました。これによりかかりつけ医での接種は倍になり、医師が経験する水痘症例は半減しまし、他の年齢でも減少、特に合併症は1−2歳で大きく減りました。

こどもの予防接種プログラムに水痘ワクチンを導入している国では、その効果が得られ、病気のコントロールにつながっています。
また、数学的な検証により、ワクチンは経済的なベネフィットを個人と社会にもたらすことがわかっています。
しかし、このようなエビデンスがあり、WHO(1998年)や専門家が推奨しているにもかかわらず、多くのヨーロッパの国では予防接種プログラムに水痘ワクチンが導入されていません。
導入をしているのはドイツとギリシャだけです。
まったく接種をしないか、ハイリスクな人たちを守るための推奨(基礎疾患がある人や妊婦が近くにいるなど)のみです。


<ヨーロッパにある水痘ワクチン>
単身の水痘ワクチン
Varilrix™( GlaxoSmithKline Biologicals, Rixensart, Belgium )
Varivax™ (Sanofi Pasteur MSD, Lyon, France)

MMRとの混合ワクチン(measles, mumps, rubella, varicella =MMRV)
Priorix-Tetra™( GlaxoSmithKline)
ProQuad™( Sanofi Pasteur MSD, Lyon, France).

それぞれのワクチンの効果は同等と考えられています。


検討事項はいくつかあります。

実際に、導入する VS ハイリスク者のみに勧奨する  VS 一切接種しない というなかでの判断。
1回接種か2回接種か、まったくしないのか、というなかでの判断。
接種するとして何歳でするのが最適かの判断。

「An accelerated schedule」は、1回目と2回目の間をあまりあけずに接種する方法ですが、ドイツの場合、MMRVワクチンは1回目は11–14ヶ月、2回目は15–23 ヶ月で接種をしています。時期については流行状況によって検討するようをWHOも述べています。

なぜヨーロッパで水痘ワクチンの導入がおくれているのか?ですが、まず、深刻な病気であるという認知の不足があります。
報告疾患ではない国もあります。また、合併症のリスクを知らない人もたくさんいます。

このあと導入のメリットのサマリーがあります。リンク先の元の文献でご確認を。



ちなみに、ワクチンをしない国で子どもが水痘になった場合にどうするか?ですが、「自宅で安静」が基本であり、体調が悪くなければ行動範囲拡大OK。・・・というレベルの認識なので抗ウイルス薬はもちろん使わないそうです(もともと健康な子どもには)。

EUでのValtrexの位置づけ
小児には使っていません。
(そこまでするならワクチンするのでしょう)

EU内のValtrexは様々な名前で販売されていますが、GSKの製品とのことです。
( Talavir, Valaciclovir Allen, Valaciclovir Biogaran, Valaciclovir GSK, Valaciclovir Sandoz, Valaciclovir Winthrop, Valavir, Valherpes, Valtrex S, Virval and Zelitrex)


米国はワクチンで予防できるものは予防する、という戦略です。お金があるからできること、でありますが、予防をしないとその先にかかるお金が莫大であるという別の問題もあります。


製薬会社のプロモーションと、公衆衛生や医療経済の専門家のせめぎあいのようなこともあるのかどうか。
直接関係者にきいてみたいとおもいます。

EUの水痘サベイランス報告 2010年
The Vaccine Industry - An Overview(VaccineEthics.Org)

ヨーロッパの予防接種週間は4月21−27日。


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