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Channel: 感染症診療の原則
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外国人にもHIV治療を無料で提供可能に(英国)

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ある患者さんが受診をしました。
咳が続いているのと体重が減っている、発熱が続く、が主訴です。

この場合、ティアニー先生のパールで落としてはいけないのは「がん/結核/HIV」ですね。

この方は年齢は若い外国人で、出身国ではHIVや結核が流行している地域でした。
HIVと結核はまず検査が必要です。

患者さんは英語が通じません。そして日本語は片言です。ニコニコしているのでどの程度わかっているのかがわかりません。
が、患者さんが費用の支払いを心配していることがわかりました。

観光ビザで入国し、そのまま滞在期限が切れ、1次産業で働きながら母国に仕送りをしているということでした。

この方が入院することになる場合、結核ですと公費でカバーされ、また治療は終了時期をむかえます。

しかし、HIV感染症の場合、日本では高額な治療薬を処方することができません。いくらか蓄えがあるようですが、結核と違い一度開始したらずっと継続しないといけないためそう簡単に治療を開始できないことがネッックです。

タイやブラジルのように自国政府が無料/低額で治療を提供している国や、UNAIDS/WHO、ゲイツ財団や国際NGOの支援で治療アクセスのある地域もありますが全ての人に提供されているわけではありません。

さてどうしましょう。です。
とりあえず国公立の拠点病院に紹介、でしょうか。(入院となったら高額な医療費が病院負担になりますので)


他の先進国は、「外国人であっても、滞在資格を問わずHIVの治療は無料」にしているところもあります。
米国などがその例です。
その理由は、治療を提供しなければより高度/高額な医療費が発生する、放っておくと地域に感染拡大するという公衆衛生上の計算や、人道的な視点からです(HIVはこのmovementが歴史的に大きかったため)。

イギリスは「治療目的の入国」が増えることを懸念してこれまで外国人のHIV治療は英国人のように無料化されていませんでしたが、このたびNHSが外国人の留学生、労働者、難民にも無料でHIV治療を提供することを発表しました。

今日のニュースです。
Foreigners to be offered free treatment for HIV on the NHS

保健大臣 Anne Miltonによると、
現在、HIV感染症は治療を開始することにより、他の人への感染力が減少(96%低下)することがわかっており、治療の恩恵は個人だけにとどまらず社会にもあるということが重視されたようです。つまり全体としての利益が大きいことが政策変更の要因となりました。

感染症の専門家たちもこれを歓迎しているとのことです。


薬物使用の針/注射器交換プログラムもそうですが、社会が「なぜ違法なことをしている人たちのために税金を使うんだよ!」というような意見中心になるとこのような政策は実施できません。

延髄反射ではなく、感染症への理解、医療経済的な検討、人権への配慮、など大脳皮質レベルのの活動が求められます・・・。


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