エボラなど、感染症法の一類感染症に対応する医療機関は、第一種感染症指定医療機関とよばれています。
こういった、超まれな感染症の対応の準備をどのようにするのか?は各国違うということはこれまでも紹介してきたところです。
英国やオーストラリアは1-2箇所に集めて集約対応、その代わりに患者搬送システムが整ってます。
米国はこれまで、エボラについてはどの病院でも対応できるという軸でしたが、テキサスでの看護師への2次感染をきっかけに現場看護師や労働団体の批判を受け、また、実際に広範囲に予算や物資を投入する非合理性を回避するために、35のエボラ対応病院を設定しました。
TIME誌 15の州の50の病院をレビューして
大学病院など大きなところが並んでいます。
たくさんある診療科が「あ、うちはみないから〜」というようなことを言わないんだと思います。
日本での過去の議論は感染症学会の学会誌にも掲載されています。
ある程度絞って、対策を整えたほうがいいんじゃない?という考えと、いやいや、各自治体が責任を持ってひとつ病院を決めるべきだという考えがあります。
2000年 わが国の感染症 医療が 目指す方向― 第1種 感染症指定医療機 関の論点 を中心 に―
2000年 感染症新法1類 感染症 の危険度
1987年に当時都立病院だった、荏原病院がラッサ熱の患者さんを受け入れただけで、以後、日本には「うたがい」症例はいても、本当に感染した人はきていませんでした(たぶん)。
今回のエボラでも、国境なき医師団がOut of Controlと6月頃にいっても、国際社会の反応は鈍かった、、という状況があり、その背景には、WHOが予算カットで感染症対策が縮小していたとか、新型インフルで騒ぎすぎたという批判をうけて慎重だったとか、いろいろな話がありますが、日本も当初は「アフリカの話」「たいへんね」だったのが、8月にJICAはじめ日本人の多くが現地からもどってきて、特別急がないなら渡航はやめましょうよ、ということに皆が従っていて、他国に比べての潜在リスクは低い状況がありました。
2013年12月 ギニアでラッサとコレラがはやっているみたい?(西アフリカではエボラは想像しにくかった)
2014年3月〜 たいへん。西アフリカでもエボラだよ〜 国境なき医師団 本気で対応
2014年5月 DCCの加藤先生がWHO専門家として派遣される
このあたりまでは「アフリカの話よね」でした。
2014年6月 リベリアから飛行機でナイジェリアへと発症者が移動 ナイジェリアでのアウトブレイク(その後終息)
このニュースで、「きゃー、もしかして他の国にひろがっちゃうんじゃない?」という不安とそれを煽るメディア記事多数。
2014年7月 シエラレオネの英雄ドクター(ラッサ熱センターでの経験豊富)が感染。ドイツに緊急搬送前に死亡。
2014年8月 米国が感染した米国人2名を本国へ緊急搬送。エモリー大学で救命される
8月7日に厚労省が体制を整えHPに専用ページ準備、8月8日にWHOがPHEIC(公衆衛生上の危機)を宣言
医療関係者にも「PPEをつけても感染しちゃうの?」という不安発生。
空気感染するんじゃね?変異したんじゃね?という煽り増加。
2014年9月 リベリアから米国を訪問した男性がテキサスで発症。入院。
「ほら!先進国にもひろがるじゃない!」 メディア大騒ぎフェーズに入る。
2014年10月 テキサスの病院で看護師が2次感染。
「私たちの感染対策のお手本、CDCのガイダンスを守っても感染しちゃうの。こわいわ」という日本の医療者のショック大。
日本では、なぜかスクリーニングの対象を拡大してしまい、患者や遺体、動物曝露歴のない、微妙な体温の疑い例が3例(報道された分)あり、メディアが人権無視のヒートアップ。
まだよく調べていませんが、解散前の国会でも大臣や厚労省への「対策に不備があるんじゃないか?」という話はけっこうもりあがっていたそうです。
そして、各地で「一類感染症対策をすすめるのだ」という話になっています。
そして、すすめろ、といわれて困っている人が多数います。
実際に対応をしなくてはいけない人たちは、もっと困っています。
対応をしなさい・・・の空気の中、訓練や研修会も開かれていて、その中でいろいろなことが具体的に整理できてよかったのですが、そこで「あれがたりない」「これがたりない」という枝葉の話だけでなく、そもそも各自治体に一ついるのか?ということも問われています。
いや、あってもいいんですが、それぞれが一定の基準以上に準備ができるのか?という問題がよりクリアになってきました。
米国など先進国で受け入れたら救命率はとても上がることは理解できる状況になってきました。
もともと、これまでの疫学データからエボラウイルスに感染しても無症状、軽症の人もいることは把握されており、致死率90%とメディアがうれしそうに語る状況とは違うようだということは多くの人が考え始めているところです。
逆に言うと、日本で症例を受け入れた時に、できることやらない(やれない)とまずいんですよ、となるわけです。
米国での例をもとに、ざっくり4週間ほど患者さんが入院するとして、その間に一類対応の病床で診療/ケアチームをくむとしたら、いったい何人の医師と看護師が必要か?ということが1点。
多くの指定医療機関には、まず感染症専門の医師が1人いるかいないか。3人いたとして4週間まわらないわけです。
院内でやってきた業務(外来、病棟、コンサル)すべて閉じて、感染症患者を周辺の医療機関に対応してもらったとして3人でまわるのか。一番重症な1週間くらいをがんばればなんとかなるのか。
他の診療も同時にしてもいいのか(しない、させない、という医療機関が多そうですが)。
エモリー大学で聞いてきた話では、最初から集中治療、腎臓内科等、クリティカルな時期に病院全体で協力して取り組む体制を早くからとった、ということが重要なように思えました。
第一種感染症指定医療機関では、その指定であることを知らないで働いている職員もいるわけで、突然、協力してくださいといったときに、すぐに「もちろんだ」とチームに加わってもらえるのかということが課題です。
事前に、PPE訓練を一緒にやっているのか?等も問われます。
つまり、「君が責任者だ」と院長から指名されている(されてしまった)必ずしも感染症診療や、感染症対策が専門とはいえないドクターに大きな負担が生じ、「私はみませんよ」「手伝えというなら辞めます」といわれて困っている人たちもいます。
(エイズ対応の初期を思い出しますね・・・・)
ちなみに、エモリーは医師5名、看護師19名で最大2名を受け入れたそうですが、この場合の看護師には日本では医師だけがやるようなこともやれる集中治療や救急のスペシャリストも入っているので、医師の関与は日本よりも少なくてもまわるのかもしれませんが。そもそも病院には他の業務がもともとあるので、それを維持しながらまわせるのか?というのが、一類対応のロジの中にはいってこないといけないことです。
もしも患者がきたら医師や看護師が足りない、ということが明らかな施設は、そのままでいいのかというとそうでもなく、例えば同じ自治体立の病院ならば、一定期間だけ、その病院に看護師を派遣して増員することも可能かもしれません。災害支援などでそういった実績がある医療グループもあります。
電子カルテシステムの違いや、PPEの違いなどは少し訓練をすえrばなんとかなりそうですが。
ただし、実際には課題も多いです。
まず、職務上の感染や曝露事故がおきた場合の対応が不明確です。責任は誰がとるのか、対応の軸はどちらの病院にあるのか。
エボラ対応をした場合、他の業務がしばらくできなくなる、もしかしあら自宅に帰れなくなる、その生活のケアや補償、もともとの所属先の病院の業務における責任など、誰がカバーするのかということまで準備に入ってきます。
それでは、自治体にひとつ、をやめて国内に数カ所、新興感染症対応の拠点をおくとしましょう。
それはどこにおくべきなのか(大きな国際空港のそば等)。
そこに日常的にどれくらいの人や設備投資をして、平時はどのような機能をもたせておくのか。
その病院への移送(搬送)方法は?です。
訓練や研修、会議の中でわかったことのひとつに、自治体によっては救急隊が疑いや確定患者の搬送は手伝わない(自治体と契約しない)といっているところがあり、保健所の人が公用車で搬送するというような恐ろしい、また、患者さんの救命や職員の安全についての最終責任所在の不明なプランが動いているそうです。
しかも、SARS騒動のときに買わされてしまった、ガラスの棺桶というあだ名のプラスチックのアイソレーター(それだけで80kgちかくある)を公用車につんで(あるいは救急車につんで)患者を、自宅や診療所などから一類の病院に移送するそうです。
そのアイソレーターそのものは県内に2−3しかなく、それをとりにいって、そこから移動してという時間の間に患者さんの体調が悪くなったらどうするのか、
逆に元気な人をアイソレーターに入れる意味があるのか、そもそも、アイソレーターの使い方に慣れていない保健所や病院の職員が扱うリスクをどうするのか、遠距離の移動でトイレや気持ち悪くなったらどうするのか、等の質問が訓練の成果としてでてきています。
非現実的、非合理的、不適切な状況を改善する機会を今回のアウトブレイクから得たのだと前向きに考えたいと思います。
本気で患者の救命、2次感染予防を考えてくれる人と早めに議論をはじめたいです。
途上国の、資源が限られたところでがんばっているひとたちをみて、搬送できない、ご遺体は困難と真顔の人たちに、この先の危機管理ができるのか疑問。
こういった、超まれな感染症の対応の準備をどのようにするのか?は各国違うということはこれまでも紹介してきたところです。
英国やオーストラリアは1-2箇所に集めて集約対応、その代わりに患者搬送システムが整ってます。
米国はこれまで、エボラについてはどの病院でも対応できるという軸でしたが、テキサスでの看護師への2次感染をきっかけに現場看護師や労働団体の批判を受け、また、実際に広範囲に予算や物資を投入する非合理性を回避するために、35のエボラ対応病院を設定しました。
TIME誌 15の州の50の病院をレビューして
大学病院など大きなところが並んでいます。
たくさんある診療科が「あ、うちはみないから〜」というようなことを言わないんだと思います。
日本での過去の議論は感染症学会の学会誌にも掲載されています。
ある程度絞って、対策を整えたほうがいいんじゃない?という考えと、いやいや、各自治体が責任を持ってひとつ病院を決めるべきだという考えがあります。
2000年 わが国の感染症 医療が 目指す方向― 第1種 感染症指定医療機 関の論点 を中心 に―
2000年 感染症新法1類 感染症 の危険度
1987年に当時都立病院だった、荏原病院がラッサ熱の患者さんを受け入れただけで、以後、日本には「うたがい」症例はいても、本当に感染した人はきていませんでした(たぶん)。
今回のエボラでも、国境なき医師団がOut of Controlと6月頃にいっても、国際社会の反応は鈍かった、、という状況があり、その背景には、WHOが予算カットで感染症対策が縮小していたとか、新型インフルで騒ぎすぎたという批判をうけて慎重だったとか、いろいろな話がありますが、日本も当初は「アフリカの話」「たいへんね」だったのが、8月にJICAはじめ日本人の多くが現地からもどってきて、特別急がないなら渡航はやめましょうよ、ということに皆が従っていて、他国に比べての潜在リスクは低い状況がありました。
2013年12月 ギニアでラッサとコレラがはやっているみたい?(西アフリカではエボラは想像しにくかった)
2014年3月〜 たいへん。西アフリカでもエボラだよ〜 国境なき医師団 本気で対応
2014年5月 DCCの加藤先生がWHO専門家として派遣される
このあたりまでは「アフリカの話よね」でした。
2014年6月 リベリアから飛行機でナイジェリアへと発症者が移動 ナイジェリアでのアウトブレイク(その後終息)
このニュースで、「きゃー、もしかして他の国にひろがっちゃうんじゃない?」という不安とそれを煽るメディア記事多数。
2014年7月 シエラレオネの英雄ドクター(ラッサ熱センターでの経験豊富)が感染。ドイツに緊急搬送前に死亡。
2014年8月 米国が感染した米国人2名を本国へ緊急搬送。エモリー大学で救命される
8月7日に厚労省が体制を整えHPに専用ページ準備、8月8日にWHOがPHEIC(公衆衛生上の危機)を宣言
医療関係者にも「PPEをつけても感染しちゃうの?」という不安発生。
空気感染するんじゃね?変異したんじゃね?という煽り増加。
2014年9月 リベリアから米国を訪問した男性がテキサスで発症。入院。
「ほら!先進国にもひろがるじゃない!」 メディア大騒ぎフェーズに入る。
2014年10月 テキサスの病院で看護師が2次感染。
「私たちの感染対策のお手本、CDCのガイダンスを守っても感染しちゃうの。こわいわ」という日本の医療者のショック大。
日本では、なぜかスクリーニングの対象を拡大してしまい、患者や遺体、動物曝露歴のない、微妙な体温の疑い例が3例(報道された分)あり、メディアが人権無視のヒートアップ。
まだよく調べていませんが、解散前の国会でも大臣や厚労省への「対策に不備があるんじゃないか?」という話はけっこうもりあがっていたそうです。
そして、各地で「一類感染症対策をすすめるのだ」という話になっています。
そして、すすめろ、といわれて困っている人が多数います。
実際に対応をしなくてはいけない人たちは、もっと困っています。
対応をしなさい・・・の空気の中、訓練や研修会も開かれていて、その中でいろいろなことが具体的に整理できてよかったのですが、そこで「あれがたりない」「これがたりない」という枝葉の話だけでなく、そもそも各自治体に一ついるのか?ということも問われています。
いや、あってもいいんですが、それぞれが一定の基準以上に準備ができるのか?という問題がよりクリアになってきました。
米国など先進国で受け入れたら救命率はとても上がることは理解できる状況になってきました。
もともと、これまでの疫学データからエボラウイルスに感染しても無症状、軽症の人もいることは把握されており、致死率90%とメディアがうれしそうに語る状況とは違うようだということは多くの人が考え始めているところです。
逆に言うと、日本で症例を受け入れた時に、できることやらない(やれない)とまずいんですよ、となるわけです。
米国での例をもとに、ざっくり4週間ほど患者さんが入院するとして、その間に一類対応の病床で診療/ケアチームをくむとしたら、いったい何人の医師と看護師が必要か?ということが1点。
多くの指定医療機関には、まず感染症専門の医師が1人いるかいないか。3人いたとして4週間まわらないわけです。
院内でやってきた業務(外来、病棟、コンサル)すべて閉じて、感染症患者を周辺の医療機関に対応してもらったとして3人でまわるのか。一番重症な1週間くらいをがんばればなんとかなるのか。
他の診療も同時にしてもいいのか(しない、させない、という医療機関が多そうですが)。
エモリー大学で聞いてきた話では、最初から集中治療、腎臓内科等、クリティカルな時期に病院全体で協力して取り組む体制を早くからとった、ということが重要なように思えました。
第一種感染症指定医療機関では、その指定であることを知らないで働いている職員もいるわけで、突然、協力してくださいといったときに、すぐに「もちろんだ」とチームに加わってもらえるのかということが課題です。
事前に、PPE訓練を一緒にやっているのか?等も問われます。
つまり、「君が責任者だ」と院長から指名されている(されてしまった)必ずしも感染症診療や、感染症対策が専門とはいえないドクターに大きな負担が生じ、「私はみませんよ」「手伝えというなら辞めます」といわれて困っている人たちもいます。
(エイズ対応の初期を思い出しますね・・・・)
ちなみに、エモリーは医師5名、看護師19名で最大2名を受け入れたそうですが、この場合の看護師には日本では医師だけがやるようなこともやれる集中治療や救急のスペシャリストも入っているので、医師の関与は日本よりも少なくてもまわるのかもしれませんが。そもそも病院には他の業務がもともとあるので、それを維持しながらまわせるのか?というのが、一類対応のロジの中にはいってこないといけないことです。
もしも患者がきたら医師や看護師が足りない、ということが明らかな施設は、そのままでいいのかというとそうでもなく、例えば同じ自治体立の病院ならば、一定期間だけ、その病院に看護師を派遣して増員することも可能かもしれません。災害支援などでそういった実績がある医療グループもあります。
電子カルテシステムの違いや、PPEの違いなどは少し訓練をすえrばなんとかなりそうですが。
ただし、実際には課題も多いです。
まず、職務上の感染や曝露事故がおきた場合の対応が不明確です。責任は誰がとるのか、対応の軸はどちらの病院にあるのか。
エボラ対応をした場合、他の業務がしばらくできなくなる、もしかしあら自宅に帰れなくなる、その生活のケアや補償、もともとの所属先の病院の業務における責任など、誰がカバーするのかということまで準備に入ってきます。
それでは、自治体にひとつ、をやめて国内に数カ所、新興感染症対応の拠点をおくとしましょう。
それはどこにおくべきなのか(大きな国際空港のそば等)。
そこに日常的にどれくらいの人や設備投資をして、平時はどのような機能をもたせておくのか。
その病院への移送(搬送)方法は?です。
訓練や研修、会議の中でわかったことのひとつに、自治体によっては救急隊が疑いや確定患者の搬送は手伝わない(自治体と契約しない)といっているところがあり、保健所の人が公用車で搬送するというような恐ろしい、また、患者さんの救命や職員の安全についての最終責任所在の不明なプランが動いているそうです。
しかも、SARS騒動のときに買わされてしまった、ガラスの棺桶というあだ名のプラスチックのアイソレーター(それだけで80kgちかくある)を公用車につんで(あるいは救急車につんで)患者を、自宅や診療所などから一類の病院に移送するそうです。
そのアイソレーターそのものは県内に2−3しかなく、それをとりにいって、そこから移動してという時間の間に患者さんの体調が悪くなったらどうするのか、
逆に元気な人をアイソレーターに入れる意味があるのか、そもそも、アイソレーターの使い方に慣れていない保健所や病院の職員が扱うリスクをどうするのか、遠距離の移動でトイレや気持ち悪くなったらどうするのか、等の質問が訓練の成果としてでてきています。
非現実的、非合理的、不適切な状況を改善する機会を今回のアウトブレイクから得たのだと前向きに考えたいと思います。
本気で患者の救命、2次感染予防を考えてくれる人と早めに議論をはじめたいです。
途上国の、資源が限られたところでがんばっているひとたちをみて、搬送できない、ご遺体は困難と真顔の人たちに、この先の危機管理ができるのか疑問。