「ある医師がどれほど感染症に対する造詣を持っているか知りたいならば彼が、どれほど黄色ブドウ球菌を恐れているかをチェックしなさい」とは編集長が多くの先達に言われ続けてきた事です。この教えが再び真実である事を教える論文がNEJM(N Engl J Med 2014;370:1524-31.)に出ました。微生物学的に編集長の能力を超えた深い論文ですが概要は以下のとおりです。
通常VRSAは比較的おとなしく臨床的には皮膚・軟部組織感染症を生じるもの、そしてどちらかというとHealth care系列・・というのが通例でした。しかし、
今回、ブラジルで黄色ブドウ球菌が血流感染症Blood stream infection(BSI)を起こしながら最初はVSSA(論文ではBR-VSSAという名前)であったのに、VCMなどのGleicopeptideによる治療中VRSA(BR-VRSAという名前)となったのです。vanAによるVCM耐性で患者の直腸に居た腸球菌がDonorであったらしい。しかもBR-VRSAはBR-VSSAに比較して増殖速度は変わりませんでした。
更に悪い事にはvanA遺伝子を貰ったのはHealth care系列の黄色ブドウ球菌ではなく市中系列の黄色ブドウ球菌、すなわちCA-MRSA系列であったという事らしいです。それもPanton–Valentine leukocidin (PVL)という猛毒を作る遺伝子を持たない新しいタイプのCA-MRSAでした。
Health care系列でなくてCA-MRSA系列がvanAを持ちVRSAになる事の意味。その最大の脅威はCA-MRSAの増殖能力です。他の株を瞬時に置き換えて地域に蔓延する能力がCA-MRSA(特にUS300系列)にあります。
記述の事を全て足し算しますと・・・
1)市中に広がる能力の高いCA-MRSA系列にvanAが入りVRSAになった。
2)このVRSAは皮膚/軟部組織といったおとなしい感染症ではなくて血流感染症を生じる能力を持っている。
3)市中にVRSAが広がり、広範囲に血流感染を起こすような事態になる可能性が否定できない。