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質問から:HIV疫学データの解釈

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ご質問をいただいたので、関連で記追加事です。

HIV/AIDSのデータをどう解釈するか、、、です。

単純集計でみると、都道府県である時期にこれくらい届け出がありました、、の総数になります。
総数で見ると元になる人口にひっぱられます。
東京と大阪でもちがいますし、東京と青木編集長が大学時代をすごした青森ではさらにちがいます。

さらにリスク人口がどれくらいいるかというと、HIVにしても昨年大流行した風疹にしても、
30代前後の働き盛り男性がいるところでの報告が多くなり、自治体ごとを単純には比較できないことがわかります。

よくあるのは、人口1万人あたり、10万人あたり、100万人あたり、という単位でどれくらいいるかを見る方法です。

人口のデータは自治体のホームページなどにもありますが、総務省統計局からエクセルデータをひっぱれるので、そこでみるのがよいのではないかとおもいます。

さて。

分母に入れる人口ですが、0歳から100歳以上いるなかで、どの数字を入れるのがよいでしょうか。
これは何を評価したいかによって変わっていますので、自分で分母と分子で何をみたいのかを先に整理しておく必要があります。

「日本人で」というと0歳から100歳以上がたしかにはいりますが、HIVの流行トレンドをみたいので、一定の年齢にフォーカスをしてみるという方法が妥当だと思います。

たとえば20歳〜59歳にしたとします。
これでいいのか?でありますが、報告される症例(分子)の男性が98%の感染症ですので、女性を分母にいれると過小評価になってしまいます。
ですので、男性と女性はわけてみたほうがよい、ということになります。

昨年9月に出た、IASR 2012年 HIV/AIDSでは、"1985〜2012年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)は、HIV感染者14,706件(男性12,518件、女性 2,188件)、 AIDS患者 6,719件(男性 6,022件、女性 697件)で、2012年10月1日人口10万対累積HIV感染者は11.507、同AIDS患者は 5.258となった。"

となっています。

厚労省の研究班報告書「感染症発生動向調査からみた MSM における HIV/AIDS を含む性感染症の発生動向」の2ページ

"日本国籍 MSM における出生年代別 HIV/AIDS の動向分析
日本国籍 MSM における感染拡大の状況を把握するため、出生年代別に HIV 感染者および AIDS 患者の動向を明らかにすることを目的とした。分析対象を 20-59 歳の MSM とし、出生年代別の動 向について MSM 推定人口 10 万対の HIV 罹患率および AIDS 罹患率を明らかにした。MSM 人口は本 研究班で実施されたインターネットを用いた質問紙調査(n=39,766)によって信頼性の高い MSM 割合(4.6%、95%信頼区間 4.4%-4.8%)を求めて推定した。また HIV 感染報告数および AIDS 患者報告数は感染症発生動向調査から 2000 年から 2011 年までの動向について出生年代別に再集 計を行った。
AIDS 罹患率の推移をみると 1950 年代生まれ以外のいずれの年代でも増加傾向であるが、増加 開始の時期は 1960 年代生まれでは 2002 年以降、1970 年代生まれでは 2003 年以降、1980 年代は 2006 年以降であった。HIV 罹患率に関して MSM 推定人口 10 万対で最も高かったのは 1950 年代生 まれ 17.7(2008 年)、1960 年代生まれ 42.9(2007 年)、1970 年代生まれ 66.3(2007 年)、1980 年代 生まれ 82.7(2011 年)であり、出生年代層が若い群の方がより高く、検査行動が促進され早期発見 につながっていると考えられるものの、予防行動がとられておらず MSM における感染拡大が示唆 される。また感染拡大の著しさを把握するために直線回帰を用いて傾き係数を算出した。HIV 罹 患率は 1950 年代生まれ 0.9807、1960 年代生まれ 3.179、1970 年代生まれ 5.7449、1980 年代生ま れ 7.5651 であり、AIDS 罹患率は 1950 年代生まれ 0.4243、1960 年代生まれ 1.0959、1970 年代生 まれ 1.708 であり、1980 年代生まれ 1.3436 であった。係数は HIV 罹患率では出生年代が若くな るほど大きく、1980 年代生まれでの感染拡大が示唆された。AIDS 罹患率では 1970 年代生まれが 最も大きい係数であった。"


「日本の MSM(Men who have sex with men)における 地域ブロック別 HIV 感染者および AIDS 患者の動向とゲイ向け商業施設利用に関する研究」

"ブロック別 MSM の HIV 及び AIDS 有病率と 罹患率
平成 22 年度国勢調査集計結果を用いて MSM の人口を推定した。全国の 20~59 歳における 男性人口は 32,654,505 人であり,本研究にお いて算出した都道府県別の MSM 割合を基に MSM 人口を計算した結果を表 2 に示した。わ が国の成人男性における MSM 人口は 15,021,072 人 ( 95 % C.I.;1,436,798 人 ~ 1,567,416 人)と推定された。"

ここに地理情報を加えてみたのがこちら。

"HIV 有病率は東京都が最も高く 1,438.75 で、 次いで近畿 555.56、東海 384.83、九州 258.80 であった。AIDS 有病率は東京都が最も高く 329.67 で、次いで東海 161.16、近畿 139.36、 九州 97.36、東京都を除く関東・甲信越が 90.68 であった"

自治体別のデータはそれぞれのところで検討してみるとさらに関心が深まるかもしれませんが・・・
平成26年3月の会議での沖縄県の資料(公開)のスライド4枚目に情報があります。

報告数と人口あたりで自治体名でのランキングがかわってくることがわかる表です。

ところで、日本のHIV感染症でもマイノリティである女性の情報は何でみるのがよいでしょうか。
一般人口では、英国などでは住民検診の血液から個人情報を落として評価したりしていますがこれは大変お金がかかるので数年おきになっているそうです。

献血で偶然分かる人の数字はどうでしょうか。健康な人を代表するでしょうか。

実は日本の女性で一番HIV検査を受けているの代表は妊婦さんだとおもいます。
妊婦さんはコンドームを使わないセックスをした女性のサンプルといえます。
(過去の予防行動やパートナー数、STDの既往はわかりませんが)

海外ではリスクカテゴリーに性産業従事者がありますが、労働組合のあるような国と日本では状況が異なり、生産業従事の定義も難しいのでデータがありません。
が、プロの女性は定期検診を受けていたりもしますので、特定の地域の婦人科の先生方がそのデータを性感染症学会などで紹介されています。

海外でも妊婦さんが定期検診にくるクリニックと、人工妊娠中絶手術を主たる医療サービスとしているクリニックでのHIV陽性率を比較すると後者で高い、という発表があります。その分母によって感染率は異なってくることは理解できる例ではないかとおもいます。


より正確な数字を見たいな,と思う訳ですが、その分子の精度をにぎっているのは臨床からの報告率です。
どの感染症は報告をするべきなのか、週ごとに発表される地域の数字に関心をもつ医療者が増えるかどうかにかかってきます。

また、感染症によっては、潜伏期間が短かったり、逆に無症候期間が長く検査アクセスがよくなかったり、検査の感度や特異度などに課題があるので、見ている数字の背景や限界を知るのも感染症を勉強する時の一テーマでありますね。

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