国によってHPVワクチンがニュースになったり、まったくといっていいほど関心をもたれなかったりと様々です。が、いずれにしても最初に承認販売された国での経験が8年、その手前に数年間の臨床試験のデータがあるので、ざっくり10年以上の経験があるワクチンなので、「さがせば」いろいろな情報が見つかります。
情報については、1次ソースがどこ(誰)か、そのあと定期的に情報更新をしているところか、ということが重要になります。
WHOの情報は、即時性はないのですが(確認作業に時間をかけるので)、逆に言うと、かなりいろいろなところで確認をして(裏をとる必要があります)から発表されるのと、特定の個人や国だけでなく、横断的に他の地域や対象でどうか、特定の領域だけでなく、他の専門分野の意見も聞いてなどいろいろなプロセスを出てくる、というのが特徴です。
いっぽう、SNSなど即時性は高いという利点はありますが、匿名だったり情報検証が難しい(そもそも1次情報がどこかわからない:ソースの明記がない、コピペコピペ記事の伝聞、噂)という課題があります。
Twitterなどをみていると、地方自治体の議会の議員では、上記の公的な情報ではなく(あるいは、こうした情報をあわせて確認することなく)SNSや匿名ブログを引用して政策的な発言をしている人たちもいます。
参考にしてもいいですが、根拠にしてしまうあたり、他の政策の判断もだいじょうぶなのかと不安になります・・・。
そのWHOについては予防接種部門があり、日々、各国の情報を集めています。有効性、安全性含めて定期的に会議を開き、(時間はかかりますが)情報は公開されています。
そういった情報を見たい場合は、SAGEのページを確認しておくとよいとおもいます。日本からも参加/情報提供をしています。
Strategic Advisory Group of Experts (SAGE) on Immunization
Global Vaccine Safety Initiative(GVSI)
定期的に会議が開催され、資料等も公開されています。
こちらはWHO以外の関連団体も参加して運営されているサイト。
ICO (Institut Català d'Oncologia) Information Centre on HPV and Cancer
常に情報をモニタリングしている人がおり、右上の情報の更新日が明記されています。
このほかに、WHOが定期的に発行している媒体にも、ときどきワクチンやVPDのことが掲載されます。HTMLとPDFで公開され、誰でも読むことができます(英語ですが)。最近はKindle仕様のデータも掲載されています。
余談ですが、、、日本のPDFだけボンボンのせるお役所のホームページはコミュニケーションとして十分じゃない。このような工夫がほしいですね。
WHOの資料でワクチン関連が掲載されるものは複数ありますが、2月14日のWERにも記事がありました。
http://www.who.int/wer/2014/wer8907/en/
月1回発行されるWHO Bulletin の最新号は2014年2月号。
http://www.who.int/bulletin/volumes/92/2/en/
ワクチンとコミュニケーション関連の記事も掲載されています。
http://www.who.int/bulletin/volumes/92/2/14-030214.pdf?ua=1
“Underlying issues are key to dispelling vaccine doubts” Why is the same vaccine accepted in one part of the world and rejected in another?
同じワクチンが、あるところでは受け入れられ、あるところで拒否される件について、コミュニケーションの視点からHeidi Larson博士が解説。
勉強になりました。
ざっくりコミュニケーションとは、目の前にいる人が知り合いという場合の日常会話から、不特定多数相手に発信するお役所的な通知のようなものから、誰かに何かを伝えるという意図で行われるものまで幅広いです。
インターネット上では、意図的に根拠の無い情報や未確認情報であると知りながらそのまま拡散する悪意のある場合と、”よく知らないが“”詳しくないけど”という前置きのもとに「〜らしい」「〜みたい」「〜ようだ」という噂を広げてしまう場合と、それを確信して布教のように繰り返し同じことをブツブツ拡散する(botアカウント)場合とあります。
問題はそれが人の健康や命に関わるような情報の場合です。
危機管理の判断責任は一次的には個人にあるので、どんな情報でも信じる人の自己責任と説明する人もいますが、コミュニケーションは相手にある意図をもって関わるものなので、そこにある情報の受け手への配慮を書くような情報を流すこと自体が問われます。
コミュニケーションにおける誠意とは、情報の確かさを検証し、間違っていたり新しい情報が出たら修正して共有しようという努力ではないかと思います。
その意味で、これまでにおこなわれてきたワクチン・予防接種関連での改善の動きをみてみましょう。
メディアは事件のように問題を煽る記事は書きますが、こうした地道な努力は伝えてこなかった、あるいはメディアへの専門家側からのアナウンスが不足している状況があります。
過去におきたワクチンによる健康リスクの例
• 1950-1980年代: 全細胞使用のDTPワクチン
• 1976: インフルエンザワクチンによるギランバレー症候群
• 1980年代: 経口ポリオワクチンによる麻痺
• 1990年代:ロタウイルスワクチンによる腸重積
•
これらは、中止、変更、改良、別製品への置き換えがおこなわれました。
臨床試験では把握できなかった有害事象や頻度、有効性の問題が市販後にシグキャッチされた場合、調査や検討が行われ、改善がおこなわれています。
不活化麻疹ワクチンの中止
より安全なリコンビナントB型肝炎ワクチンへの切り替え
DTPから培養型の DTaPへの切り替え
経口ポリオワクチン(生)から不活化ポリオワクチンへの切り替え
初代のロタワクチンの回収(現在は別の製品が普及)
以前は安定剤として使われていたゼラチンにアレルギー反応が出ることが把握され、その後、技術改良により除去されたワクチンになっています。チメロサールに代表されるような防腐剤は食べ物や医薬品への微生物汚染を防ぎ安全を維持するために必要ですが、別の物質に変更したり減量したりという改善が行われています。
たとえば、
DPT(ジフテリア、百日咳、破傷風)ワクチン
1997 ゼラチン除去製品の供給開始
2003 チメロサール除去製品の供給開始
2000~特定のウシ等由来物を不使用
MMRワクチン
1996 ゼラチン除去製品の供給開始
2000 ヒト血清アルブミン除去製品の供給開
2000~ 特定のウシ等由来物を不使用
参考
■ゼラチンアレルギーについて(日本ゼラチン工業組合)
■チメロサールとワクチンについて(横浜市衛生研究所)
※エチル水銀とメチル水銀の違いを知らない人多いです
■医薬品や食品、添加物、化学物質については内閣府 食品安全委員会
■「アレルギー疾患と予防接種」小児感染免疫(2008年) 第 38 回日本小児感染症学会シンポジウム
ところで、「専門家」や「専門機関」が絶対に正しいかというとそうではありません。
「医師が語った」「有名な雑誌に掲載された」内容で大きな混乱が起きた事例を予防接種の世界で経験しています。
2014年2月4日 産經新聞 家庭医が教える病気の話 「捏造論文利用するワクチン反対派」
EBMでも大変ご高名な名郷先生の連載記事です。
1998年にある医師の論文がLancetに掲載されました。
(職場の医師がLancetに掲載、、となったら「おお、すごい」で、お祝いにゴハンでもたべにいこうよとなります)
して、その中身ですが、、、
「12人の自閉症患者を調査したところ、8人がこの3種混合ワクチンを受けているという結果から導き出した結論」でした。
うーん。12人? え?12人?
と思った人たちはいると思いますが、この手の話が好きなのはメディアです。大きく扱われ、結果的に接種率低下がおきました。
「2002年に医学雑誌『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に掲載された論文で、ワクチン接種者44万人と非接種者9万人以上を比較したところ、自閉症の発症率はむしろワクチン接種者で低く、統計学的な差がないことが示されています。数十万人規模で比較対照を持つ研究と、12人で比較対照を持たない研究のどちらが信用に足るかは論じるまでもないでしょう。」
研究について学んだことがある人ならば特に疑問はないでしょう。
(しかし、統計学的って何?な場合にはこの文章自体がわからないかもしれません)
論文は撤回されましたし、The media's MMR shameという反省もあるのですが、その爪痕はいまだ傷として社会に残っています。特に英国では度重なる麻疹のアウトブレイクの対応に追われています。MMR接種機会を逃した人たちが成長した後に発症しています。
名郷先生の指摘は続きます。
「しかし、この捏造論文はいまだにワクチン反対グループによって繰り返し取り上げられ、一定の影響を持ち続けています。「ワクチンに含まれる水銀が自閉症を引き起こす」とのデマもこの論文から始まっており、このデマを信じてワクチンに対して不安を抱く人がいるのはとても残念なことです。
「ワクチンで自閉症になる」という論文は、医師免許を剥奪された著者による捏造論文だということを改めて明確に指摘しておきたいと思います。」
専門家にとっては、あたりまえ、今さら、なことでも繰り返し伝えて行かないといけない話題のひとつとなっています。
なんだ、医師でも専門雑誌でもだめじゃん・・・と思われるかもしれませんが、実名で社会的評価を背負って発言するのですから、個人や組織として間違ったことを言わないようにするという一定のブレーキ機能は期待できます。
では、どの人・活動に信頼をおくのか。
直感という人もいますし、知り合いだから、個人の好みと言う人もいるかもしれませんが、誰でもできる方法としては、「他のことでどのような発言・活動をしているのか」という周辺情報をあたることをお勧めします。
社会的に疑問をもたれるようなコミュニケーションをしていないか?とか、あるものを否定して、その次の段階には「○○がいいですよ」と特定の商品を勧めたりする”アンチビジネス”的なことが行われていないか?等です。
わかりやすいので、あるビジネスについて紹介したいとおもいます。
女性が人工妊娠中絶をした、流産・死産をしたときにかかえる罪悪感等につけこむ脅し商売です。
「あなたやあなたの周辺に、赤ちゃんが死んでしまった人はいませんか?」
※中高年女性だと6人に1人、人工妊娠中絶経験があります
「今、肩こりや腰の痛み、頭痛等に悩んだり、人とうまくいってなかったりしませんか?最近周辺でお葬式がありませんでしたか?」
※若い人ならともかく、特定の年齢ならあまり珍しくない症状を言う
※その年齢で体験されやすいnegativeな事象をいう
そして「供養のために○○しませんか(買いませんか)」です。
ある事象と時を同じくしておきた経験は、因果関係はなくても関連性があるように感じてしまうことがあります。
「過去に○○してませんか?」もよくあります。
小さい頃、予防接種をしたんじゃないですか? もしや○○入りの歯磨きをつかってませんでしたか? ○○なシャンプーをつかってたりしませんか? 台所で使っている○○は白くないですか? なるべく多くの人が関係してそうなことを言えば該当者は増えます。
そして、症状がある人は「そうかもしれない」と思いやすい状況におかれています。
(同じ経験をしていて、しかし、その人と同じ症状がない人が大勢いることは、つらくて困って心に余裕のないときは思いうかばないものです。上のニューイングランドジャーナルのデータなどで理解すべきはこういった点ですが)
困っている人に、支援を装って商売や宗教めいたものはヒタヒタと近寄ってきます。
判断に迷ったら、信頼できる第三者にセカンドオピニオンをもらいましょう。
困った人がなぜ、周囲から見ると不思議な情報や理屈にひっぱられていくかを考えて行くことも、何らかの困ったを抱えている人を相手に仕事をする援助職、パブリックコミュニケーションの担当者は学ぶ機会があるといいのでは?と思います。
科学的正しさ、だけでは足りないのだとしたら、自分(たち)には何が必要なのか。
2011年医学界新聞 続 アメリカ医療の光と影 アウトブレイク(17)李 啓充
■医学界からの「追放」,自閉症児の親たちの「英雄視」
■「科学的証拠」よりも「ねつ造」を信ずる背景
■社会の「予防接種不信」
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02939_06
リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理早川書房
偽科学、疑似科学、エセ科学、、というものの存在とは別に、「なぜ信じるのか」(騙されるのか、ひっぱられるのか、魅惑的に感じるのか)というあたりが重要で、古典的になりましたが下記の本が事例も多く参考になりました。
人はなぜエセ科学に騙されるのか〈上〉 (新潮文庫)新潮社
情報については、1次ソースがどこ(誰)か、そのあと定期的に情報更新をしているところか、ということが重要になります。
WHOの情報は、即時性はないのですが(確認作業に時間をかけるので)、逆に言うと、かなりいろいろなところで確認をして(裏をとる必要があります)から発表されるのと、特定の個人や国だけでなく、横断的に他の地域や対象でどうか、特定の領域だけでなく、他の専門分野の意見も聞いてなどいろいろなプロセスを出てくる、というのが特徴です。
いっぽう、SNSなど即時性は高いという利点はありますが、匿名だったり情報検証が難しい(そもそも1次情報がどこかわからない:ソースの明記がない、コピペコピペ記事の伝聞、噂)という課題があります。
Twitterなどをみていると、地方自治体の議会の議員では、上記の公的な情報ではなく(あるいは、こうした情報をあわせて確認することなく)SNSや匿名ブログを引用して政策的な発言をしている人たちもいます。
参考にしてもいいですが、根拠にしてしまうあたり、他の政策の判断もだいじょうぶなのかと不安になります・・・。
そのWHOについては予防接種部門があり、日々、各国の情報を集めています。有効性、安全性含めて定期的に会議を開き、(時間はかかりますが)情報は公開されています。
そういった情報を見たい場合は、SAGEのページを確認しておくとよいとおもいます。日本からも参加/情報提供をしています。
Strategic Advisory Group of Experts (SAGE) on Immunization
Global Vaccine Safety Initiative(GVSI)
定期的に会議が開催され、資料等も公開されています。
こちらはWHO以外の関連団体も参加して運営されているサイト。
ICO (Institut Català d'Oncologia) Information Centre on HPV and Cancer
常に情報をモニタリングしている人がおり、右上の情報の更新日が明記されています。
このほかに、WHOが定期的に発行している媒体にも、ときどきワクチンやVPDのことが掲載されます。HTMLとPDFで公開され、誰でも読むことができます(英語ですが)。最近はKindle仕様のデータも掲載されています。
余談ですが、、、日本のPDFだけボンボンのせるお役所のホームページはコミュニケーションとして十分じゃない。このような工夫がほしいですね。
WHOの資料でワクチン関連が掲載されるものは複数ありますが、2月14日のWERにも記事がありました。
http://www.who.int/wer/2014/wer8907/en/
月1回発行されるWHO Bulletin の最新号は2014年2月号。
http://www.who.int/bulletin/volumes/92/2/en/
ワクチンとコミュニケーション関連の記事も掲載されています。
http://www.who.int/bulletin/volumes/92/2/14-030214.pdf?ua=1
“Underlying issues are key to dispelling vaccine doubts” Why is the same vaccine accepted in one part of the world and rejected in another?
同じワクチンが、あるところでは受け入れられ、あるところで拒否される件について、コミュニケーションの視点からHeidi Larson博士が解説。
勉強になりました。
ざっくりコミュニケーションとは、目の前にいる人が知り合いという場合の日常会話から、不特定多数相手に発信するお役所的な通知のようなものから、誰かに何かを伝えるという意図で行われるものまで幅広いです。
インターネット上では、意図的に根拠の無い情報や未確認情報であると知りながらそのまま拡散する悪意のある場合と、”よく知らないが“”詳しくないけど”という前置きのもとに「〜らしい」「〜みたい」「〜ようだ」という噂を広げてしまう場合と、それを確信して布教のように繰り返し同じことをブツブツ拡散する(botアカウント)場合とあります。
問題はそれが人の健康や命に関わるような情報の場合です。
危機管理の判断責任は一次的には個人にあるので、どんな情報でも信じる人の自己責任と説明する人もいますが、コミュニケーションは相手にある意図をもって関わるものなので、そこにある情報の受け手への配慮を書くような情報を流すこと自体が問われます。
コミュニケーションにおける誠意とは、情報の確かさを検証し、間違っていたり新しい情報が出たら修正して共有しようという努力ではないかと思います。
その意味で、これまでにおこなわれてきたワクチン・予防接種関連での改善の動きをみてみましょう。
メディアは事件のように問題を煽る記事は書きますが、こうした地道な努力は伝えてこなかった、あるいはメディアへの専門家側からのアナウンスが不足している状況があります。
過去におきたワクチンによる健康リスクの例
• 1950-1980年代: 全細胞使用のDTPワクチン
• 1976: インフルエンザワクチンによるギランバレー症候群
• 1980年代: 経口ポリオワクチンによる麻痺
• 1990年代:ロタウイルスワクチンによる腸重積
•
これらは、中止、変更、改良、別製品への置き換えがおこなわれました。
臨床試験では把握できなかった有害事象や頻度、有効性の問題が市販後にシグキャッチされた場合、調査や検討が行われ、改善がおこなわれています。
不活化麻疹ワクチンの中止
より安全なリコンビナントB型肝炎ワクチンへの切り替え
DTPから培養型の DTaPへの切り替え
経口ポリオワクチン(生)から不活化ポリオワクチンへの切り替え
初代のロタワクチンの回収(現在は別の製品が普及)
以前は安定剤として使われていたゼラチンにアレルギー反応が出ることが把握され、その後、技術改良により除去されたワクチンになっています。チメロサールに代表されるような防腐剤は食べ物や医薬品への微生物汚染を防ぎ安全を維持するために必要ですが、別の物質に変更したり減量したりという改善が行われています。
たとえば、
DPT(ジフテリア、百日咳、破傷風)ワクチン
1997 ゼラチン除去製品の供給開始
2003 チメロサール除去製品の供給開始
2000~特定のウシ等由来物を不使用
MMRワクチン
1996 ゼラチン除去製品の供給開始
2000 ヒト血清アルブミン除去製品の供給開
2000~ 特定のウシ等由来物を不使用
参考
■ゼラチンアレルギーについて(日本ゼラチン工業組合)
■チメロサールとワクチンについて(横浜市衛生研究所)
※エチル水銀とメチル水銀の違いを知らない人多いです
■医薬品や食品、添加物、化学物質については内閣府 食品安全委員会
■「アレルギー疾患と予防接種」小児感染免疫(2008年) 第 38 回日本小児感染症学会シンポジウム
ところで、「専門家」や「専門機関」が絶対に正しいかというとそうではありません。
「医師が語った」「有名な雑誌に掲載された」内容で大きな混乱が起きた事例を予防接種の世界で経験しています。
2014年2月4日 産經新聞 家庭医が教える病気の話 「捏造論文利用するワクチン反対派」
EBMでも大変ご高名な名郷先生の連載記事です。
1998年にある医師の論文がLancetに掲載されました。
(職場の医師がLancetに掲載、、となったら「おお、すごい」で、お祝いにゴハンでもたべにいこうよとなります)
して、その中身ですが、、、
「12人の自閉症患者を調査したところ、8人がこの3種混合ワクチンを受けているという結果から導き出した結論」でした。
うーん。12人? え?12人?
と思った人たちはいると思いますが、この手の話が好きなのはメディアです。大きく扱われ、結果的に接種率低下がおきました。
「2002年に医学雑誌『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に掲載された論文で、ワクチン接種者44万人と非接種者9万人以上を比較したところ、自閉症の発症率はむしろワクチン接種者で低く、統計学的な差がないことが示されています。数十万人規模で比較対照を持つ研究と、12人で比較対照を持たない研究のどちらが信用に足るかは論じるまでもないでしょう。」
研究について学んだことがある人ならば特に疑問はないでしょう。
(しかし、統計学的って何?な場合にはこの文章自体がわからないかもしれません)
論文は撤回されましたし、The media's MMR shameという反省もあるのですが、その爪痕はいまだ傷として社会に残っています。特に英国では度重なる麻疹のアウトブレイクの対応に追われています。MMR接種機会を逃した人たちが成長した後に発症しています。
名郷先生の指摘は続きます。
「しかし、この捏造論文はいまだにワクチン反対グループによって繰り返し取り上げられ、一定の影響を持ち続けています。「ワクチンに含まれる水銀が自閉症を引き起こす」とのデマもこの論文から始まっており、このデマを信じてワクチンに対して不安を抱く人がいるのはとても残念なことです。
「ワクチンで自閉症になる」という論文は、医師免許を剥奪された著者による捏造論文だということを改めて明確に指摘しておきたいと思います。」
専門家にとっては、あたりまえ、今さら、なことでも繰り返し伝えて行かないといけない話題のひとつとなっています。
なんだ、医師でも専門雑誌でもだめじゃん・・・と思われるかもしれませんが、実名で社会的評価を背負って発言するのですから、個人や組織として間違ったことを言わないようにするという一定のブレーキ機能は期待できます。
では、どの人・活動に信頼をおくのか。
直感という人もいますし、知り合いだから、個人の好みと言う人もいるかもしれませんが、誰でもできる方法としては、「他のことでどのような発言・活動をしているのか」という周辺情報をあたることをお勧めします。
社会的に疑問をもたれるようなコミュニケーションをしていないか?とか、あるものを否定して、その次の段階には「○○がいいですよ」と特定の商品を勧めたりする”アンチビジネス”的なことが行われていないか?等です。
わかりやすいので、あるビジネスについて紹介したいとおもいます。
女性が人工妊娠中絶をした、流産・死産をしたときにかかえる罪悪感等につけこむ脅し商売です。
「あなたやあなたの周辺に、赤ちゃんが死んでしまった人はいませんか?」
※中高年女性だと6人に1人、人工妊娠中絶経験があります
「今、肩こりや腰の痛み、頭痛等に悩んだり、人とうまくいってなかったりしませんか?最近周辺でお葬式がありませんでしたか?」
※若い人ならともかく、特定の年齢ならあまり珍しくない症状を言う
※その年齢で体験されやすいnegativeな事象をいう
そして「供養のために○○しませんか(買いませんか)」です。
ある事象と時を同じくしておきた経験は、因果関係はなくても関連性があるように感じてしまうことがあります。
「過去に○○してませんか?」もよくあります。
小さい頃、予防接種をしたんじゃないですか? もしや○○入りの歯磨きをつかってませんでしたか? ○○なシャンプーをつかってたりしませんか? 台所で使っている○○は白くないですか? なるべく多くの人が関係してそうなことを言えば該当者は増えます。
そして、症状がある人は「そうかもしれない」と思いやすい状況におかれています。
(同じ経験をしていて、しかし、その人と同じ症状がない人が大勢いることは、つらくて困って心に余裕のないときは思いうかばないものです。上のニューイングランドジャーナルのデータなどで理解すべきはこういった点ですが)
困っている人に、支援を装って商売や宗教めいたものはヒタヒタと近寄ってきます。
判断に迷ったら、信頼できる第三者にセカンドオピニオンをもらいましょう。
困った人がなぜ、周囲から見ると不思議な情報や理屈にひっぱられていくかを考えて行くことも、何らかの困ったを抱えている人を相手に仕事をする援助職、パブリックコミュニケーションの担当者は学ぶ機会があるといいのでは?と思います。
科学的正しさ、だけでは足りないのだとしたら、自分(たち)には何が必要なのか。
2011年医学界新聞 続 アメリカ医療の光と影 アウトブレイク(17)李 啓充
■医学界からの「追放」,自閉症児の親たちの「英雄視」
■「科学的証拠」よりも「ねつ造」を信ずる背景
■社会の「予防接種不信」
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02939_06
リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理早川書房
偽科学、疑似科学、エセ科学、、というものの存在とは別に、「なぜ信じるのか」(騙されるのか、ひっぱられるのか、魅惑的に感じるのか)というあたりが重要で、古典的になりましたが下記の本が事例も多く参考になりました。
人はなぜエセ科学に騙されるのか〈上〉 (新潮文庫)新潮社