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HPVワクチンとその周辺 2014年2月中旬のまとめ(2)

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海外における盛り上がりがおさまっていった背景には、データの蓄積、検討、公開があると(1)で書きました。
製薬会社が販売プロパガンダを展開しているのと同時期に、ワクチン反対/否定グループも熱心に否定プロパガンダを展開していました。

正規分布でいうと端っこ側のひとたちです。全体から見ると、よくもわるくも少数派であり、真ん中のあまり関心のない人たちにはその極端さが敬遠されました。

「何事も一つの側面ばかりを主張するとかえって信頼されないよ〜」の見本のようです。
盛り上がりすぎるひとをみると、周囲は多かれ少なかれどん引きします。

認知の歪みのひとつでもあり)

同意見集団の中にハマったり意図的にそれを煽る人たちに囲まれると、本来のゴールはなんだったかも見失う(自己修正不能になる)リスクがあります。

製薬会社のCMは、最近でも複数話題になっています。誤解をまねきかねないようなことについては修正を提案したりする必要があり、実際に心ある人達が直接的間接的にそのようなアクションをしていることも共有されています。

さて、その反対側ですが、、、当初注目されていたワクチン反対側の説明や語りのなかに、第三者から見て疑問をもたれるようなものが含まれていたため、疑問の目が向けられるようになった、あるいは静観する人が増えた、距離をとる人たちがでてきた、という経過がありました。盛り下げに影響した、ということです。


1)情報の解釈ミスの問題

例えば、ワクチン接種後の有害事象について「誰でも報告できる」VAERSというデーターベースが米国にあります。
本人でも家族でも友達でも医療者でも報告できるので間口が広くていいのですが、個々のデータの正確さには問題が残ります。

それでも、早期に問題に気づくためには間口を広げておくメリットが大きいので、このデータベースには「情報の正確性の限界」がアクセス時に注意喚起として表示されます。

つまり、このデータの表にある数字そのものだけでは因果関係はおろか、関連性もわかりませんし、誰かが虚偽の報告をしているかもしれません(同時に、実際に有害事象がおきても全員が報告しているわけでもないですが)。

実際の症例と医薬品との関連性を検討するためには一定のプロセスが必要です。つまり、受診して医師の診察/検査を受けない限りは、「実際に存在したかどうかさえわからない報告」となります。

ここに、実際に相談をする人と、された人、が登場します。
とんでもない問題が!となれば電話で当局へ連絡をしたり、学会や専門団体に警告を出したり発表がおこなわれたりもします。
インターネットが発達している昨今では、かなり迅速に共有されうる系の情報です。
しかし、そうした形での展開にはなりませんでした。専門家から指摘がされていないなかで、保護者が発言をはじめます。

そういったことじたいはいいことです。専門家には専門家バイアスがあり、当事者やその身近な人が早く気づくこともあるからです。

大切なのは、ていねいに検証をすることです。

元の議論にもどります。

ワクチン接種後の問題の頻度や質を語る時にはいくつかの数字があります。

■最大分母:HPVワクチンを接種した人の数字(出荷数や保険会社、医療データベースから得る数字)
■VAERSの報告数:HPVワクチンを接種した後に健康上の問題が起きた人として報告が誰かによって自発的に行われた数字
■ワクチン接種との関連性や因果関係を検討した数:HPVワクチン接種後の健康問題で受診をした人

ここまでに少なくとも3つの数字があるわけです。

そして、最終的に問題となるのは、ワクチン接種との因果関係が否定できない症例です。
他の診断がついたり、別の要因でおきていることが確認されたりした場合は因果関係ありとはされません。

この時点で少なくとも確認をしておかないといけないのは、VAERSの数字をもとに因果関係のある副反応として語ることは、そもそも数字の解釈としてまちがっている、ということです。

もっとも、VEARSの数字は軽視されているわけではなく、ここで臨床試験(限られた分母)では把握しきれなかった稀な事象を検討したり、一定の数が報告されたものについては調査が行われています。例えば、思春期に多い迷走神経反射によるフェイント(一時的な失神)が、他のワクチンと比べて多いのかどうか。思春期に接種する他のワクチン(髄膜炎菌や百日咳のブースターワクチン等)との比較が行われました

そして、その結果として、ワクチン接種を問題視するよりは、事前のアセスメントで、失神の経験のある人にはベッドで対応をしたり、接種後15分間の安静と観察を行うというケアの強化によって対応することの徹底が推奨されました。(日本でも同様のの注意喚起が行われています)

同様に、このワクチン導入後に際立って特定の症状での受診が増えているのかということを、米国では複数の医療関連データーベースを見渡して、接種をしていない人たちとの比較で行っています。

国民の医療についてのデーターベース化が進んでいる北欧でも、米国よりも信頼性の高い手法で行っています。


上記については、2008年6月18日 TIME  Anti-Vaccine Activists vs. Gardasil が参考になります。

文中で紹介されているDallas Morning Newsの記載:
Michelle Kimzeyによると、彼女の14歳の娘のKatherineがHPVワクチンを3回接種したあとに、頭痛、失神、関節痛を経験。2―3週間後に痙攣がおき、てんかんと診断され、母親は5000の政府のデータベースの報告を見て、娘の健康問題はGarasilのせいと考えるようになった。
この問題について、小児科医でシンシナティこども病院のHPV研究者、臨床指導者であるJessica Kahn医師は、次のように解説。
"It is very important to note,"  "that anyone can report a side effect to VAERS, and just because it is reported does not mean it was caused by a vaccine." (だれでも副反応をVEARSに報告できますが、そのことはワクチンが原因、ということを意味しないという注意が大切です)


2)根拠不明なこじつけ、過度の一般化への疑問

 特定の食品や医薬品に曝露をした後に「痛み」や「だるさ」が生じたとしても、それがその特定の物質が原因でおきているのかの検証が難しいことは前述したとおりです。
 それでは、あまり一般的ではない「まれ」な現象が起きた場合はどうでしょうか。
 接種したところが痛い、腫れる、1−2日後に発熱する、だるさ、というものワクチン接種後に珍しい症状ではなく、痛みや腫れなどは8割前後報告される頻度の高い因果関係の明確な副反応です。そして多くの関連のある症状は2週間で消える/改善するのが一般的です。
 
 しかし、ワクチン接種との関連性が従来の医療の常識や知見からは想像できないものの場合はどうでしょうか。とても稀な病態は、原因不明でおきるかもしれませんし、ワクチンが契機かもしれませんし、その他の要因が関与しているかどうかは簡単な話ではありません。簡単ではないゆえに、断定的にはいえない、というのが正しい検討の出発点になります。

検討が十分ではない時期に断定することじたいが、周囲からは疑問視される原因になってしまうということです。
(関連性が「ある」「ない」と言い切ることに別の目的や動機や利得があるなら別ですが)

米国ではある政治家が、HPVワクチンは精神発達遅滞の原因になる、その病態は「HPVワクチンのせい」だ、という発言をしました。
2011年のことです。
被害者情報はメディアが好んでとりあげるニュースであることは、一般にも知られています。
ましてや、議員の発言ですから、メディアでも大きくとりあげられました。

この時点で、被害者がお気の毒、ショック、、、という話もなかったわけではないですが、その病態をワクチンというごく微量の医薬品接種から説明されることへの違和感や唐突感に多くの人が困惑します。
もっと大量に使われる薬剤などで、このような現象が問題視されたり大きく取り上げられたりはしないからです。

特定の病気や障害を抱えた人や家族も困惑しました。医師でもない人が突然、ある病態や症状についてワクチンのせいだ、というのですから、まあ仕方なかったかもしれません。

困惑を通り越して怒る人たちも出てきました。

予防接種への攻撃だ不信のもとだと怒る小児科医、子宮頸がんで亡くなったり後遺症を抱えている人やその家族のことを何とも思わないのか、バランスを欠いていると指摘する産婦人科医。

そして、生命倫理学者が疑問を呈します。

実際にそのような重大な副反応のでた症例がいるならば、学会で報告されたり、専門家の間で共有されるべき状況なわけですが、そのような問題指摘は臨床からはあがってきていません。なぜでしょう?

この研究者は賞金を提示しました。その診断をした医師、実際の症例の存在を証明してほしい、ということです。医師が症例報告するなり、名乗り出ればよいわけですが、そのような展開にはなりませんでした。

2011年9月 Bioethicist Bets Bachmann $10,000 on HPV Vaccine Link to Damage

この政治家によると、自分で確認したわけではない、「その子の母親がHPVワクチンのせいでなった、といったのだ」、、、という話。
伝聞です。
もっとも、実際に症例を「見た」としても、医師のように「診る」技術や知識、経験はありませんし、専門家がみても、診ただけで断定的なこはいえません(そんなことを言うようだとかなりアヤシいお医者さんですよね)。

分からないことは分からない、今の科学や技術で言えるのはここまでだ、というのが誠実な医療の姿であり、根拠や効果が不明なアヤシげな対応を独自の判断で勧めたりもしません。

2011年9月13日 International Business Times
Bachmann: Gardasil Could Cause 'Mental Retardation’

“I will tell you that I had a mother last night come up to me here in Tampa, Florida, after the debate,
“She told me that her little daughter took that vaccine, that injection and she suffered from mental retardation thereafter.”

Bachmann did not offer any scientific evidence to suggest there is actually a viable link between Gardasil and mental retardation.
議員は精神的な症状がガーダシル接種とリンクしている具体的な、科学的なエビデンスを何も提示しなかった、、です。

何となくうやむやに終わってしまったようですが、話がおさまったからそれでよいということでもなく、たまたま検索等でこの部分的な情報だけ見た人は「HPVワクチンを接種すると発達遅滞のような症状になってしまうのか」という不安をもつかもしれません。

公的な立場にある政治家が、専門家や当局等に根拠を確認しないまま、個人的な体験を増幅して断定的に語ったり、一般化するリスクをみた事例でした。

この事件は、HPVワクチンへのヒステリックな反応へのウンザリ感や忌避感が広まっていく分岐点になったのではないかと思います。


今でも、政治家で反対している人たちはいますが、背後に支援団体として保守的な保護者グループや宗教グループがあり、HPVワクチンの普及で子どもが性的に活発になり、性や社会が乱れるということをいっています。

このため、米国等では、思春期年齢層への量的質的な調査を行い、HPVワクチンが性的な行動の活発化の誘因とはなっていないという研究が行われています。
このような研究結果が発表されるたび英語メディアでは大きくとりあげられますが、日本のメデイァはあまり関心がないようです。

2014年2月3日 TIME Don’t Worry: The HPV Vaccine Isn’t Changing Pre-Teens’ Views About Sex

まあ、ワクチン1本うったくらいで、妊娠や他の性感染症のリスクを軽視して極端な行動をとるというような失礼な視線を若者に向けるのは愚か、現実的じゃないよねという大人な態度なのかもしれませんが〜。
(人間ってそんなに単純じゃないですしね・・)

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