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HPVワクチンとその周辺 2014年2月中旬のまとめ(1)

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HPVワクチンの、いろいろな意味での盛り上がり(英語ではフィーバー)は、導入して1―2年のところで経験している国がいくつかあります。

この盛り上がり、「がんを予防するんだぜ、すごいね」「ぜひ皆に提供を」という興奮や製薬会社ベースの熱心な販売活動と、その対極にある「不妊になる」「人口削減だ」「陰謀だ」といった(よくある)反対活動の2つの側面があり、日本でも経験しています。

例としては、、、前者の場合は、新聞の社説や議員のアドボケイト活動としておこなわれた、「自治体によって補助が無いことは問題だ。格差をなくせ。」という啓発。メディアはいつになく熱くこのワクチンをもちあげていました。
(歴史の語り部世代には違和感さえもたれるほどに)

後者は、主にネットでの匿名での語りや、宗教団体によるものが目立ちました。これはまあ、今にはじまったことではありません。


導入後の関心の高い時期におこる有害事象への反応も通常経験する”もりあがり”のひとつです。

メディアの扱いによって影響を受ける、ということはHPVワクチンとほぼ同時期に導入された髄膜炎菌ワクチンの扱いの違いでの比較検討も行われています。

参考 Center for Advancing Health  2013年11月19日 Media Coverage of HPV Vaccine Boosts Reports of Adverse Effects

元の論文はこちら:The Role of Media and the Internet on Vaccine Adverse Event Reporting: A Case Study of Human Papillomavirus Vaccination. J Adolesc Health. 2013 Nov 4.

新型インフルエンザのときも、実際に患者も多かったのでしょうが、すぐ受診しろという報道の影響も、それまでにない数字となってグラフにあらわれていました。風疹流行のときに、ワクチンが足りないから妊婦とその周囲だけにしろというメッセージのあとは受診者が減りました。

朝のワイドショーでとりあげられた食品がしばらくスーパーの棚から品不足で消える、、というような広報バイアスを考えないといけません。
関心を持つ人が増える→行動する人も増える、です。


現在の日本でのHPVワクチンについての盛り上がりは、接種後の有害事象についての拡大調査が行われたまとめについて、最終的な検討段階にきているということでしょうか。
実際のところ、直接関係ない人たちには関心をもたれていませんが、予防接種全体の信頼に関わるような事象なので、ぜひ医療関係者には全体像の理解をしていただきたいところであります。

国内外でよく聞かれるのは「なぜ、日本だけこんなことになってるの?」です。
そういった総括はいずれ必要だと思いますが、まず「その周辺」をふりかえっていきたいとおもいます。


日本と海外を比較する際に最初に整理が必要なことは、海外では4価のGardasilの 騒動であったことです。
日本はいろいろムニャムニャな理由で2価のCervarixが先に導入され、その後にGardasilが導入されました。2つは成分も異なる「別の製品」ですが、日本の一部のメディアは子宮頸がんワクチンという名称で記事を書いていたりします。

取材での裏とり、文書による検証の際に疑問はないんでしょうかね。
産地も作っている農家も違うリンゴを「リンゴがあやしい」的にひとまとめにするようなことはおかしいとおもうんですが。


海外におけるGardasilそのものに反対、という主張は反ワクチン系、保守的な純潔教育促進系、代替医療系のホームページ等で現在も同様の主張が続けられています。
このことを問題視する人ももちろんいますが、実は反ワクチン団体や、ワクチンを否定することで利得のある人たちが扱っていることに意義があります。誰が言っている情報か、というのは、第三者に意味を付与するからです。

実は、当初、このワクチンへの批判は、反ワクチン系だけではありませんでした。
ワクチンそのものの問題ではなく費用対効果の面から、公費導入に反対をしていたのは医療や公衆衛生の専門家で、これは政策としての妥当性についての議論です。導入後に、今からでも公費をやめるべきだという主張はみかけませんが、検診プログラムの間隔をあけて費用対効果の適正化を行う検討ははじまっています。
他にも、米国ではいくつかの州でopt-out式の義務化が提案されましたが、麻疹のように空気感染するわけではないウイルスのため、そのような位置づけにはなりませんでした。

さて、そのHPVワクチンについては、その後、(いつものとおり)時間の経過とともに、メディアが扱わなくなっていくとともに過剰さはおさまって行きました。



おさまっていくだけの要素がそれなりにありました。(関連の解説は(2)につづきます)

しかし、その要素が日本には不足していることについて、関係者は今後のためにも考えておいた方がよいと思う点があります。。

海外では・・・
1)メディアに科学的な情報を解釈する訓練を受けた専門記者がいた
2)各国で確立している新しい医薬品導入後の安全性モニタリングシステムにより、市販後の有害事象のデータ蓄積、検証、公開が行われた
3)日常的に発信され、信頼を得ている予防接種情報プラットフォームが公的部門にあった
4)上記3点を備えた複数の国からの報告での総合的な検証が増加中である(2006年導入からすでに8年分のデータ蓄積がある)

1)ですが、例えば日本での医療関連の記事を見る時に、同じ新聞(媒体)でも、それを扱っているのが社会部系のものか、科学部系のものかでだいぶ違います。大学や大学院での専攻や経験から、日常的に科学データの解釈を行っている人と、そうでない人もいるということです。
2)は国の制度上の不備で、こういったものが無いと混乱したときの対応がとても難しくなるということをまさに経験しているわけです。
また、3)も国や公的機関にこうした情報がありませんので、軸となるカウンターの情報がないなかで、メディアや根拠の不確かなネット情報が拡散して行く素地となっています。
4)については多くは英語情報で、専門家はアクセスが可能ですが、一般市民に伝わっていくにはメディアなどを介し時間もかかります。


そして、日本独自のマズい状況もありました。
1)予防接種のアドボケイトの立場にある医療関係者からも疑問をもたれた不透明な定期ワクチンへの導入
2)製薬会社の過剰なプロモーション


大もとの有害事象の話にもどります。
医薬品ごとに収集された情報は、臨床試験時には把握されなかった症状や頻度としてシグナルとして把握されるほどの症例の集積があるのか、その症例には共通性があるのか、接種した対象に特異的なものなのかといった基本的な検討が行われます。
当然ながら、どちらのワクチンをいつ接種したのか、発症の時期や持続時間、他の因子を含めた医学的な検討(検査含む)の情報なく、語ることができません。

例えば「痛い」「だるい」「発熱」といった「非特異的な」(特定の医薬品に関係なくおこりうる)事象が、その医薬品とどう関連や因果関係があるのか?。

接種後から発症までの時間、症状持続時間などの共通性をもった症例が想定のレベルをこえて集積しているのか?は「具合がわるくなった」人の報告だけではわかりません。もともと一定数存在するものだからです。

例えば中高年男性ならば、抜け毛が増えた、胃がんになった、という事象があったとして、ある日特定の食品や医薬品を使ったからだという説明と、年齢相応に一定の男性におこるのだから因果関係とはいえないんじゃないか?、すくなくとも単一の原因といえるのか?ということがあります。
同じように、HPVワクチンでは思春期女子に怒りやすい心身の問題が、特定の医薬品への曝露が直接の契機となっておこっているのかどうか?は一定の検証なくいえないわけです。

もっとも、最終ゴールを無理に因果関係がある、と断定する、そのために科学的な正しさを追求すると無理が生じて「必ずしもそうとはいえない」という結論が待っています。

医療を含めた科学は万能ではありません。それは予防接種に限った話ではありません。原因がよくわからない病態、その始まりも消失も何が影響したのかわからない、ということは実際に少なくは無いことも経験されています。
それが事実かどの程度かはさておき、当事者が感じている苦痛や不都合をどう、日常や生活の中で調整や支援していくのかということは、科学の求道者にならなくても出来る努力です。

多くの国ではそのこととは別に必要な医療やケアを提供するということを重視しています。

日本でも一定期間の間に調査が行われ、公開された症例リストを確認すれば、因果関係を断定することは難しいことはわかるのですが、1月の会議では否定をするよりも、心因性でおこりうる可能性として一定の条件のもとで心理的・身体的 の包括的なアプローチで対応していくという広めの提案が行われました。具体的に何をどれくらいどのように、ということでの課題は残りますが。

意外だったのは、医療の知見を駆使してサポートの話がでてきたところで、会議では使われていなかった「気のせい」という表現で伝える人が出たり、関連資料やこれまでの検討の経緯を確認しないまま、自己解釈で批判をしている人もいて、現時点で困っている人を支援したいのか邪魔をしたいのかよくわからない状況になってきました。 (2)に続く

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