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Channel: 感染症診療の原則
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風疹の抗体 と その周辺

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感染症の検査にはそれぞれ特徴(利点や限界)があるので、感染症を専門にする医療者はそのことにも通じておく必要があります(あるいは、聞けばすぐ答えてくれる人を数名確保しておく)。

通常、臨床で検査を行うときは、その結果によって次なる方針を検討するということが前提になるので、別にそのあと対応が何もかわらないならいらない、といわれることもあります。(無駄だよ、、、)


たとえば、インフルエンザシーズンのときに、外来で検査をしてAかBか知りたい、という方がいて、しかし抗インフルエンザ薬は不要だという方がいます。
検査もしなくていいはずですが、AかBかを知りたいという個人的関心のために診察室にいるというわけです。

public healthの場合は、広角レンズで全体をみていますので、ある年の流行パターンがどの型だったのか、いつがピークだったのかという情報を把握しようとしますが、それさえも「だから何?」といわれたら説明はそれなりに難しい。
その情報をもとに来年から〇〇するかしないか決めるというようなときには有用かもしれませんが。


臨床での検査結果の解釈に注意がいるように、広角レンズでみたときの情報にも注意が必要です。特に、「患者さん」は目の間にいるのでバックグラウンドデータを詳細に把握できますが、集団をみるときは「どんな集団のデータなのか」が大きく結果を左右するからです。


たとえば、「結核」は、高齢者や外国人、都市部など、特定の因子がある人での発症率が高いことがわかっています。


今、都市部を中心に流行している風疹については、約8割が男性となっています。

ウイルスは通常性別を選んだりしませんので、ウイルス学的にはおかしいな?ですが、もともと日本の34歳以上の男性には制度上ワクチン接種の機会がなかったので(一部キャッチアップで接種している人はいなくもないですが)、感染・発症した人がいるとしても、集団でみたときに感受性者であってもなんの疑問もありません。


日本ではHIV感染症も男性が8-9割と「偏った流行」になっています。男性が発症しやすく診断されやすい(女性は見逃されている)のか、男性で集中的にはやっているのか?ですが、複数の疫学データを合わせてみたときに、本当に男性に偏った流行であうることがわかります。
なので、日本人一般で語るよりは男性と女性についてわけて対策や説明をすることが求められます。(有病率を出すときに分母に女性を入れていいのかという問題もあります)

さらに、男性のなかでも同性間の性的接触であることも把握されていますので、この人たちの健康問題をケアする視点が予防や早期診断に重要となってくるわけですね。
(同性に性的関心をもつ男性は人口全体の4%といわれていますので、それなりの潜在リスクはあります)


話を風疹にもどします。

風疹の場合は、感染したことがない、ワクチンを接種したことがない、あるいはわからない人たちが発症をしていますので、そのような人たちはどれくらいいるか?を把握することが長期的に見た場合に重要なデータになりますが、日本にはregistration制度や予防接種の全国共通データベースがないため、把握できていないのが現状です。
しかも、本人にもわかっていない。
保護者の記憶、あれば母子手帳やカルテを参照しますが、その精度にも疑問が残ります。


国レベルでは感染研が「感染症流行予測調査」を発表しています。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/yosoku-index.html


あくまで「予測」であって、何かの根拠になるほどの精度が保たれているのかは不明です。

データの背景を知るために実地要綱をみるとそのことじたいは自治体にまかせられていることがわかります。昔のものに比べると最近はプライバシーや同意、結果を当事者に返すなどの倫理的な配慮の記載も増えています。が、どのようにサンプルを集めたかは書かれていません。


報告書の最新版は平成22年なのでこちらのサマリーをみてみます。

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2010年度の調査では15都府県を対象に5,491名(女性2,977名、男性2,514名)の抗体調査を実施した。

1:8以上の風疹HI抗体保有率は89.9%(女性93.3%、男性86.0%)
で、2009年度と大きな変化はなかった。

0歳および1歳の抗体保有率は、それぞれ16.2%および66.3%と低かったが、2歳までに95.4%が抗体保有
者となり、3〜14歳においては91.0〜99.0%の高い抗体保有率が維持されていた。

15〜20歳までの年齢層では、まだ風疹の定期予防接種第3期の対象となっていなかった年齢層(16歳)
と、第3期および第4期接種が始まって初年度の対象であった年齢層(15歳および20歳)の抗体保有率
が低かった。

24歳までの年齢層においては、男女間の抗体保有率に大きな差はなかったが、それ以降の年齢層では男
女で大きな差が認められた。

25歳以上の女性は、ほぼ95%前後の抗体価を維持していたが、
男性は女性の同年齢群と比較して7.8〜22.4ポイント低かった。
特に男性の30〜47歳において抗体陽性率の低さが顕著であった。

男女を合わせた全体のワクチン接種率は81.4%で、2009年度(79.2%)と比較して向上している。2006年度
から予防接種法施行令改正に基づき2回のワクチン接種が開始され、さらに2008年度から5年間の第3期、
第4期のMRワクチン接種が始まった。対象年齢においては抗体保有率の上昇が観察されることから、ワク
チン接種スケジュールの変更の効果が現れてきているものと考えられる。

今後は確実なMRワクチンの2回接種を進めていくことが風疹の流行の制御には重要であろう。

一方、WHOが推進している風疹および先天性風疹症候群の排除のためには、男性の25歳以上に10〜30%存在
する感受性者の対策が必要である。2010年は風疹の大規模な流行の報告はなかったが、流行がない状態で
は、風疹ウイルスの自然感染によるブースターの機会がなくなり、一度獲得した免疫が減衰し、風疹予防
に必要な抗体価を下回る可能性も考えられる。先天性風疹症候群を回避するために妊娠出産年齢の女性は、
自らの風疹抗体価に留意し、必要ならば予防接種を受けるという認識の周知が必要である。

新たな予防接種スケジュールが実施されたことで、抗体保有率等大きな変動が現れつつあり、それに伴い
感染の動態が変化する可能性がある。

今後も、抗体保有状況およびワクチン接種状況等を把握し、迅速に適切な対応をとれるようにサーベイラ
ンス体制を維持していくことが重要である。
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このサマリーを読むと、HIの抗体価で線を引いているのは1:8なのだということがわかります。
それが何パーセントかということがかかれています。


直近のデータの報告書はまだありませんが、2012年の抗体保有状況はグラフで掲載されています。

男性のサンプル数は2225人、女性は2869人。14都道府県からデータが血液サンプルが提供されています。

http://www.nih.go.jp/niid/ja/y-graphs/3373-rubella-yosoku-serum2012.html

いくつかの自治体の方に聞いたところ、血液を確保するというのは昨今大変厳しく、公衆衛生や医療関係者
が提供しているというところがありましたので、一般人口代表するといっていいのかわかりません。

医師や保健師が入っていれば(職業上接種する機会もありますので)高くでるでしょうし、そのお子さんな
らば接種率も高いのではないかと想像します。
最初からそのようなことがわかっていれば解釈の際の工夫ができます。


ところで、抗体検査をしましょう、ということになった場合、その結果を何かに活用するということが
前提ですが、ワクチンを接種するしないの判断にできるのか?できる場合はいくつならいいのか?という
ことが問題になります。

世界はあまりつかわないHI法を日本が採用していることは詳しく知らないのですが、このHIの価は
そもそも何を説明するものなのか?です。

検査を先にという場合はその説明責任がついてまわるので、ワクチンの前に検査をという方はここらあた
りもおさえておかないといけません。

一般の人と、医療者や保育士では感染曝露リスクもことなりますが、妊娠しようとしている人の場合どう
なのか、等質問が続いています。


まず医療安全の話から。

「ワクチン接種が必要な抗体価について」

それぞれの感染症でデータもちがってきますが…
「麻疹PA法を妊婦や他の患者に行っていますが、国立感染症研究所の意見を聞いて抗体価が64以下の患
者をワクチン要接種者としてます。こちらに掲載してある基準(「職員ワクチン接種時の抗体検査につ
いて」ご回答)ではワクチン要接種者の抗体価は128以下とありますが、そこまで必要な根拠を教えて
ください。また、EIA法の場合8.0または10.0以下の患者を要ワクチン接種者としている施設が多いです
が、16.0以下とする根拠も教えていただきたいです。」


同じような質問は定番のようで、あちこちでみかけます。
「ワクチン接種の基準となるウイルス抗体価を教えてください。」


医療関係など曝露しやすい人はこちらを参考にしています。(これ以外に情報を出している専門機関はない)
日本環境感染学会『院内感染対策としてのワクチンガイドライン』



看護学生ではどうでしょうか。
医療系学生や医療職を対象とした抗体測定の発表はたくさんありますので、関心ある方はいろいろ見渡してみてください。

こちらは宮崎県。「看護大学における麻疹等の感染対策について」 

"(106名の学生のうち)ワクチン勧奨者は、麻疹 17 名、風疹 35 名、ムンプス 55 名、水痘 24 名であり、平成 21 年 4 月までの追加接種実施率は、麻疹 23.5%、風疹 17.1%、ムンプス 12.7%、水痘 8.3%と低い結果であった。"

予想以上に免疫ないですね!!!

サンプル数は少ないですが外来医師を対象とした報告スライドの資料は参考になります。風疹の免疫がないのはやはり男性。というか、医療従事者でも!?です。
「外来診療に従事する医師のウイルス感染症抗体保有状況と感染予防行動に関する知識」

医療従事者でも理想的、、、というわかけにはいかないんですね。


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