Quantcast
Channel: 感染症診療の原則
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3238

【Q&A】 ワクチンを含めた感染症予防のお話  氏家先生 (サンドデジタルセミナー)

$
0
0
たくさんの質問ありがとうございました。
質問を整理してくださった相野田先生、たくさんの質問にご回答いただきました氏家先生ありがとうございました。


[注意]
下記の内容は、講義を聞いたという前提での質問と情報提供であることをご了承ください。
内容は講師個人によるもので、特定の組織や立場を代表するものではありません。
特定のケースでの検討の際は、主治医・当事者の個別性と責任のもとでご判断ください。

印刷した資料はサンドのMRから直接、あるいはHPからダウンロードで入手可能となります。

---------------------------------------------------------------------------------

Q1:ワクチンによる有害事象は急性が多いように感じますが、長期的に注意すべき有害事象などはあるのでしょうか?

A1:多くの有害事象は接種部位の局所反応や発熱や皮疹に代表される全身の反応で接種後2週間以内に生じることがほとんどですが、接種するワクチンによっては、長期間経過した後に有害事象が生じることがあります。
予防接種法で定められた定期接種ワクチンについては、医師に有害事象を報告する義務が生じますが、接種したワクチンによって報告の対象となる有害事象の基準が定められています。
例えば、BCG接種後には、接種により生じうる骨髄炎・骨膜炎は2年、全身播種性BCG感染症は1年、化膿性リンパ節炎は4か月など、かなり長期的にそれらの可能性を考慮する必要があります。また肝機能障害、ネフローゼ症候群、間質性肺炎などの臓器障害、または急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症、ギラン・バレー症候群などの神経疾患も接種から1ヵ月程度の期間は有害事象の可能性を考慮する必要があります。詳しくは参考情報をご覧ください。

参考情報:
副反応の報告基準の設定について(厚生労働省 第24回予防接種部会資料)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002tiov-att/2r9852000002titl.pdf


Q2:ワクチン投与患者における感染症治療の考え方は何かありますか?例えば、肺炎球菌ワクチン接種患者では肺炎球菌感染の優先順位は低いであるとか。ワクチン接種の既往が感染症診療にどう関わるのでしょうか?

A2:診察時に鑑別疾患を考える上で、予防接種歴も総合的に判断される情報のひとつとして重要です。適切に予防接種を受けている場合には、その疾患が予防されている可能性が高く、鑑別での優先順位が下がることも考えられます。ただし、接種した時期、接種時の基礎疾患、接種したワクチンの有効率など、様々な情報を総合的に評価する必要があります。


Q3:薬剤師の立場で、患者さんにワクチン接種を積極的に推奨できる場面はあるのでしょうか?例えば、血液疾患患者さん、抗がん剤治療などで易感染リスクの高い患者さんなどでもありえるのでしょうか。

A3:医学的に予防接種を推奨する際には、根拠となるメカニズム、検討結果(エビデンス)に基づくガイドラインや教科書による記載を参考にする必要があります。例えば、免疫不全状態での感染予防は適切に予防接種を用いることが有効な予防手段となりえます。デジタルセミナーでもお話ししましたが、脾摘後の患者さんでは、液性免疫の低下により肺炎球菌に代表される莢膜を有する細菌の感染症(他、髄膜炎菌、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型、等)で重症化のリスクがあり、これらの疾患はワクチンにより予防が可能な疾患です。計画的に脾臓摘出術等を行う際には、事前に予防接種を受けることで、脾摘後もこれらの疾患による感染のリスクを減少させることができると言えるでしょう。
また、その他の免疫機能の低下を伴う疾患に対しても、予防接種は多くの場合に有効な一次予防の手段であると言えますが、生ワクチンについては接種自体が禁忌となることがあるため注意が必要です。また予防接種の効果を最大限に引き出すためには、免疫機能ができるだけ正常な状態で予防接種を受けることが望ましいと考えられます。


Q4:ワクチン接種の有効性が最大に発揮される患者状態はありますか? 逆にどのような状態だとワクチン接種効果が減弱されるのでしょうか?

A4:Q3でも触れましたが、予防接種は体内で疑似的に感染が生じた状態を作り出して、免疫を構築するメカニズムで予防効果(抗体)を獲得できるため、予防接種による効果を十分に発揮させるためには、免疫機能が正常であることが重要です。手術、薬剤使用などにより計画的に(結果的に)免疫機能を低下させる必要がある場合には、 できるだけ免疫機能を低下させる前に予防接種を受ける必要があります。また、免疫機能の低下中に受けた予防接種(原則、不活化ワクチンに限る)は効果が不十分となることもあるため、回復後に再度の接種を検討します。

注)一般に、感染症が重症化しやすい免疫不全者の方こそワクチン接種が必要な反面、接種できない種類のワクチン(生ワクチン)があり、接種できる種類のワクチン(不活化ワクチン)の効果においても不十分となりやすい方々でもあります。これらのことから、ワクチンの効果が高い免疫健常者が高い接種率で予防接種を実施し、集団として免疫を獲得しておくことで、ハイリスクな免疫不全者やワクチンを接種できない方々が病気に罹患することを社会全体で防ぐこと(集団免疫)が重要です。


Q5:ワクチン接種者はお風呂に入ることについて説明を受けることがあるかと思いますが、お風呂に入ってはいけない理由は何でしょうか?

A5:一般に入浴、飲酒、運動などにより接種部位の血流が増加することで、接種部位の腫脹などの局所反応が生じるリスクが増加すると考えられています。接種部位を擦るなどして、刺激を与えることが局所反応に影響するとも考えられます。どの程度の影響があるのかについては、被接種者にもよりますが、一般に入浴などの影響は軽微であり、シャワー浴などは一般に問題にならないと考えられます。


Q6:ワクチンの同時接種は実際には何本位、同時に接種されているのでしょうか。
海外渡航前などで、何本も同時に接種したいという方が多いです。部位は上腕2か所ずつ位でしょうか。また、その中には混合ワクチンを含んでも大丈夫でしょうか。宜しくお願いします。

A6:海外渡航前に予防接種を受ける方の場合、必要なワクチンの数が多かったり、渡航までにあまり時間的な余裕がなかったりすることがよくあります。被接種者の方の理解が得られれば、接種できるワクチン数に上限はなく、実際の診療では6本程度の同時接種を行うことは稀ではありません。接種部位に関するポイントは、接種部位に発赤や腫脹、疼痛などの局所反応が生じた際に、症状が重複したり、どのワクチンによる反応なのか分からなくなったりしないよう、約2.5から5センチ以上の距離を置いて接種を行います。
例えば、2本の接種が必要であれば、接種した腕と反対側の腕に接種を行うようにする、同じ側に複数本のワクチンを接種したら、カルテに接種したワクチンごとに左上、左下などの記載をし、副反応が生じた際に接種したワクチンを判断できるような工夫をします。これは接種するワクチンが混合ワクチンであっても同様に考えることができます。
また、接種できる場所は上腕のみとは限らないため、ワクチンによっては大腿も接種部位の候補となります。


Q7:風疹ワクチンの効果について
中学生で受けた場合に年月がたつにつれて、効果が95%から徐々に落ちてくるようなことはあるのでしょうか? 生涯で2回接種を行えば一生効果が期待できると考えていいのでしょうか?

A7:一般には予防接種により免疫を獲得した後にも、その後に病原体に曝露する機会が長期間なければ免疫機能(特に血液中の液性免疫)は徐々に低下します。風疹については、1回の接種でも高い予防効果が得られ、その効果も長期間持続すると考えられていますが、実際に予防接種歴があっても風疹に感染する例もあります。
これらのことを説明するには、予防効果の低下以外にも、1回目の接種時にうまく免疫を獲得できなかった可能性(免疫獲得不全)の可能性も考慮する必要があります。
実際の診療では例外があるため、接種を何回受けたら「効果が100%である」、「一生予防効果が続く」と断言することはできませんが、一般的には1回の予防接種でも十分な予防効果が得られ、必要に応じて2回接種することでより確実な風疹の予防が可能になると考えられます。


Q8:今回風疹の流行で、20-40代で初めてMRワクチンを接種する方もおられます。2回目の接種は必要でしょうか、するなら小児と同様に5年後でよいのでしょうか。

A8:定期接種では1歳と就学前の学年に2回MRワクチンが接種されていますが、2回目の接種が必要とされている理由は主に麻疹対策に対する理由です(1回の接種での免疫獲得不全+免疫漸減による修飾麻疹)。風疹に対するワクチンの予防効果は一般的に高く(約95%程度)、多くの教科書では風疹に対しては2回目の接種は積極的に推奨されていません。一方で、今後妊娠を希望されている女性では、より確実に妊娠中の感染(先天性風疹症候群)を予防するために2回目の接種や抗体検査を検討することがあります。
必要に応じて2回接種を行う場合には、理論上1ヵ月以上の間隔で2回接種を行うことができますが、高い濃度の免疫を獲得するには、もう少し長い期間(水痘などでは3ヵ月程度)の接種間隔が必要になると考えられます。


Q9:生ワクチンの中で水痘だけが2回目の接種のタイミングが早いのですが、理由は何でしょうか。

A9:水痘ワクチンによる予防効果は、中等度及び重症なものに対しては95-100%とされていますが、軽症なものまで含めた場合には80-85%と、他のワクチンと比較しても、予防効果は決して高くありません。加えて、日本では毎年約100万人の患者発生があるとされ、水痘ウイルスは感染力が高いため90%以上の小児が10歳までに水痘を発症しています。こうした背景を踏まえて、早めに2回目の接種を行い、より確実に水痘を予防することが勧められています。
接種しているワクチンが同じでも、もし将来的に、日本の水痘の発生数がかなり少なくなって感染する機会がほとんどなくなれば、米国などと同様に長期の免疫のことも考慮して、就学前の接種スケジュールが推奨されるようになるかもしれません。

参考情報:
水痘ワクチンに関するファクトシート(国立感染症研究所)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000bx23-att/2r9852000000bxqx.pdf
日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール
http://www.suzukiclinic-hy.com/img/yukiko/img/01/schedule.pdf


Q10:B型肝炎ワクチンを小児に接種するとき、水平感染のリスクを減らすためと説明しています。実際にはユニバーサルワクチンですので、保護者にも接種必要なのでしょうが、自費であるため、なかなかうまい説明方法がありません。ワクチン外来では、ご家族への勧奨について、どうされていますでしょうか。

A10:B型肝炎ワクチンはWHOによって1992年にユニバーサルワクチンとして接種が推奨され、2012年には180のWHO加盟国で接種がされています。日本では1985年に母子感染防止事業が開始され、キャリアの母体から生まれてくる子どもへの感染(垂直感染)を予防するための対策が取られ、国内のB型肝炎キャリアの方の数は減少傾向にあります。一方で、B型肝炎ウイルスはキャリアの方の血液の他、涙、汗、唾液などにもウイルスが検出されることが知られていて、確実なウイルスへの曝露予防が難しい疾患です。近年では、母親以外の家族がB型肝炎のキャリアで、家庭内で子どもに感染させてしまうケースがウイルスの遺伝子系統解析により証明されたり、保育園などの集団生活で感染が疑われるケースもみられたりすることから、日本でもB型肝炎の定期接種化の必要性が積極的に検討されているところです。
ただし、一般に成人の感染の多くは性交渉などによって起こると考えられ、入院患者のDPCを使った推計では年間約1万人の急性B型肝炎感染が起こっていると考えられています。特定の方以外の方と性交渉の機会を持つことがない保護者での予防接種をどこまで勧めるかは考え方にもよりますが、特に体液に触れる可能性のある職業の方、B型肝炎の発生率が高い地域に長期間滞在される方、もともと肝臓の基礎疾患を持っている方などには、積極的に接種が勧められるワクチンであると考えられます。

参照:
Global Immunization Data (WHO)
http://www.who.int/immunization_monitoring/Global_Immunization_Data.pdf
B型肝炎に関するファクトシート(感染症研究所)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000bx23-att/2r9852000000bxqf.pdf
B型肝炎 知っておきたい最近の話題
http://www.kanen.ncgm.go.jp/study_download/20111202_01.pdf


Q11:麻疹、風疹、水痘、ムンプスに対する抗体は終生免疫と理解していましたが、最近は抗体価を定期的にチェックし、下がっていれば追加投与すべきと考えられているのでしょうか?  その場合、どれくらいの間隔で抗体価をチェックすべきなのでしょうか?

A11:Q8にも関連しますが、1回のワクチン接種で得られる免疫の獲得は100%ではないこと、獲得された免疫は時間の経過とともに漸減することなどから、必要に応じて2回目の接種や抗体検査を実施することがあります。院内感染対策のため医療従事者に向けに日本環境感染学会が公開しているワクチンガイドラインでは、ご質問の麻疹、風疹、水痘、ムンプスに関して、2回の予防接種が確認できる場合には、抗体検査は不要とされています。また、抗体価が基準値以下で予防接種が必要な場合においても、抗体価が陰性でない場合には、過去に感染曝露または予防接種歴があったと考えられることから、その後の抗体検査は不要となります。一方で、抗体価が基準値以上であっても、2回の予防接種歴が不明であれば、免疫の低下がないことを確認するために4-5年後に再検査が推奨されています。
上記を原則としますが、実際には獲得している抗体価のレベルとその低下速度によって一人ひとりの対応は異なり、個別の対応が必要なケースもあると考えられます。

参考情報:
院内感染対策としてのワクチンガイドライン 第一版(日本環境感染学会)
http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=4


Q12:がん化学療法中の患者さんへのワクチン接種は、一般的にはいつが理想でしょうか?(特に冬場のインフルエンザワクチン接種時期の質問をよく受けます) nadirを超えたぐらいが丁度よいでしょうか?

A12:Q4の回答と関連しますが、予防接種による予防効果の観点からは、できるだけ免疫機能が正常である必要があります。よって、抗がん剤を使用から十分に免疫機能が回復した後、または最初の抗がん剤を開始する前に予防接種を行う方法が良いと考えられます。一方、実際の診療では、必要な抗がん剤を適切な時期に使用するため、予防接種のために十分な時間を取ることが難しい状況が生じます。よって、予防接種とがん化学療法、双方の面から、それぞれの特性、必要性、影響等を十分に評価する必要があり、個別に専門的な判断が要求されます。


Q13:生ワクチンの同時接種はMRワクチンがありますが、それぞれの生ワクチンを同時接種しない場合は27日以上あけることとなると思います。同時でなければ27日以上あけなければならない理由に関してワクチンの有効性や安全性に関与する免疫のメカニズムなどがありましたらをご教示いただけないでしょうか。

A13:麻疹、風疹のワクチンは生ワクチンであるため、予防接種後には、実際のウイルスの感染により近い形で、抗体を獲得するための免疫反応が体内で生じます。よって、生ワクチンの接種を実際の病気に置き換えて考えてみると良いかもしれません。つまり、病気になった後(1回目の予防接種)、十分な免疫を獲得して体の状態が回復しないうちに(27日間以内)、次の感染が生じると(2回目の予防接種)、通常よりも症状(副反応)が強く出たり、回復までの経過(免疫獲得)が順調にいかなかったりすることが考えられます。


Q14:B型肝炎ワクチンに対するNone−Responderについて教えてください。
現在院内の職業感染対策マニュアルを作成していますが、1クール目で抗体価が      10mU/mLにならない場合、以前は2クール目にはアジュバンド含有ワクチンを使う方法もありましたが、現在は販売していません。2クール接種後も十分な抗体価を得られなかった職員が血液暴露した場合、HBIGに加えて、リスクに応じてワクチンを再再接種する必要はあるのでしょうか?

A14:全体の10%程度とされるB型肝炎ワクチンのnon-responderでは、再度の適切に3回接種を実施した場合にも、約半数の方が抗体を獲得できないとされ、そのような方に予防接種を繰り返す(7回目の接種をする)メリットは少ないと考えられています。ただし、抗体陰性者がB型肝炎ウイルスに曝露したことが明らかな場合には、少しでも発症のリスクを低下させることが重要であり、過去の接種歴とは無関係に、HBIGの他、再度のワクチン接種を行うことが望ましいと考えられます。


Q15:予防接種後の発熱や皮診を主訴に救急外来を受診した場合、アナフィラキシーや他の感染が明らかにないことを確認したら経過観察でよいのでしょうか?小児科の先生のフォローは必要ですか?

A15:発熱や皮疹も程度や性状により、様々な可能性が考えられます。また、既に救急外来を受診している状況であれば、受診された方は日常生活への支障があるなどの理由で、医療機関を受診する必要があると判断した背景が考えられ、医師が病態を評価することが望ましいと考えられます。
また、予防接種時には、生じうる副反応とその対応について、被接種者に十分な情報提供を事前に行っておくことも同様に大切です。


Q16:予防接種の知識は、アップデートが早いですが、おすすめのサイトを教えてください。

A16:国際標準的な専門的知識を得たい場合には、米国の予防接種諮問委員会のホームページが参考になります。日本語で医療従事者向けのワクチンの知識を勉強するには、日本ワクチン産業協会が毎年発行している「予防接種に関するQ&A」が有用です。一般の方に向けたワクチン情報としては、「KNOW VPD!」というホームページは分かりやすいかもしれません。
ワクチンは見方によっては良いものにも、悪いものにも見えることがあるため、情報を収集するにあたって重要なことは、発信されている情報の結論のみではなく、できるだけ医学に基づいた客観的な根拠となる情報を収集することであるように思います。そういった意味において、上級編かもしれませんが、最もおすすめできるサイトは世界の最新の論文を検索できる「PubMED」です(もちろん論文の批判的吟味も必要ですが)。

参考情報:
米国疾病管理予防センター 予防接種諮問委員会(英語)
http://www.cdc.gov/vaccines/acip/index.html
予防接種に関するQ&A (日本ワクチン産業協会)
http://www.wakutin.or.jp/medical/index.html
KNOW VPD!
http://www.know-vpd.jp/
PubMED(英語)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed



Q17:30分以上経過してからの副反応で、症状が強い場合の対処方法について。
医療機関を受診するとありますが、医療機関での具体的な対処方法を教えて下さい。

A17:診療現場では、まず発熱や局所反応などの有害事象について一般の診療と同様に評価を行います。予防接種後の有害事象にはワクチン接種によるものと、病気など全く別に原因があるものがあるため、その鑑別を可能な範囲で行う必要があります(確実な鑑別は困難なので両方の可能性を考えながら診療を行います)。一般に予防接種による有害事象は数日から1週間程度で自然に改善することがほとんどなので、日常生活に支障がある程の症状でなければ経過観察が可能です。そうでない場合には、所見に応じて通常の診療と同様に必要な検査、再評価、加療を行います。


Q18:授乳婦への風疹ワクチンへの影響で母乳中への影響はないといわれましたが、以前ポリオ生ワクチンの子供への接種で親への感染が話題になったことがあります。授乳婦への接種で、乳児への感染リスクも影響ないのでしょうか。

A18:正確に表現するとワクチン接種後の授乳により、児への影響が生じたとする報告はありませんが、母乳に対するワクチン影響が全くないとは限りません。全体のリスクとベネフィットを評価して判断する必要があります。
ポリオウイルスは主に腸管に感染するウイルスなので、経口生ワクチンによる母乳への影響は風しんワクチン同様に軽微であり、授乳による児への影響はないと考えられます。
一方で、黄熱ワクチンのように授乳により児への影響が報告されているワクチンもあるので、全ての生ワクチン接種が授乳による児への影響がないというわけではありません。


Q19:スライドに補足して免疫グロブリン投与時の予防接種投与間隔について言及してらっしゃいましたが、聞き洩らしてしまったので、教えていただけないでしょうか。

A19:Q13でお答えした内容と似ていますが、生きた病原体を用いたワクチン(生ワクチン)を接種することによる免疫獲得は、疑似的な感染を体内で生じさせる過程で成立します。免疫グロブリンの注射などにより、既に体内に抗体がある(受動免疫)と、その注射によって獲得された免疫が反応してしまい、自分の力で抗体を産生する過程(能動免疫)が妨げられてしまいます。免疫グロブリンを使用した後、どの程度の期間、生ワクチンの接種を控える必要があるかどうかについては、使用した免疫グロブリンの種類(半減期)や量などによっても異なります。多くの場合は3ヵ月以上、長い場合は1年近く生ワクチンの接種に影響を及ぼすことになります。ただし、RSウイルスに対するモノクローナル抗体(シナジス)や抗体を取り除いた洗浄赤血球の輸血による影響はないとされ、不活化ワクチンの接種についても免疫の干渉を理由に接種間隔をおく必要がありません。
逆に生ワクチンを接種後に免疫グロブリンを使用する場合には、接種したワクチンによる免疫獲得の過程に干渉しないように、2週間以上の期間を置く必要があります。


Q20:基礎からタイムリーな症例までわかりやすいご講演ありがとうございました。
もう一度風疹の予防対策について確認したいのですが、風疹の罹患歴がある方や罹患歴があいまいな方(男女ともに)、20代の女性で子供のころ一度接種を受けた方も2回接種を受けたほうが良いということでよろしいでしょうか?
基本的な質問で恐縮ですが、よろしくお願いします。

A20:Q7, Q8でお答えした内容と関連しますが、結論としては、全く予防接種を受けたことがない、またはウイルスへの曝露の機会もなかった方で、今後妊娠を考えているなどの理由で、より確実に予防を行いたい方以外では1回の予防接種でも一般には十分な予防効果が期待できます。また、予防接種を受けていない年代の方でも約85%の方が、子供のころに自然に感染するなどの理由で既に抗体を保有しているというデータもあります。
上記のことから予防接種以外にも、血液検査による風疹に対する抗体の有無を調べる方法も、料金がワクチン接種よりも安い(助成がなければ)、抗体の有無を直接確認できる、多くの方は予防接種が不要であり接種による副反応を避けられるなどの理由で、有効な予防対策の選択枝であると考えられます。一方で、抗体検査には検査が直接予防に結びつかない、結果が出るまでに1週間程度の時間がかかる、結果が陰性であれば再度医療機関を受診して予防接種を受ける必要があり、手間や費用が余計にかかるなどのデメリットもあるので、抗体検査を勧める際には十分に説明し理解を得る必要があります。


Q21:同時接種の『同時』とはどれくらいの時間の幅をいうのでしょうか?例えば午前10時ごろある医療機関でAというワクチンを接種し、同日の午後7時ごろ別の医療機関でBというワクチンを接種することは可能でしょうか?

A21:同時接種の定義ですが、同時なので基本的には同じタイミングで接種を受けることを指すと考えられます。一方で、国内と国際的に認められている接種間隔には違いがあり、不活化ワクチンの接種などでは予防接種後1週間以内に次のワクチンの接種が国際的には認められていることから、国際標準的な診療として、予防接種後の同日に別の医療機関で接種が行われることがあり、それを国内向けに説明する際には同時接種と表現することもあると考えられます。よって、生ワクチン同士の接種であれば、国際標準的にも4週間の接種間隔が必要ですから、同日であってもそれを同時接種と呼んで同日に接種を行う根拠には乏しいのではないかと思います。Q22の回答も併せてご覧ください。


Q22:基本的な質問ですが、同日に数本接種する同時接種は臨床ではよく行われていると思いますが、同日の複数接種でない場合に、生ワクチンでも不活化ワクチンでも一定の間隔を置かなければいけないのはなぜでしょうか。

A22:Q13, Q22でお答えした回答とも関連しますが、国際標準的に明確に接種間隔をおく必要がある予防接種は生ワクチン同士の接種に限られます。国内で不活化ワクチンを含めて接種間隔をおいている理由としては、予防接種により生じる副反応が不活化ワクチンであれば1週間以内、生ワクチンであれば4週間以内に生じることが多く、その期間に別のワクチンを接種してしまうと、生じた有害事象が接種されたどちらのワクチンにより生じたものか判断することが難しくなってしまうためと考えられます。
どちらの方法が正しいか正しくないかというひとつの答えはなく、お互いのメリット、デメリットを総合的に判断する必要があると考えます。


Q23:わかりやすく実践的な講義を有難うございました。BCGワクチンについて教えて下さい。
2013年4月1日に日本小児科学会がBCGの接種推奨期間を生後5ヶ月〜8ヶ月に変更しました。
今までBCG接種のために他のワクチンの接種がたびたび遅れていましたので、大変喜ばしい変更と考えています。ただ、運用については名古屋市では変化がなく、子供たちは変更前と同様3ヶ月健診でBCGを受けています。東京ではどのような状況でしょうか?また今後BCG接種を5ヶ月以降に誘導するために現場レベルでどのように働きかければよいのでしょうか。

A23:BCGの予防効果は乳幼児の結核性髄膜炎、播種性結核などに限られるため、早期の接種を促す目的で2005年度より接種期間を4歳までから生後6ヵ月までに変更されました。しかし、その後にBCG接種後の骨炎・骨髄炎の副反応発生が増加した背景から、生後早期のBCG接種との関連を疑う指摘もあり、予防接種ガイドラインの記載において、接種可能時期が生後6月未満までから生後1歳未満までに引き上げられました。
接種するタイミングについては、それぞれにメリットとデメリットがあります。Q9にも関連しますが、適切な接種方法は地域の疫学データにより異なります。例えばWHOは生後すぐに結核に感染してしまうリスクの高い発展途上国もあることから、BCGはB型肝炎ワクチンと同様に出生直後の接種を推奨しています。接種のタイミングが遅くなれば、接種による副反応のリスクを下げることができますが、接種による予防効果は必要な時期に予防される期間が短くなるというジレンマがあるわけです。
定期接種は予防接種法に基づいて、各市区町村の事業として行われています。厚生労働省は定期接種実施要領にて、標準的接種時期を生後5月に達した時から生後8月に達するまでと定めていますが、同時に「結核の発生状況等市町村の実情に応じて、上記の標準的な接種期間以外の期間に行うことも差し支えない。」と記載しています。
よって、それぞれに地域における結核のリスク、接種実施の効率、副反応のリスク、他のワクチン接種への影響などを総合的に考えて、それぞれの地域にとって異なる最善の接種時期が生じると考えられます。
東京における事情に詳しいわけではありませんが、東京においても各市区町村が接種時期を定めることが可能であり、名古屋市では名古屋市において最善と考えられるBCG接種時期について全体で検討を行い、意見の一致を得るための過程が必要とされるのかもしれません。

参考情報:
定期接種実施要領(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/teiki-yobou/07.html
第23回予防接種部会資料 BCG接種時期の見直しについて(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ones-att/2r9852000002onjx.pdf 
BCG Vaccine position paper (WHO)
http://www.who.int/wer/2004/en/wer7904.pdf

----------------------------------

Viewing all articles
Browse latest Browse all 3238

Trending Articles