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Channel: 感染症診療の原則
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中国で珍しいインフルエンザ・・・ニュースのインパクト

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以前にもかきましたが、、、

自分が見ている情報はどのレベルなのか。

<真実>
1次情報:誰かの認知や言葉を介して特定の事実が伝わる最初のところ。真実や事実を直接見聞きしたひとによるもの。
2次情報:1次情報をもとに別の問題意識や認知で再構成されたもの。
3次情報:2次情報を見ての誰かの反応や意見.
そのあとも4次、5次、、、とつたわっていきます。途中で伝言ゲーム的にずれていきますが、それぞれの情報の差異は、受け取る人の認知の仕組みや好みにもよります。

なので、あれ?おかしいな、とかなんでだろう、と思ったら、あるいは職業柄適当なことは言えないひとたちは1次、2次情報くらいにあたらなくてはなりません。

感染症系の情報については、メディアが「犠牲者、ヒーロー、おどろおどろしいよくわからない病原菌」を好むという特性を踏まえて読むことが大事です。
タイトルに「殺人ダニ」とか「殺人ノロ」とか書いちゃうのもその典型。


見ている数字は全体のどのあたりなのか。





新しいコロナウイルス(ロンドンなんとか、とか暫定で名前がついたけど皆使いませんね)での呼吸器感染症の事例がニュースになっています。ニュースになるのは、感染をして(感染する人はおそらくたくさんいる)、発症をして(一定数の人は発症するけれど全員が発症するとはかぎらない)、さらに重症化して、大きな病院にいって、そこの医師が「もしかして」と詳しい検査を思い立って、特別な検査機関が「検査してもいいよ。送って」といって、検査してもらえてわかった場合に「○○ウイルスでした」とわかります。

発症していない、病院にいくほどでもない人は分母に入りませんし、受診しても多くの場合は「インフルエンザ様の感染症」ですね、といわれて、(多くの国では日本のようにAかな?Bかな?と検査しない)症状が治まる程度ならそれで終わりです。

インフルエンザでもないし、マイコでもないし、何かしらーというさぐりがあってはじめてわかる新しい感染症。
そして新しく認知された感染症は、どれくらい地域で流行があるのだろうということを調べたくなりますが、そのためには住民など一定の集団の血液を調べることが必要になります。

Serological Surveillanceといいます。血液下さい、ですから倫理審査とかいまどきはけっこうたいへんです。
(健康診断の残りを、個人情報リンクをはずしてさせてもらうというのが一般的)
Serological surveillance reveals widespread influenza A H7 and H9 subtypes among chicken flocks in Egypt

発症した人や重症の人だけみていると、なんだかスゴいコワイウイルスじゃね?という話になります。
5人ICUに運ばれて4人死んだ。致死率80%!ぎゃー!というのと、
500人感染して、体調わるーという人が300人いて、受診したのが100人で、重症が10人で、5例がICUで、4例死んだだと、さて致死率は何%ですか?

一番重要なのは、自分や社会へのリアルなインパクトです。

Two die in Shanghai from H7N9 bird flu, first cases of human infection


今ある情報ですと、中国で、H7N9感染で、27歳(動物の肉を扱う仕事)と87歳(病気の鶏との接触あり)が2人死亡。どちらも上海から来たそうです。二人に疫学的リンクなし。
ほかにも感染している人がわかっているのは35歳で重症。別の地域。

接触者90名近くは健康観察で特に問題なし。といった情報。

Associate PressにあるWHO関係者のアセスメントは、"There is apparently no evidence of human-to-human transmission, and transmission of the virus appears to be inefficient, therefore the risk to public health would appear to be low," O'Leary said. とのことです。


(リスクを高く見積もる場合は、輸入禁止、渡航禁止、出張禁止、帰国禁止とかありますが、どのあたりの根拠を採用するか)


調べたから分かった○○ウイルスをおびえてもしょうがありません。「初の感染か?」かどうかも現時点ではわかりません。

動物のインフルエンザウイルスがヒトにも感染したり、広がりやすくなるためには遺伝子レベルでいろいろ変化していく必要があります(変異)。ウイルスが生き延びるための知恵というと擬人化しすぎでしょうけれど、そういった狡猾な側面をいろいろな研究が示唆しているわけです。

侵入口であるノドの粘膜のところで増える最適温度というのがあって、鶏と人間では体温がことなりますが、フェレットで増殖すると危険視されていたりします。

Pathogenesis, transmissibility, and ocular tropism of a highly pathogenic avian influenza A (H7N3) virus associated with human conjunctivitis.

Virus from both H7N3 and H7N9 subtypes replicated efficiently in the upper and lower respiratory tract of ferrets, however, only MX/7218 virus infection caused clinical signs and symptoms and was capable of transmission to naïve ferrets in a direct contact model.

どういう部位がどうなると、どうなる、ということは基礎の先生方が日々研究されています。

Pathogenesis and transmissibility of highly (H7N1) and low (H7N9) pathogenic avian influenza virus infection in red-legged partridge (Alectoris rufa)

Digital genotyping of avian influenza viruses of H7 subtype detected in central Europe in 2007–2011


ニュースで、へえ、、、と思っても、その後臨床や家庭で何ができるかというと、何もありません。
もちろん何かすぐ影響が出るわけでもありません。

呼吸器症状がある人だったら、「インフルエンザだね」とか、ぼつぼつがあるから「風疹だろう」ときめつけないで、いろいろな可能性を考えて予防策をとっておくことです。

いま、日本の地方空港は中国やアジアの主要都市に直行便がとんでいますから、現地で流行する人や動物の感染症がその日のうちにはいってきたりします。もっとも情報がたくさんあったとしても、とりうる対策というのはそうたくさんあるわけでもありません。
地道なことを地味に続けたいとおもいます。


検疫?水際?
ある程度有効なこともあるかもしれませんが、感染症には症状がまったくない「潜伏期間」があって、ちょうどいいかんじに症状が出た時に空港を通過するとはかぎりませんので、そこに集中的にお金や人を投下しても効率的ではありません。

そうはいってもこわいじゃんか!という人には、「平時からの危機管理」をおすすめします。
つまり、基本的なことができてないのに、すげーコワイ病気だけなんとかできるぜ!とはならないからですね。
呼吸器系の感染症をひろげないためには「せき/くしゃみエチケット」を職場や学校で地道に普及すること。
予防できる方法のある感染症はワクチンで予防しておくこと。

そういった基本的なことをやったうえで、次の課題にいけるわけです。

因数分解をときたかったら、九九を憶えましょう。
英語を話したかったらまるアルファベットから。


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