春から感染症フェローとして新しい生活が始まるM渡先生のシカゴ修行録です♪
(文中の色や拡大の強調は編集部によるもの)
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NFIDのClinical Vaccinology Course, March 2013に参加して
参加にあたって
去る3月8〜10日、私はHyatt Regency Chicagoで行われたClinical Vaccinology Courseに参加いたしました。これまでは血液内科の傍らで、HIV、敗血症や肺炎などの感染症を診てきました。そして本格的に感染症を勉強しようといよいよ決意して半年、何から手を着けたらいいのかよくわからないまま過ぎていく焦りの中、この“感染症診療の原則ブログ”で本コースの存在を知り、予防の勉強をしよう!と思い立ったのでした。
もうすぐアラフォーというのに、海外渡航経験ゼロという希少人種である私にとって、アメリカへの単身渡航は若干の(大変な)不安はあったのですが、1月21日までに申し込むと安いというこのブログ編集部の意見(記載)に素直に従い、後戻りできないよう、早々と航空チケットとコースの申し込みを済ませたのでした。
というわけで、初めての海外、英語は中学時代の英検3級止まり、ワクチンについても初心者という状態で、一人Chicagoに乗り込んだのです。
これは、そんな初心者の人がまだいれば、少しでも励みになればと思って私の渡航記録をつれづれなるままに記したものです。
なんとか無事ホテルへ
出来立てほやほやのパスポートを出す仕草からたどたどしい自分でしたが、Chicagoに着いてしまえば、広告も案内板も英語、あたりまえですが、入国審査がえいご〜と思って自分の番が来るのをびくびくしていました。これまで学会で英語のシンポジウムなどを聴くことはありましたが、nativeな発音が全然聴き取れず、入国審査の並び口を指示するお姉さんが、“twenty”と言っているのに最初は“fourteen”に聴こえて、14番は開いていないのになぜ?というところから打ちのめされました。
それでも並んでいるうちに数字が聴き取れるようになり、自分の番が来ました。審査官に何しに来たと言われて、sightseeingとでも言えばよかったものの、頭が真っ白になっていると「観光」という言葉すら浮かばず、 “study”と言ってしまったために、そこから根掘り葉掘り聞かれました。最初は“vaccine”と言っても理解してもらえず、“prevent measles, rubella, influenza…”と並べ立てたところで、審査官が“vaccination!”と理解してくれて、話が通じました。職業や行先もいぶかしげな顔で尋ねられましたが、National Foundation for Infectious Diseaseという名前を出したらどうやら信用してくれたようでした。
無事入国したところで、今度はホテルまでの道のりの選択に迫られました。ガイドブックにはdowntownへは乗合バスがすすめられていましたが、宿泊するホテルまで直接行ってくれるのかどうかがわからず、バスの申し込み手続きを英語で話すのが億劫で、タクシーの方が一人で気を使わずにいられて楽かもと安易な発想でタクシーを選択しました。運転手は黒人のお兄さんで、行先は理解してくれたものの、運転中ずっとイヤホンで電話しており、それも英語ではない言語をまくしたてていてなんとなく不安になってきました。そして、日本のタクシーに比べると急ブレーキの頻度が多く、私は段々車酔いしてきたものの、気持ち悪いから止まってくれとも言えず、前の座席の背面にかけられていたオプション料金表に“Vomitting Cleaning $50.0”と記載されているのを見つけ、なんとしてでも吐くまいと念じて目をつぶってホテルまでどうにか到着しました。
いよいよcourse開始
到着翌日、目的のcourse初日を迎えました。7時15分からcontinental breakfastつきでregistrationを行い、名札とシラバス集と鞄をもらい8時15分からレクチャー開始でした。スライドは登録してある者には、前もってメールが来て、confirmation numberを入力するとHPから電子ファイルで大半が入手可能です(とりあえず去年のもの、というのもありますが後日今年のものが更新されて4月末まで入手可能です)。私はiPADでDropboxのお気に入り(オフラインでもファイルが見られるところ)に入れておいたのが役に立ちました。というのも、ホテルの部屋でWi-Fi使うだけなら一日1000円ちょっとで契約できますが、カンファレンス会場でもWi-Fi使用できるように契約するとなると一日3000円以上かかり、あらかじめPCやiPADにオフラインで使えるようセットアップしていくことがおすすめです。
会場は200人が余裕で入る規模で、スライド画面は大きいものの細かい表などは見えづらい部分もあるので、自分としてはiPADがとても役に立ちました。そして、前もってスライドで予習できたことで、英語があやしい自分でも内容にある程度ついていけました。
また、最近では日本でもよく使われる、アナライザーシステムのハンドセットが参加者に配られ、時おり演者から質問が投げかけられ回答番号を投票するので、集中力が途切れづらくついていきやすかったです。
開始の挨拶の時にアナライザーシステムの練習がてら質問された内容で、参加者のcharacterがわかりました。8割近くアメリカ国内からの参加で、次に多いのがカナダでした。アジアおよび太平洋諸島ひっくるめられての参加者が全体の3%程度で、私以外の日本人をみつけることはできませんでした。職業はphysicianとnurseが半々で、このcourseに初めて参加するという人が8割でした。
初日は、なぜワクチンが必要なのかということや、ワクチンをいやがる親にどのように説得・交渉するかということや、routineのワクチン接種率が全米で6割程度という現状を改善しなければということが熱く語られていました。ワクチン接種率の向上対策の一環で、アメリカでは薬剤師がワクチンを接種できるようになっており、実際ChicagoのPharmacyはどこの店にも“FLU SHOT EVERYDAY !”と看板が出ているのが目につきました。また、複数回投与が必要なワクチンにおいて、完遂率の低さも問題視されており、特にHPVなどは、親が子どもの性的活動性を低く見積もって必要ないと判断して途中でやめてしまうことが多いということ、しかし曝露前に接種完了しなければ意味がないということも強調されていました。
1日目の後半から各論が出てきて、3日間で髄膜炎菌、RSV、肺炎球菌、HPV、百日咳、Rotavirus、Influenzaが取り上げられました。その他に、ワクチンの副反応のレポートシステム、禁忌、コンビネーション可能なものについての演題がありました。
2日目は8時から17時45分までと長く疲れた部分はありますが、1日目よりリラックスしていたので、隣の人と少し話ができました。隣の方はもともとnurseで、現在は3万人の学生をかかえる大学のHealthcare coordinatorをしているとのことでした。ワクチンを打っても抗体価が上がらない学生をどうしたらいいのか、それがbig problemだと言っていました。おそらくそういった問題は、全体の接種率を向上させて、抗体ができにくい人や条件によってワクチンが打てない人を間接的に守るという部分を期待するしかないのではと思いました。そういったindirect effectもワクチン政策において重要な部分だとcourse内でも言われていました。
Course 3日目は、Chicagoではサマータイムに切り替わる日(3月第二日曜日)にあたっており、なおかつ開始時刻が7時ということで、前日に比べると実質2時間早く開始でした。米国内でもサマータイム制度が異なるため遅刻してきた人もいて、お茶目な方にChicago timeで今は何時ですか?とこっそり質問されたりしました。
3日目の内容はcourseの総まとめのようなcase conference中心のレクチャーがあり、その後、特殊な領域として、免疫不全者(HIV、移植後、化学療法施行中)のワクチンの考え方、最後にトラベルワクチンについて講義がありました。
Chicagoでの楽しみ
巨大な街、Chicagoにただ行くだけではもったいないと思い、courseの前後を使ってシカゴ美術館を訪問したり、市内中心部にあるPicassoの巨大作品(無題:有名なHead of a womanから模型化したような像)をこの目で確かめてきました。また、滞在最後の夕べにはChicago symphony centerにて、子どもの頃からの憧れだったAnne-Sophie Mutterのバイオリン生演奏をステージから5列目という間近で聴くことができ、不安の多かったChicago訪問がとても充実したもので幕を閉じたのでした。
ちなみに、空港までの帰り道は、来た時の教訓をもとに、ホテルから乗合バスを利用して、タクシーよりも安く快適に移動できました。
最後に
今回のcourseは内容盛りだくさんではありましたが、初心者の私には、ワクチンの学問を系統的に勉強できるよい機会となって、よくわからないで申し込んだものの大変儲けものでした。できれば、演者の方のjokeがわかるくらい英語をもっと勉強して、また参加したいと強く思いました。今後、ワクチンの勉強を始めたい方、おさらいしたい方、知識をアップデートしたい方がいれば、時間を作って是非参加されてはいかがでしょうか。
あらかじめcourse登録者には事前登録された他の参加者の名前、連絡先、メールアドレスなどがHPで見られるようになるので、日本人参加者が他にいれば日本人同士で連絡を取り合って行くのも楽しいかもしれませんが、私のようなすべてにおいて初心者でも一人でなんとかなったので、志さえあればなんとかなるでしょう!
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M渡先生、レポートありがとうございます。ご無事のお帰り何よりです。
春から優しく♪予防接種お願いします。
(文中の色や拡大の強調は編集部によるもの)
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NFIDのClinical Vaccinology Course, March 2013に参加して
参加にあたって
去る3月8〜10日、私はHyatt Regency Chicagoで行われたClinical Vaccinology Courseに参加いたしました。これまでは血液内科の傍らで、HIV、敗血症や肺炎などの感染症を診てきました。そして本格的に感染症を勉強しようといよいよ決意して半年、何から手を着けたらいいのかよくわからないまま過ぎていく焦りの中、この“感染症診療の原則ブログ”で本コースの存在を知り、予防の勉強をしよう!と思い立ったのでした。
もうすぐアラフォーというのに、海外渡航経験ゼロという希少人種である私にとって、アメリカへの単身渡航は若干の(大変な)不安はあったのですが、1月21日までに申し込むと安いというこのブログ編集部の意見(記載)に素直に従い、後戻りできないよう、早々と航空チケットとコースの申し込みを済ませたのでした。
というわけで、初めての海外、英語は中学時代の英検3級止まり、ワクチンについても初心者という状態で、一人Chicagoに乗り込んだのです。
これは、そんな初心者の人がまだいれば、少しでも励みになればと思って私の渡航記録をつれづれなるままに記したものです。
なんとか無事ホテルへ
出来立てほやほやのパスポートを出す仕草からたどたどしい自分でしたが、Chicagoに着いてしまえば、広告も案内板も英語、あたりまえですが、入国審査がえいご〜と思って自分の番が来るのをびくびくしていました。これまで学会で英語のシンポジウムなどを聴くことはありましたが、nativeな発音が全然聴き取れず、入国審査の並び口を指示するお姉さんが、“twenty”と言っているのに最初は“fourteen”に聴こえて、14番は開いていないのになぜ?というところから打ちのめされました。
それでも並んでいるうちに数字が聴き取れるようになり、自分の番が来ました。審査官に何しに来たと言われて、sightseeingとでも言えばよかったものの、頭が真っ白になっていると「観光」という言葉すら浮かばず、 “study”と言ってしまったために、そこから根掘り葉掘り聞かれました。最初は“vaccine”と言っても理解してもらえず、“prevent measles, rubella, influenza…”と並べ立てたところで、審査官が“vaccination!”と理解してくれて、話が通じました。職業や行先もいぶかしげな顔で尋ねられましたが、National Foundation for Infectious Diseaseという名前を出したらどうやら信用してくれたようでした。
無事入国したところで、今度はホテルまでの道のりの選択に迫られました。ガイドブックにはdowntownへは乗合バスがすすめられていましたが、宿泊するホテルまで直接行ってくれるのかどうかがわからず、バスの申し込み手続きを英語で話すのが億劫で、タクシーの方が一人で気を使わずにいられて楽かもと安易な発想でタクシーを選択しました。運転手は黒人のお兄さんで、行先は理解してくれたものの、運転中ずっとイヤホンで電話しており、それも英語ではない言語をまくしたてていてなんとなく不安になってきました。そして、日本のタクシーに比べると急ブレーキの頻度が多く、私は段々車酔いしてきたものの、気持ち悪いから止まってくれとも言えず、前の座席の背面にかけられていたオプション料金表に“Vomitting Cleaning $50.0”と記載されているのを見つけ、なんとしてでも吐くまいと念じて目をつぶってホテルまでどうにか到着しました。
いよいよcourse開始
到着翌日、目的のcourse初日を迎えました。7時15分からcontinental breakfastつきでregistrationを行い、名札とシラバス集と鞄をもらい8時15分からレクチャー開始でした。スライドは登録してある者には、前もってメールが来て、confirmation numberを入力するとHPから電子ファイルで大半が入手可能です(とりあえず去年のもの、というのもありますが後日今年のものが更新されて4月末まで入手可能です)。私はiPADでDropboxのお気に入り(オフラインでもファイルが見られるところ)に入れておいたのが役に立ちました。というのも、ホテルの部屋でWi-Fi使うだけなら一日1000円ちょっとで契約できますが、カンファレンス会場でもWi-Fi使用できるように契約するとなると一日3000円以上かかり、あらかじめPCやiPADにオフラインで使えるようセットアップしていくことがおすすめです。
会場は200人が余裕で入る規模で、スライド画面は大きいものの細かい表などは見えづらい部分もあるので、自分としてはiPADがとても役に立ちました。そして、前もってスライドで予習できたことで、英語があやしい自分でも内容にある程度ついていけました。
また、最近では日本でもよく使われる、アナライザーシステムのハンドセットが参加者に配られ、時おり演者から質問が投げかけられ回答番号を投票するので、集中力が途切れづらくついていきやすかったです。
開始の挨拶の時にアナライザーシステムの練習がてら質問された内容で、参加者のcharacterがわかりました。8割近くアメリカ国内からの参加で、次に多いのがカナダでした。アジアおよび太平洋諸島ひっくるめられての参加者が全体の3%程度で、私以外の日本人をみつけることはできませんでした。職業はphysicianとnurseが半々で、このcourseに初めて参加するという人が8割でした。
初日は、なぜワクチンが必要なのかということや、ワクチンをいやがる親にどのように説得・交渉するかということや、routineのワクチン接種率が全米で6割程度という現状を改善しなければということが熱く語られていました。ワクチン接種率の向上対策の一環で、アメリカでは薬剤師がワクチンを接種できるようになっており、実際ChicagoのPharmacyはどこの店にも“FLU SHOT EVERYDAY !”と看板が出ているのが目につきました。また、複数回投与が必要なワクチンにおいて、完遂率の低さも問題視されており、特にHPVなどは、親が子どもの性的活動性を低く見積もって必要ないと判断して途中でやめてしまうことが多いということ、しかし曝露前に接種完了しなければ意味がないということも強調されていました。
1日目の後半から各論が出てきて、3日間で髄膜炎菌、RSV、肺炎球菌、HPV、百日咳、Rotavirus、Influenzaが取り上げられました。その他に、ワクチンの副反応のレポートシステム、禁忌、コンビネーション可能なものについての演題がありました。
2日目は8時から17時45分までと長く疲れた部分はありますが、1日目よりリラックスしていたので、隣の人と少し話ができました。隣の方はもともとnurseで、現在は3万人の学生をかかえる大学のHealthcare coordinatorをしているとのことでした。ワクチンを打っても抗体価が上がらない学生をどうしたらいいのか、それがbig problemだと言っていました。おそらくそういった問題は、全体の接種率を向上させて、抗体ができにくい人や条件によってワクチンが打てない人を間接的に守るという部分を期待するしかないのではと思いました。そういったindirect effectもワクチン政策において重要な部分だとcourse内でも言われていました。
Course 3日目は、Chicagoではサマータイムに切り替わる日(3月第二日曜日)にあたっており、なおかつ開始時刻が7時ということで、前日に比べると実質2時間早く開始でした。米国内でもサマータイム制度が異なるため遅刻してきた人もいて、お茶目な方にChicago timeで今は何時ですか?とこっそり質問されたりしました。
3日目の内容はcourseの総まとめのようなcase conference中心のレクチャーがあり、その後、特殊な領域として、免疫不全者(HIV、移植後、化学療法施行中)のワクチンの考え方、最後にトラベルワクチンについて講義がありました。
Chicagoでの楽しみ
巨大な街、Chicagoにただ行くだけではもったいないと思い、courseの前後を使ってシカゴ美術館を訪問したり、市内中心部にあるPicassoの巨大作品(無題:有名なHead of a womanから模型化したような像)をこの目で確かめてきました。また、滞在最後の夕べにはChicago symphony centerにて、子どもの頃からの憧れだったAnne-Sophie Mutterのバイオリン生演奏をステージから5列目という間近で聴くことができ、不安の多かったChicago訪問がとても充実したもので幕を閉じたのでした。
ちなみに、空港までの帰り道は、来た時の教訓をもとに、ホテルから乗合バスを利用して、タクシーよりも安く快適に移動できました。
最後に
今回のcourseは内容盛りだくさんではありましたが、初心者の私には、ワクチンの学問を系統的に勉強できるよい機会となって、よくわからないで申し込んだものの大変儲けものでした。できれば、演者の方のjokeがわかるくらい英語をもっと勉強して、また参加したいと強く思いました。今後、ワクチンの勉強を始めたい方、おさらいしたい方、知識をアップデートしたい方がいれば、時間を作って是非参加されてはいかがでしょうか。
あらかじめcourse登録者には事前登録された他の参加者の名前、連絡先、メールアドレスなどがHPで見られるようになるので、日本人参加者が他にいれば日本人同士で連絡を取り合って行くのも楽しいかもしれませんが、私のようなすべてにおいて初心者でも一人でなんとかなったので、志さえあればなんとかなるでしょう!
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M渡先生、レポートありがとうございます。ご無事のお帰り何よりです。
春から優しく♪予防接種お願いします。