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Channel: 感染症診療の原則
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次世代 分子疫学技術/情報 と その周辺

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科学技術の進歩はめざましく、以前はわからなかことがわかるようになり、それは個人や社会を助け、そして新しい技術への適応という課題となって専門家(集団)に新たな問いかけをしています。

たとえば、MRSAや結核が院内で同時期に複数病等で問題になりました。

これは手指衛生が不足しておこったことでしょうか。誰かが運んだ「伝播」でしょうか。
それとも、本当は別々のルートで入ってきたMRSAがたまたま同時期に検出されているだけでしょうか。

誰かがソースとなって皆に拡大したのでしょうか?
元々感染していたヒトが基礎疾患などが重症化したり治療の影響を受けて再活性化したものでしょうか。
あらたな感染でしょうか。

それがが同じものなのか、違うルートでの拡大を示唆するのかは、今では遺伝子情報を見て判断することになっています。
もっとも、その検査をオーダーする先はどこか?お金はどれくらいかかるのか?もどってきた情報を解釈できるひとがいるのか?など施設による差もでてくるかもしれません。

また、その検査が可能だとしてなんでもかんでも調べればいいというものでもありません。
リソースには限りがあります。

となると、どのような状況で、どのような検体をどれくらい集めることが重要で、選択すべき検査はなんなのかを感染管理や公衆衛生に関わる人たちが学んでおく必要があります。

学んでも、常に技術は進歩しているので、自分が数年前に勉強した知識て足りるのか?という不安も生じます。

先週1週間、国立感染所研究所FETPで集中講義をされていたライリー先生の講義は、このような問題を感染症対策に関わる医療従事者や公衆衛生関係者のために整理をする内容でした。
講義、事例(アウトブレイクでの調査手順、解釈のポイント)を交互に学びました。

4年前に初めて受講したときも衝撃でしたが、4年後の今、日本で未だ学ぶ場所や機会がほとんどないことも驚きであります。

感染管理や感染制御を専門としている人たちや団体はこの技術をどう説明、教育していくのか。
環境感染学会などで情報収集をしてきたいと思います。

MRSAや結核などはかなり検証が進んでいる話題かもしれません。

2月16日に国立感染症研究所(新宿の方)で開催される、ライリー先生の特別講義は、医療関係者を多いに悩ませているグラム陰性菌について、どのように予防から介入、評価が現在可能なのかを説明するものです。

ぜひ、検査室の人をさそってご参加いただければと思います。

関連検査の概要や機序等をよく知らないという方の事前学習資料としてはワシントン大学の動画教材がおすすめです。


ところで、全遺伝子解析ができるようになり、それが短時間でできるようになったのはつい最近。
Bioinfomaticsをepidemiologyに応用してからまだ2年。

すべてが商業化されているわけではなく、使える国や施設もかぎられていますが、この数年で導入が広がるだろうことは予想されています。
米国では現在NIHバックアップのあるプロジェクトのみだそうですが、数年で広がるだろうとのことです。
この分野でアドバンテージがあるのは小さな国。イギリスや北欧では、特定の病原体についてすべて集めて全遺伝子情報をデーターベース化しはじめています。

米国はリサーチベースではいろいろとりくまれていますが、韓国や中国の検査会社が北米からの検体を受け取って解析しているそうです。日本の技術や関係者は今はどのあたりにいるのでしょうね。


病原体の全ゲノム情報を把握すれば、より有効なワクチン開発技術につながることも期待されています。

しかし、病原体の全ゲノム情報が迅速にわかったとしても、アウトブレイク調査がそれで片付く訳ではありません。

例えば、ドイツでおきたO104のアウトブレイク。全ゲノム情報の解析は3日で終わりました。菌の情報はわかったのですが、感染源と感染経路の特定には2カ月かかりました。
最新技術だけでは解決しない問題があります。


例えばハイチのコレラ。100年以上コレラフリーであったハイチでなぜコレラが流行したのか。
最初の仮説は自然災害のため、でした。しかし、菌の情報を解析すると、それはネパールからのものだとわかったそうです。また、全ゲノム情報を見ることができるため、2012年にはOgawaからInabaセロタイプにかわっていったことも把握されています。
High depth, whole-genome sequencing of cholera isolates from Haiti and the Dominican Republic
BMC Genomics
Volume 13 ,2012

従来の仮説にひきづられそうになるときに、別の視点を与えてくれます。

例えばカナダBCの結核のアウトブレイク。記述疫学によるSocial Networkの絵は大変複雑になりましたが、菌の全ゲノム情報を元に分類すると、きれいに2つのクラスターがみえました。
Whole-Genome Sequencing and Social-Network Analysis of a Tuberculosis Outbreak
N Engl J Med 2011; 364:730-739February 24, 2011


いまある次世代シークエンスの技術の一覧です。
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High-through-put next generation sequencing (2012)

Polony sequencing (Life Technologies)
454 pyrosequencing (Roche)
HiSeq sequencing (Illumina)
SOLiD sequencing (Life Technologies) 
※商業ベースで使えるのは現時点でこの4つ
ちなみに感染研のゲノムセンターはRocheとIlluminaが入っているそうです。

Ion semiconductor sequencing (Life Technologies)
DNA nanoball sequencing (Complete Genomics)
Helioscope (TM) single molecule sequencing
Single molecule SMRT(TM) sequencing
Single molecule real time (RNAP) sequencing
Nanopore DNA sequencing
VisiGen Biotechnologies approach
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今年の1月のEurosurveillanceの記事は、臨床と公衆衛生にどう応用していくのか?の特集がありました。
FROM THEORY TO PRACTICE: MOLECULAR STRAIN TYPING FOR THE CLINICAL AND PUBLIC HEALTH SETTING
Eurosurveillance, Volume 18, Issue 4, 24 January 2013


感染症関係者にお勧めの関連websiteはこちら(ライリー先生資料より)

Washington University The Genome Institute http://genome.wustl.edu/projects/

Broad Institute http://www.broadinstitute.org/

Baylor College of Medicine
Human Genome Sequencing Center and the Medical Genetics Laboratories of the Department of Molecular and Human Genetics
http://www.hgsc.bcm.tmc.edu/

Wellcome Trust Sanger Institute, Genome Research Limited http://www.sanger.ac.uk/


バイオインフォマティクスって何?  基本概念や実践については下記を参照。
  生命情報工学研究センター http://www.cbrc.jp/index.ja.html
  日本バイオインフォマティクス学会 http://www.jsbi.org/

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