冬休みがあけて、例年より少し早く流行本番に入ったよ、なインフルエンザの話題の続きです。
アポネットR研究会の2012年1月19日の記事タミフルの有用性に疑問(コクランレビュー)に紹介されているお話。
タミフルは、つらい症状の期間を約1日短縮するという個人レベルの効果はありますが、適用を広くして広く大量に使っても集団や社会のメリットを説明できる薬ではない、というのが最新のコクランレビューの評価です。
(反論がある場合は反証をする必要があります)
証拠や検証が不十分なのに過剰に処方するような動きがある。これはおかしくないか?です。
(タミフルの全否定ではありませんよ。必要としている人もいますから。広く、ストックしたり、幅広い対象に出したりする根拠は不十分ですよ、ということです)
こういった議論があることじたいは健全です。怖いのは思考停止。
新型インフル騒動のときも、日本感染症学会が出した情報について、現場の先生から質問が寄せられています。
日本感染症学会緊急提言
「一般医療機関における新型インフルエンザへの対応について」のご意見・ご質問(Q&A)
日本は世界で一番タミフルを使っている国ですので、処方に関係している医療者も多いはず。
ですから、皆が話題にして情報を広めていくのがよいとおもいます。ポリフォニー。思考も停止させないように。
もちろん、タミフルだけが問題なのではありません。実際にこの中立グループがしようとしていることは、Public Goodsとしての臨床(試験)関連データをどう扱うのか how to deal withの話です。
メーカーや、審査機関が非公開にするということはそもそも妥当性がなくなっていますので、生データ(1次データ)のところで誤解されたりメディアにミスリードされるようなリスクを仕組みとしてなるべく減らすような工夫が問われるのではないかと思います。
The Imperative to Share Clinical Study Reports: Recommendations from the Tamiflu Experience
PLOS Medicine
通常、一般医療関係者が特定の薬について知ろうと思ったら何をするでしょうか。
データベースをみたり、定評のあるジャーナルに掲載された論文を読んだり、薬剤師さんに相談したり、メーカーに聞いたりでしょうか。
このグループは、publishされた論文だけでは不足があるというスタンスです。
学部レベルで勉強するような基本的事項でいうと、まず「広報/発表バイアス」があります。期待する結果が出たら発表する。しかしnegative dataなら発表しないという態度を研究者やメーカー等の利益団体はとりがちです。
また、臨床試験や研究のプロトコールと、論文で扱っている数字や評価の期間(時間)が変わっていることもあります。「恣意的にデータを調整する」余地が残ります。
プロトコールでは観察期間が12カ月とあるのに、6カ月間のデータを論文発表したりということがあります。
長期に見たら安全性や、他の薬と比べての優位性がイマイチになるなら、そのようなデータ設定のところをいじって、見かけ上「よさそうな薬」にすることができます。
ですから、Same study, Different documentです。ジャーナルクラブで読んで行くだけでは不足、ということです。(その限界を知りながらの勉強作業として意味はもちろんあるんですよ)
じゃあ、何を読めというのか?
タミフルのある臨床試験[WPI6263]は、合計8545ページ文書があります。
このうちmodule 1は223 ページ、2は190ページ。
これくらいならよめますが、module3〜5は8122ページです。誰がどう読んだらいいのでしょう?
いや、それ以前の問題として、臨床試験の生データやプロトコール資料にアクセスできるのは誰なのでしょう?隠さないといけない理由があるか?です。
データをもっているのは製薬会社(臨床試験を請け負った会社)、あとは規制を担当している当局。
米国ならFDA、日本ならPMDA、EUならEMA。
この人達「だけ」が扱えるデータなんでしょうか?
データは社会全体の財産なんじゃ?という指摘はずっとあります。
Clinical Trial Data as a Public Good(2012年5月3日)
JAMA. 2012;308(9):871-872.
コクランのグループは、データを公開するようよびかけます。しかし、最初の頃はむにゃむにゃ、そして無理のある表現や理屈で「できない」といいます。が、EUの規制機関であるEMA最終的には原則公開になりました。
2007年 EMAにデータ公開を要望→「公開できません」
2009年 EMA「情報はconfidential」 →EMA 訪問
2010年 EMAに対してmaladministrationであると指摘→ EMAが原則公開へ方向転換
2012年11月4日 EMA European regulators propose way forward for publication of full clinical-trial data
この中で述べていますが、Doshらの継続的な問いかけに対して、EMAが対応を検討してきた結果であります。
The Imperative to Share Clinical Study Reports: Recommendations from the Tamiflu Experience
PLoS Med 9(4): e1001201
EMAの態度表明。 Open Clinical Trial Data for All? A View from Regulators PLoS Med 9(4): e1001202.
そして、2012年11月22日にロンドンで臨床試験データの共有の方法論を検討するためのワークショップを開催。
Opening up data at the European Medicines Agency
BMJ 2011;342:d2686
しかし、さらなる問題がありました。EMAが全てのデータを持っていない、ということです。
開発メーカーが持っているデータの一部だけを書類で提出するようになっており、そこで審査がおこなわれています。FDAはどうでしょうか。PMDAはどうでしょうか。
コクラングループが問題指摘。
Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults: systematic review and meta-analysis. BMJ2009;339:b5106.
ロシュがこの問いに回答をします。
Roche replies to the authors of the Cochrane Review on oseltamivir
BMJ 2009;339:b5364
2009年にロシュ社はデータ公開をするといったわけですが
Release all Tamiflu data as promised, argue researchers
2011年には、それはあなたたちの関わる仕事じゃないでしょう、という回答。
2012年には、データはすでにアクセスできるようになっている、という回答。
そして今も出していない、という事実。
話を日本に戻しましょう。
よく海外の会議で聞かれます。なぜ日本人(日本の医師)はそんなにタミフルが「好き」なのか。
好きなわけではないとしても、タミフルを広くさくっと使おうとする根拠やモードはどこからきているのでしょうか。
コクランのグループは日本の専門団体の言動もチェックしています。
日本感染症学会も以前出した文書の中に、コクラングループ関連の情報の引用が不正確だという指摘もし、学会が削除をしています。
19ページ
といったことを学んだ上で、2012年8月のインフルエンザ委員会の推奨を再度読み直すと、また、いろいろ考えることも増えますね。
英語での話題は展開されていますが、当事者色が濃い日本(語)でスルーされないように、ぜひ周囲でも話題にしてみてください。
アポネットR研究会の2012年1月19日の記事タミフルの有用性に疑問(コクランレビュー)に紹介されているお話。
タミフルは、つらい症状の期間を約1日短縮するという個人レベルの効果はありますが、適用を広くして広く大量に使っても集団や社会のメリットを説明できる薬ではない、というのが最新のコクランレビューの評価です。
(反論がある場合は反証をする必要があります)
証拠や検証が不十分なのに過剰に処方するような動きがある。これはおかしくないか?です。
(タミフルの全否定ではありませんよ。必要としている人もいますから。広く、ストックしたり、幅広い対象に出したりする根拠は不十分ですよ、ということです)
こういった議論があることじたいは健全です。怖いのは思考停止。
新型インフル騒動のときも、日本感染症学会が出した情報について、現場の先生から質問が寄せられています。
日本感染症学会緊急提言
「一般医療機関における新型インフルエンザへの対応について」のご意見・ご質問(Q&A)
日本は世界で一番タミフルを使っている国ですので、処方に関係している医療者も多いはず。
ですから、皆が話題にして情報を広めていくのがよいとおもいます。ポリフォニー。思考も停止させないように。
もちろん、タミフルだけが問題なのではありません。実際にこの中立グループがしようとしていることは、Public Goodsとしての臨床(試験)関連データをどう扱うのか how to deal withの話です。
メーカーや、審査機関が非公開にするということはそもそも妥当性がなくなっていますので、生データ(1次データ)のところで誤解されたりメディアにミスリードされるようなリスクを仕組みとしてなるべく減らすような工夫が問われるのではないかと思います。
The Imperative to Share Clinical Study Reports: Recommendations from the Tamiflu Experience
PLOS Medicine
通常、一般医療関係者が特定の薬について知ろうと思ったら何をするでしょうか。
データベースをみたり、定評のあるジャーナルに掲載された論文を読んだり、薬剤師さんに相談したり、メーカーに聞いたりでしょうか。
このグループは、publishされた論文だけでは不足があるというスタンスです。
学部レベルで勉強するような基本的事項でいうと、まず「広報/発表バイアス」があります。期待する結果が出たら発表する。しかしnegative dataなら発表しないという態度を研究者やメーカー等の利益団体はとりがちです。
また、臨床試験や研究のプロトコールと、論文で扱っている数字や評価の期間(時間)が変わっていることもあります。「恣意的にデータを調整する」余地が残ります。
プロトコールでは観察期間が12カ月とあるのに、6カ月間のデータを論文発表したりということがあります。
長期に見たら安全性や、他の薬と比べての優位性がイマイチになるなら、そのようなデータ設定のところをいじって、見かけ上「よさそうな薬」にすることができます。
ですから、Same study, Different documentです。ジャーナルクラブで読んで行くだけでは不足、ということです。(その限界を知りながらの勉強作業として意味はもちろんあるんですよ)
じゃあ、何を読めというのか?
タミフルのある臨床試験[WPI6263]は、合計8545ページ文書があります。
このうちmodule 1は223 ページ、2は190ページ。
これくらいならよめますが、module3〜5は8122ページです。誰がどう読んだらいいのでしょう?
いや、それ以前の問題として、臨床試験の生データやプロトコール資料にアクセスできるのは誰なのでしょう?隠さないといけない理由があるか?です。
データをもっているのは製薬会社(臨床試験を請け負った会社)、あとは規制を担当している当局。
米国ならFDA、日本ならPMDA、EUならEMA。
この人達「だけ」が扱えるデータなんでしょうか?
データは社会全体の財産なんじゃ?という指摘はずっとあります。
Clinical Trial Data as a Public Good(2012年5月3日)
JAMA. 2012;308(9):871-872.
コクランのグループは、データを公開するようよびかけます。しかし、最初の頃はむにゃむにゃ、そして無理のある表現や理屈で「できない」といいます。が、EUの規制機関であるEMA最終的には原則公開になりました。
2007年 EMAにデータ公開を要望→「公開できません」
2009年 EMA「情報はconfidential」 →EMA 訪問
2010年 EMAに対してmaladministrationであると指摘→ EMAが原則公開へ方向転換
2012年11月4日 EMA European regulators propose way forward for publication of full clinical-trial data
この中で述べていますが、Doshらの継続的な問いかけに対して、EMAが対応を検討してきた結果であります。
The Imperative to Share Clinical Study Reports: Recommendations from the Tamiflu Experience
PLoS Med 9(4): e1001201
EMAの態度表明。 Open Clinical Trial Data for All? A View from Regulators PLoS Med 9(4): e1001202.
そして、2012年11月22日にロンドンで臨床試験データの共有の方法論を検討するためのワークショップを開催。
Opening up data at the European Medicines Agency
BMJ 2011;342:d2686
しかし、さらなる問題がありました。EMAが全てのデータを持っていない、ということです。
開発メーカーが持っているデータの一部だけを書類で提出するようになっており、そこで審査がおこなわれています。FDAはどうでしょうか。PMDAはどうでしょうか。
コクラングループが問題指摘。
Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults: systematic review and meta-analysis. BMJ2009;339:b5106.
ロシュがこの問いに回答をします。
Roche replies to the authors of the Cochrane Review on oseltamivir
BMJ 2009;339:b5364
2009年にロシュ社はデータ公開をするといったわけですが
Release all Tamiflu data as promised, argue researchers
2011年には、それはあなたたちの関わる仕事じゃないでしょう、という回答。
2012年には、データはすでにアクセスできるようになっている、という回答。
そして今も出していない、という事実。
話を日本に戻しましょう。
よく海外の会議で聞かれます。なぜ日本人(日本の医師)はそんなにタミフルが「好き」なのか。
好きなわけではないとしても、タミフルを広くさくっと使おうとする根拠やモードはどこからきているのでしょうか。
コクランのグループは日本の専門団体の言動もチェックしています。
日本感染症学会も以前出した文書の中に、コクラングループ関連の情報の引用が不正確だという指摘もし、学会が削除をしています。
19ページ
といったことを学んだ上で、2012年8月のインフルエンザ委員会の推奨を再度読み直すと、また、いろいろ考えることも増えますね。
英語での話題は展開されていますが、当事者色が濃い日本(語)でスルーされないように、ぜひ周囲でも話題にしてみてください。