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Channel: 感染症診療の原則
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「HIV感染症診療の研修を受けることになりました」 (事前情報希望)

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HIV感染症の研修を受けることになった看護師から「事前にどのような勉強すればいいか?」という質問がきました。
そのやりとりを紹介します。

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■まず基礎情報。日本ではどれくらいの発生状況か。

1)疫学データをみます。

まずはさっくりしたデータですが、「1年間に診断されて報告されているのは1500人」です。

多いとおもいますか?少ないと思いますか? ちなみに、結核は1週間に300人報告されています。


2)感染症の基本情報(復習です)

感染源となりうるのは、血液、精液、膣分泌液、母乳、およびこれらがふくまれた体液です。

感染力はHBVと比較すると、針刺し事故では100分の1といわれています。もちろんそれでも感染はおこります。

日本では男性同性?性的接触が多いです(アフリカは母子感染、外国ですと注射器や針の共有なども一定数います。国によるので注意)。


参考資料:国立感染症研究所が年に1回このようなまとめを出しています。プリントアウトして

読んでおきましょう。

http://www.nih.go.jp/niid/ja/aids-m/aids-iasrtpc/2628-tpc391-j.html

ここ数年で、中学生の症例報告が2例ありましたので(性感染です)。研修は一般に、成人患者を想定していますが、思春期の患者をケアする時代になっています。



■HIV感染症の病気の本質を理解しましょう。

「免疫が低下する」ことです。(性感染症、というようなことは分類をすると気の考え方です)

復習です。

1)免疫が下がったらどう困るのか。生命、健康という視点でまず整理をしてください。
2)他にも免疫が下がる人達がいます。それとどう違うのか比較をして整理してください。



■HIV感染症のケアについて

1)一番のゴールは感染しないことです。学校教育や保健所でやっていることをみわたしてみましょう。

2)しかしどんなに予防を気をつけていても感染症になる人はいます。その場合は早期診断が重要です。

発症してからだと、その後の治療や健康管理がたいへん「不利」になるからです。

しかし、いきなり患者さんは、あなたの勤務する○○病院のような大きな病院に「エイズかも」とはきません。
患者さんがどのように診断されるのか、そこで必要な配慮は何かを学びましょう。

参考資料:早期診断のコツについて http://www.hivcare.jp/miotoshi_2.pdf

参考資料:HIV検査のタイミングとコツ http://www.abbott.co.jp/medical/library/hiv-point/hiv-point.pdf



3)HIV感染症と診断されたあとのケア

他の疾患と同様に「専門的に診る医師」がいますので、そこで初期アセスメントをし、治療の開始時期などを検討します。

免疫が下がっていて感染症などになっている場合はその治療を優先することが多いです。


参考資料:HIV感染症の治療について http://www.hivcare.jp/mychoice200611.pdf

診断された初期の患者さんに渡す資料はこちらです。病気の説明や生活の注意が書いてあります。



4)患者さんの生活について

血液検査のデータなどを勘案し、「抗ウイルス療法」が開始されます。
3−4種類の薬を組み合わせるので「多剤併用療法」といわれます。(結核のような治療を想像してください)

開始したら一生継続する治療のため、生活を整えたり準備から開始します。
服薬指導は薬剤師さんがしている施設が多いですが看護師が介入することもあります。

治療を開始すると、検査で検出できないほどにウイルス複製が抑制されます。
このことにより発症を遅らせ、免疫の回復を期待します。(回復のスピードは個人差があります)

早く病気に気づけた患者さんは、通勤や通学など、それまでの生活を維持しやすく、発症してからの診断だと、入院したり生活を変化させないといけなくなる人も一定数出てくるので

健康を維持出来ているうちに治療を開始するのが理想です。

治療が安定したら、2−3ヶ月に一度の受診になります。つまり年に4回しか来ない患者さんもいるわけです。

この間に不安や健康問題(別の病気のある人、なる人もいますので。例えばインフルエンザ等)の対応は一般病院でもOKですし、必要があれば拠点病院を受診してもらいます。歯科は自治体によっては協力歯科リストがあります(東京都はもっています)。
患者さんの希望に応じて紹介をします。


感染症なので、パートナーや家族・周囲への感染予防も重要です。
空気感染ではありませんので、仕事や通学での制限は基本的にありません。(患者さんが看護師の場合、結核病棟勤務はやめたほうがよいとおもいます)

血液と体液曝露のリスクが高いのは性行為なので、バリア法での予防法を確認します。
(大人だから正しい使い方を知っているだろう、と思ってはいけません。適切に使っていたのなら感染しなかったのですから。どこかに誤解がないか必ず確認をします)


高齢者も増えてはいますが、若い患者さんが多いです。このため、妊娠出産も話題になります。

女性が感染している場合は、内科医と産婦人科医が相談をして、選択的帝王切開と抗HIV薬の使用、児への抗HIV薬の使用(※)、母乳を与えない、ということで感染率は日本では「1%以下」になっています。
海外ではウイルスが十分抑制されているケース(他のSTD合併がない)では、経膣分娩も選択されています。

※ 日本で未承認の関連治療薬は、厚生労働省の委託で行われている治療薬研究班に依頼をして取り寄せをします(医師がします)。
http://labo-med.tokyo-med.ac.jp/aidsdrugmhw/mokuji.htm


多くの患者さんが、診断初期には「妊娠はもう無理」と思っているので、産む選択肢があること、その医療サポートなどは早めに案内をします。(年齢があがってからだと妊娠しにくくなりますので)。

男性がHIV陽性の場合は、精液のHIVを除去して、体外受精をして女性の子宮に戻すという方法がとられます。ウイルス除去の技術はどの病院でもやれるというわけではないので、専門的に対応している医療機関にお願いをします。必要が生じたら相談してください。


■HIV感染症独特の話題について

1)エイズ診療拠点病院制度
昔、医療機関や医療者による診療拒否などが問題になり(恥ずかしい歴史ですね)、国がつくった仕組みです(拠点病院制度は、エイズ以外に「がん」などもあります。どの地域でも患者を同じように診ることができるように、作られている制度です。実際にはうまくいっていませんが)


○○さんが勤務している○○病院はこの「拠点病院」ですね。

ここには、患者を診る医師や、服薬指導をする薬剤師、生活のサポートをする看護師やMSWがいます。
もちろん拠点病院ではなくてもHIV感染症を診ることはできます。

都内にはいHIV感染症の患者さんの専門的な診療を提供しているクリニックが4つあります。
(そのひとつは青木編集長が週1回勤務している新宿東口クリニック)

※診療所だと夜間や土日に受診できて便利。


2)高額な治療費
抗HIV薬はたいへん高額のため、保険をつかって3割負担にしても、個人にとっては大きな負担となります。
一生継続するには困難があります。

このため、「免疫機能障害」で身体障害者手帳を取得し、自立支援医療を併用したりして、窓口での自己負担分を軽減することができます。所得や自治体によって手続きや仕組みが違うので患者さんの住民票のあるところを確認します。申請から制度利用までは、通常MSWが支援を担当します。


3)プライバシー
プライバシーの保護が重要なのはHIVに限ったことではありません。
しかし、患者さんの危機感は医療者の想像以上に大きいものです。
カルテや検体などで不必要なラベリングをしない、外来や病棟での会話(特に大部屋)では注意をしましょう。

誰に病気を伝えているかはケースバイケース(患者さん自身がきめる)なので、家族だから知っているだろうという思い込みをせず、患者さんに誰に伝え/伝えていないかを確認します。

ときどき「誰にも言わない」という人がいます。
しかし、不慮の事故などで意識を失ったり、自己決定が難しくなる場合を想定し、緊急連作先(者)を必ず聞いておきます。この情報がない場合は、近親者に連絡が行く医療のシステムを伝えておきます。

性的パートナーは検査が必要ですので、病気を伝えることになりますが、検査の不要な家族や職場の人には必ずしも伝える必要性はありません。

特に職場は、受診の便宜をはかってもらえるなど、メリットがある場合は伝えているケースもありますが、必ず伝えなくてはいけないものではないことは伝えておきます。

家族に伝えるかどうかも患者さんが決めます。もともとの関係性や、家族自身が病気だったりすることなども関連してくるので、「家族には伝えるべきだ」といったプレッシャーを患者さんに与えるのは不適切です。
一緒に検討をして、いつどのように伝えるとよいのかのサポートをしていきます。


4)セクシュアリティ  MSMの健康
他の疾患ではあまり最初に話題にならないことかもしれませんが、男性と性交をする男性(MSM Men who have sex with menの略)が新規感染の7割近いので、この人たちのケアニーズについて学習をします。

いずれにしても、MSMとはいったいなんぞや?ということは途中で学習が必要なことです。
「ゲイ」とか「ホモセクシュアル」というのは自己認知の話(自分が自分をどう思うか)ですが、MSMは、行動パターンを表現している医学的な用語です。
つまり、自分は○○と思っていなくても、奥さんや子どもがいても、男性と性交をする人が存在するからです。
その事情や背景は個別のもので、皆が○○だということではありません。

勉強の最初に驚く看護師も一定数います。しかし過剰反応や過剰適応はいけません。

必要な検査や治療、ケアを提供するという基本は一緒です。自分の価値観やセクシュアリティと違う人でも、ケアや診療における態度を変える必要はない、ということだけです。たんたんと、いつものとおりに医療を提供します。

しかし、患者さんによっては(全員ではない)MSM独特の悩みや、健康上の問題があるので、患者理解として勉強しておきたいテーマです。

参考ホームページ:男性と性交をする男性の健康に関する研究(厚生労働省科学研究)
http://www.msm-japan.com/

ここに、過去の調査結果があります。大変参考になりますが、全部を読むのはたいへんです。
各調査をクリックすると「研究要旨」がありますので、そこだけでも目を通すとよいかもしれません。

MASH大阪  http://www.mash-osaka.com/

複数の性感染症検査を1000円で実施したり、イベントで予防啓発をしたりしています。こちらも厚生労働省科学研究の予算が投じられています。

5)薬物依存
ドラッグとHIV感染症のリンクは日本でもあります。
問診時に使用経験を患者さんから聞くこともありますが、途中で別件で知ることもあります。
一般医療機関の心理的なサポートくらいではどうにもならないこともあり、精神科でも薬物依存対応をすべての施設ができるわけではないので、専門医療や支援をさがすことになります

困ったケースがあったらご相談ください。別途追加情報を提供します。

参考:http://www.apari.jp/npo/hiv.html


6)外国人の症例
いっときよりも外国人症例は減っていますが(経済の影響)、都内のHIV症例の一定数は外国人です。
滞在資格がある(結婚ビザなど)場合と、滞在資格がない、医療保険がない場合では、医療機関での対応やサポートの必要性が大きく変わってきます。早めに専門的なノウハウのあるNPOなどに相談をします。

日本語での医療の会話が難しい場合は(難しいことのほうが多い)通訳の手配も重要です。

東京都は派遣カウンセラーの中に外国語対応もあるので、都庁のエイズ対策担当者に相談をすることも可能です。


参考資料:外国人医療相談ハンドブック(厚生労働科学研究)
http://share.or.jp/health/library/book_list/handbook.html


参考資料:派遣カウセリング利用の手引き(厚生労働科学研究)
http://hivandcounseling.com/img/c-tebiki.pdf




■その他関連情報
プライマリケアでの早期ケアも重要ですが、専門的なケアにも取り組んでいく過程では、チャレンジ可能な資格がいくつかありますので、参考までに列記しておきます。


米国:1990年代半ばに、HIV専門看護の資格ができました。
ACRN(AIDS Certified Registered Nurse) http://www.hancb.org/certification.htm

2002年に専門医のcertificate制度を開始。2011年からは薬剤師の制度も開始。
http://www.aahivm.org/
※看護師のcertificateは他にも数種類あります。

日本では専門薬剤師、薬物療法認定薬剤師の制度が先にできました。
http://www.jshp.or.jp/senmon/senmon5.html


HIVは性感染症のひとつですから、包括的なこちらの勉強も当然必要です。

日本性感染症学会 認定医・認定士(2009年から開始)
http://jssti.umin.jp/nintei.html


日本看護協会の認定看護師とは求められる条件が違いますが、学会認定の看護師という制度ができました。

日本エイズ学会 認定医・指導医(2012年から開始)
http://jaids.umin.ac.jp/qualification/qualification_d.html

日本エイズ学会 認定看護師・指導看護師(2012年から開始)
http://jaids.umin.ac.jp/qualification/qualification_n.html


関心があったら主催団体のHPなどで確認をしてください。

以上です
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いきなり研修、よりはいいかも。です。

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