八重樫先生から若手医師セミナー@ベルサール神田でみなさまからいただいた質問への回答が届きました。
スゴく丁寧にお答えいただいています。お仕事と子育てとお忙しい中、ありがとうございました。
皆さんの質問も、熱心に聞いていただいたからこその内容です。
お忙しい金曜日に積極的にご参加ありがとうございました。(医学生もがんばっていますね!)
【免責事項】
下記は2011年12月に開催したセミナーに参加したという条件のもとでのやりとりであり、一般化、特定の患者への応用は意図していません。
他の目的に情報を活用する場合はその方ご自身の責任でお願いします。
また不明や疑問については適宜ご確認をお願いいたします。
---------------------------
■RSBIは自発呼吸試験30-120分行った後に評価する必要ありますか?(勤務医1年目)
→はい(下に続く)。
■そして30-120分行った後はどのような設定にすればいいですか?(同勤務医1年目)
→PS=5もしくはTCで自発呼吸試験クリア(=RSBI<105)かつ痰が少ない等の他の抜管の基準を満たしていれば抜管してください。PS=10などの高めの設定で自発呼吸試験クリアならA/Cに変えてその日の自発呼吸試験終了して翌日試してください。自発呼吸試験をクリアしなければその時点でA/Cに戻して下さい(患者さんは抜管できるほど呼吸努力が安定してないです)。
■p13の問いでPEEPを上げる選択肢はないのですか?(研修医1年目)
→それでは、選択肢に無いPEEPを上げることについて検討しましょう。PEEP, FiO2は酸素化(O2を上げること)に寄与しますが、換気(CO2を下げること)にはあまり寄与しないので、CO2が貯留する呼吸性アシドーシスに対して介入しなければならないこの患者さんに対しては最適な介入とは言えません。換気を上げる(CO2を下げる)には1回換気量(TV)を上げるか呼吸数(f)を上げるかです。逆にPEEPとFiO2は酸素化をみて調節するパラメーターと考えてください。
■抜管時のリークテストの位置づけについて何かあれば教えてください。
→感度が不十分です。つまり、リークテストが合格(従量式ACにしてカフの脱気を行うと110ml以上の呼気1回換気量が低下する[リーク有])しても、偽陰性(上気道閉塞が抜管後起こること、特に両側声帯麻痺等機能的な問題)が多すぎて全例施行する根拠は無いかと考えますが(感度56%, 特異度92%, Intensive Care Med 2009;35:1171のメタ解析)。一方で、リスクの高い患者さん(蘇生時の慌ただしい挿管、経験不足の術者による挿管、難しい挿管等)において参考程度に評価すること、「抜管前のステロイド(Lancet 2007;369:1083)」を行うか参考にするくらいの用途で私は用いています。
■結局、どのような病態にどのモードが良いのかを簡単に整理して頂けますか?もしくは慣れるためにこれをした方がいいというのはありますか?(研修医2年目)
→まず質問の後半から答えますが、従量式AC(VCV)か従圧式AC(PCV)のコテコテの人工呼吸器モードどちらかとCPAP+PSは最低限マスターしておいてください。その上で患者さんの反応をみて調整するというのが基本です。自分が働く病院ではPCVが多いというのでしたらPCVをまずマスターする等、環境を利用して学び方を変えると良いと思います。そうすれば、すでに人工呼吸器に乗っている患者さんについて指導医に「こうしても良いですか(&根拠を述べる)?」と言って介入してその結果の患者さんの反応を見れますし、提案が適切であれば指導医の役にも立ちwin-winの関係を築くことができます。
前半の病態に関しては、喘息・COPD等閉塞性肺疾患では「呼吸数を可能な限り少なく」して呼気に十分な時間を確保するのが重要で、AutoPEEPがかからないようにしてください。1回換気量は8mL/予想体重くらいで、矩形波を用いた高い流速 (最低60L/分)での従量式AC(VCV)が基本です。一方で拘束性換気障害の代表例であるARDSではARDS net study (ARMA)にもあるように1回換気量を厳密に6-8mL/予想体重とし、プラトー圧<30を死守してください。従量式AC(VCV)が基本ですが、上記が達成されているのでしたら従圧式AC(PCV)でもかまわないと考える呼吸器・集中治療医が多いです。
■p13の400ml→500mlにあげるのは死腔の問題があるからで良いでしょうか(医学部6年)
→この患者さんの血ガスはpH=7.12, pCO2=80, pO2=102と、分時換気量は7.2L/分(正常は5-10L/分、ちなみに計算方法は1回換気量x実際の呼吸回数なので400mL=0.4L x 18回)あるのに著明な呼吸性アシドーシス(CO2貯留)をきたしています。それは死腔が多くて換気の効率が悪いのか代謝が亢進してCO2産生量が増加しているのを肺から排泄しきれていないのか(悪性高熱、敗血症等々)、この問題からはわかりません。臨床医として大切なのは患者さんが毎回決まりきった反応を教科書的に示すのではないので、患者さんの反応に応じて判断をして適切な対応をとることです。
■p15の何がおこっていますか?→AutoPEEPがわかりませんでした(同医学部6年)
→図は縦軸を流速(フロー)、横軸を時間ととった人工呼吸器のグラフですが、、図の右半分でゼロ線の下にある1回の呼気(下向きの凸)では、左半分の2回の呼気とは異なり、ゼロ線に戻る前に吸気(上向きの凸)が始まっています。これが、呼気が終わる前に吸気が始まっているautoPEEPです。
■ビデオでPS10ならよくて2.5だとダメだったのにSBTパスというのはどういうことでしょう?(同医学部6年)
→残念ながら誤解を与えてしまったようです。ビデオでは「PS=10なら良くて、PS=5でもTCでもダメだったので、PS=10にもどして30-120分自発呼吸試験を行い、その最後でも合格となるか観察しましょう。」と言っております。自発呼吸試験は最初にPS=10, PS=5, TCなどいろいろ設定を試してその時点で一回換気量(TV; tidal volume)が>5ml/kg(例;予測体重が60kgなら300ml以上)設定を選んで、その後30-120分自発呼吸試験を行いそれでも大きな1回換気量で頻呼吸にならずに呼吸努力が続けられるか(≒呼吸数/1回換気量(L) であるRSBIが<105となるか)観察します。
■Pocket Medicineなどにはalkalemiaによる生理学的障害の閾値としてpH >7.6という風に(acidemiaでは pH>7.60)という風にありますが、respiratory alkalosisではもっと厳しくしなければならない特別な理由があるのでしょうか?(研修医6年目)
→人工呼吸管理は常に陽圧をかけて陽圧換気で吸気を行っています。つまり陽圧による圧損傷(barotrauma)と圧が許容範囲でも1回換気量が多いことによるvolutraumaの危険性があります。医療の原則はdo no harmで患者さんに害を与えないことが第一です。陽圧換気もリスクゼロではありません。リスクがあるならやりすぎは良くないということです。ただ、設定をいくら変えても、適切な鎮静・疼痛緩和をしてもpHが7.4より少し上、pCO2が40より少し下の患者さんはおります。その際には程度にもよりますが、深追いすると介入が多くなり介入のリスク(鎮静剤による血圧低下等)も多くなるのでpH<7.4となるように深追いしなくても良いと考えます。
■respiratory acidosis治療についてCO2の移動は比較的早いスピードで起こると思っていたので、今までは単純にRR↑としていました。1回換気量↑or RR↑はどのように考えればよろしいのでしょうか?(同研修医6年目)
→respiratory acidosisの治療で1回換気量を上げても呼吸数を上げてもCO2の移動は速やかに行われます。つまり、1回換気量を上げても呼吸数を上げてもどちらでも良いですが、p.13の質問の様に、患者さんが呼吸数18回で自発呼吸がある場合に人工呼吸器の設定呼吸回数(f)を12回から18回に上げても全く状態は変わりません。その場合には1回換気量を上げることのみが選択肢となります。18回以上に呼吸回数を上げるのもオプションですが、自発呼吸がある患者さんで人工呼吸器の設定呼吸回数を自発呼吸回数以上に設定することは呼吸苦となることが多く、あまり推奨しません。
■スライド35のPSVとPSの違いがわからないです。(研修医1年目)
→p12のスライド35ですね。左が従圧式のAssist(PCV)、右がPSです。左では患者さんが吸気をトリガーするだけで、決められた圧が決められた時間だけ(「吸気時間が一定」と書いてあります)が、右では「設定された最小限の吸気流速」まで吸気が続き、その後呼気に移行します。つまり、右の図では患者さんが息を吸っている時にはPSの陽圧が加えられ、息を吸うのをやめるとPSの陽圧が無くなるので患者さんが息を吐くことができるようになります。人工呼吸器は患者さんが息を吸い続けているか吸い終わったかを判断するのにEsensを用います。初期設定であるEsens25%の場合、たとえば最大吸気流速が60L/分であると、その25%は15L/分なので、吸気流速が15L/分以下となるとPSの陽圧は無くなり患者さんが息を吐けるようになります。
■スライド38 もう少し詳しく教えてください(同研修医1年目)
→スライドに括弧で説明を追加しました。参考にして下さい。
・患者は快適に人工呼吸器に乗っているか?患者は快適に人工呼吸器に乗っているか?
– 視診: 呼吸器と患者の呼吸数はあっているか等
(ファイティング(asynchronyともよばれます)つまり患者さんが人工呼吸器の換気と同調していない状態ではないことを確認してください。また、患者さんの呼吸数が人工呼吸器の呼吸数とくいちがいが無いことを確認してください(例;患者さんは呼吸数40回/分、人工呼吸器は呼吸数20回/分)。
– 波形評価: 上に凹になっていないか?
(従量式AC(VCV)であればp6のスライド17, 従圧式AC(PCV)であればp7のスライド19,20を参考にして下さい。人工呼吸器のグラフィックだけでゆうに1時間話せるトピックなので詳しくは成書や推薦図書をご覧ください。
• 血ガス
– pH, pCO2: 呼吸数、1回換気量で調節。Permissive hypercapnea ⇔ 呼吸性アルカローシスは許容しない
(換気を調節する話です。pHが高くpCO2が低ければ呼吸性アルカローシスなので呼吸数もしくは1回換気量を下げてください。pHが低くpCO2が高ければ呼吸性アシドーシスなので呼吸数もしくは1回換気量を上げてください。ただ、pH7.2-7.4の呼吸性アシドーシスであれば許容してOKです。それをpermissive hypercapnea高炭酸ガス許容人工換気法と言います。
– pO2: FiO2, PEEPで調節
(酸素化を調節する話です。pO2が低い、つまりpO2<60mmHgならFiO2もしくはPEEPを上げてください。SpO2が低いときも同様です。1回だけSpO2と動脈血ガスのSaO2が似たような値となることを確認したら以後はSpO2(経皮的なサチュレーションモニター)だけでフォローして結構です。逆に、SpO2やpO2が高い、つまりpO2>60mmHgならFiO2もしくはPEEPをさげてください。あまりギリギリだと実際にはpO2が60を割っていることがありますので多少の余裕は持たせてください。FiO2は≧60%だと酸素障害がより多く発生しますので、なるべく早くFiO2≧60%を使わなくて済むように可能であればFiO2を下げてください。
• 気道内圧のモニター
– Ppeak ピーク圧(PIP)、Ppl プラトー圧
(p14のスライド40を参考にしてください)
• Auto-PEEPの除外
– PEEPTOT、PEEPi
(p14のスライド41,42を参考にしてください)
■PEEPの決め方のスライドに記載があるFiO2とPEEPの関連はいつでもこの通りにすべきなのでしょうか?血圧低下状態や病態によりhigh PEEPを避けたい時などこの表から解離する状況の例などを教えてください(研修医1年目)
→良い質問です。P10スライド30のPEEPの決め方のスライドから逸脱する例ですが、より低いPEEPを用いる例では、脱水患者にPEEPを用いることで血圧低下を来すことはあるのでPEEPを避けることはありますが、通常はCVP>12となるような輸液ボーラスでそのような状態は回避できます。脳圧亢進している患者さんではPEEPを避けることも稀にあります。逆により高いPEEPを用いる例ですが、重症のARDSでは用いることがあります。もう少しマニアックに言いますと、ARDS患者であの表より高いPEEPを用いたランダム化比較試験が3つありまして、そのメタ解析ではP/F比が
スゴく丁寧にお答えいただいています。お仕事と子育てとお忙しい中、ありがとうございました。
皆さんの質問も、熱心に聞いていただいたからこその内容です。
お忙しい金曜日に積極的にご参加ありがとうございました。(医学生もがんばっていますね!)
【免責事項】
下記は2011年12月に開催したセミナーに参加したという条件のもとでのやりとりであり、一般化、特定の患者への応用は意図していません。
他の目的に情報を活用する場合はその方ご自身の責任でお願いします。
また不明や疑問については適宜ご確認をお願いいたします。
---------------------------
■RSBIは自発呼吸試験30-120分行った後に評価する必要ありますか?(勤務医1年目)
→はい(下に続く)。
■そして30-120分行った後はどのような設定にすればいいですか?(同勤務医1年目)
→PS=5もしくはTCで自発呼吸試験クリア(=RSBI<105)かつ痰が少ない等の他の抜管の基準を満たしていれば抜管してください。PS=10などの高めの設定で自発呼吸試験クリアならA/Cに変えてその日の自発呼吸試験終了して翌日試してください。自発呼吸試験をクリアしなければその時点でA/Cに戻して下さい(患者さんは抜管できるほど呼吸努力が安定してないです)。
■p13の問いでPEEPを上げる選択肢はないのですか?(研修医1年目)
→それでは、選択肢に無いPEEPを上げることについて検討しましょう。PEEP, FiO2は酸素化(O2を上げること)に寄与しますが、換気(CO2を下げること)にはあまり寄与しないので、CO2が貯留する呼吸性アシドーシスに対して介入しなければならないこの患者さんに対しては最適な介入とは言えません。換気を上げる(CO2を下げる)には1回換気量(TV)を上げるか呼吸数(f)を上げるかです。逆にPEEPとFiO2は酸素化をみて調節するパラメーターと考えてください。
■抜管時のリークテストの位置づけについて何かあれば教えてください。
→感度が不十分です。つまり、リークテストが合格(従量式ACにしてカフの脱気を行うと110ml以上の呼気1回換気量が低下する[リーク有])しても、偽陰性(上気道閉塞が抜管後起こること、特に両側声帯麻痺等機能的な問題)が多すぎて全例施行する根拠は無いかと考えますが(感度56%, 特異度92%, Intensive Care Med 2009;35:1171のメタ解析)。一方で、リスクの高い患者さん(蘇生時の慌ただしい挿管、経験不足の術者による挿管、難しい挿管等)において参考程度に評価すること、「抜管前のステロイド(Lancet 2007;369:1083)」を行うか参考にするくらいの用途で私は用いています。
■結局、どのような病態にどのモードが良いのかを簡単に整理して頂けますか?もしくは慣れるためにこれをした方がいいというのはありますか?(研修医2年目)
→まず質問の後半から答えますが、従量式AC(VCV)か従圧式AC(PCV)のコテコテの人工呼吸器モードどちらかとCPAP+PSは最低限マスターしておいてください。その上で患者さんの反応をみて調整するというのが基本です。自分が働く病院ではPCVが多いというのでしたらPCVをまずマスターする等、環境を利用して学び方を変えると良いと思います。そうすれば、すでに人工呼吸器に乗っている患者さんについて指導医に「こうしても良いですか(&根拠を述べる)?」と言って介入してその結果の患者さんの反応を見れますし、提案が適切であれば指導医の役にも立ちwin-winの関係を築くことができます。
前半の病態に関しては、喘息・COPD等閉塞性肺疾患では「呼吸数を可能な限り少なく」して呼気に十分な時間を確保するのが重要で、AutoPEEPがかからないようにしてください。1回換気量は8mL/予想体重くらいで、矩形波を用いた高い流速 (最低60L/分)での従量式AC(VCV)が基本です。一方で拘束性換気障害の代表例であるARDSではARDS net study (ARMA)にもあるように1回換気量を厳密に6-8mL/予想体重とし、プラトー圧<30を死守してください。従量式AC(VCV)が基本ですが、上記が達成されているのでしたら従圧式AC(PCV)でもかまわないと考える呼吸器・集中治療医が多いです。
■p13の400ml→500mlにあげるのは死腔の問題があるからで良いでしょうか(医学部6年)
→この患者さんの血ガスはpH=7.12, pCO2=80, pO2=102と、分時換気量は7.2L/分(正常は5-10L/分、ちなみに計算方法は1回換気量x実際の呼吸回数なので400mL=0.4L x 18回)あるのに著明な呼吸性アシドーシス(CO2貯留)をきたしています。それは死腔が多くて換気の効率が悪いのか代謝が亢進してCO2産生量が増加しているのを肺から排泄しきれていないのか(悪性高熱、敗血症等々)、この問題からはわかりません。臨床医として大切なのは患者さんが毎回決まりきった反応を教科書的に示すのではないので、患者さんの反応に応じて判断をして適切な対応をとることです。
■p15の何がおこっていますか?→AutoPEEPがわかりませんでした(同医学部6年)
→図は縦軸を流速(フロー)、横軸を時間ととった人工呼吸器のグラフですが、、図の右半分でゼロ線の下にある1回の呼気(下向きの凸)では、左半分の2回の呼気とは異なり、ゼロ線に戻る前に吸気(上向きの凸)が始まっています。これが、呼気が終わる前に吸気が始まっているautoPEEPです。
■ビデオでPS10ならよくて2.5だとダメだったのにSBTパスというのはどういうことでしょう?(同医学部6年)
→残念ながら誤解を与えてしまったようです。ビデオでは「PS=10なら良くて、PS=5でもTCでもダメだったので、PS=10にもどして30-120分自発呼吸試験を行い、その最後でも合格となるか観察しましょう。」と言っております。自発呼吸試験は最初にPS=10, PS=5, TCなどいろいろ設定を試してその時点で一回換気量(TV; tidal volume)が>5ml/kg(例;予測体重が60kgなら300ml以上)設定を選んで、その後30-120分自発呼吸試験を行いそれでも大きな1回換気量で頻呼吸にならずに呼吸努力が続けられるか(≒呼吸数/1回換気量(L) であるRSBIが<105となるか)観察します。
■Pocket Medicineなどにはalkalemiaによる生理学的障害の閾値としてpH >7.6という風に(acidemiaでは pH>7.60)という風にありますが、respiratory alkalosisではもっと厳しくしなければならない特別な理由があるのでしょうか?(研修医6年目)
→人工呼吸管理は常に陽圧をかけて陽圧換気で吸気を行っています。つまり陽圧による圧損傷(barotrauma)と圧が許容範囲でも1回換気量が多いことによるvolutraumaの危険性があります。医療の原則はdo no harmで患者さんに害を与えないことが第一です。陽圧換気もリスクゼロではありません。リスクがあるならやりすぎは良くないということです。ただ、設定をいくら変えても、適切な鎮静・疼痛緩和をしてもpHが7.4より少し上、pCO2が40より少し下の患者さんはおります。その際には程度にもよりますが、深追いすると介入が多くなり介入のリスク(鎮静剤による血圧低下等)も多くなるのでpH<7.4となるように深追いしなくても良いと考えます。
■respiratory acidosis治療についてCO2の移動は比較的早いスピードで起こると思っていたので、今までは単純にRR↑としていました。1回換気量↑or RR↑はどのように考えればよろしいのでしょうか?(同研修医6年目)
→respiratory acidosisの治療で1回換気量を上げても呼吸数を上げてもCO2の移動は速やかに行われます。つまり、1回換気量を上げても呼吸数を上げてもどちらでも良いですが、p.13の質問の様に、患者さんが呼吸数18回で自発呼吸がある場合に人工呼吸器の設定呼吸回数(f)を12回から18回に上げても全く状態は変わりません。その場合には1回換気量を上げることのみが選択肢となります。18回以上に呼吸回数を上げるのもオプションですが、自発呼吸がある患者さんで人工呼吸器の設定呼吸回数を自発呼吸回数以上に設定することは呼吸苦となることが多く、あまり推奨しません。
■スライド35のPSVとPSの違いがわからないです。(研修医1年目)
→p12のスライド35ですね。左が従圧式のAssist(PCV)、右がPSです。左では患者さんが吸気をトリガーするだけで、決められた圧が決められた時間だけ(「吸気時間が一定」と書いてあります)が、右では「設定された最小限の吸気流速」まで吸気が続き、その後呼気に移行します。つまり、右の図では患者さんが息を吸っている時にはPSの陽圧が加えられ、息を吸うのをやめるとPSの陽圧が無くなるので患者さんが息を吐くことができるようになります。人工呼吸器は患者さんが息を吸い続けているか吸い終わったかを判断するのにEsensを用います。初期設定であるEsens25%の場合、たとえば最大吸気流速が60L/分であると、その25%は15L/分なので、吸気流速が15L/分以下となるとPSの陽圧は無くなり患者さんが息を吐けるようになります。
■スライド38 もう少し詳しく教えてください(同研修医1年目)
→スライドに括弧で説明を追加しました。参考にして下さい。
・患者は快適に人工呼吸器に乗っているか?患者は快適に人工呼吸器に乗っているか?
– 視診: 呼吸器と患者の呼吸数はあっているか等
(ファイティング(asynchronyともよばれます)つまり患者さんが人工呼吸器の換気と同調していない状態ではないことを確認してください。また、患者さんの呼吸数が人工呼吸器の呼吸数とくいちがいが無いことを確認してください(例;患者さんは呼吸数40回/分、人工呼吸器は呼吸数20回/分)。
– 波形評価: 上に凹になっていないか?
(従量式AC(VCV)であればp6のスライド17, 従圧式AC(PCV)であればp7のスライド19,20を参考にして下さい。人工呼吸器のグラフィックだけでゆうに1時間話せるトピックなので詳しくは成書や推薦図書をご覧ください。
• 血ガス
– pH, pCO2: 呼吸数、1回換気量で調節。Permissive hypercapnea ⇔ 呼吸性アルカローシスは許容しない
(換気を調節する話です。pHが高くpCO2が低ければ呼吸性アルカローシスなので呼吸数もしくは1回換気量を下げてください。pHが低くpCO2が高ければ呼吸性アシドーシスなので呼吸数もしくは1回換気量を上げてください。ただ、pH7.2-7.4の呼吸性アシドーシスであれば許容してOKです。それをpermissive hypercapnea高炭酸ガス許容人工換気法と言います。
– pO2: FiO2, PEEPで調節
(酸素化を調節する話です。pO2が低い、つまりpO2<60mmHgならFiO2もしくはPEEPを上げてください。SpO2が低いときも同様です。1回だけSpO2と動脈血ガスのSaO2が似たような値となることを確認したら以後はSpO2(経皮的なサチュレーションモニター)だけでフォローして結構です。逆に、SpO2やpO2が高い、つまりpO2>60mmHgならFiO2もしくはPEEPをさげてください。あまりギリギリだと実際にはpO2が60を割っていることがありますので多少の余裕は持たせてください。FiO2は≧60%だと酸素障害がより多く発生しますので、なるべく早くFiO2≧60%を使わなくて済むように可能であればFiO2を下げてください。
• 気道内圧のモニター
– Ppeak ピーク圧(PIP)、Ppl プラトー圧
(p14のスライド40を参考にしてください)
• Auto-PEEPの除外
– PEEPTOT、PEEPi
(p14のスライド41,42を参考にしてください)
■PEEPの決め方のスライドに記載があるFiO2とPEEPの関連はいつでもこの通りにすべきなのでしょうか?血圧低下状態や病態によりhigh PEEPを避けたい時などこの表から解離する状況の例などを教えてください(研修医1年目)
→良い質問です。P10スライド30のPEEPの決め方のスライドから逸脱する例ですが、より低いPEEPを用いる例では、脱水患者にPEEPを用いることで血圧低下を来すことはあるのでPEEPを避けることはありますが、通常はCVP>12となるような輸液ボーラスでそのような状態は回避できます。脳圧亢進している患者さんではPEEPを避けることも稀にあります。逆により高いPEEPを用いる例ですが、重症のARDSでは用いることがあります。もう少しマニアックに言いますと、ARDS患者であの表より高いPEEPを用いたランダム化比較試験が3つありまして、そのメタ解析ではP/F比が