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Channel: 感染症診療の原則
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男性性感染症患者におけるHIV陽性率

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日本性感染症学会には性感染症の認定医制度があります。
関心ある方はぜひwebsiteをチェックしてみてください。

今年の学術大会は12月の8日、9日、岐阜の長良川国際会議場で開催です。
演題登録受付がはじまったところで、9月10日までホームページから登録できます。
すべて口演です。

その「日本性感染症学会誌」最新号(23巻1号)に掲載されている「都内診療所における男性性感染症患者のHIV陽性率」(井戸田先生、加藤先生、畑先生)
が興味深いので紹介します。

日本ではいったいどれくらいの人がHIVに感染しているのかはつかめていません。

感染症発生動向調査は受け身のpassive surveillanceであり、医師が報告した人、検査を受ける機会があった人、受診して相談する機会があった人、が分母にです。

最初の急性期症状での受診を逃すと、長期間無症状(といっても、最近は発症までの時間が短くなっていると指摘もあります)。

HIVかも??とご本人や医師が疑う時点では、かなり病気が進行して治療開始のベストタイミングを逃しているリスクもあります。


ということで、各国では別の方法で感染率を把握しようとしています。欧米では、住民検診の血液の残りを個人情報リンクをはずして、地域人口においてどれくらいHIV陽性か?をみています。population basedですね。分母は地域の人口の代表に近くなります。
先進国ではとても低い数字になるのですが、例えば「やはり男性で多いね」とか、特定の年代に偏っているねというようなトレンドは把握できます。

日本は献血や妊婦検診でのデータが、ある程度まとまった分母を確保できています。しかし、代用できるのかどうかはわかりません。


日本では新規HIV報告の9割が男性で、男性と性交をする男性でのリスクが高い事がわかっています。
そこでどれくらい感染が広がっているのか?ということは昔から検討事項で、研究班が、商業施設などのハッテン場で使用済みティッシュをあつめて解析したこともあります(なぜかこれは倫理的に問題ダーという批判がおきまして、その後は行われていないとおもいます。個人リンクも侵襲的な行為もないのに・・・)。

そこで、上の井戸田先生の話にもどるのですが、ここで示されている分母としての「男性性感染症患者」は、特定のクリニックでの自験例であるので、偏りがあるといえばあるのですが、実はその偏りこそが重要にな報告です。

この診療所はHPをみるとわかるのですが、セクシュアルマイノリティを主な対象としており、そして都内に位置しています。
(その他の人の受診もありますが)
この診療所である期間に性感染症で受診した男性患者に、医師からHIV検査を勧めて同意が得られた113例で16.8%がHIV陽性だった,という報告です。

保健所での検査を自主的にうけるのとちがい、医療者から検査をもちかけることと、provider initiated HIV testing and counseling(PITC)といいます。
自発検査の啓発はある時点で限界になりますので、これを主にしてはだめだという話はもう数年前のコンセンサスです(日本はまだここにいます)。

PITCがなければ検査機会を逃してしまうひとたちもいます。

この16.8%、13例のひとのCD4値の中央値はなんと403と高いです(117ー607)。

日本の拠点病院を紹介されてくる時点で、日和見感染危険ゾーンの200以下とか、既に発症していて一ケタ、、、というのと比較すると、その人の健康管理としてもとてもよいことですし、パートナーへの感染拡大を防ぐ事にもつながります。

この診療所の強みは、陽性と判明したあとも、そのままそこでHIVの専門的な診療を継続可能な事です。

井戸田先生は、駒込病院で研修をされ、その後、女子医大でHIV診療を向上させ、その実績をもって開業されました。若い人が通院しやすいようにと土日の外来も行っています。

「民間クリニックの立場からーしらかば診療所における有料検査相談を受検するMSMの背景とニーズー」
日本エイズ学会誌

必ずしも全員がアクセスできる専門サービスではないかもしれませんが、このような報告をもとに、プライマリ領域において、セクシュアルマイノリティの人が受診/相談しやすい環境やコミュニケーションとはなんだろう?と考えさせられます。

また、ハイリスクの人に検査を勧めるということは、一定の確立で陽性の結果を患者とともに引き受ける事になりますので、周辺領域の勉強やノウハウなども機会があったらぜひ学べるといいですね。

・・・青木編集長はケンタッキーに行く前は「考えた事もなかった」話題だそうです。


















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