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Channel: 感染症診療の原則
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「伝えなくてはだめですか?」という問い

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診察室に、HIV陽性の患者さんが座っています。

自分の感染症に気づいたときに、誰かに伝えなくてはいけないか?という質問があります。

親に言わなくてはいけないでしょうか?  NO (伝えることで得られるもの、起こる問題を考えて決めます)

会社に言わなくてはいけないでしょうか? NO (伝えることで得られるもの、起こる問題を考えて決めます)

セックスをした人に「言わなくてはいけない」でしょうか?  NO 日本では「伝えなくていけない」という法律などの決まりはありません(海外には決まりがあります)。
もちろん信頼関係や倫理的な問題は発生します。
この場合でも、伝えることによって得られるもの、伝えることで生じる課題やリスクも考えます。
(DVにつながりそうなときなどは海外でも伝えないことになっています)


診察室にHIV陽性のお母さんとお子さんが座っています。

「こんど保育園に入ることになりました」
「園長先生や保母さんにHIVのことを伝えた方がいいでしょうか?伝えないといけないでしょうか?」

診察室にHBVキャリアのお母さんとお子さんが座っています。

「こんど保育園に入ることになりました」
「園長先生や保母さんにB型肝炎のことを伝えた方がよいでしょうか?伝えないといけないでしょうか?」

HIVもHBVも相談をされます。

HIVは生活の中で全くうつらないということではないですが、血液曝露のないところでそうそうおきないことがわかっています。

HBVは肉眼的にフレッシュな血液がないところでも感染が広がることはこれまでの疫学調査などから把握されていることです。

北米等で、デイケアや小学校に入る前に、接種が厳しくチェックされるワクチンのひとつにB型肝炎ワクチンがならんでいるのもうなづけます。
感染した人を探してその人だけを排除するという考え方は、本来の感染症対策やケアの概念からはとおざかるからです。
実際、感染に気付いていない人がたくさんいるので、気づいている人だけ問題にするのでは感染症対策にもなりません。

皆で接種をするのが、全員への配慮につながります。


そのような哲学のない日本では、感染して健康に不安を抱える人たちにさらなる負荷がかかります。

日本感染症学会のQ&Aにも似たような相談が載っていました。

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【質問】B型肝炎キャリア幼児の保育所における集団生活での問題点、対応策について

母親が就業するため幼児の保育所入所を強く希望されています。
幼児は1歳半の女児。母子感染によるB型肝炎のキャリアであるが、未発症。症状は安定していて日常生活に支障はない状態です。
かみつき等のある年齢であるため、入所許可を保留にしているところです。現時点での保育所入所は可能でしょうか。 集団生活における問題点(感染の可能性等)、対応策についてご教示下さい。

【回答】

1979-1982年に、某地区で52箇所の保育所を調査し、B型肝炎ウイルス(HBV)キャリアでHBe抗原陽性の園児から感染されたと思われる園児が10名存在していること、そのうち6名がHBVキャリアとなったことを報告しています

HEPATITIS B VIRUS TRANSMISSION IN NURSERY SCHOOLS
Am. J. Epidemiol. (1987) 125 (3): 492-498.

この時明確な感染経路を同定することは出来ませんでしたが、文献的考察を含めて私の考えを述べます。

1.園児が口に入れる(なめる)おもちゃなどの共用があった(唾液感染)
2.歯磨き後の歯ブラシをまとめて洗浄していた(唾液感染)
3.HBVキャリアの園児の四肢に膿痂疹(とびひ)あり、感染した園児にも膿痂疹がみられた(経皮感染)
4.その他考えられることは、哺乳ビンの共用(ないと思われるが)
5.ケガなどの出た血液が、他の園児の皮膚粘膜に付着する。その場合、健康な皮膚であれば感染しない。
6.噛みつきによる感染は充分考えられるが、1歳半の女児が皮膚を食い破るほど強く噛み付くかどうか検討してください。皮膚を食い破れないのであれば、感染することはないと思われます。
以上の点を、勘案していただいて、入所可能かどうかを決めていただければ幸いです。
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キャリア化する一番大きな因子は年齢といわれています(免疫機能の発達の問題)。
乳幼児期と小学生では大きくことなるので、乳幼児期に保育園や家庭内での水平感染のリスクを下げる必要があります。

乳幼児期をすぎても、血液や体液との接触のおこりうるスポーツを通じての感染リスクを考えても、ユニバーサルワクチンは重要ですし、

【日本】Horizontal transmission of hepatitis B virus among players of an American football team.
Arch Intern Med. 2000 Sep 11;160(16):2541-5.


日本のDPC病院では年間2000‐2500の急性B型肝炎の入院症例があり、入院しない例を含めると年間10000例ちかい急性B型肝炎症例がいます。

この人たちは、たまたまどこかでウイルスに曝露をしているのですが、原因(感染経路)がわからない人たちも一定数います

リスク因子の検討として、急性B型肝炎の症例では、家庭内にキャリアがいる(しかし、ワクチン接種をしてもらえていない)ということが指摘されており、

【シンガポール】Hepatitis B infection in households of acute cases.
J Epidemiol Community Health. 1985 Jun;39(2):123-8.

医療行為など注射などに曝露機会の少ない地域で高頻度で感染が起きている場合、幅広い年齢層でのキャリア率をみると、性感染症だけでも説明がつきません。水平感染のリスクを考えさせられる疫学データです。

【ガーナ】
Risk factors for horizontal transmission of hepatitis B virus in a rural district in Ghana.
Am J Epidemiol. 1998 Mar 1;147(5):478-87.


B型肝炎ワクチンの開発は古く1982年です。WHOが世界各国に接種を推奨したのが10年後の1992年。
WHO解説ページ

2001年のWHOの資料Introduction of hepatitis B vaccine into childhood immunization services(55ページ)



あえて接種しない、と決める場合は事前に文書を提出することになります。

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