San Diegoでひらかれている第70回米国皮膚科学会で、「健康な60歳以上の人に2回目のzosterワクチンをしてもベネフィットはない」という発表がありました。
ブースター接種は "might be worthwhile in individuals with a depressed immune system"免疫が低下している人では意味があるかも、です。
テキサスの研究者らによって行われたdouble-blind, placebo-controlled, multicenter studyでは、
水痘の既往のある60歳以上の男女209人を、 VZVワクチン2回接種(104)と、プラセボ(105)にわけ、42日間をあけて接種しました。
免疫の判定は VZV interferon-gamma enzyme-linked immunospot (ELISPOT) assayと VZV glycoprotein enzyme-linked immunosorbent antibody (gpELISA) assayを使用。
報告の記事下記リンク先にあります。
American Academy of Dermatology (AAD) 70th Annual Meeting: Late-breaking abstract. Presented March 16, 2012.
Mar 26 Medscape
製薬会社的にはオフィシャルに2回必要というのと、1回だけでいい、ではマーケットの規模が倍増/半減ですから大きな関心でしょう。
違うデザインとサンプルで調査すればまた違う可能性もでるかもしれませんが、そういった調査ごとの限界は専門家は最初から知っているので右往左往しません。(メディアはその都度踊るかもしれませんが)
と、前ふり情報が今回はあまりキャッチーではありませんが・・・・
水痘ワクチンの話にもっていきたいとおもいます(え?無理矢理?)
子どもで大流行中の水痘、、のワクチンですが、国によって対応が異なることをブログ記事で紹介してきました。
水痘そのものについての認識の違い、病気や感染症に対する国民の反応の違い、経済力の違い等が影響します。
まず、[熱烈積極接種勧奨型]は米国です。CDCのQ&A
国の予防接種プログラムに導入され、無料で接種が可能。集団生活をする子どもでは特に強く推奨され、アウトブレイクがおこると未接種の子どもは自宅待機となります。未接種の子どもが発症して健康リスクを抱えないようにするためです。
だらだら2次、3次、4次感染と拡大すると、お休みしなくては行けない期間が延長されます。(保護者はそんなに長く仕事をやすめません)
米国はこのことにより、水痘に成る子どもの分母が大きければ、子どもや成人での死亡や重症例がでる、そのリスクや実数を下げる事に成功しました。水痘ワクチンの接種率が集団免疫の効果を得るほどに保たれているからであります。
ワクチンにお金はかかりますが、予防できるものは予防したい、一人でも死亡や重症例を減らしたいというミッションを達成する為のお金とインフラがアメリカにはあります。
うつしたうつさない、予防接種の方針がなっちゃいない、施設の責任者は誰だ、無責任な保護者は誰だという騒動に(訴訟のことです)なりかねない。そういった背景があります。
成功はしましたが、問題も生じました。
それは高齢者の帯状疱疹です。
以前から、子どもに関わる仕事をしているひとたちでは帯状疱疹が少ない事が把握されていました。
これは周囲で流行している中で自然ブースターがかかるためという説明です。
以前はワクチンがなかったので高齢者は皆さんは水痘ウイルスに感染、発症して自然の免疫があります。しかし神経のところにウイルスはずっと潜んでおり、私たちの体の免疫が弱まると活動をしはじめます。
つまり、年齢や治療によって免疫低下がおきると帯状疱疹になるというわけです(書いているだけで背中や脇腹が痛くなる・・・)
構図としてはこうです。
子どもの水痘をワクチンで抑制 → 帯状疱疹発症のリスクに対してVZVワクチンを接種 です。
コストが大きくふくらみます。
一番いいのは、95%を超えるような接種率にして、子どもも感染しない(死亡や重症例も抑制)、将来帯状疱疹にもならない、です。しかし今子ども達が高齢者になるまではながーい時間がかかるのですぐにどうこういえませんが。
ここで話を日本にもっていきましょう。
日本は[優柔不断型]とでもいいましょうか。
水痘ワクチンを開発したのは日本人。しかし日本では水痘ワクチンはあまり重視されておらず、任意で高額なワクチンの接種率は20%前後といわれています。
これは世界の専門家からすると「最悪」な選択なのだそうで、
つまり集団免疫の効果を得るための数字からはほど遠い。水痘は%という具体的な数字は示されませんが、20%じゃそりゃ意味ねーだろ、といわれているわけです。
流行はとめられないし、一定数の1回接種の子は発症してしまします。ワクチンをうったのに発症したら(症状は軽減されたとしても)高いお金はらったのになあ、と保護者は悲しい気持ちになります。
「導入すると決めたのなら接種率をあげないと意味がないだろう?20%で放置するのはシナリオとして最悪」
ムムム。ならば定期(無料)にして、啓発をしなくてはなりません。しかし、有料のままHPにもないなら難しいですよね。
では、それは科学的、政策的に妥当なのでしょうか?
つまり、米国をモデルにした展開にするというコンセンサスや、判断根拠となるようなエビデンスを皆が共有しているのか?です。
日本では帯状疱疹以前に困った事がおきています。それは、院内への水痘の持ち込みです。
医療従事者が発端となることもありますが、多くは受診者、入院した人が水痘を発症して、待合室や病棟で広げてしまう、ということです。
すぐに気づいて曝露後対応を行うとしても、その費用は高額ですし、しなくていいはずの服用までしなくてはいけない患者さんの負担をどう考えるのか。また、免疫が低下しているために水痘を発症したら重症化するリスクのある患者さんはどうするのか。
ここで、以前紹介したヨーロッパの話を再度だしましょう
編集部はこれを[リスク容認派]と名付けました。
EU各国のうち、水痘ワクチンを国の乳幼児予防接種プログラムに位置づけているのはドイツです。
MMRVを導入したため、麻疹、ムンプス、風疹、水痘が混合ワクチンで2回、となっています。
他の国は、あの感染症対策が一番進んでいるといわれるオランダでも水痘ワクチンは乳幼児ワクチンプログラムに導入されていません。
HPVは政治的に導入されたそうですが、ロタは導入されていません。
(保護者が自費で接種する事は可能)
・・・気になるじゃないですか。感染症バスターが感染症になってもいいという判断をするのはなぜか。
「水痘はしょせん水痘だ」「数日で治るから自然放置でいい」
でも、VPDだし、重症化するリスクあるし。。。。
「リスクはゼロじゃない。しかし水痘でのリスクは麻疹でのリスクと大きく異なる。全員にワクチンをしたらコストもかかるし、帯状疱疹の問題がクローズアップされる。ある程度のリスクは仕方ないというところ。」と。
「科学的に正しい」と「政治的に正しい」はもともと違うのは自明。
ここで再び考えます。
院内感染対策はどうなっているんで・・・?
ここが日本と大きく違うところです。
「水痘では受診しない」「もちろんインフルエンザでも受診しない(なぜなら薬は要らないから)」
え?
「保護者や周囲の大人は水痘はどんな病気か知っているので、数日治るまで機嫌よくすごせるなら自宅で対応」なのだそうです。
ここが日本と判断がちがうところです。
例えば日本では、保護者がよびだされて「受診してくださいねー」とか「治癒証明ちょうだいねー」とかいわれるわけです。
あまり情報をもっていない保護者は「ぶつぶつができましてー」と外来Nsに伝えます。
そうすると大慌てで違う部屋に案内されます。待合室で他の患者さんにうつったらたいへんだからです。
ERを受診することもあります。
(潜伏期間があるために、入院させたらそのあと水痘や麻疹だとわかるということもあります)
接種率は20%で集団免疫効果に届いていない。(ここは努力の余地あり)
多くの子どもが自然感染する。(なりゆきです)
そして発症。(しかたない)
そして受診。(本当に受診はいるのか?)
「水痘=受診」
受診すると、白い塗り薬や顆粒のお薬がでたりする訳ですよ。(オランダは水痘に薬はでません)
日本で処方されている内服薬はヨーロッパでは子どもには使いません(基礎疾患がある人の場合はケースバイケース)。
病気のこどもをケアする病院は、外来でもERでも水痘が感染したら困るお子さんが一定数います。
受診という形で持ち込まれるリスクをどう管理するか。
ちなみに、ですが、
オランダの病院の入職時オリエンテーション: 水痘既往の確認、不明や既往無しの場合は血液得検査という流れになっており(他のワクチンも同様)免疫のない人は病院が無料で接種をオファー。医学生も実習前に無料で(病院が費用を負担して)提供されるそうです。
個人負担がないというのは重要ですね。
水痘ワクチンを導入しないで、「水痘はしょせん水痘」というスタンスを、稀に死亡したり重症化するリスクは承知で貫く場合にこのような展開になるわけです。
ブツブツの後がのこるのも「しかたない」「麻疹のようにそう簡単に死ぬわけじゃない」
保護者どうしも「お互い様。(にっこり)」学校の先生が「体調いいなら登校してください」といったりするのなら可能なのかもです。
もう少し違うアイデアの国の話もしらべてみたいとおもいます。
日本はどうしたい、と考えているのでしょうね。予防接種は公衆衛生の核となる事業ですから、そのあたり言語化できることが大事です。
(EUの他の国ではTdap同様、国の予防接種プログラムにいれるかどうかを検討しているところです)
ブースター接種は "might be worthwhile in individuals with a depressed immune system"免疫が低下している人では意味があるかも、です。
テキサスの研究者らによって行われたdouble-blind, placebo-controlled, multicenter studyでは、
水痘の既往のある60歳以上の男女209人を、 VZVワクチン2回接種(104)と、プラセボ(105)にわけ、42日間をあけて接種しました。
免疫の判定は VZV interferon-gamma enzyme-linked immunospot (ELISPOT) assayと VZV glycoprotein enzyme-linked immunosorbent antibody (gpELISA) assayを使用。
報告の記事下記リンク先にあります。
American Academy of Dermatology (AAD) 70th Annual Meeting: Late-breaking abstract. Presented March 16, 2012.
Mar 26 Medscape
製薬会社的にはオフィシャルに2回必要というのと、1回だけでいい、ではマーケットの規模が倍増/半減ですから大きな関心でしょう。
違うデザインとサンプルで調査すればまた違う可能性もでるかもしれませんが、そういった調査ごとの限界は専門家は最初から知っているので右往左往しません。(メディアはその都度踊るかもしれませんが)
と、前ふり情報が今回はあまりキャッチーではありませんが・・・・
水痘ワクチンの話にもっていきたいとおもいます(え?無理矢理?)
子どもで大流行中の水痘、、のワクチンですが、国によって対応が異なることをブログ記事で紹介してきました。
水痘そのものについての認識の違い、病気や感染症に対する国民の反応の違い、経済力の違い等が影響します。
まず、[熱烈積極接種勧奨型]は米国です。CDCのQ&A
国の予防接種プログラムに導入され、無料で接種が可能。集団生活をする子どもでは特に強く推奨され、アウトブレイクがおこると未接種の子どもは自宅待機となります。未接種の子どもが発症して健康リスクを抱えないようにするためです。
だらだら2次、3次、4次感染と拡大すると、お休みしなくては行けない期間が延長されます。(保護者はそんなに長く仕事をやすめません)
米国はこのことにより、水痘に成る子どもの分母が大きければ、子どもや成人での死亡や重症例がでる、そのリスクや実数を下げる事に成功しました。水痘ワクチンの接種率が集団免疫の効果を得るほどに保たれているからであります。
ワクチンにお金はかかりますが、予防できるものは予防したい、一人でも死亡や重症例を減らしたいというミッションを達成する為のお金とインフラがアメリカにはあります。
うつしたうつさない、予防接種の方針がなっちゃいない、施設の責任者は誰だ、無責任な保護者は誰だという騒動に(訴訟のことです)なりかねない。そういった背景があります。
成功はしましたが、問題も生じました。
それは高齢者の帯状疱疹です。
以前から、子どもに関わる仕事をしているひとたちでは帯状疱疹が少ない事が把握されていました。
これは周囲で流行している中で自然ブースターがかかるためという説明です。
以前はワクチンがなかったので高齢者は皆さんは水痘ウイルスに感染、発症して自然の免疫があります。しかし神経のところにウイルスはずっと潜んでおり、私たちの体の免疫が弱まると活動をしはじめます。
つまり、年齢や治療によって免疫低下がおきると帯状疱疹になるというわけです(書いているだけで背中や脇腹が痛くなる・・・)
構図としてはこうです。
子どもの水痘をワクチンで抑制 → 帯状疱疹発症のリスクに対してVZVワクチンを接種 です。
コストが大きくふくらみます。
一番いいのは、95%を超えるような接種率にして、子どもも感染しない(死亡や重症例も抑制)、将来帯状疱疹にもならない、です。しかし今子ども達が高齢者になるまではながーい時間がかかるのですぐにどうこういえませんが。
ここで話を日本にもっていきましょう。
日本は[優柔不断型]とでもいいましょうか。
水痘ワクチンを開発したのは日本人。しかし日本では水痘ワクチンはあまり重視されておらず、任意で高額なワクチンの接種率は20%前後といわれています。
これは世界の専門家からすると「最悪」な選択なのだそうで、
つまり集団免疫の効果を得るための数字からはほど遠い。水痘は%という具体的な数字は示されませんが、20%じゃそりゃ意味ねーだろ、といわれているわけです。
流行はとめられないし、一定数の1回接種の子は発症してしまします。ワクチンをうったのに発症したら(症状は軽減されたとしても)高いお金はらったのになあ、と保護者は悲しい気持ちになります。
「導入すると決めたのなら接種率をあげないと意味がないだろう?20%で放置するのはシナリオとして最悪」
ムムム。ならば定期(無料)にして、啓発をしなくてはなりません。しかし、有料のままHPにもないなら難しいですよね。
では、それは科学的、政策的に妥当なのでしょうか?
つまり、米国をモデルにした展開にするというコンセンサスや、判断根拠となるようなエビデンスを皆が共有しているのか?です。
日本では帯状疱疹以前に困った事がおきています。それは、院内への水痘の持ち込みです。
医療従事者が発端となることもありますが、多くは受診者、入院した人が水痘を発症して、待合室や病棟で広げてしまう、ということです。
すぐに気づいて曝露後対応を行うとしても、その費用は高額ですし、しなくていいはずの服用までしなくてはいけない患者さんの負担をどう考えるのか。また、免疫が低下しているために水痘を発症したら重症化するリスクのある患者さんはどうするのか。
ここで、以前紹介したヨーロッパの話を再度だしましょう
編集部はこれを[リスク容認派]と名付けました。
EU各国のうち、水痘ワクチンを国の乳幼児予防接種プログラムに位置づけているのはドイツです。
MMRVを導入したため、麻疹、ムンプス、風疹、水痘が混合ワクチンで2回、となっています。
他の国は、あの感染症対策が一番進んでいるといわれるオランダでも水痘ワクチンは乳幼児ワクチンプログラムに導入されていません。
HPVは政治的に導入されたそうですが、ロタは導入されていません。
(保護者が自費で接種する事は可能)
・・・気になるじゃないですか。感染症バスターが感染症になってもいいという判断をするのはなぜか。
「水痘はしょせん水痘だ」「数日で治るから自然放置でいい」
でも、VPDだし、重症化するリスクあるし。。。。
「リスクはゼロじゃない。しかし水痘でのリスクは麻疹でのリスクと大きく異なる。全員にワクチンをしたらコストもかかるし、帯状疱疹の問題がクローズアップされる。ある程度のリスクは仕方ないというところ。」と。
「科学的に正しい」と「政治的に正しい」はもともと違うのは自明。
ここで再び考えます。
院内感染対策はどうなっているんで・・・?
ここが日本と大きく違うところです。
「水痘では受診しない」「もちろんインフルエンザでも受診しない(なぜなら薬は要らないから)」
え?
「保護者や周囲の大人は水痘はどんな病気か知っているので、数日治るまで機嫌よくすごせるなら自宅で対応」なのだそうです。
ここが日本と判断がちがうところです。
例えば日本では、保護者がよびだされて「受診してくださいねー」とか「治癒証明ちょうだいねー」とかいわれるわけです。
あまり情報をもっていない保護者は「ぶつぶつができましてー」と外来Nsに伝えます。
そうすると大慌てで違う部屋に案内されます。待合室で他の患者さんにうつったらたいへんだからです。
ERを受診することもあります。
(潜伏期間があるために、入院させたらそのあと水痘や麻疹だとわかるということもあります)
接種率は20%で集団免疫効果に届いていない。(ここは努力の余地あり)
多くの子どもが自然感染する。(なりゆきです)
そして発症。(しかたない)
そして受診。(本当に受診はいるのか?)
「水痘=受診」
受診すると、白い塗り薬や顆粒のお薬がでたりする訳ですよ。(オランダは水痘に薬はでません)
日本で処方されている内服薬はヨーロッパでは子どもには使いません(基礎疾患がある人の場合はケースバイケース)。
病気のこどもをケアする病院は、外来でもERでも水痘が感染したら困るお子さんが一定数います。
受診という形で持ち込まれるリスクをどう管理するか。
ちなみに、ですが、
オランダの病院の入職時オリエンテーション: 水痘既往の確認、不明や既往無しの場合は血液得検査という流れになっており(他のワクチンも同様)免疫のない人は病院が無料で接種をオファー。医学生も実習前に無料で(病院が費用を負担して)提供されるそうです。
個人負担がないというのは重要ですね。
水痘ワクチンを導入しないで、「水痘はしょせん水痘」というスタンスを、稀に死亡したり重症化するリスクは承知で貫く場合にこのような展開になるわけです。
ブツブツの後がのこるのも「しかたない」「麻疹のようにそう簡単に死ぬわけじゃない」
保護者どうしも「お互い様。(にっこり)」学校の先生が「体調いいなら登校してください」といったりするのなら可能なのかもです。
もう少し違うアイデアの国の話もしらべてみたいとおもいます。
日本はどうしたい、と考えているのでしょうね。予防接種は公衆衛生の核となる事業ですから、そのあたり言語化できることが大事です。
(EUの他の国ではTdap同様、国の予防接種プログラムにいれるかどうかを検討しているところです)