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Channel: 感染症診療の原則
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医学部、薬学部、看護学部で教えているHIV感染症の情報と現実のギャップ

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昨日は編集長が客員教授をしている東京医大臨床検査医学講座のHIV感染症のセミナーでした。

ここでは症例検討セッションを担当させてもらっています。

臨床の情報をもとに考え方や鑑別についての説明をいれていくと(毎度のことですが)症例プレゼンターが40枚近くスライドを準備しているのに1時間すぎたところでも3枚くらいしか進みません。

(だいじょうぶかな) ←会場の皆の心の声

無事、最後の30分スピードをあげてちゃんと最後のスライドまでたどりつきました。
皆さん心配させてすみません。

その後の懇親会で若い人たちと話して「あれ?」と思ったことですが、医療系の大学では学部在学中にHIVやエイズについて多少なりとも学ぶ機会があるものの、その内容がとっても古いんじゃないか?ということです。

疫学データ。

×「日本は先進国で唯一新規のHIV感染が増えている」
○そんな状況になったことは一度もなく、現在もそのような状況ではない

×誰にでも移るので危険
○新規感染の9割以上が男性 一般人口での性行為で起こりうる他のSTIとは事情が異なる


×「日本では新規感染がどんどん増えて大問題だ」
○年に1500が大問題というのは誰の主観かわかりませんが・・・増加傾向というわけではなく、今後も爆発的に増えていく要因はありません。それは、



そもそも分母としての若年人口は増えない。

感染が分かった人たちが治療をスムーズに開始できればウイルス量が激減するので、かりにコンドーム使用率が下がっても、もともととてもうつりにくいHIVはさらにうつりにくくなる

日本では他の先進国のように流行しなかった背景として、MSM間での流行が中心であり、男女間のコミュニティへの橋渡しとなる注射器や梁を共用するドラッグのコミュニティがとても小さいこと(ないわけではない)

全般に性的な行動は活発でない(それはそれで別の問題がある?)



残るリスク因子:

そうはいっても、梅毒やHPVなど先に感染があるとHIVに感染しやすくなるので梅毒やその他の性感染症がコンドーム使用ないまま流行していて危険ではないか?


一般女性に拡大するリスク。
日本の新規HIV感染の9割近くが男性で、その多くが男性とセックスをする男性間での感染。
女性での感染はゼロではないが、日本人女性の場合のリスク因子は、HIVが流行している地域に滞在をしたことがある、そこでパートナーがいた、高流行国のパートナーとの性行為があったということはACCなど受診患者が多い施設からが学会で報告がありました。
感染症のリスクを考えれば流行地での生活や性行為がリスク因子となるのは当然で、逆に言うとそれ以外の所での可能性はとても低いというわけです。

このほか話題となったのは、性行為以外での感染です。本人が首をかしげるほどに「なぜ感染したのかわからない」という人たちは一定数います。ほかの性感染症既往もゼロ、そもそも性行為事態がないんです、、、という方たち。
歯医者など他のリスク要素がありますが、調査しようがないので「不明」群とカウントされています。


日本での課題は2つ。

知識や制度が古いまま。

例えば、HIVに感染しても高額な治療・医療費は公費でカバーされる仕組みがありますが、これが「免疫機能障害」という障害者の認定←自立支援医療というプロセスであること。
現在は良い治療が選択でき、健康を回復できる人が増えたので、高額な医療費だけをカバーしてなるべく早く治療を開始できるよう支援すべきであるのに、古い仕組みだと「データが悪くないと」認めてもらえないとか、つまり悪化するまで治療を待つのか?というおかしな状況になっています。

このような問題は現場が問題指摘したり学会から申し入れをして実態との齟齬をなくすようにするものなのですが、数年間関係者が「問題ですねえ」といいながら変わっていないのはなぜでしょうね。


もうひとつは、他の外国で有効とされている新しい予防が日本では選択できていないという点。
最初は「アイデア」でしたが、複数の臨床試験で繰り返し評価を受け、現在ではガイドラインや対策に正式に位置づけられているんのが、抗HIV薬による予防でです。

1)曝露後投与 PEP
医療者が針刺し事故をした後に飲むように、性的に曝露をしたあとにも薬を飲んで予防をする方法があります。
日本では、これに対応している病院がわかりにくいですが、拠点病院やHIV診療対応をしているクリニックなどに相談をすることになります。
日本では適応はなく全額自費。
(海外から来る患者さんの加入している保険によってはカバーされる場合もあります)

Hiv Pep In Japan


2)曝露前投与 PrEP
感染していない人が抗HIV薬を飲むことで感染リスクを下げる方法。
日本では適応はなく全額自費。

PrEPed in Japan


臨床試験では服用群とコントロール群での比較になりますが、実際にコミュニティで導入したらどうなるか?という話としてロンドンでは2016年に新規HIVが激減したという事案があります。
この数字にPrEPがどう影響しているかの検証はこれから行われるのですが、すでにPrEPを評価する現場の専門家が複数います。
現場の感覚というのも確かに大事です。
同時期に他に感染を減らすような因子がなかったかも検討されます。

Massive drop in London HIV rates may be due to internet drugs

その人のリスク状況にあわせて医師やチームと相談をすることになるのですが、毎日1錠飲むという方法のほかに、リスク行為がありそうな日の前日と行為後に服用する、行為の2時間前と行為後に服用するという評価をしたグループもあります(フランスとカナダ)


このような話は日本のどこで話しても、研修会に参加している人たちの目が点になるのがわかります。
「えっ・・・」という空気が流れます。

「すみません、もう一度いってください。感染するかもしれないセックスがあるときに、コンドームでの予防ではなて、薬を選択するということでしょうか?」混乱混乱混乱

コンドームを常時使える、そういった相手とだけセックスする人たちにはいらないのかもしれません。
しかし、みながコンドームを毎回100%使えるわけではないことも事実です。
リスクを○か×、0か100で考えるのではなく、少しでもその人の危険を減らせるように、、、というアイデアであることをまず理解してもらう必要があります。

心情として「許しがたい」「信じられない」「受け入れられない」人がいてもいいとおもいます。
でも、個人への評価とは別に、一人でも多くの人を感染症から守るほうがいいのではないか?と考えて予防政策に取り入れている国もあることは知っておいたほうがいいです。

そして、そのような国から来た人は当然その医療を求めます。
その人には提供して日本人には提供しないという選択が私たち医療者にあるのか。

費用をだれが負担すべきかは、外国でも様々な意見があります。

NHS England has power to fund Prep HIV drug, court decides

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