青木編集長の「感染症診療の原則」の広義は、原則ゆえにベーシックなお話ですが、「一番効いて(聞いて)欲しい人は会場にはいない」ということがあります。興味がない。聞いても変わらないということもありますが。
肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンは一般に高齢者や基礎疾患のある人(免疫低下など)に推奨されていますが、この病原体から守られるべき人たちこそ、ワクチンの効果が得られにくいという問題があります。
免疫が高齢化や病気/治療のために弱いから、というのがその主な理由です。(だからワクチン不要、とはなりませんが)
個人レベルでは病気になりたくない、受診/入院/治療はいやだ、重症化や死亡は避けたいということで接種する選択があります。
社会/政策レベルでは、その介入をする(公費で予算化する)しないで、結果にいかほどのインパクトがあるのか?という話になります。
議論の視点は別もの。
カナダが高齢者1300万人/9インフルエンザシーズンについてトロント大学の研究者らが調査を行いました。
通常の回帰分析ではなく操作変数の分析をしてみた・・・ところで出てきた結論にインパクトがありニュースになっています。
ほぼ同じ時期に米国からは、今年のインフルエンザの影響がたいしたことのない背景分析として、シーズン始まりが遅い、ワクチン接種率が高まりうまくいっている、といったことがニュースになっていました。それぞれ関心やみているもの、データの取り方もちがうんですが、同時期のニュースとして面白いですね。
ワクチン接種の方針も国によって違います。様々な分析法はバイアスの制御のために考えられたものです。どのようなバイアスがあるのか、、、を考えながら読むと面白い。
Estimating Influenza Vaccine Effectiveness in Community-Dwelling Elderly Patients Using the Instrumental Variable Analysis Method
Arch Intern Med. Published online February 27, 2012. Abstract
カナダでは、肺炎やインフルエンザで入院する人の減少が期待するほど大きくないということです。
これまでの研究が高齢者での死亡(流行シーズン以外でも)に寄与するとされてきた結果についてのバイアスを指摘しました。
2000− 2001年から2008−2009年の9シーズンについて、検討。全体12,621,806人のうち、7,345,891人(58.2%)がワクチンを接種。
インフルエンザシーズン中に130,532人が死亡、62,913人が肺炎やインフルエンザを理由に入院。
通常の回帰分析では、ワクチンはシーズン中の死亡率を33%減少させ(adjusted odds ratio [OR] .67; 95% CI.62 - .72)、シーズン外でも15%減少させるとの結果になります(adjusted OR, .85; 95% CI, .83 - .86)。しかし、今回の操作変数分析では、ワクチンによる死亡の減少はシーズン中が6% (adjusted OR, .94; 95% CI, .84 - 1.03)、シーズン以外では減少はみとめられませんでした (OR, 1.13; 95% CI, 1.07 - 1.19)。
(中略)
著者らは操作変数分析では、インフルエンザワクチンはシーズン中/シーズン外での入院や死亡の減少に関連していない、と結論。
現在のインフルエンザワクチンの効果は従来考えられていたものよりも小さく、全体で6%減程度との意見です。
しかし、「現在の、高齢者に接種を推奨するガイドラインは、より明確なエビデンスが提示されるまで維持されるべき」と考えられています。
それはこのワクチンが安全で、費用負担は比較的小さいからです。
この研究のための費用は、オンタリオ州の保健省の長期療養関連予算で Canadian Institutes of Health Research and by the Institute for Clinical Evaluative Sciencesに提供しています。著者は特定の経済的なつながりはなく、共著者 Dr BrookhartはPfizer, Amgen, Rockwell Medical,DaVita Clinical Research, Crimson Health, World Health Information Consultantsとの契約や研究助成の関係があることを開示しています。
やはり、ニュースのツボを理解するためには、統計学や臨床研究デザインがわからないと難しいですね。
「医学研究初心者のための やっぱりわかりにくい統計道場」
それって有効なの?投資するかいはあるのかなあ、というのは計量経済学の領域でさかん。
「インパクト評価をめぐる国際的動向」
データの取り方や分析法で異なる結論が出てくるわけですが、研究の目的、研究者の背景、そもそものバイアス、政策へのインパクトなどいろいろ考えながら読みました。
下記の本は、よく相談をする生物統計の研究者から紹介された本で、とても参考になりました。
調査観察データの統計科学―因果推論・選択バイアス・データ融合 (シリーズ確率と情報の科学)岩波書店
肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンは一般に高齢者や基礎疾患のある人(免疫低下など)に推奨されていますが、この病原体から守られるべき人たちこそ、ワクチンの効果が得られにくいという問題があります。
免疫が高齢化や病気/治療のために弱いから、というのがその主な理由です。(だからワクチン不要、とはなりませんが)
個人レベルでは病気になりたくない、受診/入院/治療はいやだ、重症化や死亡は避けたいということで接種する選択があります。
社会/政策レベルでは、その介入をする(公費で予算化する)しないで、結果にいかほどのインパクトがあるのか?という話になります。
議論の視点は別もの。
カナダが高齢者1300万人/9インフルエンザシーズンについてトロント大学の研究者らが調査を行いました。
通常の回帰分析ではなく操作変数の分析をしてみた・・・ところで出てきた結論にインパクトがありニュースになっています。
ほぼ同じ時期に米国からは、今年のインフルエンザの影響がたいしたことのない背景分析として、シーズン始まりが遅い、ワクチン接種率が高まりうまくいっている、といったことがニュースになっていました。それぞれ関心やみているもの、データの取り方もちがうんですが、同時期のニュースとして面白いですね。
ワクチン接種の方針も国によって違います。様々な分析法はバイアスの制御のために考えられたものです。どのようなバイアスがあるのか、、、を考えながら読むと面白い。
Estimating Influenza Vaccine Effectiveness in Community-Dwelling Elderly Patients Using the Instrumental Variable Analysis Method
Arch Intern Med. Published online February 27, 2012. Abstract
カナダでは、肺炎やインフルエンザで入院する人の減少が期待するほど大きくないということです。
これまでの研究が高齢者での死亡(流行シーズン以外でも)に寄与するとされてきた結果についてのバイアスを指摘しました。
2000− 2001年から2008−2009年の9シーズンについて、検討。全体12,621,806人のうち、7,345,891人(58.2%)がワクチンを接種。
インフルエンザシーズン中に130,532人が死亡、62,913人が肺炎やインフルエンザを理由に入院。
通常の回帰分析では、ワクチンはシーズン中の死亡率を33%減少させ(adjusted odds ratio [OR] .67; 95% CI.62 - .72)、シーズン外でも15%減少させるとの結果になります(adjusted OR, .85; 95% CI, .83 - .86)。しかし、今回の操作変数分析では、ワクチンによる死亡の減少はシーズン中が6% (adjusted OR, .94; 95% CI, .84 - 1.03)、シーズン以外では減少はみとめられませんでした (OR, 1.13; 95% CI, 1.07 - 1.19)。
(中略)
著者らは操作変数分析では、インフルエンザワクチンはシーズン中/シーズン外での入院や死亡の減少に関連していない、と結論。
現在のインフルエンザワクチンの効果は従来考えられていたものよりも小さく、全体で6%減程度との意見です。
しかし、「現在の、高齢者に接種を推奨するガイドラインは、より明確なエビデンスが提示されるまで維持されるべき」と考えられています。
それはこのワクチンが安全で、費用負担は比較的小さいからです。
この研究のための費用は、オンタリオ州の保健省の長期療養関連予算で Canadian Institutes of Health Research and by the Institute for Clinical Evaluative Sciencesに提供しています。著者は特定の経済的なつながりはなく、共著者 Dr BrookhartはPfizer, Amgen, Rockwell Medical,DaVita Clinical Research, Crimson Health, World Health Information Consultantsとの契約や研究助成の関係があることを開示しています。
やはり、ニュースのツボを理解するためには、統計学や臨床研究デザインがわからないと難しいですね。
「医学研究初心者のための やっぱりわかりにくい統計道場」
それって有効なの?投資するかいはあるのかなあ、というのは計量経済学の領域でさかん。
「インパクト評価をめぐる国際的動向」
データの取り方や分析法で異なる結論が出てくるわけですが、研究の目的、研究者の背景、そもそものバイアス、政策へのインパクトなどいろいろ考えながら読みました。
下記の本は、よく相談をする生物統計の研究者から紹介された本で、とても参考になりました。
調査観察データの統計科学―因果推論・選択バイアス・データ融合 (シリーズ確率と情報の科学)岩波書店