週末、ニュースをみかえしたら、デング、腸チフス、HPVがありました。
(エボラの情報更新はまた別の機会に)
メディアの方から「どれくらいいるんでしょうか?」と聞かれます。
ある病気がどれくらい量的質的に存在するか、、、を数えたり評価するためには、何らかの方法でカウントをしなくてはいけないのですが、「はい!私、その症状があります」という個人のレポートから、ドクターが診察や検査をして「確定しました」という報告まで、情報の精度がまちまちです。
いずれにしても、個々の症例情報を集めないといけません。
特定のケースを集めるための第一歩が「症例定義」です。
特定の条件がそろった人を集めます。
ここで、より正確な情報を集めようと思うと条件がたくさんになって、その集めたい情報自体が集まらなくなってしまいます。
逆に広すぎると、本当は関係ないものまでまじってしまい、情報の正確さが落ちます。
正確ではない情報をもとに議論をするとなんだかわからなくなりますので、一定の条件は必須にして、その他は随時参考にするというやり方もあります。
例えば、このようなかんじです。あるお店で食事をした同じ会社のOLさんが3人が長く続く発熱で受診しました。
食べた日はそれぞれ月曜、水曜、金曜とばらばらです。
しかし、同じクリニックを受診したため、医師が「●●食堂の食事が原因ではないだろうか」「他にもいるんじゃないだろうか」と考えました。
感染症に詳しい医師であったため詳細な検査をしたところ、△△という菌が3人から出ました。
他にもいないかな?と思って考えたとても狭い症例定義はこうなります。
「●月●日から●月●日の間に、「●●食堂」で食事をし、その後、38℃以上の発熱があり、検査で△△が検出された人」
です。超狭い定義です。
37.5℃の人は入らないですし●●食堂を思い出せない人も落ちてしまいます。本当は他の時期にもいるかもしれませんが、期間を切ったために落ちてしまう症例がいます。
そして何より、外来診療で「何の菌だろう」と検査を出す医師がどれくらいいるか?です。
抗菌薬と解熱剤でおかえりいただいて、それでも治らなかったらまたきてくださいね、、、といわれると受診をしてもその菌情報はつかめません。(詳細な検査をたくさんの事例で出すのがいいのかはこの際おいておきますが)
実際には別の病院に受診している人もいるかもしれませんし、この人たちは同じ会社の人なので、別の共通の食べ物等の曝露機会があるかもしれません。同じ会社に同じ症状の人がいても、軽ければ受診をしません。
あまり時間をかけると、間があきすぎて記憶のバイアスもかかりますし、何を食べたかどのお店だったか定かではない、、、という人たちが増えます。なのでこうした調査で全体像を見極めるのはとても難しいのが現状です。
デングはどうでしょうか。
夏に蚊に刺される人はたくさんいますし、発熱も珍しい症状ではありません。どこでもできる検査ではない場合、検査診断という絞り込みも難しいです。どうしようかという数日のうちに軽症者が回復するのもデングの特徴のひとつです。
デングの場合は半数が無症状(だから病院にもいかないし検査もしないので報告もされない)。
報告された人が200例くらいだったら、その数倍は感染している人がいるかもしれませんね・・・・という話。
詳細を調べるために地域住民の検査をするかというとしません。
その人たちにメリットが何もありませんので、採血自体にそもそも事故リスクがある、費用がかかることを考えると難しいわけです。
同じ調査でも、症例定義を広くとれば数じたいは増え、狭く厳しくすると逆に減ります。
「症例定義」はある程度恣意的にならざるをえないので、何をもって症例とカウントするのか、重症なのか、軽症とするのか、検査診断での確定例ではない場合は、可能性例や疑い例という定義がありますが、そのカテゴリーが妥当なのかという話になります。
もともと国際的に確立した基準があればそうしたものを使います。ない場合は専門家の意見などが求められます。
・・・ということを、「重い副作用例が千件」というニュースを見て考えるわけです。
"難病治療研究振興財団の研究チームは13日、厚生労働省に寄せられた約2500件の副作用報告を調べた結果、1112件の重い副作用が出ていたとする独自の分析を発表した。
厚生労働省に重い副作用として医師から報告が寄せられたのは617件だが、症状を幅広く認定した結果、数が増えたとみられる。"
産経新聞の記者の記載は正確です。
しかし、症例定義情報がないので何が基準かがわかりません。上記財団のホームページを見に行きましたが今日の時点で説明資料の掲載がありません(記者会見をするときにはソース提示もすると信頼度が増すんですけどね)
ちなみに、厚労省の会議で共有された症例データは一定の範囲でPDF資料として公開されていますので、それを見たい、という人はPDFで順番に見ていくことが可能です。
見ると気づくのですが、いくつかの資料はどのワクチンをうったかわからない、接種時期がわからない、転帰が不明という情報制度が高くないことです。受診しての診察の評価がない場合に、関連性の検討が難しくなるわけですから、正確な話にするために少なくとも報告があがったものについては調査をするという選択肢があります。
Passive surveillanceは受け身のサーベイランスですが、報告を待つ、というものです。
メディアのアナウンス効果で受診する人が増えて検査希望が増えれば(分母が増えれば)報告される数(分子)も増えます。
(デングの症状はおさまったけど、感染してたのか知りたいので検査してください的な)
検査キットが開発されて市販され病院に導入されると、突然検査が増えるので報告も増えるという現象がおきますし、感染症に意識の高い医師が着任すると、それまでテキトーにスルーされていた病気がちゃんと診断されて「病気が増える」(増えたようにみえる)現象もおきます。
Active Surveillanceはもっと積極的に症例を探しに行く、、、ですので、例えば発症した人の多い地域の住民に血液をもらって、分母1万人を調べたら、本人には自覚症状がないのに感染した形跡のある(抗体がみつかる)人がこんなにいて、実は報告された症例は氷山の一角だったね、、、というはなしになるわけです。
ベトナムやカンボジアや南米などでは、必ずしも検査をせずに症状などでデングとカウントするためconfirmedではなくsuspectedとして合計しているようですが、実際にはデングに似たような症状となるチクングニアや日本人でも渡航後に把握されているZika ウイルスの感染がまじっているのではないか?という指摘も行われています。
ざっくりにしすぎず、confirmed, suspected, probable 確定例、疑い例、可能性例、とその情報に応じて重みづけをするのも精度を大切にする人たちの工夫です。
「●●に違いない」「●●なわけがない」系バイアスにとらわれない目と頭で早期対応をしていくことが大切。
(エボラの情報更新はまた別の機会に)
メディアの方から「どれくらいいるんでしょうか?」と聞かれます。
ある病気がどれくらい量的質的に存在するか、、、を数えたり評価するためには、何らかの方法でカウントをしなくてはいけないのですが、「はい!私、その症状があります」という個人のレポートから、ドクターが診察や検査をして「確定しました」という報告まで、情報の精度がまちまちです。
いずれにしても、個々の症例情報を集めないといけません。
特定のケースを集めるための第一歩が「症例定義」です。
特定の条件がそろった人を集めます。
ここで、より正確な情報を集めようと思うと条件がたくさんになって、その集めたい情報自体が集まらなくなってしまいます。
逆に広すぎると、本当は関係ないものまでまじってしまい、情報の正確さが落ちます。
正確ではない情報をもとに議論をするとなんだかわからなくなりますので、一定の条件は必須にして、その他は随時参考にするというやり方もあります。
例えば、このようなかんじです。あるお店で食事をした同じ会社のOLさんが3人が長く続く発熱で受診しました。
食べた日はそれぞれ月曜、水曜、金曜とばらばらです。
しかし、同じクリニックを受診したため、医師が「●●食堂の食事が原因ではないだろうか」「他にもいるんじゃないだろうか」と考えました。
感染症に詳しい医師であったため詳細な検査をしたところ、△△という菌が3人から出ました。
他にもいないかな?と思って考えたとても狭い症例定義はこうなります。
「●月●日から●月●日の間に、「●●食堂」で食事をし、その後、38℃以上の発熱があり、検査で△△が検出された人」
です。超狭い定義です。
37.5℃の人は入らないですし●●食堂を思い出せない人も落ちてしまいます。本当は他の時期にもいるかもしれませんが、期間を切ったために落ちてしまう症例がいます。
そして何より、外来診療で「何の菌だろう」と検査を出す医師がどれくらいいるか?です。
抗菌薬と解熱剤でおかえりいただいて、それでも治らなかったらまたきてくださいね、、、といわれると受診をしてもその菌情報はつかめません。(詳細な検査をたくさんの事例で出すのがいいのかはこの際おいておきますが)
実際には別の病院に受診している人もいるかもしれませんし、この人たちは同じ会社の人なので、別の共通の食べ物等の曝露機会があるかもしれません。同じ会社に同じ症状の人がいても、軽ければ受診をしません。
あまり時間をかけると、間があきすぎて記憶のバイアスもかかりますし、何を食べたかどのお店だったか定かではない、、、という人たちが増えます。なのでこうした調査で全体像を見極めるのはとても難しいのが現状です。
デングはどうでしょうか。
夏に蚊に刺される人はたくさんいますし、発熱も珍しい症状ではありません。どこでもできる検査ではない場合、検査診断という絞り込みも難しいです。どうしようかという数日のうちに軽症者が回復するのもデングの特徴のひとつです。
デングの場合は半数が無症状(だから病院にもいかないし検査もしないので報告もされない)。
報告された人が200例くらいだったら、その数倍は感染している人がいるかもしれませんね・・・・という話。
詳細を調べるために地域住民の検査をするかというとしません。
その人たちにメリットが何もありませんので、採血自体にそもそも事故リスクがある、費用がかかることを考えると難しいわけです。
同じ調査でも、症例定義を広くとれば数じたいは増え、狭く厳しくすると逆に減ります。
「症例定義」はある程度恣意的にならざるをえないので、何をもって症例とカウントするのか、重症なのか、軽症とするのか、検査診断での確定例ではない場合は、可能性例や疑い例という定義がありますが、そのカテゴリーが妥当なのかという話になります。
もともと国際的に確立した基準があればそうしたものを使います。ない場合は専門家の意見などが求められます。
・・・ということを、「重い副作用例が千件」というニュースを見て考えるわけです。
"難病治療研究振興財団の研究チームは13日、厚生労働省に寄せられた約2500件の副作用報告を調べた結果、1112件の重い副作用が出ていたとする独自の分析を発表した。
厚生労働省に重い副作用として医師から報告が寄せられたのは617件だが、症状を幅広く認定した結果、数が増えたとみられる。"
産経新聞の記者の記載は正確です。
しかし、症例定義情報がないので何が基準かがわかりません。上記財団のホームページを見に行きましたが今日の時点で説明資料の掲載がありません(記者会見をするときにはソース提示もすると信頼度が増すんですけどね)
ちなみに、厚労省の会議で共有された症例データは一定の範囲でPDF資料として公開されていますので、それを見たい、という人はPDFで順番に見ていくことが可能です。
見ると気づくのですが、いくつかの資料はどのワクチンをうったかわからない、接種時期がわからない、転帰が不明という情報制度が高くないことです。受診しての診察の評価がない場合に、関連性の検討が難しくなるわけですから、正確な話にするために少なくとも報告があがったものについては調査をするという選択肢があります。
Passive surveillanceは受け身のサーベイランスですが、報告を待つ、というものです。
メディアのアナウンス効果で受診する人が増えて検査希望が増えれば(分母が増えれば)報告される数(分子)も増えます。
(デングの症状はおさまったけど、感染してたのか知りたいので検査してください的な)
検査キットが開発されて市販され病院に導入されると、突然検査が増えるので報告も増えるという現象がおきますし、感染症に意識の高い医師が着任すると、それまでテキトーにスルーされていた病気がちゃんと診断されて「病気が増える」(増えたようにみえる)現象もおきます。
Active Surveillanceはもっと積極的に症例を探しに行く、、、ですので、例えば発症した人の多い地域の住民に血液をもらって、分母1万人を調べたら、本人には自覚症状がないのに感染した形跡のある(抗体がみつかる)人がこんなにいて、実は報告された症例は氷山の一角だったね、、、というはなしになるわけです。
ベトナムやカンボジアや南米などでは、必ずしも検査をせずに症状などでデングとカウントするためconfirmedではなくsuspectedとして合計しているようですが、実際にはデングに似たような症状となるチクングニアや日本人でも渡航後に把握されているZika ウイルスの感染がまじっているのではないか?という指摘も行われています。
ざっくりにしすぎず、confirmed, suspected, probable 確定例、疑い例、可能性例、とその情報に応じて重みづけをするのも精度を大切にする人たちの工夫です。
「●●に違いない」「●●なわけがない」系バイアスにとらわれない目と頭で早期対応をしていくことが大切。