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Channel: 感染症診療の原則
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98%が男性の感染症 と その周辺(東京都のHIV/AIDS)

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NHKのホームページの記事は1週間で消えるそうなので、読みたい人はリンク先をクリック。

4月8日NHK 「都内のエイズ患者 去年は過去最多に」


"エイズ患者"、というのはHIVに感染した後、免疫機能低下が進行して一定の条件に当てはまる人をいいます。
症状があって受診するので医療機関で診断されることが多いです。


HIV/AIDSが社会で一大センセーショナルとなったのは1980年代はじめです。

その後の調査で、昔の保存血液からHIVが検出され、もっと昔からアフリカ等で流行していたんですねー、ということがわかっています。


社会で大騒ぎになったのは特定のリスク集団ではじまり、メディアの取り上げ方なども影響してます。

30年以上経過した今、良い治療が開発され、完治しないまでも健康管理がしやすくなった、高額な治療費には自己負担を軽減する制度が整っているという状況があります。

感染拡大は今も続いていますが、当初の「感染爆発」といったシナリオとは異なり、日本では"男性と性行為をする男性"での集中的な流行にとどまっています。


上記の記事でも2013年に都内で報告された469人(HIV感染者とエイズ発症の人の合計の数)のなんと98%が男性です。

性別や年齢の偏りは、感染症によっては確かに存在しますが、ここまで極端なのもすごいなーと、まず思ってください。

まあ、短い報道記事だとこれを伝えて終わりです。
考察の余地なし。


感染症関係者のために、さらに「その周辺」をみてみたいとおもいます。

まず、これは多いのか?ですが、、、5類全数報告としては届け出率の高い感染症です。
調査によると診断された場合8割は届け出が行われているということです。(でも100%は報告してもらえてません)

梅毒が5-10%くらいしか届けられていないといわれるなかではかなり高い報告率です。

時々ぐぐっと増えたりしますが、検査キャンペーンよりは、たくさんの症例をケアしている施設の先生がまとめて届け出をしたなどの影響をみます。季節トレンドはそう大きくありません。

東京は「日本全体の3分の1」のHIV症例報告があります。

東京に多い、というか、もとの人口がそもそも多いので、比較するなら人口10万人あたりでみないといけません。
(意外な県名が上位にあがってきます)


東京にはハイリスク層である男性同性間の性的ネットワークをつくりやすいコミュニティがあります。一本大きいのは新宿界隈ですね。
働き盛りの男性が多い、その中で上記のような男性リスク人口も他より多い。
だから全国の3分の1となっている、というわけです。

しかし、東京、といっていいのかわからないこともあります。

診断した医療機関の最寄りの保健所経由で報告があがって計算されているからです。
神奈川や埼玉に住んでいる人が新宿の病院で診断されたら、新宿・東京からの1例とカウントされます。

居住地や推定感染地域という情報も届出書にはあるので、
(医療機関と居住地のズレは研究班などで検討されています)


いずれにしても、これは検査を受けてわかった人ですから、無症状で自分は元気!と思っている人たちは検査を受けていませんので把握できません。
この人たちは自発的に検査を受けて気づくか、偶然気づくか、体調が悪化してから(病気が進行してから)診断されるかです。

ゲイコミュニティでは検査啓発が地道に行われているので、自発的に検査を受ける人が多いのだ、だからこのような数値になるのだという説明があります。

その仮説のなかでは、検査の意識が低いヘテロセクシュアルの男性や女性は検査アクセスが悪い、、データでひろいきれていないということになるのですが、ならばこのカテゴリーの人たちは遅い診断、かなり進行して重症でみつかるというような仮説になります。

しかし、実際には十数年の観察をしてもそのような人たちが想像以上に多いということは今のところデータ上は確認できていません。

男性症例のうち7-8割が同性間性的接触がある、となっています。
奥さんや女性のパートナーがいても男性と性的接触のある人たちはいますので、ゲイ、ホモセクシュアルとひとくくりにしないでMSMと表記されます。
Men who have Sex with Menです。


残りの2-3割の男性は、異性間の性的接触なのか、諸外国のように注射器や針の共用等別のリスクがあるのか、原因不明なのか(歯医者や他のリスクを検討しないといけないのか)。
ここはよくわからないところです。

ウイルスを分子疫学的に整理すると、MSMで流行しているウイルスと同じこともあります。
たまたま医師が異性間と思い込んで報告したり、医師にそう申告したので異性間となっているけれど、本当は男性間での感染というわけです。

仮説として、異性間の性的接触で3割ほど感染しているのだとしたら、感染源となっている女性が一定数いるはずですが、それはどこにいるのか、ということになります。

女性については、海外では性産業従事者がリスク層ですが、日本ではそのような明確なトレンドは把握できていません。

でも、ゼロというわけでもなく、数名報告があります。

ここでのリスク因子が国内の日常的なネットワークなのか、海外など高流行国の出身・滞在経験などの特別なものなのかという検討は重要です。

あるとき拡大して行くシグナルを見逃さないことが重要だからですね。

現時点では、都内ではMSMの健康管理支援をしていくことが最優先であって、皆に検査を受けましょうというのはズレたアプローチであり、男性の検査枠をうばわないようなプロモーションが大切といえます。

IDSAのプライマリケアの指針はじめ、ハイリスク層の定期受診の際には、梅毒やHIV検査を定期的に受けましょうということが推奨されてます。

そういった会話を躊躇せずサクッとできるかも感染症の分野のコンピテンシーのひとつですね。

東京都感染症情報センター







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