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Channel: 感染症診療の原則
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「それがインフルエンザ」

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感染症にあまり詳しくない人たちは、適切な医療介入をすれば感染症の患者は救命できるはず、とイルージョンを抱いている人は多いですし、
感染症を防げなかった、救命できない場合は医者や病院に落ち度があったのではなかという前提で全て考えるというズレたアプローチになります。

感染症はそれぞれ特徴があり、特定の対策が有効なものもあれば、これというパキッとした対策がないものもあります。

多少なりとも効果のありそうな対策を何重にも実施して包括的に取り組んでいますが(バンドル−束−といいます)、それでも夢のような効果には必ずしもつながりません

それは感染する(広がる)、発症する、重症化する、死亡するには複数の因子が関与しているからですね。

統計の数字(インフルエンザ・肺炎死亡における超過死亡)にも限界があります。



まず、インフルエンザはこれといった超有効な対策がないことで有名。

ワクチンはありますが、効果は限定的(「だからしない」選択は後ろ向きですが・・)。

検査キット。これも100%ではない。そして受診のタイミングも影響。


症状がはっきりしている人や、診断された人を自宅安静・待機(隔離)するのも1つの対策ですが、発熱もなく、症状の軽い人たちは「インフルエンザかな?」とも思わずにフツウに生活をしています。
つまり、重い症状にならない人から感染拡大していくことがある、ということです。

(下記の記事にある「隔離」の意味を考えよう)

そして、一度コミュニティで広がると、早いスピードで拡大し、人口全体でみると重症化する人が一定の割合でいて、そのうち一定の人は死亡します。毎年、お約束的な事象。

(なので、2009年、空港で水際作戦、、に世界の関係者は驚いていましたが)

感染が拡大しやすい環境は、閉ざされた空間での集団生活です。
保育園や学校、福祉施設や病院もそうです。

それから、もともと重症化・死亡リスクがあるのは高齢者とわかっています。
高齢者は免疫機能が低下していたり、治療薬の影響でさらにワクチンの効果が不利な人もいます。

毎年、たくさんインフルエンザになるのは子ども、死亡するのは高齢者、はこのグラフのとおり。



日本の病院は、もともと大部屋など複数の人がいますので、インフルエンザは広がりやすく、面会の人が出入りもするので、外のインフルエンザ流行の影響を受けます。

職員のワクチン接種勧奨をし、手洗いやマスクなどやれることはやっているとことで、「今以上に」インフルエンザのリスクを避ける体制をとるためには、外との交流を遮断し、部屋はすべて個室に替え、体調不良のスタッフは一切出勤させなくてよいほど人員確保ができ、という非現実的なプランになっていきます。
それでも、発熱症状もないような人からの感染拡大リスクをゼロにするのは難しい。

何をしても、なるときはなるのがインフルエンザ〜と理解すると、

26日の東京新聞は・・・・・・ですね。
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隔離徹底も拡大防げず インフル院内感染で院長「最善の対策」強調

入院患者ら39人に症状が確認され、女性1人が死亡した疑いがあり、男性2人が重症となった病院のインフルエンザ集団感染。
25日に会見した院長は「最善の対策を取った」と話し、症状が出ている患者の隔離や看護師ら職員の出勤停止などを行ったというが、感染拡大を防げなかった。
 同病院によると、死亡した80代の女性が入院していたのは4人部屋。後の検査で、死亡した女性以外の2人が感染していたことが判明。重症の80代と50代の男性2人はもともと重い疾患があったが、インフルエンザにより、さらに症状が悪化した可能性があるという。
 同病院は、発症していないが感染者と同部屋だった入院患者らにタミフルなどの治療薬を処方。体温測定回数を増やすなどの措置も行い、職員は全員がワクチンを打ったという。25日現在、症状が出ているのは一人で、院長は「適切な対応だった」と強調した。 
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適切な対応だとおもいます。

今回の内容は、記者会見とか新聞記事にするようなことなのか・・。


そういえば、昨年の11月に、日本でのインフルエンザワクチンの効果についてPlos Oneに報告が掲載されていました。

Influenza-Related Mortality Trends in Japanese and American Seniors: Evidence for the Indirect Mortality Benefits of Vaccinating Schoolchildren
Plos One 2011年11月

日本では1994年までは学校で集団接種をしていたわけですが、これによって高齢者の死亡を半分以下に抑える効果があった、というものです。

1978−2006年の人口データを用いて、インフルエンザでの死亡を分析。
1994年までは65歳以上のインフルエンザの死亡は、10万人あたり6.8人。
1995年以後は10万人あたり14.5人。

つまり、感染拡大しやすい子どもたちでの接種は、高齢者にもメリットがある・・という話。(肺炎球菌ワクチンでもこのようなHerd immunityの説明データがあります)

この日本の数字を、こどもに集団接種をしていない米国と比較。
(データの取り方や定義とか違うことに注意)

米国では高齢者にワクチン接種をせっせとしていますが、同時期のインフルエンザ死亡は10万人あたり16−18人。

この数字だけみると、米国が現在やっている高齢者や基礎疾患のある人対象にに接種をしている効果はどうなんだ?という話になります。
(やめたらもっとたくさん死亡する、という仮説になるんでしょうが・・・)

ワクチン以外に、抗ウイルス薬も登場。【表1】タミフル発売前の高齢者のインフルエンザ肺炎

過去にも、日本の子の取り組みは集団免疫の経験としてワクチン関係者に紹介されています。 Herd Immunity - the Japanese experience
もとの論文:The Japanese Experience with Vaccinating Schoolchildren against Influenza
N Engl J Med 2001; 344:889-896March 22, 2001


ワクチンの効果についてはたくさんの評価が試みられています。

コクランレビュー
2008年 健康な子どもへのインフルエンザワクチン接種
Vaccines for preventing influenza in healthy children
2010年 健康な成人へのインフルエンザワクチン接種
Vaccines to prevent influenza in healthy adults
2010年 高齢者施設で働く医療者のインフルエンザワクチン接種
Influenza vaccination for healthcare workers who work with the elderly
2010年 COPD患者のインフルエンザワクチン接種
Influenza vaccine for patients with chronic obstructive pulmonary disease

2010年のコクランでのレビュー文献のあと、2011年10月、Lancet Infectious Diseasesに掲載された論文では、5707の研究を厳しくフィルターにかけ検討したところ、研究チームの設定した信頼の条件を満たすインフルエンザワクチンの効果についての文献は 31(17県の RCTsと14件の観察研究)のみでした。
54,000のサンプル、23か国、24シーズンが調査対象となっています。

65歳以上の接種のエビデンスは明確でなく、小さな子どもは新しいスプレー式生ワクチンでの効果はよさそう、という結論。

Efficacy and effectiveness of influenza vaccines: a systematic review and meta-analysis
The Lancet Infectious Diseases, Volume 12, Issue 1, Pages 36 - 44, January 2012

Estimating the effect of influenza vaccines
The Lancet Infectious Diseases, Volume 12, Issue 1, Pages 5 - 6, January 2012

不活化のインフルエンザワクチン以外にも、生ワクチンも海外にはありますし、鼻にスプレーするものや、それ以外の方法なども開発途上にあります。

個人レベルでやる意義や意味あるのないの?議論は、完成度の高い予防ワクチンができればまた違う話になるのでしょう。

現時点では、Public health groups say flu vaccine is best tool, despite limitationsという解説の紹介がCIDRAPにありました。

Evidence重視の人のブログなどを参考に落としどころってどこだろうを考える季節。

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