NICUの超低出生体重の赤ちゃんが死亡のニュースがありました。
ご関係の方の悲しみ、救命のため全力をつくされた病院の皆様の悲しみの大きさを考えると胸がたいへん痛みます。
すべての事例がメディアで報道されるわけではありません。また、なぜこの大きく扱われたかはわかりませんが、
例によって病院の不祥事的な書き方をしている記者の理解の薄さに、まだまだコミュニケーションやリテラシーの課題を感じます。
対策の一環として新規入院をとめたり、NICU閉鎖ということも行われますが、その際の影響の大きさは移動をしなくてはならない、受け入れてもらえない赤ちゃんや親御さんにまで及びとてもたいへんなことであります。
リスクの高い赤ちゃんや妊婦さんを断る医療機関が増えないことを祈ります。
平成24年12月 名古屋大学の事例 「MRSAに院内感染し死亡した新生児事例と名古屋大学医学部附属病院NICU・GCUの新規入院の一時中止について」 各医療機関が学び改善へとつなげていきたいです。
上記については詳細は公開されていませんので、以下は一般論です。
赤ちゃんはお母さんのお腹の中で、外に出てから生きて行くための機能を発達させて産まれてきます。
人間の場合は37-40週で出てくるのが標準で、早すぎるといろいろ問題がおこります。
何週までお腹にいたのか、ということと、産まれた時の体重でリスクの分類が行われます。
場合によってはお母さんと一緒に退院できず、しばらく病院でがんばる、親御さんが病院に通うということになります。
限られた時間や条件の中で、保護者の方の面会等が行われます。
これはつらいことですが、赤ちゃんたちを守るために必要なことです。
定義は以下のようになっています:
Premature born before 37 weeks
Moderately premature born between 35 and 37 weeks
Very premature born between 29 and 34 weeks
Extremely premature born between 24 and 28 weeks
Low birthweight baby weighs less than 2,500 g
Very low birthweight baby weighs less than 1,500 g
Extremely low birthweight baby weighs less than 1,000 g (2.2 lbs)
2500g以下の赤ちゃんは、それ以上に体重のある赤ちゃんと比べて様々な健康リスクをかかえています。
産婦人科、小児科や新生児科の先生方がそのデータをまとめています。
「低出生体重児の長期予後」が大変参考になります。
"1,000グラム以上の極低出生体重児の新生児死亡率は1980年の20.7%か ら2000年には3.8%に,500グラム以上の超低出生体重児の新生児死亡率は55.3%から 15.2%にまで低下した.さらに,500グラム未満児においても1985年の91.2%から,2000 年は62.7%に減少"
1000gない赤ちゃんを見たことがありますか?
写真:500gの赤ちゃんの大きさはこれくらい。
こちらの写真も、こちらの写真も参考になります。
NICUにいる赤ちゃんの大きさは2000gの子もいれば500g前後の子もいます。
必要な医療処置とはいえ、こんなに小さい赤ちゃんに針を刺したり管をいれたり、とてもたいへんなことは想像に難くありません。
大人なら、だめでも別の場所を探して・・・と思う訳ですが、このような赤ちゃんではそれじたいがとても難しい。
もちろん、臓器や機能が十分発達していませんので、十分発達した赤ちゃんと比較すると感染症がおきた時のリスクはじめとても厳しいものがあります。
医療が発達していない時代/地域では、このような赤ちゃんは死亡のリスクが高いのですが、日本はこの分野の医療が進み、助かる赤ちゃんが増えています。しかし、生存可能になったことにより、異なる課題も生じています。
"神経学的障害合併頻度の改善はみられず, 在宅 医療など退院後の支援が必要な例も増加している.また,低出生体重児では主要神経学的 障害を合併しない児であっても,学童期に行動障害や学習障害などの頻度が高いことは従 来から指摘されている. また近年,子宮内発育遅延(IUGR)児では,成人病発症のリス クが高いことなどが示され, 退院後の継続した支援や長期予後の追跡が重要" とのことです(上記資料から)
このような赤ちゃんの在宅医療サービスを探すのも大変です。(高齢者用はたくさんありますが)
参考:医学界新聞(2011年) 「小児在宅医療の普及に向けて
今こそ医療のパラダイムシフトを」
日本の状況は英語でも紹介されています。
Mortality Rates for Extremely Low Birth Weight Infants Born in Japan in 2005 PEDIATRICS Vol. 123 No. 2 February 1, 2009
pp. 445 -450
このような赤ちゃんがいるNICUでは、大人以上に感染対策がクリティカルになります。
病院にいることじたいがもともと感染リスクでもありますし、感染症対策全体でみると、病院だけが問題とはいえず、MRSAをはじめとする耐性菌は市中に広がっていますので、ある空間だけをとても清潔に保つだけではコントロールが難しい状況があります。
NICUでのMRSAについての研究やアウトブレイク報告はたくさんあります。
総論的な内容 Medscape
MRSA Infection in the Neonatal Intensive Care Unit
ここ最近のものだけみるだけでも、各国から出ています。
米国 Identification and Eradication of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Colonization in the Neonatal Intensive Care Unit: Results of a National Survey Infect Control Hosp Epidemiol. Author manuscript; available in PMC 2011 July 1.
市中型のものも Emergence of Hospital- and Community-Associated Panton-Valentine Leukocidin-Positive Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Genotype ST772-MRSA-V in Ireland and Detailed Investigation of an ST772-MRSA-V Cluster in a Neonatal Intensive Care Unit J Clin Microbiol. 2012 March; 50(3): 841–847.
イタリア Epidemic spread of ST1-MRSA-IVa in a neonatal intensive care unit, Italy BMC Pediatr. 2012; 12: 64.
ドイツ MRSA Transmission on a Neonatal Intensive Care Unit: Epidemiological and Genome-Based Phylogenetic Analyses PLoS One. 2013; 8(1): e54898.
デンマーク First Outbreak with MRSA in a Danish Neonatal Intensive Care Unit: Risk Factors and Control Procedures
地域ベースで之検討も行われています。
Spread of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus in a Large Tertiary NICU: Network Analysis Pediatrics. 2011 November; 128(5)
感染リスクを減らすためには、元々の菌をなんとかするか(難しい)、ホスト側の抵抗力など状態を改善するか(超未熟児や免疫不全の患者さんでは難しい)、コストをおしまず人や物品を投入するか、手指衛生という基本的なところを強化してリスクを減らす努力をするかであります。
日本はMRSAが多い国とされ、様々な取り組みがおこなわれています。
聖路加国際病院ICPの坂本さんが発表された
Increased use of alcohol-based hand sanitizers and successful eradication of methicillin-resistant Staphylococcus aureus from a neonatal intensive care unit: A multivariate time series analysis American Journal of Infection Control
Volume 38, Issue 7 , Pages 529-534, September 2010
やるべきことをしっかりやる、は言うは簡単ですが実施はたいへん。しかしそこで何に介入すれば変わるのか。
参考になります。
坂田先生 「NICU における 10 年間の MRSA 検出率と抗菌薬の使用状況」 (第 76 回日本感染症学会総会学術講演会座長推薦論文)
ふだん大人ばかりみている医療者には学ぶものがたくさんあります。
保護者にも語りかけます。
日本新生児感染対策研究会
「これからお母さんになられる方へ」
その他の参考資料
旭川厚生病院
「新生児集中治療室(NICU)における感染防止対策」
厚生労働省「低出生体重児保健指導マニュアル 」
ご関係の方の悲しみ、救命のため全力をつくされた病院の皆様の悲しみの大きさを考えると胸がたいへん痛みます。
すべての事例がメディアで報道されるわけではありません。また、なぜこの大きく扱われたかはわかりませんが、
例によって病院の不祥事的な書き方をしている記者の理解の薄さに、まだまだコミュニケーションやリテラシーの課題を感じます。
対策の一環として新規入院をとめたり、NICU閉鎖ということも行われますが、その際の影響の大きさは移動をしなくてはならない、受け入れてもらえない赤ちゃんや親御さんにまで及びとてもたいへんなことであります。
リスクの高い赤ちゃんや妊婦さんを断る医療機関が増えないことを祈ります。
平成24年12月 名古屋大学の事例 「MRSAに院内感染し死亡した新生児事例と名古屋大学医学部附属病院NICU・GCUの新規入院の一時中止について」 各医療機関が学び改善へとつなげていきたいです。
上記については詳細は公開されていませんので、以下は一般論です。
赤ちゃんはお母さんのお腹の中で、外に出てから生きて行くための機能を発達させて産まれてきます。
人間の場合は37-40週で出てくるのが標準で、早すぎるといろいろ問題がおこります。
何週までお腹にいたのか、ということと、産まれた時の体重でリスクの分類が行われます。
場合によってはお母さんと一緒に退院できず、しばらく病院でがんばる、親御さんが病院に通うということになります。
限られた時間や条件の中で、保護者の方の面会等が行われます。
これはつらいことですが、赤ちゃんたちを守るために必要なことです。
定義は以下のようになっています:
Premature born before 37 weeks
Moderately premature born between 35 and 37 weeks
Very premature born between 29 and 34 weeks
Extremely premature born between 24 and 28 weeks
Low birthweight baby weighs less than 2,500 g
Very low birthweight baby weighs less than 1,500 g
Extremely low birthweight baby weighs less than 1,000 g (2.2 lbs)
2500g以下の赤ちゃんは、それ以上に体重のある赤ちゃんと比べて様々な健康リスクをかかえています。
産婦人科、小児科や新生児科の先生方がそのデータをまとめています。
「低出生体重児の長期予後」が大変参考になります。
"1,000グラム以上の極低出生体重児の新生児死亡率は1980年の20.7%か ら2000年には3.8%に,500グラム以上の超低出生体重児の新生児死亡率は55.3%から 15.2%にまで低下した.さらに,500グラム未満児においても1985年の91.2%から,2000 年は62.7%に減少"
1000gない赤ちゃんを見たことがありますか?
写真:500gの赤ちゃんの大きさはこれくらい。
こちらの写真も、こちらの写真も参考になります。
NICUにいる赤ちゃんの大きさは2000gの子もいれば500g前後の子もいます。
必要な医療処置とはいえ、こんなに小さい赤ちゃんに針を刺したり管をいれたり、とてもたいへんなことは想像に難くありません。
大人なら、だめでも別の場所を探して・・・と思う訳ですが、このような赤ちゃんではそれじたいがとても難しい。
もちろん、臓器や機能が十分発達していませんので、十分発達した赤ちゃんと比較すると感染症がおきた時のリスクはじめとても厳しいものがあります。
医療が発達していない時代/地域では、このような赤ちゃんは死亡のリスクが高いのですが、日本はこの分野の医療が進み、助かる赤ちゃんが増えています。しかし、生存可能になったことにより、異なる課題も生じています。
"神経学的障害合併頻度の改善はみられず, 在宅 医療など退院後の支援が必要な例も増加している.また,低出生体重児では主要神経学的 障害を合併しない児であっても,学童期に行動障害や学習障害などの頻度が高いことは従 来から指摘されている. また近年,子宮内発育遅延(IUGR)児では,成人病発症のリス クが高いことなどが示され, 退院後の継続した支援や長期予後の追跡が重要" とのことです(上記資料から)
このような赤ちゃんの在宅医療サービスを探すのも大変です。(高齢者用はたくさんありますが)
参考:医学界新聞(2011年) 「小児在宅医療の普及に向けて
今こそ医療のパラダイムシフトを」
日本の状況は英語でも紹介されています。
Mortality Rates for Extremely Low Birth Weight Infants Born in Japan in 2005 PEDIATRICS Vol. 123 No. 2 February 1, 2009
pp. 445 -450
このような赤ちゃんがいるNICUでは、大人以上に感染対策がクリティカルになります。
病院にいることじたいがもともと感染リスクでもありますし、感染症対策全体でみると、病院だけが問題とはいえず、MRSAをはじめとする耐性菌は市中に広がっていますので、ある空間だけをとても清潔に保つだけではコントロールが難しい状況があります。
NICUでのMRSAについての研究やアウトブレイク報告はたくさんあります。
総論的な内容 Medscape
MRSA Infection in the Neonatal Intensive Care Unit
ここ最近のものだけみるだけでも、各国から出ています。
米国 Identification and Eradication of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Colonization in the Neonatal Intensive Care Unit: Results of a National Survey Infect Control Hosp Epidemiol. Author manuscript; available in PMC 2011 July 1.
市中型のものも Emergence of Hospital- and Community-Associated Panton-Valentine Leukocidin-Positive Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Genotype ST772-MRSA-V in Ireland and Detailed Investigation of an ST772-MRSA-V Cluster in a Neonatal Intensive Care Unit J Clin Microbiol. 2012 March; 50(3): 841–847.
イタリア Epidemic spread of ST1-MRSA-IVa in a neonatal intensive care unit, Italy BMC Pediatr. 2012; 12: 64.
ドイツ MRSA Transmission on a Neonatal Intensive Care Unit: Epidemiological and Genome-Based Phylogenetic Analyses PLoS One. 2013; 8(1): e54898.
デンマーク First Outbreak with MRSA in a Danish Neonatal Intensive Care Unit: Risk Factors and Control Procedures
地域ベースで之検討も行われています。
Spread of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus in a Large Tertiary NICU: Network Analysis Pediatrics. 2011 November; 128(5)
感染リスクを減らすためには、元々の菌をなんとかするか(難しい)、ホスト側の抵抗力など状態を改善するか(超未熟児や免疫不全の患者さんでは難しい)、コストをおしまず人や物品を投入するか、手指衛生という基本的なところを強化してリスクを減らす努力をするかであります。
日本はMRSAが多い国とされ、様々な取り組みがおこなわれています。
聖路加国際病院ICPの坂本さんが発表された
Increased use of alcohol-based hand sanitizers and successful eradication of methicillin-resistant Staphylococcus aureus from a neonatal intensive care unit: A multivariate time series analysis American Journal of Infection Control
Volume 38, Issue 7 , Pages 529-534, September 2010
やるべきことをしっかりやる、は言うは簡単ですが実施はたいへん。しかしそこで何に介入すれば変わるのか。
参考になります。
坂田先生 「NICU における 10 年間の MRSA 検出率と抗菌薬の使用状況」 (第 76 回日本感染症学会総会学術講演会座長推薦論文)
ふだん大人ばかりみている医療者には学ぶものがたくさんあります。
保護者にも語りかけます。
日本新生児感染対策研究会
「これからお母さんになられる方へ」
その他の参考資料
旭川厚生病院
「新生児集中治療室(NICU)における感染防止対策」
厚生労働省「低出生体重児保健指導マニュアル 」