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Channel: 感染症診療の原則
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Sapiraの書評

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普段、お世話になりっぱ・・の須藤先生(AND 藤田・徳田・岩田先生)がたのご苦労によりSapiraの本「サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原書第4版」が翻訳された事は以前にBlogで書きましたが、光栄にも書評のご依頼を頂き(これもBlogに書きましたが)、この書評を医学書院に送ったところ、医学書院編集部から「活字になる前に青木Blogに掲載してもいいよ・・」というご依頼・ご許可・・を申しつかりましたので、以下にしるす次第でございます。

↑の写真は数年前の須藤先生と徳田先生と田代先生。

編集部の許可もとっております。(こちらはBlogの編集部・・ああ大変・・)

以下、ご興味があれば、どぞ!!

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「身体診察が見直されるいまこそ手にとってほしい1冊」

書評:サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原書第4版
Jane M. Orient (著), 須藤 博他 (監訳)
評者:青木 眞(感染症コンサルタント)

<身体診察の今日的意義>
 本書を手にとった瞬間、最初に強く意識させられるもの、それは決してその難解な医学史的考証やラテン語文法の記載ではなく「南部」(米国南部)である。サパイラ自身が研修医時代を過ごした南部には独特の時間が流れている。それは北東部の競い合うような荒々しい速さとは極めて異質な、どちらかと言えば湿度の高い緩やかに変化する時間とでも言おうか。
 本書は序文から「現代医療に最も不足しているもの。それは時間である」と指摘する。外来患者が午前中だけで20〜30名(診察時間は1人平均5分あれば御の字)であり、スピードとテクノロジーが好まれ、情報がアナログからデジタルに変わって失われたものへの思いが薄く、医学部を平然と理系とする日本。このような国で、習得に多大な時間と忍耐・労力を要し、得られる所見の普遍性や境界の鮮明さに安定感を欠きやすい身体診察の本が、そして患者の訴えの背景にある人生に思いを馳せることを説く本書がどのように受け入れられるか。これが評者の最初の懸念であった。しかし繊細な人間関係・師弟関係を重視し、収入や利権と無関係に向学心・向上心が高く、経験値が物言う職人芸を愛し、その伝統・伝承を重視する日本の文化は南部的身体診察の文化と重なりも大きいと気づいた。もちろん肺炎には全例胸部CTなどという贅沢を続けさせる経済力に陰りが見え、身体診察が見直されるべき時期に日本が置かれている事は別としても・・・。

<丁寧・詳細・謙虚な内容>
 ある意味、全く媚びる気配がない本である。Pearlとすべきものは随所にあるが、日本人の感性ではついていけない(翻訳者さえ辟易する)ラテン語文法上のこだわりなどに埋もれており簡単に見つけることはできない。一種、気むずかしい師匠と日常生活を共にしながら少しずつ学ぶがごとく読み進むのである。しかし、その中で得るものは少なくない。紙面の関係で一部のみ紹介すると・・・
1)体重減少(P85)
・往々にして「味覚低下」から始まり、二次的に食欲が低下し体重減少に繋がっている。
→単純にがんや結核などを考えるだけでなく、味覚異常の有無を聞き、その原因なども考慮すべきということか・・・
・また単純に「体重減少」とするのではなくベルトの穴と穴の距離や、各穴の古さで、体重減少の程度や速度が分かる。
2)虹彩炎と結膜炎の鑑別(P252)
・片目をとじて開眼側に光りを当てる。閉じた側の眼に痛み=虹彩炎の可能性:Au-Henkind試験。
→評者は梅毒を扱う機会が多く、二期梅毒患者も少なからずいるので、その1割程度は合併する虹彩炎の診断に早速使う予定。

<これからの医療を考えるヒントに>
 この20年間、日本の医学教育に深い関心・関係をもってきたカリフォルニア大学サンフランシスコ校のローレンス・ティアニー教授は研修医やスタッフを採用するにあたり南部で訓練された者を好む。ていねいな病歴と身体所見で真実に迫る総合診療の化身とでもいうべき彼が南部に特別な敬意を抱いていることは極めて示唆的である。


 本書の8割を読むのに3週間以上かかった。間違っても気軽に「一読をお勧めする」とは言えない大部の本であるが、電子カルテが診療現場から手書きのスケッチなどの繊細な情報を奪い、心臓超音波検査が聴診なら与えられたはずの意思疎通・安心感・敬愛を奪う今日こそ、初学者にも指導医にも手にとっていただく必要のある本である。ぜひEBMと対比させながらGOBSAT(good old boys sat at table and decided. P23)の箴言・Pearlが与える、使いやすさ、経済性、不思議な権威を噛みしめ、これからの日本独自の医療を考えるヒントにしていただければと思う。

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