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Channel: 感染症診療の原則
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免疫不全 Q & A (3月8日 サンド デジタルセミナー)

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みなさま
3月8日、具先生にお願いをした免疫不全のレクチャーのQ&A資料が完成いたしました。
きれいな印刷物はサンドのHPにも掲載予定です。また(人数が少ないので出会うことはないかもしれませんが)サンドのMRさんがいれば配布用をもらえると思います。薬剤師の皆様は関連学会のブースでも入手可能です。

具先生、相野田先生 ありがとうございました。


第2012年度第5回 「免疫不全」
講師  東北大学大学院医学系研究科 感染症診療地域連携講座 具 芳明 先生
日時  2013年3月8日(金)18:30〜20:00

※本資料は講義中にお受けした質問に対する回答をまとめたものです。
あくまで講義の質問に対する私見であり、臨床現場で用いられる際の責任は負いかねます。
実際の臨床現場ではケースバイケースですので、各個人の責任で御活用下さい。

印刷資料などの問い合わせ先;サンド株式会社 オペレーショナルマーケティンググループ 
フリーコール 0120-982-001

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<講義中にご紹介した質問>
Q1:わかりやすいご説明ありがとうございました。緑膿菌の菌血症についてご教授下さい。
緑膿菌の菌血症は重篤な状態である事をご説明頂きました。
緑膿菌は、(大腸菌などの腸内細菌と比較すると)毒性の低い菌種という理解をしていたのですが、緑膿菌は毒性が強い菌であるという理解でよろしいのでしょうか?または、緑膿菌に感染してしまうまで免疫が低下してしまった患者側の状態の問題なのでしょうか?

A1:大腸菌などの腸内細菌は健康な人にもしばしば重篤な感染症を起こします。一方、緑膿菌を含むブドウ糖非発酵菌は、健康な人において感染症の原因となることはまれです。抗菌薬投与、手術などの侵襲が加わった状況や、免疫不全状態とくに好中球減少状態で重篤な感染症を起こします。したがって、患者側の状態の要素が大きいと考えられます。


Q2:好中球減少は緊急で細胞性免疫不全では急がない理由は何でしょうか?細胞性免疫障害で問題となる微生物が、好中球減少で問題になる微生物と比べて、増殖するスピードが遅いことなどが一因なのでしょうか

A2:それぞれの免疫は対応するスピードと標的とする微生物が異なります。好中球は体内に侵入した細菌に対する初期対応を担当しており、その速度は極めて迅速です。好中球減少状態ではその初期対応が遅れるため、感染症の進行も急速となります。一方、細胞性免疫は、細胞内に感染した微生物を細胞ごと処理していくことが多く、それには一定の時間がかかります。そのような微生物は体内で増殖する速度が比較的遅いものが多いです。これらの違いに伴って、好中球減少状態と細胞性免疫不全では、発生する感染症の様相がかなり異なります。

Q3:HIV感染症以外の細胞性免疫障害では、CD4値は免疫障害の程度の指標としてあてにならないのでしょうか?

A3:CD4陽性Tリンパ球は細胞性免疫において重要な役割を果たしているものの、これだけが特異的に障害されるとは限らず、その個数は免疫不全の程度と必ずしも相関しません。ある程度参考にできる場合もあるかもしれませんが、その数値と感染症発症リスクの相関は確立されていません。HIV感染症は例外的にCD4陽性Tリンパ球数を利用することができる病態です。


<講義中にご紹介できなかった質問>
Q4:その施設のアンチバイオグラムで、どの程度の感受性率であれば、緑膿菌への第一選択として許容されるのでしょうか。またどれもあまり変わらない場合、アミノグリコシド系抗菌薬との併用が推奨される場合もあるのでしょうか。

A4:患者の重症度などもありケースバイケースですが、一般に感受性率が80%を下回る(耐性率が20%を上回る)場合は、その薬剤を第一選択薬として使用するのはリスクが高いと考えられることが多いです。
発熱性好中球減少症においてβラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬をルチンで併用することは副作用が増加するのみで治療効果は変わらないとの報告が多く、βラクタム系単剤での治療が基本とされています。ただし、これは緑膿菌のβラクタム系に対する感受性が保たれているのが前提です。アンチバイオグラムからβラクタム系単剤ではカバーできていないリスクが高いと判断されれば、培養結果が確認できるまではアミノグリコシド系を併用した方が安全かもしれません。各症例における過去の細菌検査結果や、重症度などを考慮してアミノグリコシド系を併用することもあります。


Q5:好中球減少状態においてGCSFを使用された場合、抗菌剤の選択、投与期間に影響はありますでしょうか。

A5:G-CSFを投与されたからといって起因菌が変わるわけではありませんので、抗菌薬を選択する上で特別に考慮することはありません。好中球減少の期間が短くなることで投与期間が短くなる可能性はあると思います。


Q6:高齢者や糖尿病患者さんなどは免疫低下の範疇に入るといわれますが、4つの構成要素のどれと考えるのがよいでしょうか。

A6:一概に定量化することは難しいと思います。高齢者では、好中球の機能も細胞性免疫も液性免疫も低下していきますが、高齢になると年齢差よりも個人差が大きくなりますので、一概に比較・定量化はできません。糖尿病に関しても、好中球の機能・細胞性免疫・液性免疫のいずれもが低下しますが、これも普段のコントロールの状況などによって異なります。明確な基準はなくケースバイケースです。逆に言えば、一つの免疫不全で説明しきれないところに糖尿病や高齢の患者さんの難しさがあります。


Q7:脾摘を前提にする予定手術を受ける際の、肺炎球菌、Hib、髄膜炎菌ワクチンの接種の推奨時期はいかがでしょうか。肺炎球菌ワクチンの保険適応は脾摘後ですが、ワクチンの効いてくる時間を考えると術前のほうがよいような気もしますが。

A7:小児と成人では状況が異なりますので、ここでは成人患者が予定手術を受ける場合について述べます。
ご指摘のように肺炎球菌ワクチンの保険適応は脾摘後となっていますが、医学的には脾摘前の接種が望ましいです。その場合、手術の2週間以上前までに接種します。実際には手術までに余裕がないことも多く、手術後の接種になることも多いです。その場合は、手術後2週間以上経過してからの接種が勧められます。
なお、米国ACIPは、無脾者を含む免疫不全患者に対してまず13価結合型ワクチンを接種し、8週以上空けて23価多糖体ワクチンを接種、その5年後に23価多糖体ワクチンを再接種する方針を最新の推奨としています(http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6140a4.htm)。日本では、現時点では23価多糖体ワクチンが用いられていますが、今後変わってくる可能性があります。
Hibワクチン、髄膜炎菌ワクチンは肺炎球菌ワクチンよりもやや重要性は下がりますが、集団生活や海外滞在の予定があるなどリスクの高い状況になる可能性があれば接種を考慮します。Hibワクチンは現時点では成人に適応がありませんし、髄膜炎菌ワクチンは国内未認可で輸入ワクチンを扱っている医療機関のみでの接種となりますので、患者側とよく相談する必要があります。接種のタイミングはいずれも肺炎球菌ワクチンと同様です。


Q8:胃全摘出時などに脾臓摘出した後、肺炎球菌ワクチンの投与をルチン化するシステムとすることは有益でしょうか?

A8:A7と重なりますが、確実にワクチン接種できるようシステムを構築することは有用性が高いと考えます。とくに予定手術の場合は忘れずに接種したいところです。海外では自動的にチェックするようにしている施設もありますし、また接種すべきところを勧めていなかったという理由で訴訟になった国もあるくらいです。国内でもルチン化している施設もあります。


Q9:脾摘後の患者で、Hibワクチンを勧めるべき場合とは具合的にはどのような場合でしょうか?自費のため患者にはどのように勧めればよいかご教授ください。

A9:A7を参照ください。


Q10:薬剤師です。
免疫不全状態でのカリニ肺炎予防目的で、よく、ST合剤を予防投与することがあります(週に2回投与など)。白血病や抗がん剤投与時などでは投与により良好な結果が出たという資料を見たことがありますが、よく見かけるのはステロイドを長期に投与しているという状態でST合剤を予防投与する例です。がんの終末期では、よくステロイドを投与されることが多いのですが、こういう場合もST合剤は予防投与されたほうがよろしいのでしょうか?

A10:ST合剤の予防内服は細胞性免疫不全症におけるニューモシスチス肺炎(PcP)などの予防に有用とされています。ステロイド投与に伴って発症するPcPについては、ステロイドの投与方法がバラエティに富んでいることや基礎疾患の違いもあって、予防投与の基準を明確にしにくいところがあります。おおよそのコンセンサスについてハンドアウトの付録にお示ししましたが、原疾患の程度やST合剤の副作用、PcP発症時の重症化リスク、社会的状況などを踏まえてメリット・デメリットを検討し、総合的に判断します。


Q11:一般の高齢者を「免疫不全」とは見積もる必要はないのでしょうか? 何か書籍で拝見したことがあるのですが(超高齢化社会ですので)。

A11:A6をご参照ください。


Q12: ご講演ありがとうございます。
免疫不全患者さんの食事についての質問です。医師によっては刺身などの生ものを食するのを禁止されることがあるのですが、感染のリスクはどの程度なのでしょうか?

A12:免疫不全のタイプと程度によって異なるため、一概にはお答えできません。造血幹細胞移植や固形臓器移植を受けた患者さんに対しては、食べ物に関連した感染症を避けるため、生肉・生魚・生卵など十分に加熱していない食品や、カビタイプのチーズ・自家製の漬物などの発酵食品を避けることが勧められます。具体的にはガイドライン等を参照ください。臓器移植以外の状況では、免疫不全の程度によって主治医から食事に関する指示が行われることがあるかもしれませんが、具体的な基準はないと思います。


Q13:具先生、青木先生、貴重なご講義、ありがとうございました。
この講義を聴く前は免疫不全はさまざまな原因微生物があり暗記するのが大変だと思ってました。免疫不全と単なるひとくくりにするのではなく4つのタイプがあり、それぞれ病態、原因微生物が違うということを理解できました。

A13:コメントありがとうございます。ひとつひとつの症例を丁寧に検討して理解を深めていただければ幸いです。


Q14: FNの際にVCMを追加することがあるが、1g×3/dayまたは1g×4/dayでも血中濃度(???)が10μg/mLを保てない場合には他のMRSA薬を考慮すべきでしょうか?LZDは血小板減少などおこしやすくしようしずらく、ABKもエビデンスはなく、ダプトマイシンあたりでようか?

A14:VCMの血中濃度が上昇しない原因によっては抗MRSA薬を変更しても十分な効果を得られない可能性がありますので、必ずしも薬剤を変更するだけで解決するとは限りません。その施設のTDM担当者と十分話し合う必要があります。


Q15: FNの時に緑膿菌をカバーするためにセフタジジムを使うことがありますが、口腔内粘膜からのトランスロケーションもあるとのことでα連鎖球菌などもターゲットになると思います。この場合にはセフタジジムでは十分なカバーができないと思われますが、いかがですか。

A15:ご指摘の通り、セフタジジムは連鎖球菌などグラム陽性菌に対する抗菌活性が低いため、これらに対する十分なカバーができない可能性があります。化学療法による重度の粘膜炎などグラム陽性球菌感染症のリスクが高い症例では注意が必要です。リスクの見積り方はガイドライン等を参照ください。また、施設によってはセフタジジムに対するグラム陰性菌の感受性率が低くなっていますので、施設のアンチバイオグラムも踏まえた判断が必要になります。


Q16: 各病態・薬剤性の細胞性免疫不全の程度を軽度・中等度・重度と区別するにはどのようにすればよろしいでしょうか?

A16:明確な指標はありません。原疾患の種類や程度、薬剤の種類や投与量などから大まかに見積もることになります。講義中にお話ししたポイントや、ハンドアウトの付録などをご参照ください。


Q17: 発熱性好中球減少時にアミノグリコシド系抗生物質を使用する際、1日1回投与だとPAE(post Antibiotic effect)が十分に得られないため分割投与にしたほうがいいという医師がいるのですが、この理論に根拠があるのでしょうか。ご存知でしたらご教授願います。

A17:直接その医師にご確認いただく方がよろしいかと思います。
発熱性好中球減少症でのアミノグリコシド投与については、古典的には分割投与が好まれる傾向にありましたが、最近は1日1回と分割投与で臨床的なアウトカムと安全性は同等と考えられています(J Antimicrob Chemother 2011;66:251–259)。そのため1日1回投与が選択されることが多くなっています。

Q18: 血液分画で得られる総リンパ球数は、細胞性免疫不全の指標になりますか?
また、指標にならない場合なぜですか?
胸部放射線照射の患者で細胞性免疫不全の評価、目安は何かありますか?

A18:極端に少なくなっている場合には参考になることもありますが、リンパ球数と細胞性免疫不全の程度の関係は明確ではなく、必ずしも指標になりません。リンパ球だけが免疫を担当しているわけではないことや、数があっても、それぞれの機能などが担保されていないことなどが理由です。A3をご参照ください。
放射線照射に伴う細胞性免疫不全は、主にリンパ球の数や機能に影響をおよぼすことに伴うものですので、同様の理由でよい指標がありません。放射線照射の内容からおおよその見当をつけることになります。


Q19: 外来化学療法の患者が発熱で来院された場合、あらかじめ処方された抗菌薬を内服していることが多く、発熱性好中球減少症と医師が診断して入院治療となっても、血液培養を提出しないままカルバペネム系薬やピペラシリン・タゾバクタムを投与されているケースがあります。抗菌薬や解熱剤を内服して一旦解熱した後でも血液培養を提出する意味はあると思うのですが、いかがでしょうか?

A19:あらかじめ抗菌薬を処方することに関しては、治療が遅れないかもしれないというメリットがあるかもしれませんが、処方された抗菌薬では治療できない感染症やほかの疾患であった時に診断・治療が遅れるリスクがあるということと、感染症であった場合に起因菌が捕まらないことにより適正な治療ができない可能性があるというリスクも踏まえる必要があると思います。
抗菌薬が入っていない状態での血液培養がもちろん大前提ではありますが、仮に入ってしまっていても起因菌が検出できるかもしれませんし、またその時点での血液培養の陰性を確認することも血液培養の大事な検査目的の1つと考えます。ただし、その有用性はかなり落ちてしまいますので、やはり抗菌薬投与前の血液培養採取を原則とすべきです。


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