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Channel: 感染症診療の原則
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ワクチンの「効果」「有効性」 を 語る

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日常生活で考えるとわかりやすいんですが、、、料理しない人が料理している人に、あれこれ、それちがう、まちがっている、選択している道具がよくない等言うことは現実的でしょうか。

大工仕事をしたことがない人が、木の選び方や対強度、手入れの工夫とかそれにあう留め具の善し悪しなど語れるでしょうか。

けっこう難しい話だと思いますよ。
その道のプロにまず聞きたい話です。

自分のお仕事でもいいんですが、そのことに詳しくない、専門的訓練もないひとたちに自分の体験談とかネットききかじりであれこれ発言されたら、どのようなリアクションをしますかね?
あるいは同じ仕事をしていても、経験の少ない新人が海千山千のベテランに、自分の経験だけであれこれ断定的に語ったりしますかね?

まあ、ゴハンがおいしいとかおいしくないとかいうレベルはさておき(いや、とっても大切ですが)、借金をして買うお家の素材の選び方とか、自分や家族の命や健康に関わるような問題の意思決定をするような情報については、「誰が何を根拠に言っているのか」くらいの情報フィルタリングは必要です。

ネットでワクチンの効果や有効性の話題が出ていたので関連の話。

まず、前提として「ワクチン」という名前のワクチンは存在しません(フルーツという名前のフルーツもない)。なんの、どの感染症のワクチンの話をしているのかがまずだいじです。

(あと、「誰の」もありますね。頑強な人の話?高齢者や基礎疾患のある人、妊婦さんのリスクは無視?とか)

そうすると、ワクチンの個別の事情や製品をまず学ばないといけないし、それで予防しようとしている特定の感染症の自然史や潜伏期間,検査法などの知識も必要になります。

また評価をするためには、評価のために選ぶ研究デザイン、サンプルの詳細(数や背景)、観察期間、交絡因子なども必要なので、まあ、端的にいえば「しろうと」仕事じゃありません。

論文を読む訓練はまず必須。

感染症の勉強の中でも一大トピックスで、感染症好きな医療者でも全員が語れるメジャー領域でもありません。
(手洗い等とはちょっと別もの)

ワクチンについても専門家として語るぜ、という決意をしたら読まなくてはならない(というか競合する教科書もあまりなく)"Plotkinの"教科書であります。
高いです。重いです。分厚いです。昨年新しくなったので買う時は新しい方を買うよう注意。
(病院や大学の図書館の年度末の購入費が残っていたらぜひ新しいのに変えてもらいましょう)

Vaccines: Expert Consult - Online and Print, 6e (Expert Consult Basic)Saunders

いやいや〜そこまではちょっと、、、、という方にお勧めなのはギセック先生の本。しかも日本語の翻訳本がありますよ。医学生ヘの講義くらいならこちらで間に合います。

この本の中でも、18章が独立した「ワクチンの疫学」という章になっています。205-220ページです。

ワクチンの効果を語るために、いくつかの検証法を理解しているか確認。

まずコホート研究。コントロール群は「接種しない」ですが、どうやってやるの?倫理的に問題あるんじゃ?と思う訳ですが・・・世の中には「接種させない」という親もいるので、そのお子さんをコントロール群にすることも(せつない)。ランダム化してませんので一定の偏りはあります。

次。ケースコントロール研究。
症例の子ども(発症)と年齢と地域が同じコントロール群を選んで比較、、、したり、

ランダム化臨床比較試験。
接種してもらえない群をどう決めるのかですが、例えば学校単位で、接種に参加する学校としない学校があればそれを比較したりされています。

論文や報告や噂がどのレベルの数字の話をしているのか。1次情報にあたって確認しないといけないのはこのように複雑な設定があるからですね。
調査研究のサンプル数が大きくなる傾向にあるので、国民のコホートデータがある国にはかなわないなあ・・という学習初期の挫折感をずっとひきずることになるのですが・・

(めげずに勉強を続けます)

ワクチンが他の介入と異なるユニークな点は、接種をした個人の直接的な防御に加えて「間接的な予防効果」(集団免疫)があることです。

タイムラグがあるので、サーベイランス(発生動向調査)でのモニタリングが重要になります。
また、感染症によっては感染しても発症しない(自覚症状がない)ためにカウントされない(過小評価)になることもありますので、より事実に近づくために「血清」情報を元に評価するという方法もあります。
お金と協力(採血は痛みを伴います)が必要です。

ワクチンの「効果」:接種した群でどれくらい疾病発生率が低下したかをみる、ですが

それが大きいから、小さいからというのはひとつの判断でしかなく、だから国として採用する(誰にどこまで、いくらで)というのは別の議論になります。集団免疫効果などもあわせて、社会全体でどのような疾病負荷が減ったかの「有効性」をみていく軸や視点も異なるといえるかもしれません。

最終的には、そのワクチンを採用して期待する死亡や発症による健康のリスクやコストをどう考えるのか。
「まあ、感染症だしさ、一定数死んでもいいんじゃない?お金もったいないよ」という人もいるかもしれませんが(自分や家族がそこに入るとは考えないでしょうが)、
少しでも可能性があるなら予防のために使いましょうよ、という人もいるでしょうし、
それが高齢者なのか子どもなのかでも判断がちがってきたりもするでしょう。


この風呂敷を広げた話とは対極の、個人としてどうかということについては、「生物としての個体差」の話もあります。基礎疾患があるない、のほかないも遺伝子的に「特定の感染症になりにくい」人たちが実際にいます。
(アフリカのある地域の人がHIV抵抗性であるなど)

個人論の究極:「自分はインフルエンザになったことがない(ワクチンもしていない)だから(自分は)しない、だから他の人もワクチンは不要だ」という論理飛躍(認知の歪み)もネットではよく見かけますが。
どういった背景の人がこのような考えを採用するのかは興味深いで。

感染症疫学―感染性の計測・数学モデル・流行の構造昭和堂

余談ですが、、、感染症によって潜伏期間や他人に感染させる威力のある期間がちがいますよね?
初期の頃はひたすら観察研究によってこれを検証していました。

例えば麻疹がなぜ発症前から他人に感染させうるのか。
症例の行動をトレースし、曝露して発症した人との頻度や膿密度などの記述を丁寧にまとめていったんですね。

Panum on Measles: Observations Made During the Epidemic of Measles on the Faroe Islands in the Year 1846 (A translation from the Danish)

14章「感染症の自然史」に詳細な解説があります。日本語(ありがたい)。


また、疫学やワクチンそのものを掘り下げなくても、別の軸での情報検証は可能です。
サイエンスの知識や訓練があり、リテラシー力が高い、伝える力のある方のレポートはとても参考になります。

うさうさメモ「「予防接種を受けた人を中心にインフルエンザが大流行」は事実無根」

Twitterはリンク元がそもそも3次情報とか2次情報が多いので、元の情報を探してみるというような工夫は人生の危機管理としても重要ですね・・・

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