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日本脳炎ワクチン接種後の死亡のニュース

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メディア報道だけではわからないことが多いのですが、本日複数の記事からわかることは以下のこと。

17日午後に母親と妹と受診し、妹ととともにワクチン接種を受けた10歳男児が、左腕に日本脳炎ワクチンを接種5分後に意識を失い、クリニックの看護師が119番。救急車到着時に心配停止。搬送先の医療機関で2時間半後に死亡確認。
基礎疾患等、他の因子についての情報は未確認。
詳細を調べているのは岐阜県警。現時点では薬剤や手技に何か問題があると推測する件はない。

今回はNHKが突出して詳しいので(岡部先生や厚労省のコメントもとっている)NHKの記事を紹介。
医療機関や医療者の固有名詞まで掲載しているのは疑問ですし、事件報道のように扱うのは適切ではないと思います。

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岐阜 日本脳炎予防接種後に男児急死
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121018/k10015827201000.html

17日午後5時すぎ、クリニックから、「予防接種の注射を打ったあとに待合室で男の子の意識がなくなった」と消防に通報がありました。消防が駆けつけたときには男の子は心肺停止の状態で、別の病院に運ばれて手当てを受けましたが、およそ2時間半後に死亡しました。
警察によりますと、男の子は10歳の小学5年生で、母親とクリニックに訪れて予防接種を受けたおよそ5分後に、突然意識を失ったということです。
クリニックによりますと、事前の診察や問診の際に異常は見られず、投与した用量も適切だったとしています。
また、ワクチンも、医薬品会社から受け取って10日以内のものだったということです。
院長は、「予防接種のあとに別の病気の投薬を受けていたと聞いたが、原因としては思い当たらず、非常に驚いている。原因究明には全面的に協力したい」と話しています。
警察は男の子の死因を調べるとともに、保護者やクリニックの関係者から話を聞いて詳しい状況を調べています。
これについて、厚生労働省は、「詳細は把握していないが、今後、医療機関や自治体からの報告を基に、死亡した男の子に持病があったのかどうかや、死亡に至る状況などを確認し、予防接種と死亡との因果関係について詳しく調べたい」としています。
厚生労働省の予防接種部会の委員で、日本脳炎のワクチンに詳しい川崎市衛生研究所の岡部信彦所長は、「一般的にワクチンがアレルギーなどの症状を引き起こす可能性はゼロではないが、現在使われている日本脳炎のワクチンで、突然、死亡にまで至った事例は聞いたことがない。詳しい状況は分からないが、ワクチンが原因となった可能性やほかに原因がなかったのかを複数の専門家がしっかりと検証する必要がある」と話しています。
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日本脳炎予防接種後、男児死亡…母と一緒に医院
(2012年10月18日10時26分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121018-OYT1T00117.htm?from=ylist
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日本脳炎:予防接種後に小5男児急死 岐阜・美濃
毎日新聞 2012年10月18日 
http://mainichi.jp/select/news/20121018k0000m040147000c.html
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予防接種直後に小5男子死亡 岐阜・美濃市のクリニック
北海道新聞 10/18
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/dogai/412471.html
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5分後という数字が正しければ、"一般論的には"アレルギー反応も、他のこととあわせて検討されるのではないかと思います。
(心肺停止は他のことでもおこりえますが)

"Hyper sensitivity to vaccine components" Plotkin『Vaccines』97ページ〜
他の医薬品同様、ワクチンもその抗生物質(タンパク質、ラテックス、抗菌薬、チロメサールなど)が原因でアレルギー反応につながることがあります。

厚生労働省関係審議会議事録等 疾病・障害認定審査会の感染症・予防接種審査分科会の審査結果がHPに随時報告されています。

昭和52年(1977年)2月から平成23年(2011年)11月までに認定されている、日本脳炎関連の死亡は6件。
予防接種健康被害救済制度 認定者数
※途中で新しい副作用の少ないワクチンに変更になり、2010年には接種再開(その前は積極的勧奨差し控え期)となっています。


日本語におけるワクチンとアナフィラキシーの文献を(1983年〜2012年10月現在)医中誌で検索してみると186件、このうちアナフィラキシー症例そのものを扱っているものは27件。
(ちなみに、ワクチンでなく小児×アナフィラキシーでは1756件。症例報告は597件。食べ物や運動、シャンプー等、多様な原因で誘発されます)
アナフィラキシー単独では8294件。


1994-1996年までゼラチンのアレルギーが問題であったのですが、現在はこの時問題となったゼラチンは安定剤としては使われていません。報告もその期間に集中。

■BCG接種が原因と考えられるアナフィラキシーを呈した1例
日本小児科学会雑誌(0001-6543)112巻11号 Page1707-1709(2008.11)

■MRワクチン10倍希釈液皮内テストでアナフィラキシーをきたしたが通常量の皮下接種が可能であった1例
アレルギー(0021-4884)56巻3-4 Page387(2007.04)

■水痘ワクチン接種直後にアナフィラキシーを呈したゼラチンアレルギーの1例
小児科(0037-4121)39巻12号 Page1437-1440(1998.11)

■水痘ワクチン接種後のアナフィラキシー
青森県立中央病院医誌(0387-0138)43巻2号 Page96-98(1998.06)

■麻疹ワクチン接種後,アナフィラキシーを呈した1症例
小児科(0037-4121)39巻1号 Page105-109(1998.01)

■ワクチン添加物(ゼラチン)が,予防接種後のアナフィラキシーを惹起した2例
日本小児科学会雑誌(0001-6543)101巻9号 Page1456(1997.09)

■ゼラチン含有ムンプスワクチン接種によりアナフィラキシーショックを発症した1例
苫小牧市立病院医誌(0913-9168)10巻1号 Page32-34(1997.08)

■麻疹ワクチン接種及びゼラチン含有菓子摂取によりアナフィラキシーをきたした1例
日本小児アレルギー学会誌(0914-2649)11巻3号 Page226(1997.09)

■日本脳炎ワクチン追加接種後にアナフィラキシーショック及び遅延型アレルギー反応を呈した一症例
日本小児アレルギー学会誌(0914-2649)10巻3号 Page349(1996.10)

■MMRワクチン及びエスクレ坐剤に含まれるゼラチンによるアナフィラキシーの1例
アレルギー(0021-4884)45巻2〜3 Page333(1996.03)

■麻疹ワクチン接種後アナフィラキシーを呈した1例
臨床小児医学(0035-550X)43巻5号 Page255-257(1995.10)

■ゼラチンアレルギーにより麻疹ワクチン接種後アナフィラキシーを呈した3症例
日本小児科学会雑誌(0001-6543)100巻2号 Page380(1996.02)

■麻疹ワクチン接種後,アナフィラキシーを来したアレルギー児の1例
小児感染免疫(0917-4931)7巻1号 Page66(1995.04)

■麻疹ワクチン接種後,アナフィラキシーを来たしたゼラチンアレルギー児の1例
小児感染免疫(0917-4931)7巻2号 Page115-118(1995.10)

■水痘・麻疹ワクチン接種後にアナフィラキシー反応を呈しゼラチンアレルギーが考えられた1例
日本小児アレルギー学会誌(0914-2649)9巻3号 Page232(1995.09)

■麻疹ワクチン接種後アナフィラキシー症状を呈した1例
日本小児アレルギー学会誌(0914-2649)7巻4号 Page249(1993.12)

■DT混合トキソイド接種によるアナフィラキシーをきたした症例
日本小児科学会雑誌(0001-6543)90巻2号 Page385(1986.02)

・・・といったところです。

UpToDate

"Japanese encephalitis ― Some immediate type anaphylactic reactions have been reported with the Japanese encephalitis (JE) vaccine, including some reactions in which patients had IgE antibodies to gelatin [20]. With this vaccine in particular, there have been many reports of late-onset anaphylaxis (many hours to two weeks after vaccination) [48]. A new Japanese encephalitis vaccine does not contain gelatin; whether or not this vaccine will have a lower rate of adverse reactions has yet to be determined"


今回の事例の詳細はわかりませんが、他の医療者や医療機関が学ぶとすれば、予防接種に関わる医療関係者の知識や対応スキルを改善していくことではないかと思います。そこには事前の問診スキルから、事後の緊急対応や記録の保管も含まれます。

日本には特に追加の資格制度はないようですが、海外には、予防接種を行う医療者の知識や技術を問う試験・承認制度や、温度管理など施設の管理レベルが評価される仕組みがあります。
また、国が責任を持って、どのレベルの準備や対応が必要かということも明示しています。

参考資料ですが、、、
オーストラリアのImmunization Handbookはとても参考になります。
クイーンズランド大学の林先生から以前おしえていただきました。

http://www.immunise.health.gov.au/internet/immunise/publishing.nsf/Content/Handbook-adverse

ワクチン接種後の観察や、副反応対応についても細かくかかれています。

Medical Management of Vaccine Reactions in Children and Teens
月例・年齢/体重ごとのエピネフリン量の表(米国)
http://www.immunize.org/catg.d/p3082a.pdf

研修の中に「Vaccine-Related Emergencies」といった科目が必要。
(カナダ ノバスコシア州の資料)
http://www.gov.ns.ca/hpp/cdpc/docs/Chapter10_VaccineRelatedEmergencies.pdf

医師だけでなく、薬剤師や看護師にも必要な知識。


今年の1月の記事
Anaphylaxis as an adverse event following immunisation in the UK and Ireland.
Arch Dis Child. 2012 Jun;97(6):487-90. Epub 2012 Jan 23
2008-2009年、英国/アイルランドで報告されたのは15例。
麻疹(単独)、HPV、髄膜炎、A型肝炎、チフス、破傷風/ポリオのブースターワクチン接種後に報告されていました。

このうち実際にアナフィラキシーだった症例は7例。6例にはアドレナリンの投与と補液がおこなわれました。
このうちの3例はアドレナリンを常備していました。治療をしなかった1例を含めて全員回復。

2例は麻疹(単身)ワクチンによるもので、この時期だけでみると10万人あたり12人の頻度。
3例はHPVワクチンによるもので、100万人あたり1.4例。

ゼロにはならないリスクに対峙するためには、信頼される精度の高いデータベースと、手厚い健康被害補償が重要。

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