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Channel: 感染症診療の原則
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院内感染/死亡の記事比較

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9月4日に院内感染のニュースがあって、よくみたら京大の超免疫不全の症例での話でした。

対応が迅速で、やるべきことスパッとやっての会見だなあ、、、、とおもって複数のメディア記事をみたら、それもそのはず、会見をされていた副院長が一山先生です。

予定手術の人も当然いるわけですから、一時的にでも病棟病院の機能(手術)を中止する、というのはトップの決断として大きいです。


記者会見の全容はわかりませんので記事をみます。かなり違いがあって興味深い。
病院によってはホームページに報告発表が載ることもあります)


5月に、今回死亡発表された40代女性、あとから把握される10代と60代女性が同じ部屋に入院。
3人とも6月末までに移植手術を受けています。

6月に40代女性が多剤耐性緑膿菌感染判明 →
8月29日 肺炎で死亡  60代女性はこの日の「検便で」菌が検出されたそうです。(記事によっては「感染」と書かれています)
そして、9月4日に記者会見(京都府警川端署に届け出)

世の中の全ての耐性菌事例が記者会見をしているわけではありませんし、その必要性は別の議論が必要ですが、いずれにしましても迅速な対応ですね。


一般論として、
このような症例が把握された場合には、隔離、スタッフの防御レベルを通常よりあげて(強化して)拡大しないようにとりくみます。
施設によっては、施設内を患者さんが移動できる場合もあり、患者/見舞客が感染対策の指示を守れない場合もあるので、必ずしも医療者やスタッフが,という事ではない場合もあります。

対策としては、さらに他にも広がっていないかを調べるために、ある条件のもとに「スクリーニング検査」を実施します(誰を対象にどのような頻度で・・・など)。お金もかかりますし、病院によっては院内に検査室がなくなってしまったところ、最初からないところもあるので、その準備やデータ整備もたいへん(ICNがんばります)。

そして、菌が確認される場合とされない場合があり、された場合も、菌がいただけなのか、「感染」がおきて病気の状態なのか、その人の病気の状態に、そもそも菌がどれだけ影響しているのかが検討されます。

今回は10代と60代で感染がわかったそうですが、10代は敗血症、60代は感染症を発症していない、と記事にあります。
一般の方はこれでわかるでしょうか?というか、書いている記者はどこまでわかっているか、でありますが、

今ですと、院内感染として問題になり、菌が複数把握された場合は、(可能な場合は、というのはコストもとてもかかるので)遺伝子情報を調べます。
同じパターンの菌が院内や病棟内に広がっている、しかも、患者は歩行をできないような症例の場合は、医療者の手指や物品を介して拡大したことが想像できます。

同じ菌名でも、ちがう種類が把握されることがあります。それは、その病院に来る前に別の病院や施設にいて、そこで感染した耐性菌の「持ち込み」である場合がその一例です。
大学病院など地域の大きな病院は、このリスクを引き受けざるをえない運命にあります。つまり、その地域や病院での感染の問題を小さくしようと思うなら(要求するなら)、地域全体で感染管理/予防に取り組み、支援する必要があります。

今回の会見では、10代と60代が「同一の」「酷似した」(ここは新聞社によって表記が異なっています)遺伝子パターンの多剤耐性緑膿菌に感染」で院内で広がった事が推測されています。

患者さん達がどの程度動ける人なのかは情報がありません。


移植医療では、移植を受ける患者さんの免疫が低下する(させる)ことがリスクになりますが、移植した臓器がその人の中で機能し続けるためにはしかたのないことです。移植医療の技術が向上し、広く実践されるようになればなるほど、この超免疫不全の人たちの数も増えます。

高齢化するだけで免疫が下がり、透析やステロイドを使うような患者さんでも免疫が下がり、糖尿病も「感染症っぽくないのに感染症」がよくあり(怖い怖い)、HIV感染報告も減ってはいません。感染症に脆弱な人がどんどん増える中、感染症の治療の選択肢を残すための予防的な施策や取り組みが求められますね。

「事件」記事のようにねじまげたり、特定の現場だけの問題にしないことが必要です。

もちろん、医療機関は、その時点で最善をつくしているかが問われますし、説明責任もあります。
医療現場にうようよ(?)多剤耐性菌がいないようにするのが理想でもあります。
その意味では、抗菌薬適正使用とか、日々の手荒いとか、地道にスタンダードな取り組みをがんばりましょう。

記事比較。
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「京大病院 院内感染で1人死亡」NHK

京都大学附属病院で、肝臓の移植手術を受けた患者3人が、ほとんどの抗生物質が効かない「多剤耐性緑膿菌」に感染し、1人が死亡しました。
病院は院内感染とみて、大人の肝臓の移植手術を当面見合わせ、感染経路などを調べています。

京大病院によりますと、肝胆膵・移植外科で肝臓の移植手術を受けた40代の女性患者から、ことし6月、ほとんどの抗生物質が効かない「多剤耐性緑膿菌」が検出され、女性は先月29日肺炎のため死亡しました。
また、同じ診療科で肝臓の移植手術を受け、入院していた10代と60代の女性患者2人も「多剤耐性緑膿菌」に感染していることが分かり、このうち10代の女性は敗血症の症状を示しているということです。
3人から検出された菌を解析したところ遺伝子が同じだったということで、病院は院内感染とみて当面、大人の肝臓の移植手術を見合わせるとともに感染経路を調べています。
会見を行った一山智副病院長は「移植手術を一部見合わせ感染拡大を防ぐ措置を取りました。皆様にご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます」と謝罪しました。
京大病院では平成16年にも入院患者10人が多剤耐性緑膿菌に感染し、2人が死亡する院内感染が起きています。
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「京大病院で院内感染1人死亡 3人に耐性菌」中日新聞/共同

京都大病院は4日、生体肝移植を受けた入院患者3人から多剤耐性緑膿菌を検出し、このうち40代の女性が菌の感染が原因とみられる肺炎で8月29日に死亡したと発表した。
 残る2人のうち、10代の女性は感染による敗血症で治療中。病状は重いという。60代の女性は感染症を発症していない。3人は同一の遺伝子を持つ菌を保有しており院内感染とみている。
 一山智副病院長は記者会見で「患者や社会の皆さまに迷惑をおかけしおわびする」と謝罪。病院は4日、京都府警川端署に届け出た。移植手術で感染が広がった可能性もあるとして成人の脳死、生体肝移植手術を見合わせている。

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「京大病院:多剤耐性緑膿菌に院内感染、1人死亡」毎日新聞

京都大病院は4日、生体肝移植手術後の入院患者3人が抗生物質の効かない多剤耐性緑膿菌に院内感染し、うち40代女性が先月、死亡したと発表した。感染源は不明で、感染が終息するまで同じ病棟での肝移植手術を見合わせている。
病院によると、このほか、10代の女性患者が重篤な敗血症を発症し治療中。60代の女性患者は発症していないが経過観察している。
3人は今年5〜6月に手術を受けた。40代女性は6月中旬の検査で感染が確認され、その後、同菌が原因とみられる肺炎を発症し、8月29日に死亡した。
同月中に10代女性と60代女性の感染も相次いで判明。この2人は40代女性と同室だったことがあり、菌の遺伝子型も酷似していることから院内感染と判断した。
同病院では04年にも同じ菌の院内感染で入院患者2人が死亡した。これを受けて感染者を「可能な限り隔離する」との内規を定めたが、今回、40代女性の感染確認後も隔離していなかった。

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「京大病院で院内感染、生体肝移植受けた女性死亡」読売新聞

京都大病院は4日、生体肝移植を受けて入院中だった女性3人が、複数の抗生物質が効かない多剤耐性緑膿菌に感染し、うち40歳代の女性が肺炎を起こして8月29日に死亡したと発表した。発表によると、3人はいずれも5月に入院し、6月末までに生体肝移植を受けた。死亡した女性は6月の手術直後の検査で感染が判明し、8月中旬に肺炎を発症した。この女性と一時同じ病室にいた10歳代の女性も、敗血症を発症して重症。60歳代の女性は同月29日の検便で感染が確認されたが、病気の発症はないという。

検査で3人から検出された菌の遺伝子が一致し、病院側は発症と感染確認の順番から、死亡した女性から残り2人に感染したとみている。

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京大病院のように、感染管理のスタッフが揃っていて経験も豊富で、地道にやるべきことをコツコツやっている病院ではこのような迅速対応ができます。

そもそも、感染管理って何?耐性菌なんてうちにはいませんことよ、オホホホみたいな病院のほうがあぶないんですよね。
考えもしないし調べてもいない。当然スタッフの知識や感染防御レベルも想像つきます。
(自分や親類が入院する時は、感染管理/医療安全室が機能しているのかどうか確認したほうがいいです)


感染管理のQ&A (多剤耐性緑膿菌、消毒、環境感染)
 
「多剤耐性緑膿菌保菌者の対応について、入院中の患者で、尿培養にて昨日、多剤耐性緑膿菌陽性が判明したお方がおられます。
基礎疾患としては子宮頚癌があり、他院泌尿器科にて尿管ステント留置を受けています。ADLは自立し、トイレにて排尿していますが、便失禁の恐れから本人希望にてオムツを使用しています。発熱はなく、血液検査でも感染所見はないため保菌と考えております。現在の対策としては、4人部屋にて、?ご本人への手洗い指導、?オムツについてスタッフに接触感染予防を指示しております。
トイレの使用について、大部屋での共用は問題がありますでしょうか。
トイレの清掃は業者がしておりますが、特に注意することはありますか」
です。回答は上記リンクでお読みください。


2011年に報じられた、松戸市立病院ではICUはそのまま稼働していました(とめるとなったら、患者さんを他の病院にうつしたりと、別のリスクも生じます)。もっともこの記事の記載では菌がどう作用して3人の死亡に関係したのかがさっぱりわかりませんが。

同じく2011年の東大病院。「10月に死亡事案が2件続いたことから公表」

国立感染症研究所 多剤耐性緑膿菌



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