学生時代、初期研修医の時に聞いていたら・・という香坂心電図の基礎講座のQ&Aです。
1. 質問者 : 医師 20代
質問内容 : コレステロールの話題で恐縮ですが、ASCVDではLDL≧190ではスタチン開始かと思いますが、日本の吹田スコアでは必ずしも開始にならないと思います。
先生はその違いについてはどのように解釈、実践されていらっしゃいますか?
>難しいですね。自分は吹田スコアも少しは参考にしておりますが、LDL 180-190以上というのは値だけでハイリスクと考えても良い患者さんが多くなりますので、比較的早期にスタチンをスタートされても良いのではないかと思います。自分はこのほかにACC/AHA のリスク計算はよく使っており、こちらはどちらかといえばスタチンをスタートさせてなくとも大丈夫ですよ、という方向に使うことが多いように思います。
2. 質問者 : 医師 20代
質問内容 : 職場での年1回の心電図検診において、いつも悩まされるのですが、無症候性のST低下、平坦T波をみつけた場合、追加精査(エコー等)をやるべき状況がもしありましたら、教えていただけますでしょうか。
> 職場で、ということであれば「ほとんどない」ということになります(普通に勤務できているという前提で)。しかし、45歳以上の方で、過去に虚血を疑わせるような症状があれば考えても良いのではないかと思います(主に運動負荷検査ということになるかと思いますが)。
3. 質問者 : 医師 小児科 60代
質問内容 : 小児の心臓検診についてはどう考えられますか。
> ここもなかなか難しいところですが、小児先天性心疾患の見落としを防ぐため、ということであればたとえば5-6歳時に一度おこなうというのはアリかもしれません(実際そうしたことを行っている国は日本以外にもあります)。ただ、多くの国や制度ではエビデンスが不十分ということで、広範囲に行われてはおりません。
4. 質問者 : 医師 内科 50歳代
質問内容 : 左軸変異と左脚前枝ブロックとの関係がよくわからないでいます。
両者は、ほぼ同じclinical entityを表していると考えてよいのでしょうか?
> そうですね、左室肥大や陳旧性心筋梗塞などほかの器質的心疾患を示唆するものがなければほぼ同等と考えてもらっても大丈夫ですが、簡単に申し上げると「左軸偏位の極端な場合を前枝ブロック」と規定します。無症候で偶然に発見されたヘミブロックは、高度房室ブロックや心疾患の発症、死亡と関連しない、ということはわかっていますが、もしもっと込み入った議論を要望ということであれば Chou などの成書をお勧めします。
5. 質問者 : 内科医師 30代
質問内容 : 最初の4症例を機械で読ませると診断はどうなりますか。心アミロイドーシスと同様、代謝的な貯まり病(糖原病やファブリー病)の心電図も中隔膜の変化が認められますか。
> こちら機械に4症例を読ませても、今の段階ではリズムくらいしかあてることはできないと思います(近い将来はわかりませんが)。アミロイドや代謝障害の心電図はかなり非特異的な変化が多く、一つの所見で語ることは難しいのですが、アミロイドは低電位にST-T変化、代謝障害であれば若年のうちから極端な左室肥大がみられる、というのが教科書的な規定ということになるかと思います。
6. 質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 発作性の不整脈、失神発作で不整脈が関与するものを考えた時、先生はHolter心電図を行うことはありますか。
病院ではILRという手もあると思いますが、選択はどのようにされているでしょうか。
> Holterは発作の頻度が週に何回か、ということでないと威力が発揮できないことが多く、あまり使うことはありません。ILRは、さらにその発作がILRを植え込んでもいいくらい「強い」(失神など)ということであれば使用します。双方ともあくまで中等度以上の重症度の方に使用します。
7. 質問者 : 初期研修医2年目
質問内容 : 香坂先生、青木先生、今回は心電図に関して大変勉強になるレクチャー誠にありがとうございました。右心肥大に関して質問で、一般的にV1誘導にてR/S>1の場合、と定義されていることが多いですが、左心肥大でいうCornell基準のように心エコーで実際に研究された、新しい定義などありますでしょうか?
また心エコーでなくても右心肥大の心電図に関する研究や論文など面白いものがあればぜひご紹介していただけたら幸いです。
> ありがとうございます。こちら右心不全に関しては心電図上で新しい知見があったというのはあまりみかけません。教科書的にも「Standard Criteria」はないということになっているので、他の検査と組み合わせて行うということになります。このあたり、右室のカタチが人によってかなり違うということや(半月状の形態をしています)、あと壁が薄いので電気的な興奮だけでわかりにくいというところが原因かと思われます。