「誰も考えたくない、思い出したくない」ことがやはりおきました。
M184Vと言われてピンとくる感染症専門医は大分減ったはずです。
これは抗HIV薬の要となる3TC, FTCなどに耐性を与える有名な遺伝子変異で、HIV感染症の治療を瞬時に難しいものにしました。ほんの少し前の時代までは・・
今や184, 103,などの番号を思い出す医師は少なくなっている筈です。「ARTがこれほど強力で安全、しかも耐性など心配しなくて良い」診療が当たり前でないことを知っている医師、すなわち古参の医師は少ないから・・
しかしHIV感染症が、「ワクチンがない、治癒(=ウイルスの体内からの除去)が不可能、しかも耐性化する機会を虎視眈々と待ち受けるウイルス感染症」であり続ける限り、今回の恐ろしい報告は可能性を秘めていたのです。時間の問題であったとも言えます。そして
NEJMの報告は「HIV感染症を治療するにあたり耐性遺伝子の番号(例:184, 103,・・)を考え、genotype, phenotypeの感受性検査を行い、抗HIV薬の組み合わせを考えなければ患者を助けられない時代にいつ戻っても良い」という事を思い出させてくれました。
呑気に「梅毒が増えているから注意を」などと言っているうちに、気づけばすぐ隣に最新のインテグラーゼ阻害薬に耐性のHIV感染症がいる・・しかも抗HIV薬にナイーブの患者(=抗HIV薬を服用したことがない患者で)という事態になりえるのです。
Failure of Dolutegravir First-Line ART with Selection of Virus Carrying R263K and G118R
NEJM 2019;381:887-889(August 29, 2019)
タイトル写真:現在の夢のような抗HIV療法の父(Schooley先生と)