2018年11月9日 第7回若手医師セミナー Q&A
山本舜悟先生 担当部分
質問者 : 医師 小児科 50代
質問内容 : 新しく価格が高い薬を投与するのは、抗菌薬に限らず、出来高制であるのが、問題ではないでしょうか。薬だけでなく、画像や血液などの検査も同様ですが。
【回答】
・はい。ご指摘のように,医師はもっとコスト意識を持った方がよいと思います。
質問者 : 薬剤師 30代
質問内容 : 実際、GASにアモキシシリン10日間も必要でしょうか?
「1日でも、実はグラム染色したら菌は消えてる」という発表(?)を拝見したことがあるのですが。
【回答】
・治療期間の短縮を模索する臨床研究が近年増えてきています。確かに10日間という治療期間はリウマチ熱の予防を目的としたもので,日本をはじめ先進国でリウマチ熱の発生が激減している状況では,10日間は長すぎるのかもしれません。実際,欧州ではA群溶連菌の検査すらせずに,抗菌薬は重症例のみに限っていたり,7日間にしていたりする国もあります。
アモキシシリン6日間とペニシリンV(日本では販売されていない製剤)10日間とを比較したランダム化比較試験では,細菌学的治癒や臨床的成功の割合がどちらも90%以上で有意差はありませんでしたが,この研究で使われたアモキシシリンは1回1gを1日2回内服(1日2g)というものでした(The French Study Group Clamorange. Scand J Infect Dis. 1996;28:497-501.)。またペニシリンV5日間と10日間の比較では,5 日間治療は10日間治療に比べて細菌学的治癒が劣っていました(オッズ比0.29;95%CI 0.13~ 0.63)(Pediatr Infect Dis J. 2005;24:909-17.)。
溶連菌の除菌を目指さないのであれば,症状軽快が得られる短期間治療も選択肢になりえるとは思います。ただし,溶連菌による咽頭炎を繰り返しているような場合は,10日間きっちりと治療した方がよいと思います。
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : AMRのお話では、開業医が適正使用を行っていないということを強調され、大変肩身の狭い思いをしています。感染症診療の原則に従えば、臓器が、のど、鼻、耳など多臓器にわたるときにはウイルス感染を考え、抗菌薬を選択することはありません。
急性気管支炎においては、胸部X線では肺炎像がなくても、病院でCTをとれば気管支肺炎像が確認できることは少なくありません。膿性痰で迷うときには、グラム染色をして細菌感染かどうか確認していますが、急性気管支炎に対する抗菌薬の是非はひとくくりに言うのは難しいと感じています。
【回答】
・ご指摘の通り,胸部X線で肺炎像が確認できない肺炎はあります。膿性痰でグラム染色をして肺炎球菌が一様に見えたら(そして重症感があれば),私も抗菌薬を投与するだろうと思います。急性下気道感染症(肺炎を疑われなかった急性の咳のある患者)を対象にして,アモキシシリン群とプラセボ群を比較した最近の欧州多国籍のランダム化比較試験によると,全体としては有症状期間に有意差はありませんでした。しかし,細菌とウイルスの双方が検出された患者ではアモキシシリン群で症状の悪化のリスクがオッズ比0.24 (95%信頼区間 0.11〜0.53)と低かったそうです(サブグループ解析なので,強い結論はだせませんが,理にはかなっていると思います)(Clin Microbiol Infect. 2018;24:871–6.)。
そうした細菌が関与した急性気管支炎を見つけるために,診療所でもグラム染色を行えば非常に役に立つと思いますし,是非もっと普及してほしいと思います。現状はすべての診療所にそれを求めるのはなかなか難しい面があり,また,「肺炎をまったく疑わない咳の患者」には少なくとも抗菌薬はデメリットがメリットを上回ってしまうだろうと思います。
質問者 : 薬剤師 30代
質問内容 : 通常とは異なる経過
→別のウイルス合併
とは考えられないのでしょうか?
その見極めを教えて下さい。
【回答】
・急性気道感染症で複数のウイルスが検出されることはあるようですが,そのことの臨床的意義はまだよくわかっていません。「いつもの風邪」が毎回細菌によるものであれば,好中球の機能異常など何らかの免疫不全状態を疑わないといけなくなります。しかし,免疫不全がなければ,「いつもの風邪」は抗菌薬なしで自然に治るものがほとんど(そのほとんどがウイルス性だろうと推測されます)だと思いますので,通常と異なる経過の場合には細菌感染症を疑った方がいいというのは,便利な経験則になります。
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金城紀与史 先生 担当部分
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 高齢者の場合、息切れの発症時期が不明確(思い出せない)であることがあります。諸検査でも異常なく、年だからとか、足が弱ってきたからとなりがちです。器質的疾患がなく年齢だけで生じる息切れは、実際にあるのでしょうか。
【回答】
・Deconditioning(運動不足)によっても労作性の息切れを生じます。日頃運動していない人がいきなりマラソン大会に出場すれば、ひどく息切れがする。これと同様にADLが低下して活動度が低下したり、入院で歩行しなくなると筋力も心肺機能も低下します。
高齢者に多いですが、若い人でも大病を患い寝たきりが続けば起こりえますし、日頃運動不足の肥満の人でも労作性息切れを生じます。リハビリや運動(トレーニング)によって改善します。
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 最近は咳喘息という診断をされる方が多くなっています。喉頭異常感症や4週間は続くことのある急性気管支炎も含まれているような印象があります。NO測定も導入されているとは限りません。気管支喘息の過剰診断というお話がありましたが、咳喘息についてはいかがでしょうか。
【回答】
・咳喘息の診断は正直難しいです。できる限り呼吸機能検査を行い、閉塞性障害と気道狭窄の変動の大きさを証明したいところです。ところが咳が激しい患者は呼吸機能検査がうまくできないことも多く、咳のせいで日常生活に多大な障害が出ていると医師もなんとかしたいという思いからステロイド吸入薬など喘息治療に踏み切ってしまいがちです。
鼻炎や感染後咳嗽は頻度が高く、咳喘息と診断する前に鑑別を考えるようにしています。咳喘息の診断を下す場合には、過去にも繰り返しているか、喘鳴が過去に聴取されたことがあるか、などを参考にします。やむを得ず治療を開始した場合には、その後の症状をフォローして喘息治療の減量・中止ができないか試します。「咳喘息疑い」という疑い病名で見ていくことで、喘息のレッテルを永遠に貼ってしまうことが防げるのではないかと思います。
質問者 : 医師 内科 30代
質問内容 : 心血管リスクの高い患者で、冷汗を伴う胸痛と呼吸苦+非特異的なST上昇の時、循環器の先生に心筋梗塞疑いでコンサルトすると、「心エコーで壁運動が良好なので、心疾患ではない」と言われることがよくあります。
STEMIなら早く心カテをしてあげたいのですが、初回のトロポニンが陰性な場合も多く、2回目の心電図の変化やトロポニン陽性でようやく心筋梗塞の診断に至ることも多いです。
心エコーの感度が良くないことを、循環器の先生にどのように説明したら、心筋梗塞を完全否定できないと伝えることができるでしょうか?
【回答】
・循環器の先生とのやり取りについては、ご質問の先生と相手の関係性にもよると思います。気軽に話し合いできるようであればいいですが、そうでない場合にはまずは良好な関係づくりから始めないといけないかもしれません。
非特異的ST上昇があり、心エコーで壁運動異常がないという状況で考慮すべきは、急性冠症候群以外の胸痛・呼吸困難をきたす疾患の除外と思います。怖いものとしては大動脈解離、肺塞栓症、心筋炎、たこつぼ心筋症、心外膜炎などがあがります。これらはトロポニン上昇が見られることもあります。その他、食道痙攣・逆流性食道炎などもあります。
これらを病歴、身体所見、心電図、胸部レントゲン、エコー、場合によってはCTで除外できているかどうか検討します。やはり急性冠症候群が怪しいが初回トロポニンが陰性という時に、非循環器専門医として取るべき対応としては酸素投与・持続的心電図モニター・胸痛があればニトログリセリン投与・アスピリン投与など非侵襲的治療を開始しながら次のトロポニンを見る形になるのではないでしょうか。
高感度トロポニンの登場で、感度があがり、初回トロポニン陰性で心筋梗塞を除外できる率があがることが期待されます(一方で偽陽性も増えるので、心筋梗塞以外の鑑別をしっかり考えないといけないですが)。
質問者 : 野獣クラブ
質問内容 : 質問ではありませんが、コメントです。
青木眞先生のコメント。
「レジオネラ肺炎は非典型的なことが多い。(カンファでうっちゃりを食らうことがある。)」
非常に勉強になります。有難うございます!
山本舜悟先生 担当部分
質問者 : 医師 小児科 50代
質問内容 : 新しく価格が高い薬を投与するのは、抗菌薬に限らず、出来高制であるのが、問題ではないでしょうか。薬だけでなく、画像や血液などの検査も同様ですが。
【回答】
・はい。ご指摘のように,医師はもっとコスト意識を持った方がよいと思います。
質問者 : 薬剤師 30代
質問内容 : 実際、GASにアモキシシリン10日間も必要でしょうか?
「1日でも、実はグラム染色したら菌は消えてる」という発表(?)を拝見したことがあるのですが。
【回答】
・治療期間の短縮を模索する臨床研究が近年増えてきています。確かに10日間という治療期間はリウマチ熱の予防を目的としたもので,日本をはじめ先進国でリウマチ熱の発生が激減している状況では,10日間は長すぎるのかもしれません。実際,欧州ではA群溶連菌の検査すらせずに,抗菌薬は重症例のみに限っていたり,7日間にしていたりする国もあります。
アモキシシリン6日間とペニシリンV(日本では販売されていない製剤)10日間とを比較したランダム化比較試験では,細菌学的治癒や臨床的成功の割合がどちらも90%以上で有意差はありませんでしたが,この研究で使われたアモキシシリンは1回1gを1日2回内服(1日2g)というものでした(The French Study Group Clamorange. Scand J Infect Dis. 1996;28:497-501.)。またペニシリンV5日間と10日間の比較では,5 日間治療は10日間治療に比べて細菌学的治癒が劣っていました(オッズ比0.29;95%CI 0.13~ 0.63)(Pediatr Infect Dis J. 2005;24:909-17.)。
溶連菌の除菌を目指さないのであれば,症状軽快が得られる短期間治療も選択肢になりえるとは思います。ただし,溶連菌による咽頭炎を繰り返しているような場合は,10日間きっちりと治療した方がよいと思います。
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : AMRのお話では、開業医が適正使用を行っていないということを強調され、大変肩身の狭い思いをしています。感染症診療の原則に従えば、臓器が、のど、鼻、耳など多臓器にわたるときにはウイルス感染を考え、抗菌薬を選択することはありません。
急性気管支炎においては、胸部X線では肺炎像がなくても、病院でCTをとれば気管支肺炎像が確認できることは少なくありません。膿性痰で迷うときには、グラム染色をして細菌感染かどうか確認していますが、急性気管支炎に対する抗菌薬の是非はひとくくりに言うのは難しいと感じています。
【回答】
・ご指摘の通り,胸部X線で肺炎像が確認できない肺炎はあります。膿性痰でグラム染色をして肺炎球菌が一様に見えたら(そして重症感があれば),私も抗菌薬を投与するだろうと思います。急性下気道感染症(肺炎を疑われなかった急性の咳のある患者)を対象にして,アモキシシリン群とプラセボ群を比較した最近の欧州多国籍のランダム化比較試験によると,全体としては有症状期間に有意差はありませんでした。しかし,細菌とウイルスの双方が検出された患者ではアモキシシリン群で症状の悪化のリスクがオッズ比0.24 (95%信頼区間 0.11〜0.53)と低かったそうです(サブグループ解析なので,強い結論はだせませんが,理にはかなっていると思います)(Clin Microbiol Infect. 2018;24:871–6.)。
そうした細菌が関与した急性気管支炎を見つけるために,診療所でもグラム染色を行えば非常に役に立つと思いますし,是非もっと普及してほしいと思います。現状はすべての診療所にそれを求めるのはなかなか難しい面があり,また,「肺炎をまったく疑わない咳の患者」には少なくとも抗菌薬はデメリットがメリットを上回ってしまうだろうと思います。
質問者 : 薬剤師 30代
質問内容 : 通常とは異なる経過
→別のウイルス合併
とは考えられないのでしょうか?
その見極めを教えて下さい。
【回答】
・急性気道感染症で複数のウイルスが検出されることはあるようですが,そのことの臨床的意義はまだよくわかっていません。「いつもの風邪」が毎回細菌によるものであれば,好中球の機能異常など何らかの免疫不全状態を疑わないといけなくなります。しかし,免疫不全がなければ,「いつもの風邪」は抗菌薬なしで自然に治るものがほとんど(そのほとんどがウイルス性だろうと推測されます)だと思いますので,通常と異なる経過の場合には細菌感染症を疑った方がいいというのは,便利な経験則になります。
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金城紀与史 先生 担当部分
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 高齢者の場合、息切れの発症時期が不明確(思い出せない)であることがあります。諸検査でも異常なく、年だからとか、足が弱ってきたからとなりがちです。器質的疾患がなく年齢だけで生じる息切れは、実際にあるのでしょうか。
【回答】
・Deconditioning(運動不足)によっても労作性の息切れを生じます。日頃運動していない人がいきなりマラソン大会に出場すれば、ひどく息切れがする。これと同様にADLが低下して活動度が低下したり、入院で歩行しなくなると筋力も心肺機能も低下します。
高齢者に多いですが、若い人でも大病を患い寝たきりが続けば起こりえますし、日頃運動不足の肥満の人でも労作性息切れを生じます。リハビリや運動(トレーニング)によって改善します。
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 最近は咳喘息という診断をされる方が多くなっています。喉頭異常感症や4週間は続くことのある急性気管支炎も含まれているような印象があります。NO測定も導入されているとは限りません。気管支喘息の過剰診断というお話がありましたが、咳喘息についてはいかがでしょうか。
【回答】
・咳喘息の診断は正直難しいです。できる限り呼吸機能検査を行い、閉塞性障害と気道狭窄の変動の大きさを証明したいところです。ところが咳が激しい患者は呼吸機能検査がうまくできないことも多く、咳のせいで日常生活に多大な障害が出ていると医師もなんとかしたいという思いからステロイド吸入薬など喘息治療に踏み切ってしまいがちです。
鼻炎や感染後咳嗽は頻度が高く、咳喘息と診断する前に鑑別を考えるようにしています。咳喘息の診断を下す場合には、過去にも繰り返しているか、喘鳴が過去に聴取されたことがあるか、などを参考にします。やむを得ず治療を開始した場合には、その後の症状をフォローして喘息治療の減量・中止ができないか試します。「咳喘息疑い」という疑い病名で見ていくことで、喘息のレッテルを永遠に貼ってしまうことが防げるのではないかと思います。
質問者 : 医師 内科 30代
質問内容 : 心血管リスクの高い患者で、冷汗を伴う胸痛と呼吸苦+非特異的なST上昇の時、循環器の先生に心筋梗塞疑いでコンサルトすると、「心エコーで壁運動が良好なので、心疾患ではない」と言われることがよくあります。
STEMIなら早く心カテをしてあげたいのですが、初回のトロポニンが陰性な場合も多く、2回目の心電図の変化やトロポニン陽性でようやく心筋梗塞の診断に至ることも多いです。
心エコーの感度が良くないことを、循環器の先生にどのように説明したら、心筋梗塞を完全否定できないと伝えることができるでしょうか?
【回答】
・循環器の先生とのやり取りについては、ご質問の先生と相手の関係性にもよると思います。気軽に話し合いできるようであればいいですが、そうでない場合にはまずは良好な関係づくりから始めないといけないかもしれません。
非特異的ST上昇があり、心エコーで壁運動異常がないという状況で考慮すべきは、急性冠症候群以外の胸痛・呼吸困難をきたす疾患の除外と思います。怖いものとしては大動脈解離、肺塞栓症、心筋炎、たこつぼ心筋症、心外膜炎などがあがります。これらはトロポニン上昇が見られることもあります。その他、食道痙攣・逆流性食道炎などもあります。
これらを病歴、身体所見、心電図、胸部レントゲン、エコー、場合によってはCTで除外できているかどうか検討します。やはり急性冠症候群が怪しいが初回トロポニンが陰性という時に、非循環器専門医として取るべき対応としては酸素投与・持続的心電図モニター・胸痛があればニトログリセリン投与・アスピリン投与など非侵襲的治療を開始しながら次のトロポニンを見る形になるのではないでしょうか。
高感度トロポニンの登場で、感度があがり、初回トロポニン陰性で心筋梗塞を除外できる率があがることが期待されます(一方で偽陽性も増えるので、心筋梗塞以外の鑑別をしっかり考えないといけないですが)。
質問者 : 野獣クラブ
質問内容 : 質問ではありませんが、コメントです。
青木眞先生のコメント。
「レジオネラ肺炎は非典型的なことが多い。(カンファでうっちゃりを食らうことがある。)」
非常に勉強になります。有難うございます!