「日経メディカル Online」に倉原優先生(近畿中央胸部疾患センター)による記事が載っていました。
以下、がその文章です。
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結核病棟からの脱走劇 倉原優
2018/2/23 倉原優(近畿中央胸部疾患センター)
結核病棟に入院している患者さんは、基本的に喀痰の中から結核菌が検出されて「入院勧告」を受けた人たちです。この入院勧告というのは、あくまで勧告であって、命令ではありません。公的補助に関しては感染症法という法律がからみますが、別に法的な拘束力なんて何もないのです。
私はかれこれ10年くらい結核病棟で診療していますが、年に1回は「脱走劇」を目にすることがあります。拘束力がないので、「脱走」なんて書くと語弊がありますね。厳密には「自己退院」「無断離院」という表現が正しい。
いつぞやアフリカで、多剤耐性結核患者50人くらいが集団離院(脱走)したというニュースがありましたが、さすがに日本ではこういった集団離院の事例はありません。たぶん。
ナース:「先生、○○さんがベッドにいません、荷物も全部!」
そういうコールがあって駆けつけると、もうもぬけの殻になっていて、電話で連絡してもつながりません。防犯カメラを見ると、病棟からスタスタと歩いて玄関から出ていく患者さんが映っている。せん妄でフラフラして出て行ったようなそぶりがないケースでは、正常な意志判断で自己退院されたわけですから、患者さんはまず戻って来ません。
患者さんが無断離院した場合、管轄する保健所・保健センター、関連行政機関(生活保護担当、消防、警察など)へ患者が結核病棟からいなくなったこと、同様の経緯で今後入院することが予想されることなどを連絡する必要があります。どこまでの範囲にどの程度の個人情報を提供するかについては、ケースバイケースですが。当然ながら近くの路上で警察がもし見つけたとしても、連れ戻す強制力があるわけではありません。
結核患者さんはなぜ出ていくのでしょう? 答えは簡単です、入院隔離がストレスだからです。国内のアンケートでは、結核病棟を有する施設のうち過半数が自宅療養や外出を認めないという方針でしたが、20.4%の施設が自宅療養を認めることがあると回答していました1)。
これによれば、「担当者が長期入院に伴う患者のストレス等を直接感じている中で、それぞれの患者の感染防止に関する理解度、家族への感染の可能性などを個別に判断しているものと推定される」と考察されています。また、結語として「隔離による人権制限は最小限にするべきであることを考えれば、感染防止が可能な状況であれば自宅隔離も認められるべきである」と綴っています。多剤耐性結核の患者さんには一生を覚悟して入院している患者さんもいます。世俗と断絶された暮らしに対するストレスは、察するに余りあります。
日本では欧米のように自宅隔離(home isolation)は積極的には推奨されません。退院基準を満たせない状況と実臨床上の感染リスクのバランスに、確実に不均衡があると現場の私たちは感じています。
過去に治療中にコンタクトがとれなくなった患者さんが何人かいますが、今頃どうしているだろうかと心配になります。昔は自然治癒もあったくらいですから、案外ケロっとしているかもしれませんけどね。
(参考文献)
1) 伊藤邦彦. 治療に非協力的な結核患者への法的強制力. Kekkaku 2011;86(4):459-471.
以上
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編集長も120%同意します。
ガフキー陽性でも外来診療が可能な米国で、多くの州が「結核排除完了宣言」が出される中、日本は依然として「中」流行国・・
これは、エルニーニョ現象のような自然界の問題ではなく、医療・行政の問題だと思います。
このまま、梅毒の急増⇒HIV感染症の増加⇒結核の増加などという悪夢が実現しないことを祈ります。
以下、がその文章です。
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結核病棟からの脱走劇 倉原優
2018/2/23 倉原優(近畿中央胸部疾患センター)
結核病棟に入院している患者さんは、基本的に喀痰の中から結核菌が検出されて「入院勧告」を受けた人たちです。この入院勧告というのは、あくまで勧告であって、命令ではありません。公的補助に関しては感染症法という法律がからみますが、別に法的な拘束力なんて何もないのです。
私はかれこれ10年くらい結核病棟で診療していますが、年に1回は「脱走劇」を目にすることがあります。拘束力がないので、「脱走」なんて書くと語弊がありますね。厳密には「自己退院」「無断離院」という表現が正しい。
いつぞやアフリカで、多剤耐性結核患者50人くらいが集団離院(脱走)したというニュースがありましたが、さすがに日本ではこういった集団離院の事例はありません。たぶん。
ナース:「先生、○○さんがベッドにいません、荷物も全部!」
そういうコールがあって駆けつけると、もうもぬけの殻になっていて、電話で連絡してもつながりません。防犯カメラを見ると、病棟からスタスタと歩いて玄関から出ていく患者さんが映っている。せん妄でフラフラして出て行ったようなそぶりがないケースでは、正常な意志判断で自己退院されたわけですから、患者さんはまず戻って来ません。
患者さんが無断離院した場合、管轄する保健所・保健センター、関連行政機関(生活保護担当、消防、警察など)へ患者が結核病棟からいなくなったこと、同様の経緯で今後入院することが予想されることなどを連絡する必要があります。どこまでの範囲にどの程度の個人情報を提供するかについては、ケースバイケースですが。当然ながら近くの路上で警察がもし見つけたとしても、連れ戻す強制力があるわけではありません。
結核患者さんはなぜ出ていくのでしょう? 答えは簡単です、入院隔離がストレスだからです。国内のアンケートでは、結核病棟を有する施設のうち過半数が自宅療養や外出を認めないという方針でしたが、20.4%の施設が自宅療養を認めることがあると回答していました1)。
これによれば、「担当者が長期入院に伴う患者のストレス等を直接感じている中で、それぞれの患者の感染防止に関する理解度、家族への感染の可能性などを個別に判断しているものと推定される」と考察されています。また、結語として「隔離による人権制限は最小限にするべきであることを考えれば、感染防止が可能な状況であれば自宅隔離も認められるべきである」と綴っています。多剤耐性結核の患者さんには一生を覚悟して入院している患者さんもいます。世俗と断絶された暮らしに対するストレスは、察するに余りあります。
日本では欧米のように自宅隔離(home isolation)は積極的には推奨されません。退院基準を満たせない状況と実臨床上の感染リスクのバランスに、確実に不均衡があると現場の私たちは感じています。
過去に治療中にコンタクトがとれなくなった患者さんが何人かいますが、今頃どうしているだろうかと心配になります。昔は自然治癒もあったくらいですから、案外ケロっとしているかもしれませんけどね。
(参考文献)
1) 伊藤邦彦. 治療に非協力的な結核患者への法的強制力. Kekkaku 2011;86(4):459-471.
以上
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編集長も120%同意します。
ガフキー陽性でも外来診療が可能な米国で、多くの州が「結核排除完了宣言」が出される中、日本は依然として「中」流行国・・
これは、エルニーニョ現象のような自然界の問題ではなく、医療・行政の問題だと思います。
このまま、梅毒の急増⇒HIV感染症の増加⇒結核の増加などという悪夢が実現しないことを祈ります。