海外国内出張、情報追加して上書き保存をくりかえしていたら間があいてしまいました。
メディアから「海外はどうなっているのか?」という問い合わせが来たので最近の状況を整理。
<最近の話題> 2017年2月10日
カナダや英国では先に2回でOKになっていましたが、米国でも3回ではなく2回でOKになりました。
(条件としては14歳までの若年層、免疫不在などの基礎疾患がない人の場合。接種開始年齢や病気によっては3回接種)
そして、接種するワクチンは先進国では9価にシフトしています。今後の流れは9価で2回となりそうです。
日本は2017年2月1日現在、9価は臨床試験中で未承認ですが、関連データも公開されています。
2016年12月22日 JJID Safety and immunogenicity study of a 9-valent human papillomavirus vaccine administered to 9-to-15 year-old Japanese girls
都内のクリニックでは9価はの接種が可能です(仕事の関係で日本に住んでいる外国の方は、母国と同じスケジュールや内容で接種を希望します)。
男子に公費で接種するプログラムがあるのはオーストラリア、米国。
ニュージーランドが2017年1月から男子にも公費で接種を開始。4価⇒9価格と変更。
カナダも男子に公費で接種拡大する州が増えています。これまでのアルバータ、プリンスエドワード等に加えてブリティッシュコロンビア、ニューブランズウィックも予算を確保。
報道関係の方が聞いて驚くのは先進国以外でもHPVワクチンのパイロット導入、パイロット評価後の国の予防接種プログラムへの導入が始まっている件。
実際に先進国以外のところで女性が苦しんでおり、死んでおり、お母さんが小さい子を残して亡くなっており、ワクチン以前にがんの検査や治療、痛みのケアなども難しいという厳しい状況に気づきます。
amfARが2016年11月に出したレポートでアジアの状況をみてみましょう。
シンガポール:9−14歳女子に2回接種。2価、4価、9価。費用は家庭負担。接種率は推定4%。
マレーシア:2010年に13歳女子に2価×3回接種を公費で導入。2013年の3回接種率は93%。キャッチアップの18歳女子での接種率は87%。
ブータン:2011年に12歳女子に4価×3回接種を公費で導入。学校での集団接種プログラムでの接種率は90%、地域の個別接種では70%。
カンボジア:2016年のパイロット導入で4価×2回接種で接種率は95.5-97%。
インド:全世界の子宮頸がん症例/死亡例の約4分の1がインドで発生。2016年よりHPVワクチンのパイロット導入開始。国内でのワクチン製造販売も計画。
インドネシア:2015年の時点で34地域のうち8地域しか子宮頸がんスクリーニングを実施できていない。保護者のHPVワクチン受け入れはよい(96%)が、関連の知識が不足。
タイ:2014年のアユタヤでHPVワクチンのパイロットプログラムでは5年生女子に接種。2回接種率は87%。
2017年に13の地域で、2018年には25の地域で、2019年には37の地域で、2020年には国レベルでHPVワクチンを導入予定。
オーストラリアは2016年の接種率をまだ公開していません。
2015-2016年のschool yearでの接種率を公表している国(確定値ではなく発表時の暫定の国もあり)
英国:9年生の4価×2回接種完了は85.1%、10年生3の3回接種完了は86.7%。8年生の1回目は87.0%。
アイルランド:4価×2回接種完了は1月24日までの集計分は72.3%
スコットランド:2016年11月までの集計分は全体で80%超。S1年生の1回目は87%、S2年生の1回目は93%、2回目が83%、S3年生の1回目は93%、2回目は86%。
ノルウェー:2014年の接種率は76%。おとなりのスウェーデン:2014年の接種率は80%。
など、各国のレポートあり。
なぜその国はこのような医療制度なのか、このような予防接種のプログラムなのか、予算の使い道なのか。
全部を語れる人はいませんし、疑問に思ったら、大手の報道機関なら世界の支局を通じて保健省の人にインタビューしたりすればいいのではないですかね?
国によっては英語での資料がみつからなかったりしますので。
サーベイランスや事後の検証・頻度など、日本の技術と現実のギャップあたりに切り込んだらいい記事になると思いますが。記者の皆さんがんばってください。
最近のHPV感染症疾患に関する動向。国内。
12月26日に久々に厚生労働省の関連の会議が開催されました。配布資料は公開されていますので、整理したり語る場合にはこれまでの経緯や最新情報を踏まえておく必要があります。熟読しましょう。
当日の報道から抜粋:
2016年12月26日 日経新聞
子宮頸がんワクチン、未接種でも「副作用」と同じ症状
子宮頸がんワクチンを接種した女性の一部が全身の痛みや記憶力の低下など副作用とみられる症状を訴えている問題で、接種したことがない女性にも同様の症状があることが26日、厚生労働省研究班の全国調査に基づく推計で分かった。ただ症状を訴える人の割合は接種した女性の方が高かった。研究班は「ワクチン接種と症状との因果関係は分からない」としている。
2016年12月26日 朝日新聞
子宮頸がんワクチン後の症状、接種歴ない子にも
調査は、全身の痛みや運動障害などが3カ月以上続き、通学や仕事に影響があるとして、昨年7~12月に受診した12~18歳の子どもの有無を、小児科や神経内科など全国の約1万8千の診療科に尋ねた。
その結果、接種後に症状を訴えた女性は人口10万人あたり27.8人だったのに対し、接種していない女性では同20.4人だった。接種対象ではない男性でも同20.2人いた。
2016年12月27日 読売新聞
子宮頸がんワクチン、非接種でも「副作用」…症状を追加分析へ
今回の調査結果について、子宮頸がんワクチンで健康被害を受けたとして国などを相手取り損害賠償訴訟を起こしている原告側弁護団が26日、東京都内で記者会見し、「非接種者でも副反応(副作用)と同じような多様な症状が出ているという結論は不当だ」との見解を示した。
(略)一方、日本産科婦人科学会の藤井知行理事長は今回の調査を受け、「多様な症状がある女性の診療に 真摯しんし に取り組むとともに、多くの女性が子宮頸がんで命を落とすなどの不利益が拡大しないよう、国の勧奨再開を強く求める」と話した。
たいへん残念ながら(エビデンスとか当事者重視とか医療安全とかいいながら)日本には評価にたる1次データベースがないため、「個人の経験」「偉い人がいってた(専門家の意見)」というその後の検討が難しいあたりから精度の高い情報にまで持ち上げるのにたいへんな苦労(及び時間とお金)があります。
今回は曝露有り無しでの比較をしたかったわけですが、対象となる医療機関を選定して調査をお願いして、いいよと言ってくれたところは手作業で症例を調べて、、、という大変な努力をされています(集計する方も同じ)。
そのうえでさらに2次的に個票作成を依頼しています。回収できたものの中での検討という、最初からいろいろな限界があるのですが、
研究を行ったのはその道の専門家なので、今回の調査でおこりうるバイアスについては会議で最初から列記されています。資料14ページと15ページ。これを理解できないと記事がかけないしコメントもできない。
年齢調整など基本的な整理をしないといけないわけですが、その意味でこれより先に行われた名古屋市の調査が公開されるようなのでそちらも参考になると思います。
・・・たいへんな苦労です。
スウエーデンやデンマークのように医療データがすぐ解析できるように最初からなっているところなら、接種群と非接種群の比較がしやすいわけです。
大規模なデータベースの例はこちら:
2013年10月28日 日経メディカル HPVワクチンに神経疾患やVTEの発症リスク認めず
ベーチェット病、レイノー病、1型糖尿病は否定できず、北欧のコホート研究から
重篤な有害イベントは、自己免疫疾患と神経疾患、VTEを合わせた計53アウトカムに設定。入院記録、病院の外来と救急部門の受診記録から発生の有無を確認した。接種から180日間に、ワクチン接種群に5例以上の報告があった29アウトカムについてさらに分析を進め、接種群と非接種群の罹患率を比較した。
2015年1月19日 ケアネット 4価HPVワクチン接種、多発性硬化症と関連なし/JAMA
"2国の10~44歳の全女性のデータを解析"
質問紙調査を送って、回収率がどれくらいかドキドキしたり欠損値に涙したりしている研究者からみたら「そんなことってできるのか?」と思うわけでありますが・・・疫学研究で「話にならないほどの格差」と言われるのはそもそもの仕組みが異なるため。
同じようなことができるのは、こうした情報解析に同意をした保険医療サービスの加入者の協力を得て行う場合。
例えば、米国では医療保険は家族や個人で異なるものに入っているわけですが、大規模な保険会社のデータベースは個人の予防接種や受診行動などを解析できるので、上記2か国のような比較をすることができます。
ワクチン関係で大きな意味をもつのは、有害事象モニタリングだけでなくその有効性ですね。
ワクチン接種を受けた人は受けていない人と比べてその後の検診での異常や発病がどうなっているのかを前向きに調査ができます。
日本だと1次データベースがない、ワクチンとがん健診データは連動していない、同じ地域にいればまだしも進学や就職などで引っ越しをして他の自治体に行ってしまうと全く分からない状態。
技術があっても活用されていない理由は何かあるのか
予算はあるようですが、あちこちで虫食いのような使われ方で、国の施策根拠や評価のデータになっていかない。
(次世代の若い優秀な研究者や行政官の人たちの活躍に期待しています)
この会議の中では積極的接種勧奨(定期接種で公費の接種は今までどおりできるが「家庭への個別の案内をおくらない」状態)の差し控え状態を元にもどすはなしはでませんでしたが、「で、このあとどうするんですか?」と医療の現場や、結論をまっている親御さんたちが困っている状態は、公費の期限がくる3月までかわらないのでしょうかね。
2017年1月16日 産経新聞
どうなる子宮頸がんワクチン 疫学調査は接種再開へつながるか
2017年1月31日 健康百科/メディカルトリビューン
子宮頸がんワクチン再開「強く求める」 日本産婦人科学会が声明
当事者の体験談の情報については、精神科医の斎藤環先生(@pentaxxx)が、「 このエピソードは広く共有されるべきだ。ワクチン肯定論者にも否定論者にも。疫学的なリスク・ベネフィットから考えて、ワクチン否定論は分が悪い。しかし肯定論者の正論だけで否定論者を沈黙させることは不可能だ。議論ではなく対話が必要。否定論者の思い(ナラティブ)を共有するための対話が。」と指摘されています。
2017年2月9日 ビジネスジャーナル
子宮頸がんワクチン被害者から、「決意の重大告発」相次ぐ
"彼女たちの話にはリアリティーがあった。娘の調子がおかしくなったときに、非常に心配したこと、最初に受診した医師は十分に話を聞いてくれなかったこと、情報を集めるために、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会(被害者連絡会)に加入したこと、最終的には自らの判断で食事療法などの民間診療を選択し、娘が回復したことなどを紹介してくれた。"
2017年1月20日 Huffingtonpost
HPVワクチン接種後に起きた起立性調節障害様の症状からの回復
"全く原因が分からず困り果て、近隣にある精神科診療所の精神保健福祉士に相談しました。娘が中学生なので、いくつかの思春期外来を紹介してくれました。はじめに心療内科の診療所にかかりました。そこでは起立性調節障害と診断され、低血圧治療剤のメトリジンと向精神薬(ドグマチール、リーゼ、レクサプロなど症状に合わせて適宜)が処方されました。
診断がつき、病状が良くなることを期待しましたが、症状は全く改善しませんでした。娘は「薬を飲むと、余計に具合が悪くなる」と言っていました。この診療所には10か月通いました。"
2016年12月21日 Huffingtonpost
ヒトパピローマウイルスワクチン接種後の症状から回復して
"私の娘は、ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVV)、いわゆる子宮頸がんワクチン接種を受けた後に、様々な症状を発症しました。幸いにも今は回復して元気に過ごしています。まだ様々な症状で苦しんでいる方がいらっしゃるようですので、私の経過が何らかの参考になれば、と思い、顛末を記します。
娘は、接種半年後から下痢や便秘、強い倦怠感、睡眠障害、抑うつ症状、不安、いきなり暴れだす、心臓周辺の痛みといった症状が出始めました。多岐にわたる症状に、どの科の診療を受けたら良いのか分からず狼狽えました。
最初に内科を受診し、過敏性大腸症候群と言われ、精神安定剤の処方を受けました。改善しないため次に心療内科を受診し、抗てんかん薬のランドセン、中枢神経刺激薬のコンサータが処方されました。"
読売新聞のリンクも記録として残しておきます。
2016年11月8日 【子宮頸がんワクチン特集】打った後の体調不良に苦しんだ立場から 10代後半の女性とその母親
2016年12月17日 Vol.278 ヒトパピローマウイルスワクチン接種後の症状から回復して
2016年12月23日 Vol.283 ヒトパピローマウイルスワクチン接種後に起きた娘の体調悪化とその回復について
何度か書いていますが、「〇〇の後に〇〇がおきた」という時間軸での説明だけでは、それが原因なのかどうかわかりません。
直後に〇〇になった
翌日〇〇になった
1週間後に〇〇になった
1か月後に〇〇になった
1年後に〇〇になった
〇〇に何をいれてもいいのですが、その原因が何であったかを確かめる事ができるのかという話。
その場合、間違った仮説をたてると、違う対策が講じられてそこでまたずれた治療で苦しむという2次的被害もおきます。
ご本人たちがそもそもワクチンが原因だとは最初から考えていなかったところに、それはワクチンのせいだとあおっていったのは誰か(なんの目的で?)。報道やネットにある情報を時系列に並べていくだけでみえてくるものがあります。
何もしないで症状が消えた人が殆どであることは自治体の調査などでも把握できますが、その中で特につらい体調不良をどうしたら改善できるのか?で困った当事者の手記が公開されている、という意味では参考になる人たちもいるのではないでしょうか。
先に病院で重大な疾患が潜んでないかなどの検査を終えてからの話ですし、念のためかかりつけの医師と一緒に変化を評価しながらが安全です。
逆に、
●●で治った、も説明が難しい。
たまたまそのタイミングだったのかもしれないし、
特定の作用がうまく効いたのかもしれないし、
もともとプラセボ効果というのは絶大だし、
●●を導入するタイミングで他にもヒトは工夫をはじめるものなので、●●<単独だけで>改善したのか、という問題が残ります。
特定の治療薬は診断とかみ合っていれば効果が期待できるわけですが、診断そのものがずれていると副作用しかないことになってしまいます(効くはずだ!というプラセボ効果が勝つ場合もあるのか?)。
睡眠や食事、運動で改善する場合を「治療」や「療法」と厳密にはいうのかどうかわかりませんが、発症の経緯・回復の経緯でいつ何をしたのか、変化はどのようであったか、他にやっていたことはという記録はとても参考になるとおもいます。
その他:学術関係
感染症やがんの対策として成果が出ています的な論文はたくさんあるので、それ以外に必要な視点ということでは、もめている筋の話題をみておきたいですね。
専門外の人にも優しく解説、神経内科医の先生の ブログ記事
2016年12月 The Scientist
Researchers Call for Retraction of Paper that Questions HPV Vaccine
2016年10月 Retraction Watch
Retracted paper linking HPV vaccine to behavioral issues republished after revisions
その他:調査関係
まず下野新聞。2017年2月1日の記事は検索ではみつかりません。
医療機関1194件にアンケートを配布。回答は362件(30.3%)。
回収率が低いのは仕方ないです。医療機関にはたくさんの調査依頼がきますので。
調査に協力した人のうち、 HPVワクチン接種を 身内に勧める 42.8 勧めない28.2%とのことです。
分野別でみると(あまり驚きはありませんが)産婦人科医では勧める人が多い。
記事は記者の加工が入っているという指摘がありましたので、中村先生のブログでデータの扱い・報道や記者のバイアスについて学びましょう。
自治体の接種後の体調変化の調査(以前のブログ記事で拾っていない自治体のデータ)
山梨県は、各自治体で調査をするということになっていたようで、探せば他の地域のものも見つかると思います。
2016年10月 富士川町子宮頸がん予防ワクチン接種状況調査結果 回収率64.4%
2016年3月 山梨県身延町子宮頸がん予防ワクチン接種後の体調変化に関する調査結果 回収率49.2%
沖縄でも調査がありました。
2016年2月 浦添市 子宮頸がん予防ワクチン接種による健康実態調査結果 回収率37.6%
初期の鎌倉、茅ケ崎、武蔵野、国立、その他の地域の調査と他の地域はほぼ同様の数字になっています。ネット公開されているものも多いので関心ある方はアクセスしてみてください。
その他:HPVの疫学
2017年2月 米国の男性での調査結果 Genital HPV prevalence remains high in men despite availability of vaccine
ほかにも疫学データはいろいろ(研究予算がついているので)出てきますが。性行為開始後に一定の人がHPVに感染し、そのうち一定数の人が高リスクHPVに感染し、持続感染し、複数型に感染している人もいる、ということはあまり変化がありません。
ワクチンを導入したところでは、接種した群で検査で異常といわれる人が減っており、集団免疫の効果も把握されています。
裁判関連の情報は医療・科学と別の軸なので割愛しますが、関係者のサイトをブックマークしておけば状況はキャッチアップできます。
信州大学の研究・ねつ造関連「守れる命を守る会」の訴訟記録公開ページ
「HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団」のホームページ
もうひとつ来ていた質問は「がん健診」だったので、腫瘍・癌の疫学の専門の先生をご紹介しました。
メディアから「海外はどうなっているのか?」という問い合わせが来たので最近の状況を整理。
<最近の話題> 2017年2月10日
カナダや英国では先に2回でOKになっていましたが、米国でも3回ではなく2回でOKになりました。
(条件としては14歳までの若年層、免疫不在などの基礎疾患がない人の場合。接種開始年齢や病気によっては3回接種)
そして、接種するワクチンは先進国では9価にシフトしています。今後の流れは9価で2回となりそうです。
日本は2017年2月1日現在、9価は臨床試験中で未承認ですが、関連データも公開されています。
2016年12月22日 JJID Safety and immunogenicity study of a 9-valent human papillomavirus vaccine administered to 9-to-15 year-old Japanese girls
都内のクリニックでは9価はの接種が可能です(仕事の関係で日本に住んでいる外国の方は、母国と同じスケジュールや内容で接種を希望します)。
男子に公費で接種するプログラムがあるのはオーストラリア、米国。
ニュージーランドが2017年1月から男子にも公費で接種を開始。4価⇒9価格と変更。
カナダも男子に公費で接種拡大する州が増えています。これまでのアルバータ、プリンスエドワード等に加えてブリティッシュコロンビア、ニューブランズウィックも予算を確保。
報道関係の方が聞いて驚くのは先進国以外でもHPVワクチンのパイロット導入、パイロット評価後の国の予防接種プログラムへの導入が始まっている件。
実際に先進国以外のところで女性が苦しんでおり、死んでおり、お母さんが小さい子を残して亡くなっており、ワクチン以前にがんの検査や治療、痛みのケアなども難しいという厳しい状況に気づきます。
amfARが2016年11月に出したレポートでアジアの状況をみてみましょう。
シンガポール:9−14歳女子に2回接種。2価、4価、9価。費用は家庭負担。接種率は推定4%。
マレーシア:2010年に13歳女子に2価×3回接種を公費で導入。2013年の3回接種率は93%。キャッチアップの18歳女子での接種率は87%。
ブータン:2011年に12歳女子に4価×3回接種を公費で導入。学校での集団接種プログラムでの接種率は90%、地域の個別接種では70%。
カンボジア:2016年のパイロット導入で4価×2回接種で接種率は95.5-97%。
インド:全世界の子宮頸がん症例/死亡例の約4分の1がインドで発生。2016年よりHPVワクチンのパイロット導入開始。国内でのワクチン製造販売も計画。
インドネシア:2015年の時点で34地域のうち8地域しか子宮頸がんスクリーニングを実施できていない。保護者のHPVワクチン受け入れはよい(96%)が、関連の知識が不足。
タイ:2014年のアユタヤでHPVワクチンのパイロットプログラムでは5年生女子に接種。2回接種率は87%。
2017年に13の地域で、2018年には25の地域で、2019年には37の地域で、2020年には国レベルでHPVワクチンを導入予定。
オーストラリアは2016年の接種率をまだ公開していません。
2015-2016年のschool yearでの接種率を公表している国(確定値ではなく発表時の暫定の国もあり)
英国:9年生の4価×2回接種完了は85.1%、10年生3の3回接種完了は86.7%。8年生の1回目は87.0%。
アイルランド:4価×2回接種完了は1月24日までの集計分は72.3%
スコットランド:2016年11月までの集計分は全体で80%超。S1年生の1回目は87%、S2年生の1回目は93%、2回目が83%、S3年生の1回目は93%、2回目は86%。
ノルウェー:2014年の接種率は76%。おとなりのスウェーデン:2014年の接種率は80%。
など、各国のレポートあり。
なぜその国はこのような医療制度なのか、このような予防接種のプログラムなのか、予算の使い道なのか。
全部を語れる人はいませんし、疑問に思ったら、大手の報道機関なら世界の支局を通じて保健省の人にインタビューしたりすればいいのではないですかね?
国によっては英語での資料がみつからなかったりしますので。
サーベイランスや事後の検証・頻度など、日本の技術と現実のギャップあたりに切り込んだらいい記事になると思いますが。記者の皆さんがんばってください。
最近のHPV感染症疾患に関する動向。国内。
12月26日に久々に厚生労働省の関連の会議が開催されました。配布資料は公開されていますので、整理したり語る場合にはこれまでの経緯や最新情報を踏まえておく必要があります。熟読しましょう。
当日の報道から抜粋:
2016年12月26日 日経新聞
子宮頸がんワクチン、未接種でも「副作用」と同じ症状
子宮頸がんワクチンを接種した女性の一部が全身の痛みや記憶力の低下など副作用とみられる症状を訴えている問題で、接種したことがない女性にも同様の症状があることが26日、厚生労働省研究班の全国調査に基づく推計で分かった。ただ症状を訴える人の割合は接種した女性の方が高かった。研究班は「ワクチン接種と症状との因果関係は分からない」としている。
2016年12月26日 朝日新聞
子宮頸がんワクチン後の症状、接種歴ない子にも
調査は、全身の痛みや運動障害などが3カ月以上続き、通学や仕事に影響があるとして、昨年7~12月に受診した12~18歳の子どもの有無を、小児科や神経内科など全国の約1万8千の診療科に尋ねた。
その結果、接種後に症状を訴えた女性は人口10万人あたり27.8人だったのに対し、接種していない女性では同20.4人だった。接種対象ではない男性でも同20.2人いた。
2016年12月27日 読売新聞
子宮頸がんワクチン、非接種でも「副作用」…症状を追加分析へ
今回の調査結果について、子宮頸がんワクチンで健康被害を受けたとして国などを相手取り損害賠償訴訟を起こしている原告側弁護団が26日、東京都内で記者会見し、「非接種者でも副反応(副作用)と同じような多様な症状が出ているという結論は不当だ」との見解を示した。
(略)一方、日本産科婦人科学会の藤井知行理事長は今回の調査を受け、「多様な症状がある女性の診療に 真摯しんし に取り組むとともに、多くの女性が子宮頸がんで命を落とすなどの不利益が拡大しないよう、国の勧奨再開を強く求める」と話した。
たいへん残念ながら(エビデンスとか当事者重視とか医療安全とかいいながら)日本には評価にたる1次データベースがないため、「個人の経験」「偉い人がいってた(専門家の意見)」というその後の検討が難しいあたりから精度の高い情報にまで持ち上げるのにたいへんな苦労(及び時間とお金)があります。
今回は曝露有り無しでの比較をしたかったわけですが、対象となる医療機関を選定して調査をお願いして、いいよと言ってくれたところは手作業で症例を調べて、、、という大変な努力をされています(集計する方も同じ)。
そのうえでさらに2次的に個票作成を依頼しています。回収できたものの中での検討という、最初からいろいろな限界があるのですが、
研究を行ったのはその道の専門家なので、今回の調査でおこりうるバイアスについては会議で最初から列記されています。資料14ページと15ページ。これを理解できないと記事がかけないしコメントもできない。
年齢調整など基本的な整理をしないといけないわけですが、その意味でこれより先に行われた名古屋市の調査が公開されるようなのでそちらも参考になると思います。
・・・たいへんな苦労です。
スウエーデンやデンマークのように医療データがすぐ解析できるように最初からなっているところなら、接種群と非接種群の比較がしやすいわけです。
大規模なデータベースの例はこちら:
2013年10月28日 日経メディカル HPVワクチンに神経疾患やVTEの発症リスク認めず
ベーチェット病、レイノー病、1型糖尿病は否定できず、北欧のコホート研究から
重篤な有害イベントは、自己免疫疾患と神経疾患、VTEを合わせた計53アウトカムに設定。入院記録、病院の外来と救急部門の受診記録から発生の有無を確認した。接種から180日間に、ワクチン接種群に5例以上の報告があった29アウトカムについてさらに分析を進め、接種群と非接種群の罹患率を比較した。
2015年1月19日 ケアネット 4価HPVワクチン接種、多発性硬化症と関連なし/JAMA
"2国の10~44歳の全女性のデータを解析"
質問紙調査を送って、回収率がどれくらいかドキドキしたり欠損値に涙したりしている研究者からみたら「そんなことってできるのか?」と思うわけでありますが・・・疫学研究で「話にならないほどの格差」と言われるのはそもそもの仕組みが異なるため。
同じようなことができるのは、こうした情報解析に同意をした保険医療サービスの加入者の協力を得て行う場合。
例えば、米国では医療保険は家族や個人で異なるものに入っているわけですが、大規模な保険会社のデータベースは個人の予防接種や受診行動などを解析できるので、上記2か国のような比較をすることができます。
ワクチン関係で大きな意味をもつのは、有害事象モニタリングだけでなくその有効性ですね。
ワクチン接種を受けた人は受けていない人と比べてその後の検診での異常や発病がどうなっているのかを前向きに調査ができます。
日本だと1次データベースがない、ワクチンとがん健診データは連動していない、同じ地域にいればまだしも進学や就職などで引っ越しをして他の自治体に行ってしまうと全く分からない状態。
技術があっても活用されていない理由は何かあるのか
予算はあるようですが、あちこちで虫食いのような使われ方で、国の施策根拠や評価のデータになっていかない。
(次世代の若い優秀な研究者や行政官の人たちの活躍に期待しています)
この会議の中では積極的接種勧奨(定期接種で公費の接種は今までどおりできるが「家庭への個別の案内をおくらない」状態)の差し控え状態を元にもどすはなしはでませんでしたが、「で、このあとどうするんですか?」と医療の現場や、結論をまっている親御さんたちが困っている状態は、公費の期限がくる3月までかわらないのでしょうかね。
2017年1月16日 産経新聞
どうなる子宮頸がんワクチン 疫学調査は接種再開へつながるか
2017年1月31日 健康百科/メディカルトリビューン
子宮頸がんワクチン再開「強く求める」 日本産婦人科学会が声明
当事者の体験談の情報については、精神科医の斎藤環先生(@pentaxxx)が、「 このエピソードは広く共有されるべきだ。ワクチン肯定論者にも否定論者にも。疫学的なリスク・ベネフィットから考えて、ワクチン否定論は分が悪い。しかし肯定論者の正論だけで否定論者を沈黙させることは不可能だ。議論ではなく対話が必要。否定論者の思い(ナラティブ)を共有するための対話が。」と指摘されています。
2017年2月9日 ビジネスジャーナル
子宮頸がんワクチン被害者から、「決意の重大告発」相次ぐ
"彼女たちの話にはリアリティーがあった。娘の調子がおかしくなったときに、非常に心配したこと、最初に受診した医師は十分に話を聞いてくれなかったこと、情報を集めるために、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会(被害者連絡会)に加入したこと、最終的には自らの判断で食事療法などの民間診療を選択し、娘が回復したことなどを紹介してくれた。"
2017年1月20日 Huffingtonpost
HPVワクチン接種後に起きた起立性調節障害様の症状からの回復
"全く原因が分からず困り果て、近隣にある精神科診療所の精神保健福祉士に相談しました。娘が中学生なので、いくつかの思春期外来を紹介してくれました。はじめに心療内科の診療所にかかりました。そこでは起立性調節障害と診断され、低血圧治療剤のメトリジンと向精神薬(ドグマチール、リーゼ、レクサプロなど症状に合わせて適宜)が処方されました。
診断がつき、病状が良くなることを期待しましたが、症状は全く改善しませんでした。娘は「薬を飲むと、余計に具合が悪くなる」と言っていました。この診療所には10か月通いました。"
2016年12月21日 Huffingtonpost
ヒトパピローマウイルスワクチン接種後の症状から回復して
"私の娘は、ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVV)、いわゆる子宮頸がんワクチン接種を受けた後に、様々な症状を発症しました。幸いにも今は回復して元気に過ごしています。まだ様々な症状で苦しんでいる方がいらっしゃるようですので、私の経過が何らかの参考になれば、と思い、顛末を記します。
娘は、接種半年後から下痢や便秘、強い倦怠感、睡眠障害、抑うつ症状、不安、いきなり暴れだす、心臓周辺の痛みといった症状が出始めました。多岐にわたる症状に、どの科の診療を受けたら良いのか分からず狼狽えました。
最初に内科を受診し、過敏性大腸症候群と言われ、精神安定剤の処方を受けました。改善しないため次に心療内科を受診し、抗てんかん薬のランドセン、中枢神経刺激薬のコンサータが処方されました。"
読売新聞のリンクも記録として残しておきます。
2016年11月8日 【子宮頸がんワクチン特集】打った後の体調不良に苦しんだ立場から 10代後半の女性とその母親
2016年12月17日 Vol.278 ヒトパピローマウイルスワクチン接種後の症状から回復して
2016年12月23日 Vol.283 ヒトパピローマウイルスワクチン接種後に起きた娘の体調悪化とその回復について
何度か書いていますが、「〇〇の後に〇〇がおきた」という時間軸での説明だけでは、それが原因なのかどうかわかりません。
直後に〇〇になった
翌日〇〇になった
1週間後に〇〇になった
1か月後に〇〇になった
1年後に〇〇になった
〇〇に何をいれてもいいのですが、その原因が何であったかを確かめる事ができるのかという話。
その場合、間違った仮説をたてると、違う対策が講じられてそこでまたずれた治療で苦しむという2次的被害もおきます。
ご本人たちがそもそもワクチンが原因だとは最初から考えていなかったところに、それはワクチンのせいだとあおっていったのは誰か(なんの目的で?)。報道やネットにある情報を時系列に並べていくだけでみえてくるものがあります。
何もしないで症状が消えた人が殆どであることは自治体の調査などでも把握できますが、その中で特につらい体調不良をどうしたら改善できるのか?で困った当事者の手記が公開されている、という意味では参考になる人たちもいるのではないでしょうか。
先に病院で重大な疾患が潜んでないかなどの検査を終えてからの話ですし、念のためかかりつけの医師と一緒に変化を評価しながらが安全です。
逆に、
●●で治った、も説明が難しい。
たまたまそのタイミングだったのかもしれないし、
特定の作用がうまく効いたのかもしれないし、
もともとプラセボ効果というのは絶大だし、
●●を導入するタイミングで他にもヒトは工夫をはじめるものなので、●●<単独だけで>改善したのか、という問題が残ります。
特定の治療薬は診断とかみ合っていれば効果が期待できるわけですが、診断そのものがずれていると副作用しかないことになってしまいます(効くはずだ!というプラセボ効果が勝つ場合もあるのか?)。
睡眠や食事、運動で改善する場合を「治療」や「療法」と厳密にはいうのかどうかわかりませんが、発症の経緯・回復の経緯でいつ何をしたのか、変化はどのようであったか、他にやっていたことはという記録はとても参考になるとおもいます。
その他:学術関係
感染症やがんの対策として成果が出ています的な論文はたくさんあるので、それ以外に必要な視点ということでは、もめている筋の話題をみておきたいですね。
専門外の人にも優しく解説、神経内科医の先生の ブログ記事
2016年12月 The Scientist
Researchers Call for Retraction of Paper that Questions HPV Vaccine
2016年10月 Retraction Watch
Retracted paper linking HPV vaccine to behavioral issues republished after revisions
その他:調査関係
まず下野新聞。2017年2月1日の記事は検索ではみつかりません。
医療機関1194件にアンケートを配布。回答は362件(30.3%)。
回収率が低いのは仕方ないです。医療機関にはたくさんの調査依頼がきますので。
調査に協力した人のうち、 HPVワクチン接種を 身内に勧める 42.8 勧めない28.2%とのことです。
分野別でみると(あまり驚きはありませんが)産婦人科医では勧める人が多い。
記事は記者の加工が入っているという指摘がありましたので、中村先生のブログでデータの扱い・報道や記者のバイアスについて学びましょう。
自治体の接種後の体調変化の調査(以前のブログ記事で拾っていない自治体のデータ)
山梨県は、各自治体で調査をするということになっていたようで、探せば他の地域のものも見つかると思います。
2016年10月 富士川町子宮頸がん予防ワクチン接種状況調査結果 回収率64.4%
2016年3月 山梨県身延町子宮頸がん予防ワクチン接種後の体調変化に関する調査結果 回収率49.2%
沖縄でも調査がありました。
2016年2月 浦添市 子宮頸がん予防ワクチン接種による健康実態調査結果 回収率37.6%
初期の鎌倉、茅ケ崎、武蔵野、国立、その他の地域の調査と他の地域はほぼ同様の数字になっています。ネット公開されているものも多いので関心ある方はアクセスしてみてください。
その他:HPVの疫学
2017年2月 米国の男性での調査結果 Genital HPV prevalence remains high in men despite availability of vaccine
ほかにも疫学データはいろいろ(研究予算がついているので)出てきますが。性行為開始後に一定の人がHPVに感染し、そのうち一定数の人が高リスクHPVに感染し、持続感染し、複数型に感染している人もいる、ということはあまり変化がありません。
ワクチンを導入したところでは、接種した群で検査で異常といわれる人が減っており、集団免疫の効果も把握されています。
裁判関連の情報は医療・科学と別の軸なので割愛しますが、関係者のサイトをブックマークしておけば状況はキャッチアップできます。
信州大学の研究・ねつ造関連「守れる命を守る会」の訴訟記録公開ページ
「HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団」のホームページ
もうひとつ来ていた質問は「がん健診」だったので、腫瘍・癌の疫学の専門の先生をご紹介しました。