先日12/14の薬剤師ベッドサイドティーチング 「がん外来化学療法の実際」 聖路加国際病院腫瘍内科 山内先生のQ&Aです。
【質問①】: 重症チェックポイントで肝機能(AST、ALT)が下がらない場合はどうされるのか。
「重症チェックポイント」という言葉の正確な意味が分かりませんが、おそらく「薬物療法中の副作用チェックを行ったとき」にと解釈します。講義中に免疫チェックポイント阻害薬を紹介したので、この薬剤における肝機能障害という意味では対応が異なります。(質問者にご確認いただけると幸いです。)
前者の場合と考えて回答します。
がん薬物療法による肝機能異常なのか、それ以外の肝機能異常かの鑑別をします。
1) がん治療薬以外の薬物が原因でないのか。薬歴の確認をする。
2) 漢方やサプリを含め、処方以外の薬物の服用歴を確認する。
3) アルコールなど嗜好品を含め、肝障害を起こしうるものの摂取を確認する。
4) 感染によるものか、特に肝炎ウイルス。それ以外のウイルス感染も鑑別に含めます。
5) 原病の進行による肝障害でないかを検討する。肝転移の出現や進行がないか確認する。
これらを除外したうえでがん薬物療法が原因として考えられるのであれば、休薬して回復するかを経過観察することになります。肝機能の上昇の程度は講義で紹介したCTCAEに基づいてベースラインからの上昇程度でグレードを判断し、休薬期間、減量を決めます。具体的には薬剤ごとに臨床試験実施時のプロトコールや市販後の適正使用ガイドに方法が記載されているので確認してください。
【質問②】:ECOGは、例えば骨折などでADLが落ちている場合は除外して考えてよいのでしょうか?
骨折の原因にもよります。正確にはECOGの原著に詳細の記載はありませんが、おおよそ下記対応になるかと思います。
① 外傷による骨折の場合、外傷前のPSで評価することになります。骨折は一時的なもので完全な回復が期待できる状態です。
② 病勢の進行により、骨転移が出現したり、既存の骨転移が増悪したりすることで病的骨折を起こし、PSが低下した場合は、骨折以外の病勢(肝機能や腎機能、心肺機能など)を総合的に評価して治療効果の期待度を推測することになります。すなわち、骨折が全体的な病勢の進行の結果として起きているかという評価をすることになります。
【質問③】: CT検査の頻度とそれによる放射線被ばくの影響はどれくらいなのか?
おそらく転移がんの治療中の評価CTと推察します。
その場合、病勢との兼ね合いになります。
① 転移巣もそれほど多くなく、無症状である場合、2から6か月間隔で撮影。癌種や病気の進行速度によります。
② 転移巣が大きく、症状がある場合や出そうな場合、1,2か月くらいで撮影。
あくまでも臨床症状、状態に基づいて検査することになります。
被爆の影響は、患者がLi-Fraumeni症候群(p53遺伝子変異)のように放射線被爆による発癌の危険性の高い状態でなければ、通常の頻度であればそれほど心配することはないと考えます。
【質問④】: 食道がんの患者さんで抗がん剤治療を受けている方がいらっしゃるが、しゃっくりがでる。どのように対処したらよいか。
レジメンは何を使用していますでしょうか。シスプラチン+5FUとかですと、制吐目的に使用するデキサメサゾンのためにしゃっくりを出す方がいらっしゃいます。デキサメサゾンを減量できるのであれば、減量し、併せてメトクロプラミドやクロルプロマジンなどを使用します。
【質問⑤】: neoadjuvantにおきまして、切除するタイミングに関してご教示頂けますでしょうか
Neoadjuvant中に問題なく経過し、腫瘍縮小傾向が明らかな場合は予定された治療を終了し、白血球数の回復を待って手術を行うことになるので、通常は3~4週後くらいになります。ただし、治療によっても縮小がみられなかったり、むしろ増大傾向にある場合は、腫瘍の大きさや位置から切除可能であるのであれば、予定の化学療法が終了する前に切除することもあります。その場合も血球の回復を待って行うことになります。
【質問⑥】: 聖路加病院で治療方針に薬剤部は関与していますか?また腫瘍内科医の先生は薬剤師に評価してもらいたい治療のポイントはありますか?
治療方針に関してはほとんど関与していないのが実情です。米国では薬剤師が病棟回診や症例検討カンファレンスに出席し、治療薬やレジメンの提案を行っています。
薬剤師ががん薬物療法で関与して欲しいのは、下記4点が上げられます。
①服薬管理
経口薬(抗がん剤や分子標的治療薬)の服薬管理をダイアリーなどツールを利用して管理
②副作用管理
医師はどうしても治療の主効果の方に注意しがちですが、診察室で拾い上げていない副作用の報告やそれに対する対症薬、支持療法のアドバイス
③薬物相互作用
特に高齢者で様々な合併症に対して処方されている薬とがん治療のための薬との相互作用の有無やそれに合わせた用量調整や投薬禁忌などを確認
④腎機能・肝機能に合わせた薬物選択および用量調整
腎機能、肝機能低下で代謝・排泄が落ちている患者に対する用量変更
【質問⑦】: 食事をすることによりがん細胞を増殖させることはありますか。
食事をしてもしなくてもがん細胞は増殖します。がんの増殖を抑えるために食事を控えるのは、栄養状態を悪くし、全身状態(PS)の悪化や臓器機能低下を招き、治療も受けられなくなります。バランスのよい食事をすることで全身状態を良好に保つということががん治療を受けるために重要になります。
【質問➇】: 薬局で対応していると癌のステージ等なかなか患者さんから聞き取ることが困難な事があります。その際、情報提供書を患者さんの同意を得て病院へ依頼する事は処方医の立場から考え問題ないでしょうか?
全く問題ありません。患者にとって最善の治療、ケアを提供するためであれば、処方医は薬剤師との連携のために協力します。
【質問⑨】: 術前・術後補助化学療法などで使用されるドセタキセル+シスプラチン+フルオロウラシル(DCF療法・TPF療法)ではFN発症率が20%を超えるため、G-CSFによる1次予防が推奨されると思いますが、抗がん剤投与後24時間は投与出来ないため、ペグフィルグラスチムの投与がDay6以降となってしまいます。この治療におけるG-CSF投与についての先生のお考えを伺いたいです。
ご指摘の通りです。5FUの5日間の点滴が終了24時間後にペグフィルグラスチムもしくはフィルグラスチムを使用することになります。
【質問➉】: 患者自身の「治療意欲」という言葉がありましたが、1st、2nd3rdラインの治療を行ってもあまり良い結果が得られない患者から「医師にはいうことができないけど化学療法をすることに迷いがある 薬剤師の意見が聞きたい」と問われたとき、「治療中止」という選択肢を示すことがよいのかと迷うことがあります 「治療方針を決めるのは医師」といっても「それでも」といわれたばあいはどうこたえるのがベストか
本人が希望していないのであれば、「治療中止」の選択肢はありですし、尊重すべきです。医師と相談するように促してください。医師は方針を一方的に決めるのではなく、治療中止を含めた複数の治療選択肢を提示し、それぞれの予想される結果を患者と話し合うことで患者にとってベストを探し出すことが大事な仕事です。
【質問⑪】: ネクサバールとヒルドイドは共に出血の副作用がありますが、手足症候群の治療において併用する際の注意点はありますか。
ありません。併用して使用して問題ありません。
【質問⑫】: 抗がん剤の催吐性からのスライドの文字が小さくて見えなかったので、CTCAEなどを調べましたが表記方法が違うので、このスライドはどの部分を見れば良いか教えてください。
講義中に引用したものは、2008年のNew England Journal of Medicineからのレビューですが、今年更新されましたので下記論文を参照してください。
Antiemetic Prophylaxis for Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting
Navari, R. New England Journal of Medicine 2016;374:1356-67
山内先生、毎回素晴らしいLectureをありがとうございます。
今年の薬剤師BSTは終了です。ご視聴ありがとうございました。
【質問①】: 重症チェックポイントで肝機能(AST、ALT)が下がらない場合はどうされるのか。
「重症チェックポイント」という言葉の正確な意味が分かりませんが、おそらく「薬物療法中の副作用チェックを行ったとき」にと解釈します。講義中に免疫チェックポイント阻害薬を紹介したので、この薬剤における肝機能障害という意味では対応が異なります。(質問者にご確認いただけると幸いです。)
前者の場合と考えて回答します。
がん薬物療法による肝機能異常なのか、それ以外の肝機能異常かの鑑別をします。
1) がん治療薬以外の薬物が原因でないのか。薬歴の確認をする。
2) 漢方やサプリを含め、処方以外の薬物の服用歴を確認する。
3) アルコールなど嗜好品を含め、肝障害を起こしうるものの摂取を確認する。
4) 感染によるものか、特に肝炎ウイルス。それ以外のウイルス感染も鑑別に含めます。
5) 原病の進行による肝障害でないかを検討する。肝転移の出現や進行がないか確認する。
これらを除外したうえでがん薬物療法が原因として考えられるのであれば、休薬して回復するかを経過観察することになります。肝機能の上昇の程度は講義で紹介したCTCAEに基づいてベースラインからの上昇程度でグレードを判断し、休薬期間、減量を決めます。具体的には薬剤ごとに臨床試験実施時のプロトコールや市販後の適正使用ガイドに方法が記載されているので確認してください。
【質問②】:ECOGは、例えば骨折などでADLが落ちている場合は除外して考えてよいのでしょうか?
骨折の原因にもよります。正確にはECOGの原著に詳細の記載はありませんが、おおよそ下記対応になるかと思います。
① 外傷による骨折の場合、外傷前のPSで評価することになります。骨折は一時的なもので完全な回復が期待できる状態です。
② 病勢の進行により、骨転移が出現したり、既存の骨転移が増悪したりすることで病的骨折を起こし、PSが低下した場合は、骨折以外の病勢(肝機能や腎機能、心肺機能など)を総合的に評価して治療効果の期待度を推測することになります。すなわち、骨折が全体的な病勢の進行の結果として起きているかという評価をすることになります。
【質問③】: CT検査の頻度とそれによる放射線被ばくの影響はどれくらいなのか?
おそらく転移がんの治療中の評価CTと推察します。
その場合、病勢との兼ね合いになります。
① 転移巣もそれほど多くなく、無症状である場合、2から6か月間隔で撮影。癌種や病気の進行速度によります。
② 転移巣が大きく、症状がある場合や出そうな場合、1,2か月くらいで撮影。
あくまでも臨床症状、状態に基づいて検査することになります。
被爆の影響は、患者がLi-Fraumeni症候群(p53遺伝子変異)のように放射線被爆による発癌の危険性の高い状態でなければ、通常の頻度であればそれほど心配することはないと考えます。
【質問④】: 食道がんの患者さんで抗がん剤治療を受けている方がいらっしゃるが、しゃっくりがでる。どのように対処したらよいか。
レジメンは何を使用していますでしょうか。シスプラチン+5FUとかですと、制吐目的に使用するデキサメサゾンのためにしゃっくりを出す方がいらっしゃいます。デキサメサゾンを減量できるのであれば、減量し、併せてメトクロプラミドやクロルプロマジンなどを使用します。
【質問⑤】: neoadjuvantにおきまして、切除するタイミングに関してご教示頂けますでしょうか
Neoadjuvant中に問題なく経過し、腫瘍縮小傾向が明らかな場合は予定された治療を終了し、白血球数の回復を待って手術を行うことになるので、通常は3~4週後くらいになります。ただし、治療によっても縮小がみられなかったり、むしろ増大傾向にある場合は、腫瘍の大きさや位置から切除可能であるのであれば、予定の化学療法が終了する前に切除することもあります。その場合も血球の回復を待って行うことになります。
【質問⑥】: 聖路加病院で治療方針に薬剤部は関与していますか?また腫瘍内科医の先生は薬剤師に評価してもらいたい治療のポイントはありますか?
治療方針に関してはほとんど関与していないのが実情です。米国では薬剤師が病棟回診や症例検討カンファレンスに出席し、治療薬やレジメンの提案を行っています。
薬剤師ががん薬物療法で関与して欲しいのは、下記4点が上げられます。
①服薬管理
経口薬(抗がん剤や分子標的治療薬)の服薬管理をダイアリーなどツールを利用して管理
②副作用管理
医師はどうしても治療の主効果の方に注意しがちですが、診察室で拾い上げていない副作用の報告やそれに対する対症薬、支持療法のアドバイス
③薬物相互作用
特に高齢者で様々な合併症に対して処方されている薬とがん治療のための薬との相互作用の有無やそれに合わせた用量調整や投薬禁忌などを確認
④腎機能・肝機能に合わせた薬物選択および用量調整
腎機能、肝機能低下で代謝・排泄が落ちている患者に対する用量変更
【質問⑦】: 食事をすることによりがん細胞を増殖させることはありますか。
食事をしてもしなくてもがん細胞は増殖します。がんの増殖を抑えるために食事を控えるのは、栄養状態を悪くし、全身状態(PS)の悪化や臓器機能低下を招き、治療も受けられなくなります。バランスのよい食事をすることで全身状態を良好に保つということががん治療を受けるために重要になります。
【質問➇】: 薬局で対応していると癌のステージ等なかなか患者さんから聞き取ることが困難な事があります。その際、情報提供書を患者さんの同意を得て病院へ依頼する事は処方医の立場から考え問題ないでしょうか?
全く問題ありません。患者にとって最善の治療、ケアを提供するためであれば、処方医は薬剤師との連携のために協力します。
【質問⑨】: 術前・術後補助化学療法などで使用されるドセタキセル+シスプラチン+フルオロウラシル(DCF療法・TPF療法)ではFN発症率が20%を超えるため、G-CSFによる1次予防が推奨されると思いますが、抗がん剤投与後24時間は投与出来ないため、ペグフィルグラスチムの投与がDay6以降となってしまいます。この治療におけるG-CSF投与についての先生のお考えを伺いたいです。
ご指摘の通りです。5FUの5日間の点滴が終了24時間後にペグフィルグラスチムもしくはフィルグラスチムを使用することになります。
【質問➉】: 患者自身の「治療意欲」という言葉がありましたが、1st、2nd3rdラインの治療を行ってもあまり良い結果が得られない患者から「医師にはいうことができないけど化学療法をすることに迷いがある 薬剤師の意見が聞きたい」と問われたとき、「治療中止」という選択肢を示すことがよいのかと迷うことがあります 「治療方針を決めるのは医師」といっても「それでも」といわれたばあいはどうこたえるのがベストか
本人が希望していないのであれば、「治療中止」の選択肢はありですし、尊重すべきです。医師と相談するように促してください。医師は方針を一方的に決めるのではなく、治療中止を含めた複数の治療選択肢を提示し、それぞれの予想される結果を患者と話し合うことで患者にとってベストを探し出すことが大事な仕事です。
【質問⑪】: ネクサバールとヒルドイドは共に出血の副作用がありますが、手足症候群の治療において併用する際の注意点はありますか。
ありません。併用して使用して問題ありません。
【質問⑫】: 抗がん剤の催吐性からのスライドの文字が小さくて見えなかったので、CTCAEなどを調べましたが表記方法が違うので、このスライドはどの部分を見れば良いか教えてください。
講義中に引用したものは、2008年のNew England Journal of Medicineからのレビューですが、今年更新されましたので下記論文を参照してください。
Antiemetic Prophylaxis for Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting
Navari, R. New England Journal of Medicine 2016;374:1356-67
山内先生、毎回素晴らしいLectureをありがとうございます。
今年の薬剤師BSTは終了です。ご視聴ありがとうございました。