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Channel: 感染症診療の原則
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性感染症 もうひとり(いやもっと?)ケアを必要とする人(たち)

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以前、沖縄の先生から教えていただいた性病Gメンの話。
「Gメン」といってももう医学生や研修医にはなんのことだか伝わらなくなりました。

さくっと書くと、Gメン75というドラマがあって、かっちょいい刑事さんたちが事件を解決していくのであります。
なので、何か危ない案件があってそれに立ち向かうゴルゴ13(これも伝わらないか)のようなスペシャリスト集団が未然に防ぐ、ボヤでとめるというような話をするときにでてきます。

食中毒でもGメン、という表現はときどきみかけます。

タイトルの性病Gメンというのは、吉田朝啓先生のブログの記事から拝借しました。

琉球衛研物語 §12.性病Gメン

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チョウケイ先生は、ここで大いに面食らった。
大学の講義でも、その後の臨床経験でも、
梅毒の感染経路や症状など定型例は
医者の常識として知っているつもりだが、
オーラルとかシックスティナインとかいう俗語は
ぼちぼち先輩から習い始めたばかりである。
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当時も性感染症の診療はたいへんでしたね・・・


こちらも公衆衛生ドクターの記事
性病Gメンの功罪


余談ですが、Googleで沖縄+梅毒と検索をすると青木編集長関係の写真が出ます。梅毒とタグづけられた医師になっているんですね。
(巻き込まれでパーティ画像が一緒に写っている医師の皆さんごめんなさいね!)


その昔、沖縄では、米軍の人たちを守るために、セックスで病気がうつらないよう広がらないように対策をする専門家が配備されていました。

Gメンと書くと誰かが悪いことをしているように聞こえてしまいますが、当時はVD Tracerといったそうです。


「USCAR 文書からみた A サイン制度と売春・性病規制
―1970 年前後の米軍風紀取締委員会議事録の検討から― 」


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周知のように、A サイン制度は米軍による米軍向け飲食・風俗店に対する営業許可制度であり、中断期間を含みつつも 1950 年代から日本復帰時まで実施された。A サイン制度の内容や評価には変遷があったが、制度の目的自体は米軍統治期間を通してほぼ一貫していた。つまり、沖縄の飲食・風俗
店が米軍要員及びその家族の健康と福祉に脅威を与えないよう、一定の衛生・建築基準を設け、適合した施設にのみ米軍向けの営業許可を与えるということである。沖縄に駐留した米軍の懸念は島内飲食店の衛生水準そして風俗店における売春を介した性病感染にあった。
1963 年から新基準のもとで運営された A サイン制度は、認可施設内での売春行為を禁じ、性病感染やその他の米軍要員の健康や福祉に悪影響を及ぼす問題が確認される施設や区域には、オフ・リミッツ off limitsと呼ばれる米軍要員の立入を禁止する措置を講じた。

(中略)

合同医療委員会は、A サイン制度が米軍要員による基地外部での違法行為を制御し性病感染を抑制するという主張は、統計的データがないために確認できないとし、制度の効果を検証することは不可能であると判断した。また、性病については、A サイン制度による接触追跡 contact tracing や保菌者の処置において一定の効果を確認できると評価したものの、性病の80%が A サイン制度で対処できない街娼や売春宿から発生していること、性病感染の年間千分率は1965 年から 66 年にかけて急増していることを問題視し、感染率に関しても制度施行前のデータがないために制度の効果を確認できないと結論付けた。

(中略)

ただし、性病感染者は軍民問わず、公然と治療を受けることを躊躇し、治療を受けなかったり、治療薬を私的に入手したりして、感染を秘匿する傾向があるので、実際の感染者数は統計の 10 倍から20 倍に達すると臨時委員会は推定している。
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えー自分たちのため?!

この制度が誰のためか、そのために大変な目にあうのはだれかということは常に問われます。関わる人たちに協力をしてもらうことが感染症の対策としても重要なので、受け入れてもらいやすい説明や手法が必要になります。

本来の医療サービスではちょっと・・・となると問題はアンダーグラウンドになっていき、疫学情報もわかりにくくなります。

今もネットで検査キットや治療薬を購入して自己判断治療をしている人たちもいますし、診断してもHIVほどに梅毒は報告されていませんし、実際にはどれくらい感染が広がっているのかは別の切り口や努力をしないといけないのだとおもいます。



パートナーの健康のケアをする人は、現在はSTDのCommunication Specialist的なお名前がついている国がいくつかあります。

結核や麻疹のように、接触したかも?うつったかも?検査や治療が要る人かも?な人を医療にアクセスしてもらって拡大をとめるという「超」地味な仕事をするひとたちですね。

ちなみに、日本は2類の結核では当然接触者健診が行われますし、麻疹も1例でたら「誰といつどこで会いましたか?」「いつどこにいっていましたか?」ということを思い出してもらって、必要な人にこの先のアドバイスをしています、というか、してもらえます。

梅毒やHIVのようにトレンドをみるだけの5類の感染症には医師の名前や医療機関名を書くところはありますが、患者さんの情報は性別と年齢、あっても国籍・推定感染地域くらいです。

麻疹も5類ですので届け出に名前などの個人情報はありませんが、丁寧にケアしてもらえます。

諸外国では放っておいたら死んでしまう病気である梅毒やHIVについては、接触した人に検査を進めるプロトコールがあるのですが、日本ではなぜか声かけもしてもらえないことがほとんどです。

診断された人は医療につながっているからいいとして、「感染したかもしれない人」が放置されるのは大変お気の毒であります。

そして、このケアをしていないのに、「なぜ梅毒が増えているんでしょうか?」という質問がずっと繰り返されていることにため息が出るのであります。

他の感染症と同じように、このツケをおわせられるのは妊婦さんや赤ちゃんなので、公衆衛生も臨床も、できることからやらないといけないんですけどね。

もっとも、最近はアナログな方法だけでなく、Webコミュニケーションで検査を勧める努力も増えています。

本名は知らないけど、電話は知らないけど、IDやハンドルネームで連絡がつく、というような場合には情報提供することもできるのではないですかね。
サイトには検査機関検索コーナーや、治療や検査の解説が併せて掲載されていて、中途半端な連絡や告知より親切です。

So They Can Know

DontSpreadIt.com

InSpot


inSPOT: The First Online STD Partner Notification System Using Electronic Postcards PLoS Med. 2008 Oct; 5(10): e213.

Advancing Partner Notification Through Electronic Communication Technology: A Review of Acceptability and Utilization Research
J Health Commun. 2016 Jun; 21(6): 629–637.


麻疹もそうですが、梅毒を見たことがない(診た、といっても七変化の病気なのでそんな単純な話ではない)医療者も多いので、キャッチできそうな2期の体幹の発疹をみても梅毒を想像できないかもしれませんし、消えてしまえば本人は治ったとおもって忘れたりもします。

そして治療機会がないまま妊娠出産、、というじたいを避けたいです。

IASR 先天梅毒の動向(2011~2014年)

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